ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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変身ヴィラン・面影⑤

 さて、ラットロードと澪の感動の再会はこのくらいにしておこう。

 さもなければ仁がブチ切れて暴れ始めてしまう。

 俺は俺の顔をしているなにかを指さして、仁に紹介してやった。

 

「仁、こいつ面影(おもかげ)

「殺すか」

「もうすでに何回も殺してるから勘弁してもろて」

「ウウッ……!」

 

 俺の顔でしくしく泣くな。美少女なんだから変な気持ちになるだろうが。性癖変になっちゃう。

 ベランダで洗濯ものを干していたすだまが戻ってくる。

 

「なんじゃ、また忘れ物……いや、だめんずか……」

 

 俺が家にヴィランを連れ込むことに、早速すだまも慣れてきたようだ。

 帰ってきたら俺が2人いて、仁がブチ切れそうな顔をしているのに、ため息ひとつで済ませた。これが年の功。

 

「いやあ、ちょっと今回はまだ拾うかどうかわかんねえわ」

「こうも頻度が高いと、神の采配を感じるのう。祈、おぬしはそういう星の元生まれついたのやもしれぬ。だめだめな男を拾って更生させるべし、という命を受けておるのかもしれんのう」

「いやだよ」

 

 なんでそんなことしなきゃいけねえんだよ。そんなボランティアやりてえわけがない。

 すだまは拘束されている方の俺をまじまじと見た。

 

「しかし誰かと思えば、こないだの若造か。初めて仁と出会うたとき、喧嘩しとった相手の」

「あ? 顔は俺なのによくわかるな?」

 

 そんで仁は面影とバトル済みだったらしい。

 こいつは誰にでも喧嘩を売る。短気だ。

 売られた喧嘩はなんでも買うと言っていたが、相手は喧嘩を売っている認識ではないだろう。つまり、短気だ。

 

「変化に関してわしより詳しいものはそれほどおらんぞ? どう化けているか、でわかるものじゃ」

 

 そういうもんなんだ、変身ってのは奥が深いな。

 面影は俺の顔で、顔をキラキラ輝かせた。こうして見るとやっぱり美少女だ。この体を貸してやりたいくらいである。

 

「じゃ……じゃあオレが誰かわかります!?」

「はて、あの時名乗っていたかのう? あいにく聞きそびれておったわ」

 

 すだまの返事を聞いて、面影はしょんぼりした。ふむ。

 

「いろんなものに変身しすぎて、もともと何だったか忘れちまったんだな」

「……!? な、なぜそれを!?」

 

 ただの推測に過ぎないことを、確信を持った風に呟けば、案の定反応が返ってきた。

 俺、メンタリストになれるかもしれねえ。

 こうして心理戦に激弱なヴィランが多いのなら、今後も助かる。

 

「なんで俺を狙ったんだ? デルタからの指示か」

「はい……」

「報酬は?」

「オレがかつて何者だったか教えてくれるって」

 

 そんな甘言に惑わされたのか。

 すだまが腰に手を当て、完全に呆れた口調で言う。

 

「なんじゃあ、ほんに未熟者じゃのう。己がなんだったか忘れてしもうたとは! 懐かしいのう、千年も前に子らへ変化を教えていた頃を思い出す」

 

 すだまはなにやらノスタルジックに浸りながら、過去を回想していた。

 狐族ってそんないっぱいいんの? すだま以外にみたことねえな。

 

「オレ、自分が誰だったのかわからなくなっちまってですね。でもデルタは昔のオレを知ってるってんで、協力したら教えてくれるって約束だったんスよ。だからって子供の命狙うのは気が引けたんスけど、オレも困ってたし……」

 

 面影は肩身が狭そうにした。

 俺は未成年なので、すだまでなくとも充分子供の範囲だろう。

 すだまは呆れたように鼻を鳴らした。

 

「なんじゃ、本当の姿を知りたいのか? そんなん簡単じゃ」

「え!? 知ってるんスか?」

「良ければ教えてやろうかのう?」

「ぜひ! ぜひに!」

 

 すだまは即座に、面影の首元に手刀を叩き込んだ。

 

 も、問答無用すぎる。

 俺の姿だった面影は白目をむいて、見事に気絶した。

 アイアンクラッドに拘束されたまま、がくりと首から脱力する。

 そしてじわじわと、面影が化けていた俺の形が崩れていった。

 

「変化というのは気絶したら解ける」

 

 そういうもんなんだ。

 意識を失ったことを確認し、仁が面影を放す。

 

 面影は20歳くらいの青年だった。どこにでもいそうな若者だ。

 化け続けて自分が誰かわからなくなったというくらいだから、もっと歳を食っているのかと思った。

 あれか、自分探しの旅とかそういうやつか。

 

「仁どうする? 家汚れるから殺すのやめとく?」

「チッ」

 

 やめとくらしい。舌うちでわかるようになってきた。

 そろそろアイアンクラッドマスターを名乗れるかもしれねえな。

 

「ラットロードは何の用事で俺ん家来たんだ? 体調悪くなった?」

「あ、ああ……あっしが殺されかけたときに使われた凶器が見当たらなかったもんで、お嬢ならご存じかと」

 

 急に話しかけられたラットロードは気を抜いていたのか、やんす口調を忘れていた。

 最近なってねえぞ、ちゃんとキャラを作ってくれ。

 

「それなら回収したな。どこやったっけ」

「ここじゃの」

 

 すだまはキッチンの棚を開け、包丁ホルダーからナイフを取り出した。

 こうして見ると果物ナイフにしか見えない。

 

「洗ってあんじゃねえか」

「汚れとったから綺麗にしてやったんじゃろうが」

「ごめんラットロード、証拠能力なさそう」

「いえいえ、構わねえです。頂いても?」

「どうぞどうぞ。それですだまが飯つくりそうだから持ってってくれ」

 

 すだまの料理の腕は一流だから、調理道具が殺人事件の凶器だろうがうまく扱うだろう。

 でもそんな飯食いたくねえよ。知り合いの胸に突き刺さってたナイフだし。

 

 すだまの当身で気絶していた面影がうめいた。そろそろ起きそうだ。

 

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