好奇心で首を突っ込んだら攻略難易度ルナティックの黒幕美少女に目を付けられた件   作:ああああああ

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感想評価ありがとうございます。無垢先輩はメインの章を用意しているので、扱いは輝夜みたいな感じですね。
この章はまだ続きます。


第14話

語は、スマホを弄びながらぼやいた。

 

「めちゃくちゃ疲れた」

 

語としてはまだメインイベントがあるが、文化祭の出し物が終わる前から妙な高揚感がある。しかし、この高揚感も一旦手が空くとすぐに倦怠感に変わるのだった。

 

語は賑やかな階を避け、人気のない場所へと足を向けた。目指すは校舎の最上階。学校からの指示で普段は施錠されている屋上への階段の前だ。普段は立ち入り禁止の空気で冷え切っているこの空間も文化祭のざわめきがわずかに届いてくるせいで、いつもより解放的なムードがある。

 

最上階の踊り場まで上がるとそこにあるはずのないものが彼の目に飛び込んできた。

 

薄暗い階段の段差に、文化祭のシャツ姿で腰掛けている人影が一つ。膝を抱え込み、ヘッドホンをつけ、視線は手元の携帯ゲーム機に釘付けだ。

 

「あれ?輝夜か?お前、こんなとこで何やっているんだ?」

 

思わず声をかけると輝夜がゆっくりと顔を上げた。

 

「おー!語じゃん!サボり?」

 

「今は解放されてる。輝夜こそ部活とかクラスのシフトは?」

 

「他クラスの穴埋めまでやってきたよ。手伝わせ過ぎて悪いからそろそろいいよって、30分前に解放されたとこ」

 

「それ大変だ。で?人気が少ない場所に避難か」

 

普段の優等生月歌輝夜の顔はそこにはなく、文化祭の熱気とは全く無縁の気怠げな表情だ。輝夜は操作の手を止めスマホのアプリを落とした。そして、ヘッドホンを首に下げる。

 

「後夜祭では色々誘われてるから、休憩しとこうと思ってね。語こそ、結芽とのデートはいーんですか?」

 

「何時間も拘束するほど会話材料はないし、予約が埋まってるっぽかったからな」

 

「お前と文化祭を過ごしたいんだ!俺を選べってすればキャンセルしてくれたんじゃない?」

 

「どうだろうな?流石にないだろ。友人関係を壊すメリットより大きなメリットがないとな」

 

「………友人関係に固執する子じゃないでしょ」

 

「それは否めない」

 

おそらく、一部を除き友人とは思っていないのだろう。

 

「ところでどう?この格好?」

 

輝夜はその場でクルリと一回転。スカートがふわりと浮かび、彼の思春期が刺激される。

 

「クラスTシャツに似合ってるとかないだろ?可愛いけど」

 

「えー。木坂はTシャツにスカートが性癖だったから大こーふんしてたんだけどな」

 

「それは黙っといてやれよ。木坂も男子なんだ」

 

「男って好き嫌い関係なく、性癖でも反応しちゃうでしょ?違いは手を出すハードルって雑誌に書いてあった」

 

恐ろしい雑誌だ。語だって男子であり性癖は存在する。優先するものが他人と異なるだけだ。輝夜の動きや見た目に感情は乗る。しかし、まさに性癖の優先度は現状高くないのだ。

 

「木坂の尊厳が砕かれてるが、一般論だ。あいつがおかしいわけじゃない。俺も同意だと言っておく」

 

「………まあいいか。語ってこのゲームやってる?」

 

そう言って話題の舵を切った輝夜。メッセージアプリで送られてきたリンクを叩くと、語のスマホにとあるゲームが表示された。

 

画面には『DYFGAS』と表示されていた。画面はノイズがかったピクセルアート。中央には簡素な線で描かれた、表情のないアバターが立っている。デザインだけ見れば、プロが作ったものにはとても見えない。

 

「いや、見たことないな。何て読むんだこれ」

 

「さあ?アタシにもさっぱり。きっと何かの頭文字?なのかな」

 

「怪しげなゲームだな」

 

「うちの学校で流行ってるゲームなんだってさ。アタシもやってみたんだけど、音楽はいいね。ゲーム性は三十点だけど」

 

「マジか、これ音ゲーなのか」

 

輝夜にヘッドホンを被せられたので、しかたがなく音楽を聴いてみる。おそらく声を加工して身元が割れないようにしているのか慣れないと顔を顰めたくなる歌声が聞こえる。しかし、それ以外の完成度はそれなりで無料かつ物珍しさで一定数のユーザーがいるのも理解できる範囲だ。

 

「結構いいけど流行るほどか?俺聞いたことないんだけど」

 

「それは語に話しかける子が少ないからでしょ?やーいボッチー」

 

無言で輝夜のスマホを引っ手繰ると、そのままメッセージアプリを起動し木坂のアカウントをタップする。そこで輝夜が血相を変えて手を伸ばしたが、語の方が早い。

 

「ちょっ!何やってんの!女の子のスマホには見せられない秘密がいっぱいなんだよッ!全裸よりも恥ずいんだかんなッ」

 

「おう、俺も心が傷ついたから手が滑っただけなんだ。安心しろ、木坂にしか送らないから」

 

『アタシたちやり直そう』と、事情を知っている人間は嘘だと思える内容を打ち込んで送信ボタンに指を掛ける。

 

ギャーギャーと喚く仮面の外れた輝夜を見て、満足げに笑みを浮かべるのだった。

 

なお、輝夜はクラスのグループに語と恋人になりましたと投稿すると脅しかけ、5分ほどでお互いに冷静になった。輝夜はそのまま立ち上がり、スカートの跡を軽く叩いた後溜息を吐いて階段を下りる。語も踵を返し、熱狂の渦へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間はあっという間に経過し、後夜祭の時間となった。生徒はキャンプファイヤーを囲みながら、踊ったり屋台の商品を頬張ったりしている。

 

橙色の焔が夜空を焦がす。

 

興奮と疲労が入り混じったざわめきが波のように広がり、歌声や笑い声が断続的に響く。その熱狂の中心から少し離れた場所に、語は立っていた。

 

頬を撫でる夜風は既に秋の気配を含んでいたが、先ほどまでは炎の近くにいたため炎の熱気で肌はほてっている。彼の視線は未だに炎に吸い寄せられていたが、その瞳に映るのは光ではなく、過去の出来事の断片だった。

 

「証拠品を火にくべて隠滅、私ならそんなことはしませんね」

 

背後から、ひどく穏やかで何もかもを見透かすような声がした。語は肩を震わせることなく、ゆっくりと振り返る。そこには、炎の光を受けて影絵のように浮かび上がる結芽の姿があった。

 

「クラスの方に行ってたそうだな」

 

「ええ、君と違いクラスに友達が多いので」

 

語の口から漏れたのは乾いた音だった。結芽は微笑み、語の隣に並び立つ。その動作は優雅で、まるで彼女の心に何一つ疚しいものがないかのように見えた。

 

「呪い水の件、私に何を聞きたいのでしょうか?」

 

結芽は炎を見つめ呟く。その表情は、普段の彼女と何一つ変わらなかった。

 

「気づいてたのか」

 

「君が理由もなく、私を誘うことは非常に残念ですがありませんから」

 

「………あの毒薬。渡したのは朝凪だと確信はないがそう思う。ただ、出所はさっぱりだし、証拠もない」

 

「………私が作りました。それを彼女のポストに投函し、彼女が自分の意志で利用した。それだけです。確かに証拠はないでしょう。そもそも、真田さんがあの薬をどうしようするか、どう隠すのかは彼女に任せたので。私は動機を抱えている彼女に手段を与えただけです」

 

「違和感を拭いきれない。お前があんな衝動的な証拠隠滅を許容するわけがない。毒薬が見つかれば、終わりだとは思わなかったのか?」

 

語は感情を押し殺した声で尋ねた。

 

「警察は正義の味方、そう評する人間はいます。ですが、警察の掲げる正義は誰にとっての正義なのでしょうか」

 

結芽はそう言いながら語に顔を向けた。その眼差しは、微かな嘲笑を含んでいたように、語には感じられた。

 

「断言しますが、あの毒薬が仮に警察に押収されても深くは調査されないでしょう。警察にも骨のある方はいますが、権力を握っているとは限りませんから」

 

周囲の喧騒は、二人を取り巻く空間だけを奇妙に避けるように遠ざかっていった。炎の爆ぜる音と、遠くの歓声だけが二人の間に漂う重い沈黙を強調する。

 

「それでもいつかは暴くぞ。お前の最終目的も動機も全て」

 

語は決意を込めて低い声で言った。結芽の微笑みが一瞬、ぴくりと揺らいだように見えた。しかしそれはすぐに元に戻る。

 

結芽は再び炎に目を向け小さくため息をついた。

 

「私たちも踊りますか?」

 

「その前に、最後に聞かせろ。都市伝説である呪い水を広めたのはお前だな?」

 

瞬間、結芽の瞳が再度語を捉えそして瞳孔が極限まで開かれた。炎の光が、彼女の瞳の中で不気味に揺れる。

 

「「呪い水」に関するSNSの投稿や動画、生徒の体調不良の訴えはこの学校を含む数ヵ所のコミュニティで爆発的に流行った。ネットでも話題にはなったが、そこまで流行っていない。基本的に都市伝説は広域に拡散するが、この呪い水はローカルなコミュニティを起点にそこから外側にほとんど出ていないように見える。不自然だ。それに、ネットの掲示板やSNSを辿っていくといくつかのアカウントが共通しているのも見て取れた。呪い水とあの毒薬の相性が良すぎるのも疑問だった。だから、そもそもあの毒薬を使用するためにこの都市伝説を作ったのかと思った。どうだ?」

 

「………都市伝説の本質は何だと思いますか?」

 

話題を切り替えた結芽に何も言わず、語は答える。

 

「エンターテインメント」

 

「なるほど、それも素敵な答えですが私はこう思いました。人が信じたいと思う馬鹿げた話。これが都市伝説なのだと」

 

「確かにそうかもな」

 

「誰かを断罪したい、恨みを持った他人が罪深いと証明したい、人々のマイナスの感情に寄り添う噂は力を持てると、そう確信して都市伝説を作ってみたのですが中々難しいですね」

 

結芽は自分こそが犯人だと自白した。

 

「疑問はすべて解消できましたか?」

 

「できてないが、今日は引き下がる。後夜祭も終わりそうだし」

 

夜の闇は全てを曖昧にする。炎の光は真実をも覆い隠すことができる。語は結局スマートフォンの録音ボタンを押せず、ゆっくりとポケットの中に押し込んだ。

 

熱狂的な喧騒が再び彼を包み込み始める。少年は少女に手を差し伸べた。

 

その手を取った少女がステップを刻みだす。

 

炎はまるで何もかもを知っているかのように、静かに揺れていた。

 

 

 

 

 

 

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