ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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金属ヴィラン・アイアンクラッド②

 そんな日の帰り道のことである。

 ちなみに毒はちゃんと治った。俺ってすごいね。

 多種多様なヴィランに襲われているため、このままではすべての死因をコンプリートしてしまいそうだ。

 

「うわっ」

 

 道を歩いているとヴィランが落ちていた。

 黒い塊だったので何かと思えば、炭になりかけている人間だった。

 焼死がトラウマなので見ているだけで気分が悪い。生きていそうなので声をかける。

 

「なんそれ、インフェルナにやられたんか? 前は善戦してたのに。今日は調子悪かったんかよ、アイアンクラッド」

「……うるせェ」

「わ〜喋った」

 

 外骨格は失っているが、中身の男には見覚えがあった。

 アイアンクラッドは全身を金属の鎧で覆っているが、口元は露出している。

 なんだろ、マスク苦手なタイプなのかな。

 気持ちはわかる、マスクしてると酸欠気味になることあるよな。

 湿度の高い、あるいは汗をかきやすい暑い時期のマスクはしんどい時がある。

 

 アイアンクラッドの素顔を見たことはないが、目の前の男は、鼻から下が俺が見たアイアンクラッドと一致する。

 鼻筋通ってるからイケメンそうでイラついた記憶がある。

 それから、頬を縦に走る傷跡があったのだ。

 あの調子では目元まで傷がありそうだな、超テンプレ悪役の傷じゃんウケる、と思っていた。

 

 アイアンクラッドの傷は、瞼にこそかかっていないものの、眉にはかかっていた。

 左眉を裂くように縦に走った傷痕が、彼にさらなる威圧感を与えている。

 

 金属ヴィラン・アイアンクラッド。

 ライデンと初めて出会った時に戦っていたのもこいつだし、インフェルナに初めて出会った時に戦っていたのもこいつだ。古参ヴィランである。

 引き際を見極めるのが上手く、生存に長ける男だと思っていたが、これは評価を改めなければならないかもしれない。

 

「今にも死にそうな感じ? 救急車呼んだら助かりそうな感じ?」

「はっ。俺を載せて動く救急車両はねェだろうな」

「救急車の耐荷重なんざ知らねえしお前の体重はもっと知らねえよ。今にも死ぬってことで良さげ? どしたん、遺言聞こうか?」

「思ってたよりムカつくガキだな」

「自分のこと散々殺そうとしてきたヴィランに対してと思えば有情だろ」

 

 アイアンクラッドは体格のいいマッチョではあるが、救急車に乗せられないほどの巨漢ではない。

 すると骨とかが金属になっててめっちゃ重いとかなんかな。

 なんなら体表も? 金属を操れるだけでなく己も金属ってことか。

 だから丈夫で長生きしてんだな。やはり強い能力だ。

 

 焦げたアイアンクラッドは、ヤケクソ気味に笑った。

 

「トドメでも刺したらどうだ?」

「憎む相手にやるには悪手だろ、お前そのままの方がしんどそうだもん。俺は別にお前のこと恨んでねえからやってやってもいいけど」

「聖人様かよ」

「ぎゃはは! 死にかけだから俺がキラキラして見えんのか!? 惚れんなよ!」

「うざすぎる……」

 

 アイアンクラッドは俺の評価を下げたようだが、こちらは逆だ。

 案外おもしれえ男だった。まず会話が成立するというだけで随分マトモな方のヴィランである。

 

 ライデンと戦ってる時もお喋りしてたもんな。

 ライデンはお喋りなヒーローだが、ヴィランとはあんまりうまく会話できていない様子だ。

 ヴィランは大抵変になっているので、お互い一方通行の発言になっていることが多い。

 

 ヴィランになりかけたインフェルナみたいな感じだ。

 ファミレスで話を聞いたとき、彼女の話は飛び飛びだった。

 ストレスが限界だと処理能力落ちるからな。話もうまく構成できなくなるんだろう。

 

 ヴィランというのは多大なストレスがかかり、もうどうにでもなれって感じで暴れてるやつとかばっかなのだ。

 ミュータントへの社会保障なんかがあればもっと違うと思うが、まだまだ難しいらしい。

 

「なんでヴィランやってんのか聞いていい?」

「ライデンを殺してェ」

 

 意外にも素直に教えてくれた。冥土の土産というやつだろうか。

 逆? 冥土の土産って俺がアイアンクラッドにあげなきゃいけないのか?

 それにしても想定外の理由だ。

 

「え、そうなんだ。お前昔からいるから、ライデンが出てくる前から暴れてんのかと思ってたけど、ライデンのが先なんか」

「順番なんざ意味がねェよ」

「なんで殺してえの?」

 

 それに関してはだんまりだった。今度ライデンの方に聞いてみるか。

 

「ライデン殺したい割に、こないだインフェルナと戦ってたよな」

「向こうから来たら対処するだけだ」

「ははあ。殺す気はなかったと。ちなみに俺は? お前に巻き込まれて何度か死にかけてるけど?」

「俺を殺してェならやればいい」

「殺される覚悟があるから人を殺していいという理論は成立しないぜ。お前が傷つけた人に、人殺しの覚悟を決めさせようとするな。それがどんだけしんどいことか、お前はわかってそうだけど?」

 

 今までぽんぽん返事が返って来ていたのに、急に黙った。

 絶対図星だと黙るタイプだ。言いたくない時も黙る。

 なんてわかりやすいんだ、心理戦に向かなさすぎる素直な男である。

 

 かつて大事な人を殺された復讐をするためにヴィランになった、ってな感じなのか?

 そんで殺人犯はライデン? ライデンの過失なのか、誤解があるのか。

 俺が踏み込んでいい話じゃねえんかな。

 当事者同士でなんとかしてもろて、ってぶん投げるべきか。

 

 とにかく、俺が目下アイアンクラッドに聞かなきゃならねえことはこれだ。

 

「ウチくる?」

「……はァ? なんでそうなる」

 

 呆気にとられた顔を見たのは初めてだ。

 戦っているアイアンクラッドは、いつも厳めしい顔をしている。

 マスクが目元しかないから表情がわかるのだ。

 

 暴れるヴィランってのは楽しそうにしているのも多いし、もうどうにもならないと泣きながら暴れるのも、自分は正しいと思い込んで何でもない顔をしているのも多いが、そのどれとも彼は違う。

 

 いずれ罰は受けるとでも思ってそうな顔だ。

 なんかシリアスな事情あんだろうな、ってのはお察しである。

 

 あれだ、ダークヒーローの素質があるんじゃねえかとこっそり思っていたのだ。




カクヨムにてサポーター限定で先行公開中です。ハーメルンでも変わらず毎日投稿していくので安心してね。
カクヨムのことがよくわからないので、サポーターになる方法は各自調べてください、ごめん。
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