ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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液状ヒーロー・フラックス②

 (みお)によるストリップショーの話はめちゃくちゃ面白かった。

 俺よりはるかに人生経験豊富であることを認めなければなるまい。

 人生2回分使っても勝てやしねえ。

 

 色々なことをやってきた澪でも、ヒーローは初めてらしい。

 

「ヒーローって具体的になにすればいいのかしらね。とりあえずヴィランをボコボコにするだけでいいならアタシだってよくやってたし、それだけじゃないんでしょう?」

「仁、フラックスにボコられたことある?」

「あったら殺してる」

 

 相変わらず仁は血気盛んだ。

 殺すか殺さないかでしかコミュニケーションとれないのかよ。

 

 てかこいつ鼓膜金属にしてねえ。

 ストリップショーの話に興味あったんか。

 このからかい方をすると殺意が滲むことがわかっているので、特に指摘はしない。

 

 家にこないだまでヴィランだったやつがいるのに、自分から聴力を封じるのはあまりに無警戒だろう。

 俺としては全然平和ボケして、呑気に聴覚を封じてくれても良かったが、まだ仁はとげとげしい野生の雰囲気をまとったままだ。

 

「ヴィラン同士って仲悪いんか?」

「相性によるでしょうね。頭おかしいのも多いから、仲いい方が珍しいわよ。大抵社会性ないし、友達になりたいようなヴィランはいないわね」

「だってさ、仁」

「殺されてェってことか?」

 

 何故か殺意が澪ではなく俺に向いたな。なんで?

 ヴィランのことボロカスに言ったのは澪なんだけどな。

 仁をヴィラン扱いしたのが俺だからってことか? 自認がヴィランじゃなくなってきてる?

 治験ついでの更生計画上手くいってんのかな。

 

「……ちょっと待って? この人ヴィランなの?」

「あれ? 言ってなかったか? アイアンクラッドだぜ」

「勝手に言いふらすんじゃねェ」

 

 澪は目をまんまるにした。

 虹色に光るうるうるお目目が素敵ですね。

 両手で口を覆い、水面を揺らして驚いている。

 

「あら……あらあら! まあ! そうなのね! アイアンクラッドは別よ! ぜひ仲良くしてほしいわ♡」

「え~特別枠? アイアンクラッドってヴィランの中で評判いいのか?」

「逆よ逆。最・悪♡」

「最悪なアイアンクラッドさん、原因に心当たりは?」

「絡んで来たヴィラン全員ぶちのめしてきたからだろ」

「ぎゃはは! 単純明快! うちに来た日もそれか!?」

 

 仁は黙った。図星らしい。

 ぶちのめせないような強いヴィランが相手でも、ムカついたのなら戦うってことか。

 

 相変わらずわかりやすいんだよ、もうちょい心理戦できないと後々困るだろって。

 愚直すぎる。だからライデンに勝てねえんじゃねえの、とか言ったら殺されそうだな。

 

「いや~ん、祈についてもっと気になってきちゃったわ♡ アイアンクラッドと一緒に住んでて、デルタに命を狙われてるなんて、なにかあるに決まってるじゃない」

「再生能力くらいしかねえけどなあ」

「ま。そのへんの謎は一緒に解いていきましょ♡」

 

 フラックスは強い。とにかく能力の汎用性が高いのだ。

 

 液体同化と操作。

 操作するには多少自分を溶け込ませないといけないようだが、その程度の手間を補ってあまりある程の便利具合。

 流動するモンスターのテンプレよろしく、そこを攻撃されたらアカンというコアのような部分はあるようだが、それを隠すのが巧みだ。

 ライデンのように特殊な探知能力を持っていなければまず対応できない。

 

 それから能力のコントロールも、使い方も上手い。

 うっかり冷やしすぎたり、燃やしすぎたりする雪狐やインフェルナとは戦いの経験が違う。

 咄嗟の判断能力もあり、応用力も充分だ。

 

 ちなみに上記の褒め言葉はすべてライデンが言っていたことだが、澪がライデンへもっとメロメロになった場合どうなるかわからなくて怖いので黙っておく。

 

 ともかく、そんな強敵ヴィランが仲間になってくれたというのであれば、これほど心強いことはない。

 

「そういや澪は俺の殺しをデルタに頼まれてたんだよな。そういう依頼って結構あんの?」

「デルタからの頼まれごとは初めてだったわね。そうじゃない暗殺任務なら何度か請け負ったことがあるけど」

「暗殺者だ~かっけ~」

「うふふ、不謹慎よ~」

 

 どっちがって感じの会話だ。

 

 雪狐の素顔、幸也の顔がフラックスにバレたとき、この場で仕留めなきゃやべえとは思った。

 いつ暗殺されるかわからない。俺と違って幸也に再生能力はないのだ。

 

 しかし、凄腕暗殺者フラックスは引退だ。

 大人気ヒーローフラックスになるための方法を考える。

 

「とりあえず市民の印象操作だろうな。善行してるとこ見せびらかすか? ゴミとか拾う?」

「川の掃除でもしようかしら?」

「いいじゃん。めだかの学校を建てよう」

「川からゴミ引き上げるのはいいけど、そのあと捨てるのが大変だわ。川べりに不法投棄し直すだけになっちゃうわね」

「うーん、焼却炉とかごみ処理場の近い川からスタートするか?」

「川の流れを変えて運搬することならできるけど、川の流れって変えていいのかしら?」

「だめそう」

「ゴミ処理場も川に沈んじゃうしね〜」

 

 あれじゃないこれじゃないと、澪と共に考える。

 

「あとはあれじゃね? 市民を守る。ヴィランからだと尚良し」

「それもやったことあるんだけど、アタシがヴィラン扱いなのはどうしてかしらね。何が駄目だったのよ」

「やっぱ暗殺?」

「それかしらね~」

 

 なるほど、澪には善悪の区別がない。

 善行と同じく悪行を積み上げている。悪行と同じく善行を積み上げている。

 なんでもやってみようという精神なのか? イカレてるだけか?

 

「良いことやるより、悪いことしねえってのが大事かもな。澪は良いことやってるけど、悪いこともやってっから相殺されてんだ、きっと」

「なるほど。でも我慢ってやつがいちばん苦手なのよ」

「ヴィランっぽ〜い」

「うふふ。ヒーローっぽ〜いって言われるように頑張らなきゃね」

 

 向上心があってなによりだ。

 アイアンクラッドにも見習ってほしい。

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