好奇心で首を突っ込んだら攻略難易度ルナティックの黒幕美少女に目を付けられた件   作:ああああああ

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第16話

語は、久々にまともな空気と肌に直接当たる冷たい夜風に震えながら、どこか現実感のない足取りで大通りを歩いていた。先ほどまで感じていた暗い部屋の湿った空気、埃っぽい臭い、そして何よりも身体をロープの圧迫感が、まだ皮膚に残っているようだ。

 

隣を歩く結芽は、語の半歩先を歩きながら時折ちらりと語の顔を窺う。あの後、語たちはすぐに解放された。多くは語らず、正体を見破った語と素晴らしい胆力を見せた結芽を称賛だけして引き上げていった。

 

解放されたとはいえ、語が誘拐事件に巻き込まれたことは変わりがない。しかし、それよりも気になることがった。それを聞き出せる雰囲気ではなかったが。

 

「語君。何か飲んで行きませんか?」

 

結芽は、そう言って立ち止まった。二人が今立っているのは街の中心部を貫く幹線道路沿い。きらびやかなネオンサインが目を刺すような喧騒の中、個室カフェなる看板を掲げたビルが目に入った。

 

「…ああ。飲んでく」

 

慣れた様子でビルに入り、エスカレーターでカフェのある階へと上っていく。金曜日の夜ということもあり、店内はそれなりに混雑しているが、結芽は迷うことなく受付に向かい個室の利用を申し込んだ。

 

案内された部屋は、大通り側の窓に面した二人掛けの小さな空間だった。防音もしっかりしているのだろう部屋に入ると嘘のように外の喧騒が遠ざかり、代わりに室内の静かで心地よいBGMが耳に届く。

 

柔らかな間接照明が壁を照らし、ベージュのソファーが語の疲れた身体を包み込んだ。

 

「ココアです。この店はコーヒーが美味しいのですが、君は身体冷えていますから」

 

結芽が注文したココアを語の前に置く。湯気と共に広がる甘い香りが、緊張を少し解きほぐした。語がココアのカップを片手で持ち上げていると、結芽が静かに彼の隣に座りそっと語のシャツの袖をまくった。

 

露わになったのは、手首に赤く残るロープの痕。強く縛られていた証だ。それを結芽は言葉もなく見つめ、細い指先でそっとなぞった。語の肌に微かな熱が伝わる。

 

「………ごめんなさい、今回の件は私の未熟でした。君に落ち度はありません」

 

結芽は、絞り出すようにそう言った。

 

「別に責めてない。後悔もしてない。ただ、詳細は知りたい」

 

語は、零さないようにココアのカップをテーブルに置き彼女の手を握った。

 

「謝罪は受け取った。俺からもお礼を言わせてくれ。リスクを承知で助けに来てくれたこと」

 

語の言葉に視線を下げて結芽は彼の手を握り返した。

 

「………ハァ…自分の未熟に眩暈さえします。酩酊連合とマフィアが最近衝突していたことは?」

 

「知ってる。斎藤からそんな話を聞いたよ」

 

語はいつかの買い出しの会話を思い出していた。

 

「完全に偶然なのですが、私の先輩の家が衝突のあったエリアの近くでして彼らの商品である毒薬を拾ってしまったのです」

 

「………色々突っ込みどころがあるんだが」

 

「毒薬だと何故知っていたのかは言いたくありません」

 

結芽は語を見つめ、少し微笑んだ。

 

「ただ、その事実がばれて今回の件に至りました。毒薬は瓶に入っていて中身を少々抜き取っただけなのですが、彼らの追跡を甘く見ました。流石は酩酊連合」

 

「今回の誘拐、色々考慮して単独で乗り込んだんだろうがそれでも通報しなかった理由は何だ?」

 

斎藤の話では警察はあの組織をマークしているのだ。

 

「意味がないからです。酩酊連合は確かに巨大な組織ですが、暴対法には勝てません。ですが、あの毒薬が絡んでいるので警察も迂闊には動けないのです」

 

「要人暗殺用に作られた毒だとあの女は言ってたな」

 

「ええ、詳細は言えませんので暈しますがとある権力を持った存在が作らせた毒薬であり、あれに関わることは警察に圧力がかかっているので難しいです」

 

「そういう感じか。お前が自信満々だったのもそれが原因か?」

 

過去の発言を思い出す。後夜祭の夜に彼女は言っていた。

《警察は正義の味方、そう評する人間はいます。ですが、警察の掲げる正義は誰にとっての正義なのでしょうか》

《断言しますが、あの毒薬が仮に警察に押収されても深くは調査されないでしょう》

 

「その通りです。まだ間に合うのでこの件に深く首を突っ込まないでください。私も一旦彼らとは距離を離して様子を見ます」

 

余裕がないようには見えないが、それでも真剣に見えた。

 

「もう一個、聞かせてくれ。さっきのロシアンルーレット、どうしてあんな賭けに出たんだ」

 

確かに蓮花に殺意はなかった。だがそれを理解できるのは、語に特典があり感情が読めたが故。命を懸けた極限のロシアンルーレットで二回連続で引き金を引くとは、気狂いかギャンブラーか、あるいは―――。

 

「ロシアンルーレットには必勝法があります。それは弾を入れた側がシリンダーを回さないとルール付けすること」

 

湯気の立ち上るコーヒーを片手で掴み、隣の位置から結芽がゆったりと話し始める。

 

「ですが、これは仕掛けた側が先行か後攻を選ぶことで成立するイカサマです………彼女は、私にそれを選ばせました。なので、勝利する気がないと推測し、であればそもそも弾は入っていないと賭けに出たというわけです」

 

理解はできる。その通りだったわけだ。しかし、あの場でそれを実行する覚悟が凄まじい。命に関する価値観が普通の高校生ではない。

 

「さしもの君も動揺していますね。質問はそれだけですか?」

 

結芽は笑っていた。その笑みがどんな感情を含んでいるのか、語にはわからない。転生特典はそれを教えてくれない。

 

「俺がゲームを受けることを止めた時に、何でお前は反対を押し切った?」

 

ただ、なんだがとても癪に障ったのだ。

 

「おかしなことを言いますね。警察が役に立たない以上、あの場で提案を呑む以外方法が………「俺を見捨てるという選択肢があったはずだ」」

 

「ッ………」

 

「お前の話が確かだとしても、騒ぎが大きくなれば警察は動くことを強いられるんじゃないのか?逮捕や検挙が不可能でも、介入は一時的にできる。毒薬が関わっているかの判断を一時通報だけでは判断しきれないからな。特に末端の人間は」

 

「………」

 

結芽は様々な感情がごちゃごちゃに混ざった顔をしており、珍しく百面相している。

 

「もっと、もっと他に聞くことがあるでしょう?今後の身の安全とか!私に対する罵倒とか、不満とか!」

 

「そんなことより朝凪のことが知りたい!」

 

「~~~ッ!!!!!」

 

結芽の肩を両手で掴んだ語は真っ直ぐとその桜色の瞳を覗いた。視線をあちこちに散らして、持っていたカップからコーヒーが零れていることを気にできないレベルで慌てる彼女は年齢相応の反応だった。

 

「そ、そういうことを…気軽に………失態です。色々と」

 

語とて知りたいことは多い。蓮花が呟いた『霧崎の小娘』という意味や結芽の正体など。だが、それは自分で調べればいいと思っていた。そうでなければ意味がないと思ったのだ。だから、これは聞きたいのではなく八つ当たり。迂闊なことをした結芽を注意するための投げかけだ。本人以外はそういった意味では取れないだろうが。

 

結芽はこの日初めて、探偵を嫌う犯人の気持ちに共感するのであった。

 

 

 

 

 

 

「霧崎の娘。まさか生きとるとはなあ」

 

酩酊連合の管理するビルの地下駐車場でタバコを咥えながら、蓮花は嗤いを零した。分厚い紙束の表紙には、殴り書きのような文字で霧崎とだけ記されている。ページを繰るたびに、経歴、交友関係、そして過去の揉み消しが記されていた。

 

落とし前を付けさせつつ、同時並行で他の組員に作らせた報告書だ。

 

資料の最後の一枚、顔写真が印刷されたページを手に取った。蓮花は笑みを浮かべる。

 

「ええ目をしとった」

 

破滅的で狂気的で気迫のこもった瞳だった。

 

ライターの発火音と共に紙の端が赤く染まり、すぐにオレンジ色の炎が広がり始めた。薄暗い駐車場で作らせた報告書が燃やされていく。蓮花は燃え盛る紙片を、足元のコンクリートに落とす。情報が煙と化し燃え尽きて黒い灰の塊になるまで、目を離さなかった。

 

「黙ってた方が面白そうやな」

 

もう一度、タバコを口に咥える。そして、ライターの親指の部分を滑らせ火を灯した。

 

煙草の紫煙がゆっくりと天井へ昇っていく。蓮花は未来の予感に満ちた深い吐息を一つこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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