目の前にいるのは凶悪なヴィランだ。
俺は慎重に口を開いた。まずは彼の目的を知りたい。
「
即興だとキツいな。
俺もこいつと同じくらい厨二病みてえなことを言っているぞ。
目的を言え、までで言いたいこと終わっちゃったから、そのあとに適当な言葉をくっつけるしかなくなってしまった。
そしてNをNowにして適当に流してしまいがちだ。
……なぜ俺は今日知った独自構文に対して美を追求しているんだろう。
役に立たない技術を磨こうとするな。
目をまんまるにしたまま、
「
「ありがとな。で、マジで何の用なんだよ。俺爆死はしたくねえんだけど」
いい加減デトネイト構文に付き合ってやるのが疲れたので、 普通の喋りに戻す。
俺が返答を待っていると、D.E.T.O.N.A.T.E.は怪訝な顔をした。
……あ、英語じゃねえと伝わらねえってことか?
「Seriously, what the hell do you want? I don’t wanna die in a goddamn explosion.」
俺は爆死したくねえけど用事は何、と英語で聞いたが、やっぱりD.E.T.O.N.A.T.E.は怪訝な顔をした。
沈黙が流れる。なんだこれ。
さっきまで一応会話できてたんじゃなかったのか、やっぱりあれも俺の勘違いか。
……あ!? まさか頭文字がD.E.T.O.N.A.T.E.になる構文で話さねえと意味が伝わらないのか!?
そんなことあるわけないだろ。なっとるやろがい。
独自言語を使う狂人かよ。単語自体は英語であるだけまだましか?
くそっ、変なところに俺の頭脳を使わせるな。文系じゃねえのに。
こめかみを押さえながら、俺は頭を捻った。
「
この構文で喋れる人間を探してるだけのぼっちだったらいいのに、という俺の期待はすぐに砕かれた。
「
一拍遅れて俺の質問に答えてくれたな。
D.E.T.O.N.A.T.E.が何しに来たって、俺を殺しに来たのである。やだーっ!
指令というのが言葉通りの意味ならば、指示役がいるらしいな。
それか己の神に従って、みたいな天啓を受けるタイプの異常者なのか。
ともかく俺を爆殺しにきたが、意外にも話が通じるので迷ってるってことでいいのか。
「
翻訳すると、殺さないでください。友達になりましょう。って感じだ。
俺にできるのはもはや命乞いくらいしかない。
その姿を見たものを必ず爆殺して来た凶悪ヴィランに対し、攻撃手段もない俺がなにかできるわけがないのだ。
できるのは対話だけ。これで何とかするしかない。
D.E.T.O.N.A.T.E.は困惑した様子で、頭を抱えた。
「
「
混乱しているのなら今畳みかけるしかねえ。
再びNをNowにして適当に流してしまったが、文章の美しさより勢いと熱さだ。
冷静になられたらやっぱ俺を殺さなきゃってなっちゃうだろうが。
俺だって必死だ。爆死はしたくねえんだよ! トラウマだって言ってるだろうが!
文字通り死に物狂いだ。
D.E.T.O.N.A.T.E.の手を勝手に取って、無理矢理目線を合わせる。
体に触れたからって、即座に爆破されることはなかった。
彼の目の奥にはやはり困惑があった。揺らいでいる。
「
突然ハッとして、D.E.T.O.N.A.T.E.は俺の手を振り払った。
自分の胸元を掴んで握りしめている。心臓でもいてえのか?
「
「
話が通じているような気がする。
しかしD.E.T.O.N.A.T.E.は苦しげな顔のまま、首を横に振った。
「
義務。望まない爆破を強要されてきたということか?
爆風ヴィラン・D.E.T.O.N.A.T.E.は愉快犯でも思想犯でもなく、依頼を受けて――いや、脅されて?
クソッ、変な構文で喋るからわかりにくい。
敵ではないと言ったのだ、もう俺を殺すつもりはないのだろうか。
突然、ザザッ、とくぐもったノイズ音がする。D.E.T.O.N.A.T.E.からだ。
「
――デトネイト構文でそう言ったのは、俺でもD.E.T.O.N.A.T.E.でもなかった。
加工されているのか、ロボットのような声だ。
ラジオでも持っているのか、通信機器か。
D.E.T.O.N.A.T.E.は険しい顔で俺を突き飛ばした。
「
聞き取れたのはそこまでだった。
俺が目にしたのは、D.E.T.O.N.A.T.E.がひび割れていくところだ。
彼の顔に複数の光る線が引かれ、体が膨れ上がっていき――
D.E.T.O.N.A.T.E.は自爆した。