好奇心で首を突っ込んだら攻略難易度ルナティックの黒幕美少女に目を付けられた件   作:ああああああ

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第10話

あの騒動から3日、輝夜との関係はほとんど変わっていない。しかし、輝夜は木坂と正式に別れた上で、以前よりも語に話しかけてくるようになった。木坂は木坂で変わらず食事に誘ってくる。

 

ただ、大きく変わったのは輝夜が語に向ける感情だと結芽は思っていた。

 

「上手くやったようですね」

 

「先延ばしをしただけ。問題は解決していないし、俺としてはこのままフェードアウトしたい」

 

「フフッ、くず男ですね」

 

「俺ほど品行方正な男はないぞ」

 

「色々と言いたいことはありますが、君は間違いなく女の敵ですよ。知りたがりの探偵さん」

 

二人の声色は囁くように小さい。それもそのはず。ここは図書室であり、中間試験が間近に迫り、誰もが自分の机にかじりついて無言でペンを走らせている。

 

「語君、特別な人間とはどういうものだと思いますか」

 

語は面倒くさそうに声を上げて教科書から顔を上げた。

 

「突然だな」

 

「………」

 

「そうだな、誰かにとって価値のある存在が特別だと言えると思う。より希少であればあるほど特別とも言えるかもしれないな」

 

「なるほどありきたりな答えですね」

 

「喧嘩売ってんのか」

 

「フフ、私はこう思います」

 

結芽は人差し指で、資料集のナポレオンの肖像を軽く叩いた。

 

「彼のように歴史を語る書物に太字で、大きな活字で掲載される人物こそ特別だと。彼の戦場で泥にまみれて死んだ兵士の名前は、誰も知りません。知る必要もありません。なぜなら、彼らはいただけで何も成しておらず、それを知られてもいないから。秀でた人間もいたでしょうが、彼らは特別とは言えません。他者の記憶に残る偉業を果たしてこそ、特別性を証明してこそ、特別たり得るのです」

 

結芽のその言葉は今まで聞いてきた言葉の何よりも重く、本気だと思った。

 

「なるほど。つまり、赤点を取って補習になったら俺は歴史上の名もなき兵士以下の存在ってわけか」

 

だから茶化した。今、この瞬間に踏み込むには情報が心もとない。かなり気になる発言だが、暴くためには準備を怠ってはいけない。

 

「ええ。私と勉強しておきながら君の成績が凡庸な数字で埋まる、そんなことが起きればペンを持てなくしてしまうかもしれませんね」

 

「怖い、シンプルに怖い」

 

静寂の中で話している声はよく通る。結芽たち以外にも会話に勤しんでいる生徒がいたようで、彼らが最も目立っていた。

 

「呪い水って知ってるか?」

「ああ、最近バズってる都市伝説?」

「あ、それ知ってる。結構有名だよね?満月の夜に呪文を唱えながら煮沸させた水と凍らせた水を混ぜると呪いの水が出来上がるってやつ」

「そうそう!それを罪深い奴が飲むと………」

「呪われるんだよ。不幸な出来事が起こるんだって」

「嘘くせー」

 

くだらない話だ。そう思いながらも、語はその噂の広まり方に奇妙な違和感を覚えていた。噂はまるで誰かが意図的に流しているかのように、加速度的に広まっていった。既視感があった。

 

「なあ、試験前に事件が起きたりしないよな?」

 

「それは神のみぞ知るですね」

 

語は深く考えるのを一旦諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

中間試験が終わり、文化祭の時期が近づきざわつく教室の真ん中で、語は肩をすくめた。休み時間に入った途端、彼の机はいつの間にかクラスメイトたちに取り囲まれていた。主犯格は、いつも騒ぎの中心にいる男子生徒の斎藤、藤井である。斎藤は人当たりがよく爽やかな生徒で、藤井はお調子者だ。図書室で呪い水の会話をしていた生徒である。

 

「なぁ、風見。そろそろ正直に話してくれよ」

 

斎藤は興味津々といった感情を浮かべながら、まるで獲物を追い詰めたハンターのような目つきで語を見た。周りの生徒たちも、興味津々といった様子で語の返事を待っている。

 

「何をだよ、斎藤。俺は隠し事なんてしてないぞ」

 

語はあくまで涼しい顔を装ったが、心臓は少しばかり速く鼓動しているのを自覚していた。その理由は明白だ。彼らが聞きたいことは一つしかない。

 

「とぼけんなって!朝凪さんとはいつから仲が良いんだ!」

 

藤井が声を大にすると、教室のざわつきが一層大きくなった。結芽は、学年で人気の高い生徒であり、一種の高嶺の花とされる。透き通るような肌、長い黒髪そして物静かながらも目を引く美しさを持つその彼女と、ごく普通の男子である語が最近妙に仲が良いという噂が広まっていた。

 

「朝凪と?ただのクラスメイトだぞ」

 

「はっ、クラスメイトが放課後二人で図書室で勉強するのかよ?この前、駅前のカフェで親しげに話してるのも見たぞ。しかも休日に一緒にいたらしいって話じゃねえか!」

 

「それは………」

 

図星を指され、語は言葉に詰まった。確かに最近結芽とは話す機会が増えていた。しかし、その理由は色気のない理由だ。

 

「なんてうらやま、けしからんッ」

 

素直に言うのは、火に油を注ぐようなものだろう。斎藤は冗談で言っているが、笑えない目をしている人間が何人かいる。

 

「おいおい、図書室で秘密の逢瀬かよ!許せねえ」

「ずるいぞ、風見」

 

男子たちの嫉妬交じりの声が飛び交う。女子たちは女子たちで、「結芽ちゃんってば積極的!」「風見君、悪いわけじゃないけど………朝凪さんの好みには見えないよね」とか「嘘だッ結芽ちゃんは誰とも付き合わないし、誰かに執着なんて認めない」とひそひそ話している人間もいれば騒いでいるのもいる。

 

語はため息をついた。ここで弁解しても無駄だと悟り、どう切り抜けるか考える。そして、結芽の顔を思い浮かべ彼女に倣いスケープゴートを選んだ。

 

「なあ、それより俺は木坂が別れたことが驚きだぞ」

 

別の話題が大半の頭をよぎった。

 

「確かに月歌さんに振られたのか?」

「やっぱり振られたの?」

「え?本当に別れたんだ」

「マジかよ、噂だとばかり」

「輝夜さんもいないし、白状しろよ木坂」

 

その名前が出た瞬間、教室の空気は一瞬にして変わった。輝夜――彼女もまた、結芽に並ぶ人気を持ち、有名という点では凌駕していた。

 

しかも、二人の交際も公認で、好感度の高いカップルだっただけにその破局は大きな話題になる。藤井も、さっきまでの詰問の勢いをすっかり失い木坂に詰め寄っている。木坂に正気を疑うような目で見られたがスルーした。斎藤はそんな二人の様子を見て悩んでいる。

 

語は、助かったと胸中で安堵した。

 

「どっちが振ったんだ?」

 

斎藤の言葉を皮切りに、教室は輝夜の破局とその理由を巡る熱心な議論の場と化した。語は、その喧騒の中心から少しだけ離れ静かに自分の席に座り直し溜息をつく。

 

ちらりと、教室の隅に座る結芽に目を向ける。彼女は口元を手の平で隠し、口角を隠しているが明らかに上がっているのがわかる。

 

語は心の中で中指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

実を言うと語は恋をしたことがない。美少女を見ればテンションは上がるし、じゃれるのも嫌いじゃない。性欲もある。だがそれは、恋愛感情ではないと語は感じていた。認めよう。朝凪結芽は確かに気になる存在だ。美少女だし、やることなすこと予測不能で目を引く。

 

喉を潤した語は空を見上げ、額に手を当てた。

 

こんなことを考える理由は斎藤に結芽との関係を聞かれたこともあるが、文化祭で演劇をやることになったからである。題材は、ラブコメ風にアレンジした白雪姫である。

 

「演劇か。まさか出ることになるとはな」

 

「オレを売った報いだね」

 

「悪かったよ」

 

「………まあいいさ。気にしてない。気になるあの子には輝夜と付き合っても近づけないことが確認できたし。ところで、演劇。いいじゃないか。主役だろ?」

 

放課後の教室で木坂が逆向きに椅子に座りながら言葉を拾う。

 

「ヒロインは朝凪なのも意外だが、その役回りも納得行ってない。普通、演劇部のやつだろ?午前の部だけでもおかしい」

 

「それじゃつまらないじゃんか。クラス対抗じゃあるまいし、そんなにガチじゃないのさ。午後の部だって演劇部じゃないよ」

 

午前の部と午後の部で配役を分けており、午前の部は語と結芽が主役だった。

 

「で、くじ引きと。大惨事になりかねないと思うけどな」

 

「ん?………あれ?知らないのか?メインの役回りはくじ引きじゃないよ?」

 

「え?」

 

「演劇部が決めてるはずだよ。表向きはくじ引きだけどね。こういういい方は好きじゃないけど、主役じゃないと騒ぎそうな女の子が黙ってただろ?演劇部とあの辺の子が相談して決めてたんだ」

 

「マジか、なおさらなんでだよ」

 

「演技が得意だと評価されているのではないでしょうか。君は演劇部と面識がありますし、どうやら演劇部一年の田中さんが部室で君の演技力を褒めていたようですから」

 

当たり前のように背後から忍び寄る結芽に慣れてしまった語は、後ろを振り向くことはせずに木坂に話しかける。

 

「演技とかやった覚えがないが、本当にそんな噂が出回っていると思うか?部長に聞き取り調査しないといけないか」

 

「あはは。オレからはノーコメントだ。朝凪さん、怖いから」

 

そう言って木坂は席から立ち上がり教室を出て行った。

 

「別に怒っていませんよ。二次情報を鵜呑みにしない、それは私以外でも君はやるでしょうから」

 

正面に座った結芽が肘をつきながら絞り出すようにそう言って、ぷいと顔をそむけた。なぜなら先ほどの発言は、結芽を信用していない場合のみ出てくるからだ。ただし、結芽はまったく気にしていなかった。

 

「チープな演技だな。調子でも悪いのか?演技は得意だろ?いつも猫かぶってるし」

 

「ええ、得意ですよ。本気でやると君を虜にしてしまいますから本気を出せませんが」

 

「フッ」

 

鼻で笑う少年を見て、結芽はムスッとした表情をしながら咳払いをした後ニヤリと笑った。

 

「では私の演技を見せてあげます………そうですね、面倒くさい彼女の演技をします」

 

纏っている雰囲気が揺らいだ。結芽は、焦れた声で言う。いつもの彼女からは想定できない甘い表情が視界を覆った。

 

「か~ま~え~。あと、甘やかせー」

 

キャラ崩壊ともいえるその言葉選びに虚を衝かれ、目を見開きフリーズするが、語はすぐさまその要求に応える。負けた気がしたからだ。

 

「演技勝負ってわけか?」

 

とりあえずギュッと抱きしめれば、結芽も背中に手をまわし抱きしめ返す。結芽の身体は相変わらず柔らかく、じんわりとした熱が伝わってくる。

 

甘い匂いが理性をドロドロにしていくのがわかり、語は5秒ほどで離れた。防衛本能だった。

 

ちなみに、一連のこの流れは結芽の計画通りであり、語は完全に遊ばれているのだがそれに気が付くには経験が足りないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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