【完結】1人だけ魔球投げれますが意外としんどい   作:ぱちぱち

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誤字修正、蒼い胡蝶蘭様ありがとうございます。


聖ザビー学園

 中学生最後の年が始まり、15歳になった僕はある日ブライアン伯父さんに呼ばれてとある学校に訪れていた。随分長い事待たされたけど、例のトロ子ちゃんが言っていた進学先についてらしいから喜び勇んで迎えの車に飛び乗ったんだけどもね。

 

 そしてその学校、聖ザビー学園に到着してすぐに、僕は困惑している。

 

 理由としては、連れてこられた学校がここ最近ぱったりと野球の噂を聞かなくなっていた古豪だったこと。とある伝手でここの野球部が設備に投資し始めたってのは聞いてたから一応名前自体は心に留めてたけど、まさかあんだけトロ子ちゃんが勿体ぶってたのにここ10年くらい夏の予選を突破出来てない学校に連れてこられるとは思ってなかったってのが一つ。

 

 もう一つは。

 

 

「おお、権藤さん! お久しぶりやね!」

 

「あ、相変わらずセーラー服がばり似合うと……ヤバイ、俺、緊張して汗が止まらん」

 

「いや、森さんは僕と何回も会ってるでしょ……?」

 

 

 ミッション系かな? という規律正しそうな生徒さんが大勢歩く学校の中。中学の制服姿で歩いていたら唐突に。本当に偶然に大牟田選抜に居た久留米さんと森さんに遭遇したことだ。

 

 あ、ああ。そういえばこっちの学校で好条件で呼ばれたって言ってたな。その後は音沙汰も無かったからてっきり別の学校に行ったのかと思ってたけど、この二人はここを選んだのか。うわぁ、確かにこの二人が一つ上の学年に居るならここの学校は有力候補になるよ。なんせ去年の夏、巨神カップを制したバッテリーが揃って入学してんだもん。

 

 打者としての僕にとっても、久留米さんは一番相手したくない相手だ。なんせ僕が相手だとこの人パワーアップするからね。顔が浮かび上がって襲い掛かってくるボールなんて打ちたくないんだよ僕ぁ!

 

 そのまま二人と会話しながら野球部見学に行く。この聖ザビー学園、地元民には聖ザと呼び親しまれている学校の野球部は、10年ちょっと前に甲子園でベスト4に入った事がある。その時のエースは大学卒業後にプロ入りしてるから、よっぽどの素材だったんだろうね。

 

 そのまま順調に強豪校への道を歩むのかと思いきや、この甲子園に行った翌々年くらいに確か不祥事を起こして甲子園に行った監督が変わったんだよね。それ以降は鳴かず飛ばずで県予選のベスト4にも届かない学校になっちゃってたはず、なんだけども……

 

 

「うっわ見た事ある人ばっかじゃん」

 

「お、ネコ娘じゃん。お久」

 

「あまちゃんキター!」

 

 

 連れてこられた野球部の部室は、2階建ての結構立派な造りの建物だった。1階は丸々選手のロッカールームになってるみたいだけど、男子女子に分かれた作りになってるみたい。女子野球部もあるみたいで、そっちの方の先輩方もストレッチとかをして顔を合わせたんだけど全然知らない人ばっかりだった。というか僕、知り合いの女子選手ってほぼ日本代表とかあとは佐渡ヶ島選抜に居た長尾かんなちゃんとかくらいなんだよね。

 

 まぁリトルシニアでやってる女子選手ってどうしても少なくなるから、仕方ないよね。僕が嫌われてるわけじゃないから(願望)

 

 対して男の野球部員たちは、ほとんど知ってる顔ばかりだった。というか部員の8割くらいはハラキリトルシニアとかマンネリトルシニア上がりの人だった。おかしいな、僕は西東京選抜の練習に紛れていたのか……?

 

 

「推薦貰ったって喜んでたのに地元に居るんスか? しかも一個上の先輩ばっかじゃないスか。他の先輩方はどうしたんです? 下剋上? ほんのーじしちゃいました?」

 

「ここから推薦貰ったんだよ。あと、1軍は俺らが一番上の世代だからなんもおかしくないだろ」

 

「いや、それは大分おかしくないです???」

 

 

 胸を張ってそう応えるマンネリトルシニアに去年までいた先輩に、僕は思わず素の口調で返してしまう。ここから推薦を貰ったはまだ分かる。分かるけど一番上の世代って事は1年しか居ないって言ってるようなもんなんだけども。

 

 

「一応、部に所属してる2,3年の先輩は居るよ。先週の1軍選抜試験からほとんど来てないけど」

 

「えぇ……それで良いんですかこの学校」

 

「それで良いんだよーなんせ今年の夏から甲子園狙ってっからなー」

 

 

 僕の質問を先月以来になる間延びした声が答える。万根大理科大付属中、略して万根理中の制服に身を包んだトロ子ちゃんは、高校生がズラっと並ぶ面々の中に混ざっても決して見劣りしないどころか圧倒する体格と太ましさで激しく自己主張をしていたって痛い痛い痛い!

 

 

「お前いま誰がデブだと思った言ってみろ」

 

「んなこと考えてないです! サー!」

 

「サーじゃなくてマムだろうがぼけー」

 

 

 万力のような力で耳を引っ張られ、僕は暴力に屈した。くそぅ、やっぱり世の中は力なのか。パワーイズジャスティスであるならば、僕もやっぱり筋トレをして力を手に入れなければ……でもこんな、僕の足よりも太そうな腕は欲しくない。

 

 

「なにやってんのよあんたたち」

 

「あ、あすみちゃん! 今日もセットに2時間かかって学校に遅刻しそうになったあすみちゃんじゃないか! ここの見学があるからあんなに髪のセットに時間をかけてたんだね!?」

 

 

 呆れたような顔であすみちゃんがそう口にしたので、僕も周囲の人たちにも分かりやすいように説明口調であすみちゃんの髪のセットがとても大変な事を大きな声で口にすると、あすみちゃんはノータイムで僕の頭に手を伸ばしてくる。ふっ、甘いねあすみちゃん。すでに君の弱点である縦ツインドリルは、僕の両手の中にあるんだよ!!

 

 そんなこんなでやいのやいのと女子組で騒いでいると、男子女子に分かれて先輩方が整列をし始めた。練習が始まるみたいだ。だったらこんなノッポ女と遊んでる場合じゃないよね。僕の中でもこの学校に関する興味度がググーンと伸びてる所だから、しっかり観察させてもらわないと!

 

 と思って先輩方から少し離れた場所であすみちゃん達と並んで立っていると、監督だろう初老のお爺さんと一緒に見覚えのある人物がユニフォームを着ているのが目に見えた。その人は見学に来ている僕に視線を向けると、やっほーとばかりに右手を軽く上げて合図をしてくる。

 

 いや、うん。お久しぶりですね星選手。あ、一昨年引退したから元選手か。なにしてるんです……あ、コーチ。はい。

 

 こ、これはちょっと、色々予想外だったなぁ。うん。




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