ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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のじゃロリ・すだま

 焼死から復活した俺がまずやったこと、それはスマホの調達だ。

 現代人として連絡手段はかかせない。

 出費が痛いな~と頭を抱えていると、すだまが提案してくれた。

 

「わしもそろそろ、そのすまふぉとかいうやつが欲しかったんじゃ。わしに見繕ってくれるなら、祈の分も出してやろうかのう」

「ええ~!? ほんとかよすだま~!」

 

 相変わらずすだまがどこから金を出しているのか知らないが、余裕のある年長者には甘えるべきである。ごちになります。

 

 すだまを連れてスマホを買いに行く。

 戸籍があるのかようわからんかったので、俺が2台持ちする形ですだまにスマホを買ってやることにした。

 店員は狐耳のじゃロリ巫女を見て5度見していた。そりゃそう。

 

 耳としっぽを隠さない、という決意を何百年前にしたのかは知らないが、すだまは大都会でもそのスタンスを崩さない。

 スーパーにもこれで行っているし、もうスーパーの常連や店員にすっかり覚えられているようだ。

 こないだすだまと共にスーパーに行ったら「レタス安かったわよ!」「これ夕方に3割引シール貼りますからね」などと話しかけられまくっていた。なんて世渡り上手なんだ、これが年の功。

 

 こども用か老人用か迷ったが、すだまには一般的なスマホをオススメしておいた。

 すだまは勤勉だ。使い方を教えてやれば、それなりに使いこなすだろう。

 電子レンジのオーブン機能でクッキー焼けるんだ、そのうちスマホでバーコード決済による会計くらいできるようになるだろう。ポイントとかも集め始めるかもしれないな。

 クレジットカード持ってんのか? そのへんは知らない。

 

 俺がスマホを手にして真っ先に連絡を入れたのは幸也だ。

 雛の様子を聞きたかった。本人に聞くのは問題がある。

 俺を傷つけたことを思い出して、また精神がめちゃくちゃになったら困るからな。

 

「雛さんの調子は大分戻ってきたような気がしますね。まだ落ち込んではいますけど、まあ、元々そこまで安定していたわけでもないですし」

 

 スマホでのやり取りは面倒……というか顔を見て話したかったので、近くの喫茶店に集合し、幸也に雛の調子を尋ねる。

 またヴィランになりかける、というような事態は起きていない。

 むしろ問題なのは、頭を燃やす元気がない時間の方が長そうだ、ということであった。

 

 心の問題は複雑だ。数日ですべてが解決することなどありえない。

 俺達でなんとか支えてやるか、と俺が言えば、幸也も頷いた。

 

 幸也が飲んでいたアイスコーヒーは半分ほどなくなり、グラスの中で転がった氷がカロリと音を立てた。

 少し言いにくそうに黙ってから、幸也は口を開いた。

 

「ところで祈さん。俺がなんでこのヒーローネームにしたか知ってます?」

「聞いてねえな」

「好きなんですよね、狐」

 

 俺と幸也はしばらく見つめあった。

 ……? ……!!

 

「すだまか!」

「なんなんですかあれ!? 幻覚!?」

「そういうのもできそうだが、やってねえ状態でたぶんアレだな」

 

 ネムネムにも言ったが、雪狐には雪の要素も狐の要素も大して存在しない。

 なんでそんな名前にしたんだろうと思っていたが、そうか。

 好きなものの名前を付けたということか。それなら納得できる。

 

「いややばいですよ……怖……妄想が現実になったみたいで……」

 

 俺がインフェルナに焼かれた後、すだまがやってきた。

 その際、俺の耳にも雪狐の「えーっ!?」という驚きの声が聞こえたが、それはつまり、すだまという存在への驚きだったのだ。

 そりゃ、狐耳のじゃロリ巫女が突然目の前に現れたら、これ現実? と思うわな。

 

「やっぱり? あれ俺の幼なじみなんだけど」

「よく正気でいられましたね!!」

「ああ、俺もそう思う」

 

 性癖はおかしくなっちゃわなかった。たぶん。

 価値観は確実に狂ったと思う。

 俺は狐耳のじゃロリ巫女を目の前にして婆ちゃんのようにしか思えず、結構ためらいなく甘えることができるようになってしまった。

 もしかして既に破壊されているのか? 俺の中の何かは?

 

「紹介してやろうか?」

「……俺多分なんにも喋れなくなりますよ」

「割といつもそうじゃねえか」

 

 ライデンを目の前にしたあの感じになるのだろう。

 すだまは気にするかもしれねえが、俺は既に見た後だ。

 適当にすだまと会話をして変な空気にならないようにしてやる程度のことならば容易い。ライデンのときに既にやってるし。

 

「てか俺はあんま覚えてねえけど、すだま、でっけえ化け物みてえなのに変化してなかったか? あっちが本体かもしんねえけど、アレはオッケーなん?」

「……オッケーです」

 

 しみじみ言わんでも。

 幸也は眼鏡の位置を直しながら、俺に意見を求めた。

 

「狐が好きなんでなんとなく名前に入れたんですが、よく考えると自分には狐の要素が全然なかったんですよね。ネムネムさんと相談して、バイザーのとこに耳っぽい形の突起でも生やすか? とか言ってたんですけど、祈さんはどう思います?」

 

 やっべ。ネムネムは俺がうっかり言ったことを、余程気にしていたらしい。

 雪狐本人にも「雪狐って雪でも狐でもないよね笑」と言ったことが伝聞されている。

 そういうつもりではなかったのだが。いや全然いいと思うんだけどな、今のままでも。

 ネムネムはさっそく雪狐にヒーローコスチュームの改造提案をしている。仕事に誠実だな。

 

「まずネムネムとしっかり意思疎通できるのはなんなんだ」

「俺しか喋れないと思うと逆にうまくいくんですよね」

「才能だな、俺はネムネムの言いたいことをまるでわかってやれねえ。今度話すときお前もついてきてくれるか?」

「翻訳できるほど上手なわけではないと思いますが、コミュニケーションに関して祈さんに頼み事をされるなんて今後一生なさそうなので、いいですよ!」

 

 幸也はハキハキとそう答えた。

 よかった、これで俺も安心だ。

 

 ジェスチャーでしか意思を伝えられないネムネムと、デトネイト構文でしか喋ることのできないD.E.T.O.N.A.T.E.に挟まれて、処理落ちしてしまうかもしれない危機からは逃れられそうだ。

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