【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、でぃせんと様、曲がった事が嫌いな変化球投手様、ギアスター様ありがとうございます!


四人目の従兄

 そんなこんなでイギリスの山田屋敷で僕たちは下にも置かれぬ扱いを受け、年末の日々を過ごす。ここで年が明けるまでを過ごして、学校が始まる前に帰る事になってる。とはいえ僕もあすみちゃんも国代表に選ばれる一流のスポーツマンだ。当然完全オフなんて事はせず、近隣のスポーツジムや運動施設を借りて最低限の練習を重ねている。

 

 そしてその瞬間も常にカメラは動かしている。マネージャーの有川さんがこっちでも僕に張り付いて常にカメラを構えているからね。

 

 

「というか有川さんもこっちに実家があるんでしょ? そっちに帰らなくていいの?」

 

「問題ありません。一度顔を見せておりますしお嬢様の傍につくと伝えたら「最優先でお嬢様にお仕えしなさい」と言われておりますので」

 

「えぇ……」

 

 

 別に僕がお給料を払ってるわけでもないのに、有川さんの僕へのこの、なんというか重たい忠誠心みたいなやつはなんなんだろうか。いや、分かってるよ? これは全部おかーさんに向けられた感情の余波だってことはさ。この感情を向けられ続けてのほほんと「エリーは可愛いわねぇ」なんて言えるおかーさんはいったいどういう精神構造してるんだろうね。あ、エリーってのは有川さんの下の名前だよ。

 

 

『さすがは、国代表の、選手だね。フーッ、可愛い従妹に負けたくはないなぁ!』

 

『そっちこそ! 学生に経営に忙しいのに! 全然衰えてないじゃない!』

 

 

 休憩がてらドリンクを飲んでいると、ルームランナーの方からでっかい声のやり取りが聞こえてくる。従兄のアーサーくんとあすみちゃんが張り合ってるみたいだね。

 

 アーサーくん、なんでも高校生の頃はアマチュアボクシングで結構いい所まで行ってたみたいで、学業に専念するために引退したもののそのまま大学でも続けてたらオリンピック候補になってたかもしれなかったらしい。だからか僕とあすみちゃんが国代表のスポーツ選手だってのがアーサーくん的にかなりツボらしくて、なにかと世話を焼いてくるんだよね。

 

 欧州のセレブにとってスポーツで鍛えるってのは割と当たり前の事ではあるんだけど、その中でも山田家は結構なスポーツマン家系だからってのも関係してるんだろうね。家業の事がなければアーサーくん、オリンピックに出たかったんだろうね。だから、次のオリンピックで出場が濃厚な僕ら二人にちょっとしたライバル心もあるのかも。

 

 ちょっとルームランナーの方を覗いてみると、スポーツウェアに身を包んだアーサーくんが顔を真っ赤にして、同じく顔を赤くしたあすみちゃんとガッシャガッシャとルームランナーを爆走している姿が見える。まぁ、アーサーくんの視線があすみちゃんの暴れ回るあすみ山にちらちら行ってるのはみなかったことにしてあげよう。あれは同性の僕でもちょっと卑怯だって思うからね。見るよ、うん。

 

 

『よくやるよね、二人とも』

 

『お。ミリーはもう上がり?』

 

『私は怪我明けだからね。無理しないようにしてるの』

 

『うん、そうだね。怪我後は慎重にしすぎるって事はないから』

 

 

 恐らくシャワーを浴びてきたのだろう、普段着に着替えた従妹のミリーがタオルをお付きの人に渡しながら声をかけてくる。ミリーはテニスの選手らしく、同年代では国内でもトップ、それこそもう少しでプロってくらいの立ち位置に居るらしい。ただ、去年の夏に大きな大会でいい成績を残したけど、そこで肩をやっちゃったみたいで暫く療養していたらしい。

 

 それにテニスのプロは世界中を飛び回る関係からあまり考えてないみたいで、そのまま大学に進む予定なんだって。というか本当にスポーツ一家すぎるな。もう一人の従兄はラグビーの方でかなり結果を出してるらしいし。

 

 

『とはいえうちの家系はねー。スポーツでみぃんな結果は残すけど、トップにまで上り詰めるって事はあんまりないのよ。多分、比重を家とか事業に置いてるからだと思うんだけどね。だからアマネやアスミが国代表に選ばれたの、みんな喜んでるのよ。ついに我が一門から世界に名前を刻むスポーツ選手が生まれたって』

 

『うん。まぁ、僕、女子野球世界最強の投手ですから』

 

『うっわめちゃめちゃムカつく! でも、本当に嬉しいの。後はアイツも結果を出してくれればおじい様たちも大喜びなんだけど』

 

『アイツ?』

 

『そ。多分、そろそろこっちに帰ってくるはずだけど……』

 

 

 ミリーが言葉を言い切る前に、バァン! と大きな音を立ててトレーニングルームのドアが開かれる。そちらに目を向けると……おお、デカいな。恐らく2m近い体躯の金髪の青年が、雪塗れではぁはぁと荒い息を吐いている。

 

 

『アマネ! アマネが来ていると聞いたぞ! 兄さん! ミリー!』

 

『お、ついに来たねぇ』

 

『うん?』

 

 

 大声を張り上げる青年の姿に、ミリーがそう言って私の肩をポンと叩いた。うん? なんであの人、僕の名前を叫んでるんだろうとよぉく彼の顔を見ると、どことなく昔見たことがあるような顔立ちだった。

 

 そして、その顔を見た瞬間、僕の中に封じていた忌まわしい記憶がよみがえってくる。ああ、そうだ。そうだった。小学校3年の夏、来年からリトルで野球を始めると喜んでいた愚かな僕は、鍛えるなら若いうちとばかりに筋トレをしまくって、筋肉をつけまくって……そして!

 

 

『凄いよアマネ! ゴリラみたいだ!』

 

 

 脳裏によみがえってくる。あの日、あの夏の日。僕は、自分を鍛えるという魔力に憑りつかれていた僕は、とんでもない過ちを……おかーさん似のこのミラクル美少女を、筋肉だるまにするという過ちを犯して! そして、それを口にしたのがアイツだった!

 

 我が従兄にしてウィリアム伯父さんの次男坊、ルイ。

 

 僕が今生において、初めて全力でひっぱたいた男である。




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