好奇心で首を突っ込んだら攻略難易度ルナティックの黒幕美少女に目を付けられた件   作:ああああああ

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第8話

輝夜が熱を出したとのことで、放課後、語は見舞いに行くことになった。本来であれば木坂が行く予定だったのだが、どうしても外せない用事があるらしい。加えて、輝夜に来てくれと呼び出されたのだ。曰く、話は通すからと。

 

「それなりにでかいな」

 

語はその家の大きさに驚いた。厳つい門構えを通り過ぎる際、あまり見ない品種の花が見えた。美しいが手入れされた花壇だった。

 

インターホンを押すと、しばらくして扉が開き、一人の女性が顔を出した。

 

「あの、月歌さんの友達の語です。ノートを持ってくるついでにお見舞いに来ました。クラスメイトの一部から差し入れを預かりまして」

 

語がそう告げると、女性は少し驚いたような顔をした後、奥へと引っ込む。数分後、扉が開いた。

 

通されたのはリビングだった。流石に彼氏でもない男子を部屋に入れないのだろう。

 

家の中は綺麗で、賞状や何かのコンクールで優勝し賞を受けたであろう輝夜の写真が飾られていた。輝夜の隣には両親らしき姿があるが、違和感を覚える。誇らしげな男性に対し、肝心の輝夜を見ると明らかな作り笑いを浮かべていた。

 

なんとなく、どの写真にも温かみがない。

 

「お嬢様はお部屋でお休みになられていまして、準備に手間取るそうです」

 

先ほど出迎えた女性は使用人らしい。名前は隠蓑記理子。半分趣味でこの仕事をやっているとのことで、小さなころから輝夜の成長を見てきたそうだ。感情を覗いてみたが、彼女の輝夜に対する感情は複雑な情と憐憫だった。

 

「………わざわざありがとうございます。待っている間、少しお話を聞いても?」

 

「構いません。お嬢様が友人を家に入れることを許可するなど中々ありませんから。木坂さま以来でしょうか」

 

少し口角を上げてこちらを見てくるのはそういう話を期待しているのだと解釈し、愛想笑いを浮かべた。

 

「月歌さんはどんな子供だったんですか?」

 

「おや、やはりお嬢様に興味津々ですか?幼少期の話を聞き、羞恥に悶えるお嬢様の顔を見て悦に浸りたいと?いい趣味ですね」

 

「誰もそこまで」

 

調子のいい使用人だと呆れていると、記理子の表情が消えて真剣な雰囲気を帯びる。

 

「歓迎しましょう。お嬢様からそんな顔を引き出せると言えるなら」

 

憐憫の情が強くなったように感じた語は、やはり感情の見せ方に問題があるのだと確信する。しかし、その理由を探るには情報が足りていない。

 

「………輝夜さんの両親はお仕事ですか」

 

「ええ、お二方とも中々お帰りにならないご職業なので、家を空けることも珍しくないのです」

 

「父親の方は外交官ですか?」

 

「ッ!ご存じだったのですか?」

 

驚愕で目を見開いた家政婦を眺めながら、語は家の中に視線を向ける。

 

「いえ、ただの推測。推理とも呼べないただの推測ですよ。写真に写っている男性、一昔前の外務大臣だ。その横の人が輝夜の父親なら関係者なのかと思いまして。家具や食器も海外製のものが多い。絨毯もオランダのメーカーのですよね。隣の写真はイギリスの大使館。加えて、家に帰ってこない職業ということであればかなり絞られます」

 

「よく知ってんじゃん」

 

振り向くとそこには輝夜がいた。普段はあまり見ないきっちりとした清楚な服にうっすらと化粧を施している。ボタンの一つ、リボンの結び方、スカートの丈、ソックスのブランドに至るまで、全てが計算され尽くされているかのように完璧で、家の中でするには違和感がある格好だった。

 

「記理子さん下がってくれる?体調もだいぶいいから、アタシがもてなすよ」

 

「熱はいいのか?」

 

「だいぶ下がったから」

 

「これ、気休め程度だけど。前に好きって言ってたお菓子」

 

輝夜は目を少し見開いてそれを受け取った。

 

「意外、語ってそういうの覚えるんだ」

 

「失礼な奴だな」

 

「だって、そーゆー感じに見える。ちなみに、女の子的にはここで覚えてるのは君のことだけだよって言うと濡れる」

 

「誇張しすぎだろ」

 

「まあね」

 

輝夜は苦笑した。熱は引いているようだが、顔色は悪い。

 

どれくらい時間が経っただろうか。夕焼けが闇に溶け始める頃、語は「そろそろ帰る」と立ち上がった。輝夜の顔には、緊張が浮かんでいた。

 

部屋から出て、数歩歩いたところで玄関の扉が開いた。記理子が出迎えたその人影は、背筋をピンと伸ばした、いかにも厳格そうな男性。輝夜の父親だろう。

 

父親は語を一瞥すると、何の感情も読み取れない声で言った。

 

「君は娘の友人かな?」

 

「初めまして、輝夜さんの友人で風見語と言います。お邪魔しております」

 

ペコリと頭を下げた語を眺め、ニコリと愛想笑いを浮かべた。

 

「遊びに来てくれたのかい」

 

「………いえ、体調を崩した彼女のお見舞いと必要書類を手渡しに来ました」

 

部屋から出ようとした輝夜を見て、語は顔を顰める。自分を家に呼んだ理由であると察した。そして、怯えを表情に出さず唇を噛み締める輝夜を庇うように語が立ち位置を変えた。

 

「そうですか。それはありがとうございます。時に、風見君。娘は学校でうまくやれているかね」

 

それは娘を心配した親のお節介に傍からは見える。しかし、見るものが見れば欺瞞だと気が付く。

 

「輝夜は理想の娘でね、我々にとっての宝石なんだ。幼い頃から、何一つ手がかからず、常に私の期待に応えてくれる。だけど、心配なことも多い。一人娘だからね」

 

その言葉に語は心臓を掴まれたような感覚を覚えた。父親の瞳には、輝夜への愛情とは異なるどこか冷たい光が宿っているように見えた。それはまるで、美術品を眺めるようなあるいは高価な道具を評価するようなそんな視線だった。感情を覗き、悍ましさに吐き気と納得を感じていた。

 

「なるほど。私の友人としての彼女は興味深く、努力家で不器用な人間ですね」と、語は静かに、しかしはっきりと口にした。

 

父親は眉をひそめたが、何も言い返さなかった。語は一礼し、玄関を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

それは輝夜が熱から復帰した3日後、月曜日の放課後のことだった。

 

美術準備室の扉が開け放たれ、廊下までガシャンという破壊音が響いた。何事かと顔を覗かせた数名の生徒が、息をのんだ。机には色鮮やかな花瓶の破片が飛び散り、その傍らで、現美術部の部長である粉川が顔を真っ青にして立ち尽くしている。

 

「あちゃー、やちゃったね粉川」

 

副部長の女子生徒来方立夏が半笑いで廊下から部屋に現れる。

 

美術準備室にいたのは、粉川部長と彼の手伝いを行っていた月歌輝夜、偶々手伝いをしていた語、来方の四人だけだった。語は、割れた花瓶と天を仰ぐ粉川部長、そしてその状況にもかかわらず一切表情を変えない輝夜を交互に見ていた。

 

「あー、月歌大丈夫?」

 

その声かけを聞いて、粉川は輝夜に声を掛ける。

 

「ごめん、月歌さん!大丈夫?怪我は?」

 

粉川部長が、輝夜に駆け寄ろうとした。輝夜は、割れた破片が輝夜の手元付近まで散らばっているにもかかわらず、一歩も動いていない。まるでそこに花瓶が割れるという出来事がなかったかのように、ただ真っ直ぐに部長を見ていた。それもすぐに切り替わる。

 

「大丈夫ですよ!先輩こそ大丈夫ですか?あの花瓶先生の作品なんでしょ?」

 

輝夜の声は、いつもと変わらず気さくでその癖上品な熱のない偽物だった。

 

「あ゛、いや、でも、それより怪我はないかな!?」

 

粉川がさらに一歩踏み込もうとしたその時、輝夜はすっと身をかわした。まるで、粉川の善意を避けるかのように。

 

「大丈夫ですよー、破片も大きいですし」

 

輝夜は割れた花瓶に一瞥もくれず、そう告げた。

 

「それより謝りに行った方が良いんじゃない?許してはくれるだろうけどさ」

 

来方の言葉に部長は肩を落とした。この花瓶は、少し前の美術展に出品していた教師の作品だったのだ。展示は終わており、特に賞を取ったわけでもない。むしろ、次に出した作品を佳作が貰えたものとして大事にしていたから大丈夫との判断が、来方にはあった。

 

語は、その光景を静かに見ていた。粉川の落ち込みとそれを慰める来方の声、そして輝夜の不可解な行動。

 

そう不可解なのだ。割れる寸前、輝夜は花瓶に何かを塗ったように見えた。落とす瞬間を見逃したが、手から滑らせたのだろうか。

 

「月歌、危ないから少し机から下がった方がいい。床にも欠けた破片が転がっている可能性もなくはない」

 

「………うん、そうだね」

 

語はそう言って、輝夜の腕をそっと掴み安全な場所へと促した。輝夜は一瞬、語の手に驚いたように身を固くしたがすぐにその力を抜いた。しかし、彼女の視線は依然として割れた花瓶に向けられていた。

 

「月歌ちゃん、ちょっと掃除道具取りに行くから手伝って」

 

その後、花瓶の破損は「部長の不注意」として処理され、軽い叱責を受けたらしい。しかし、語は別のことが気になっていた。妙に砕けた破片が大きかったのだ。粉々に割れたわけではなく、花瓶の一部が砕けた。遠目に見た限りだが、花瓶は分厚くそして地面ではなく机に落ちただけでは割れないように見えた。

 

 

 

 

「2週間ぶりだな。こうやって話すのは」

 

「ええ、私は心が広いので輝夜さんの攻略に夢中になっている君を放置してあげたのです」

 

「所々、表現がおかしいな」

 

「失礼、攻略ではなく解剖でしたね」

 

「それも違う」

 

駅前にできた流行のチョコレート店に来ていた二人の前に、注文した皿が置かれる。

 

それは、皿の上の小さな建築物だった。

 

テーブルに運ばれてきた瞬間、誰もがスマートフォンを構え、その完璧な造形美を捉えようとシャッターを切るだろう。鮮やかなピンク色のソースが添えられた大きめのチョコケーキかつチョコレートケーキ自体が何層にもなっておりカラフルだ。下品ではないケーキ、その上にはまるで宝石のようにきらめく食用花が散りばめられている。一見すると美味しそうに見えると感嘆の声が漏れる。

 

しかし、フォークを手に取り、いざ口に運ぼうとしたとき、その期待は少しずつしぼんでいく。まず、どこから手をつけて良いのかわからない。舌の上に広がるのは、見た目ほどの驚きではない、ごく普通の味だった。

 

結局のところ、それは味覚を刺激する料理というよりは、視覚を支配するオブジェだった。スマートフォンの中で永遠に美しく輝き続けることを宿命づけられた、空虚な美食。

 

「写真映えを追求したスイーツという感じでしょうか。まるで何処かの誰かの様だと思いませんか?」

 

「………中身がない優等生だって?」

 

彼女が誰を思い浮かべているのかはすぐにわかった。

 

「お前、輝夜のことを何処まで知ってるんだ?」

 

「ここで答え合わせして差し上げてもいいですが、それで満足できますか?」

 

見透かしたような瞳だった。

 

「ほとんど答えに辿り着いているのでは?数日以内に終わらせる気でしょう?」

 

「まだ確信はない。仮説に仮説を重ねたものは推理ではない」

 

「では、私からプレゼントです」

 

結芽は自身のスマホをカフェのテーブルに置いた。スマートフォンの画面を覗き込むと、そこには花瓶が割れ、それに手を伸ばし、固まっているまさに「誤って割ってしまう」瞬間の輝夜の姿が鮮明に写っていた。

 

結芽はアイスカフェラテのストローを咥えながら、こともなげに言った。

 

「実はこの写真、音を聞いて部屋を覗いた生徒が提供してくれたものでして」

 

「不自然だろ、偶然部屋を覗いて写真を撮って、それで何で朝凪に提供するんだ?」

 

「偶然仲が良い生徒だったのです」

 

彼女はスマホを語の方に少し押しやった。

 

「私が止めなければ彼女の仲良しLINEグループに貼られていました」

 

「………花瓶割れたのって偶然じゃない感じか?」

 

語のそれは、カフェのざわめきにかき消されそうになるほど小さかった。信じられない思いで結芽を見る。

 

「ご安心ください。決して私は関わっていません。ただの事故です。花瓶の破損は意図していません」

 

結芽は悪びれる様子もなく、にこやかに笑った。

 

「お前が怖い」

 

「ひどいですね?私可愛いのですが」

 

彼女はストローでグラスの氷をカチャカチャと鳴らしながら続けた。

 

「それで、君はどう思いますか?この写真」

 

「………俺が見た花瓶と同一なんだろ?結論は出ている。輝夜が花瓶を割ったんだ」

 

「おや?割ったのは美術部の粉川さんですよ?」

 

「あの花瓶は見た目以上に割れにくい。仮に普通の花瓶だったとしても地面じゃなく、机に落とした程度じゃあんな壊れ方はしない。一番不自然なのは破片の大きさだ。落とした面とは逆の取っ手が大きく欠けていた。ちょうどこの写真の割れ方だった。これが答えだ」

 

吐き捨てるように呟いた語。代わりに結芽は口を開いた。

 

「一度割れたものを接着剤でくっつけて、他人が割ったように偽装する。私も同意見ですよ。しかし、これはお粗末です。他人が運ぶ時は滑りやすいよう花瓶に何かを塗ったのでしょうが、違和感を美術部の部長が発言するか花瓶を再度触ればわかってしまう。言い訳をしない彼の人の好さが仇でしたね」

 

「お前ならどうやって誤魔化す?」

 

「何故、誤魔化す必要があるのか。そう聞かないのですね」

 

「必要ない」

 

結芽は及第点ですと足を組んだ後、嘲笑を浮かべる。

 

「輝夜と私では勝利基準が異なりますので意味はないのですが。私は素直に自首しますよ。誰かを庇っている風の演技を添えて………ああ、手を破片で血まみれにするというのもありですね」

 

結芽はいたずらっぽく片目をつむった。可憐だが可愛くない仕草に溜息を吐く。

 

「やっぱり可愛くない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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