チャイムが鳴った。
宅配と思って玄関の扉を開けると、D.E.T.O.N.A.T.E.が立っていた。
玄関のドアを閉める。
見間違いか? 白昼夢かもしれねえ、立ったまま寝てたのかも。
玄関の扉を開ける。D.E.T.O.N.A.T.E.が立っていた。玄関の扉を閉める。
「おーい、すだま! 知り合いが遊びに来たからちょっとだけ外出て来るわ!」
「なに!? 家を出んようにするとはなんだったんじゃ! 澪を泣かせる気か?」
俺と澪、ラットロードのやり取りを聞いていたすだまもある程度事情は把握している。
俺の安全を守るというのも、当然了承したすだまだったが、そんなのはいつもと変わらないのである。
防犯意識のなっていない俺だが、さすがに爆弾魔は家にあげたくない。
「ちょっとだけちょっとだけ。心配ならこっそり尾行してきてくれ」
「くっきいを焼き始めてしまったからしばらく手が離せん」
両手にミトンをつけ、すだまが言った。
いつの間にかいい電子レンジを購入したすだまは、オーブン機能の調子を確かめたいとクッキーを焼き始めたのである。
収入がどっから来ているのかよくわかっていないが、意外に金持ってんのかも。年金?
「んじゃ焼き終わったら来てくれ。行ってくる」
玄関の扉を開ける。D.E.T.O.N.A.T.E.が立っている。
俺は靴を履いて外に出た。玄関の扉と鍵を閉め、D.E.T.O.N.A.T.E.の手を掴んで歩き出す。
D.E.T.O.N.A.T.E.は初めて会ったときのままだった。
爆発してはじけ飛んだ姿を見ているので、クローンとか言われたら信じていたかもしれない。
白衣の煤さえも似たような位置にある。
ピンクの瞳孔をぎょろぎょろ動かしながら、D.E.T.O.N.A.T.E.は無抵抗で俺に手を引かれていた。
澪が言うには自分を分解できるタイプの能力者であろうとのことだったが、今のところ皮膚に切れ込みは見えない。不健康に血管が浮き上がっているだけである。
「
相変わらずD.E.T.O.N.A.T.E.の頭文字になるように喋るこの男は、俺との再会を喜んでいるようだ。
ともかく、俺を殺しに来たのではないようでなによりだった。
何を言うか、頭の中で組み立てる。
「
俺だって会えて嬉しいさ。あのまま爆死してなくて良かった。
最後に見たD.E.T.O.N.A.T.E.は、自爆して粉々になったところだ。俺のトラウマを刺激しまくりやがった。
俺は自分が爆死したくないというだけではない。目の前で爆死する人を見たくない。
だから母の死がトラウマなんだって、本当に。今日は爆発しねえだろうな。
「
近所の公園に場所を移し、ベンチに腰掛ける。
隣をぽんぽん叩けば意味が伝わったのか、D.E.T.O.N.A.T.E.は俺の隣に腰掛けた。
デトネイト構文で喋るより、ジェスチャーゲームで意思疎通した方が簡単かもしれない。
「
以前の会話は、D.E.T.O.N.A.T.E.の自爆により途中で遮られた。
彼の意思による爆発には見えなかった。あのあたりの事情を詳しく聞きたい。
俺の予想じゃデルタが関わっている。
「
「
こんな話の通じない狂人が――まあ俺には通じてんだけど――まさか脅されてヴィランをやっているとは、誰も思わなかったのだろう。
この話し方しかできないのならば、誰にも助けを求めることなどできない。
だからデルタはD.E.T.O.N.A.T.E.を利用したのだろうか。
D.E.T.O.N.A.T.E.はおそらく、デルタくらいとしか話が成立しなかったはずだ。
それはどれだけ孤独だっただろう。
「
D.E.T.O.N.A.T.E.は静かに言った。
「
そうなったのは俺のせいだろう。
D.E.T.O.N.A.T.E.と会話ができる隙を見つけ、爆破を阻止しようとした。
D.E.T.O.N.A.T.E.の会話はすべてデルタに聞かれていたのだ。
裏切り――そもそも無理矢理従わせていたのだから、デルタがそれを警戒しないわけがない。
俺はあの時命乞いが成功しそうだ、と思った。
デルタもそう思ったのだろう。その時点で命令に違反したと考え、デルタはD.E.T.O.N.A.T.E.を捨てた。
D.E.T.O.N.A.T.E.を従わせるために捕らえていた人質もその時点で不要になり、始末された。そういうことだ。
ゆっくり息を吐く。ため息をつく権利は俺にはねえよな。
「
「
大切な人を喪ったというのに、D.E.T.O.N.A.T.E.の声色は優しかった。
「
皮肉なことに、デルタがD.E.T.O.N.A.T.E.の人質を殺したことで、D.E.T.O.N.A.T.E.は自由になった。
もうデルタの命令を聞いて、あちこちで自爆する必要はなくなったのだ。
「
誰もD.E.T.O.N.A.T.E.の顔を知らない。
D.E.T.O.N.A.T.E.の顔を見た者は皆爆死したからだ。
誰を殺してでも守りたかった誰かを喪ったD.E.T.O.N.A.T.E.に残るのは、贖罪の気持ちだったらしい。
そんなやつを恨むことなどできようか。
幸い俺は爆死していない。爆死してたらちょっと許せなかったかもしれないが、むしろ俺がちょっかいかけなければD.E.T.O.N.A.T.E.の大事な人は無事だったのではと、こちらが罪悪感を覚えるほどだ。
しかし、D.E.T.O.N.A.T.E.の大事な人が生きている限り、D.E.T.O.N.A.T.E.は殺しを続けなければならなかった。
これが良かったのか悪かったのか、俺には判断しかねる。
勢いに任せて言葉を選択する。文章が整っているかどうかより、気持ちが伝わるかどうかを優先しよう。
「
D.E.T.O.N.A.T.E.に殺された人々や、その家族がどう思うかは知らない。
だが俺は彼を許そう。
そろそろクッキーを焼き終えたすだまが来てしまう。
俺はベンチから立ち上がり、D.E.T.O.N.A.T.E.の目の前に立った。
初めてD.E.T.O.N.A.T.E.が俺に話しかけたあの日とは逆だ。
「
手を差し出す。D.E.T.O.N.A.T.E.はじっと俺の手を見つめた。
いつもきょろきょろと動き続けているピンクの瞳孔が、しばらく俺の手元に留まる。
「
そう言ったD.E.T.O.N.A.T.E.は自分の意思で、俺の手を取った。