ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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ヒーロー候補・D.E.T.O.N.A.T.E.④

 2ゲーム目も同じような調子だった。

 つまり、幸也には間違いなくボウリングの才能があるということである。

 

「幸也の母ちゃんはどんな人だったんだ?」

「ヒーローでした」

 

 幸也は先程使っていたものよりもう少し重い球を投げ、「あ〜なるほど」と言いつつストライクを取って帰ってきた。弘法筆を選ばず?

 

「あ、そのくらい素晴らしい人だった、という比喩ではなく、真実ヒーローというものを職業にしていた人です。日本では認められてませんけど、イタリアじゃアリだったんで」

「……マジ!? すご!」

 

 私を理由に人を殺すな――どういう人生ならそんなことを息子に言い含めるようになるのかと思えば、そうか。ヒーロー。それは……いつ誰に殺されてもおかしくない危険な職業だ。

 

「ネムネムとも母のツテで知り合ったんですよ。雛さんに紹介したのも俺だし」

「……あいつもしかして、海外のヒーローにもコスチューム作ってんの!?」

「そういうこともしてるみたいですね」

 

 もしかすると、ネムネムは本当にヒーローコスチュームのシェアNo.1なのかもしれない。

 知らなかった。動く不思議なぬいぐるみとしか思ってなかったぜ。

 

「だからこそ、母はD.E.T.O.N.A.T.E.の……デルタの標的にされたんでしょうね。そりゃあ母は強かったですから。引退してたんですが、いつ復活するか分からないと思えば、対処されるでしょう。まともに戦えば苦戦する。俺がデルタでも早めに倒しておきたいなあ」

 

 幸也は淡々とそう語った。

 自分をデルタに例えて母の暗殺を検討するのは、俺にはなかなか難しそうだ。

 

「母は……俺のハイエンド版と思ってもらえれば。俺からだめだめなところ全部失くして、氷雪の力も倍にしたみたいなヒーローです」

「ちょっと凄すぎて想像できねえかも」

 

 雪狐はすでにヒーローとして安定してきている。

 うっかりで人を凍らせた事故は、俺以降起きていない。

 

 かつて冗談のように言っていた、うっかり街を氷河期にしてしまうかもしれない、という言葉もあながち嘘ではないと思わされるほどだ。

 やろうと思えばできるのではないか。氷雪の力はそれほど強い。

 

 その幸也の、倍。

 どれほどの強さだろう。もう地球全部を凍らせることすら可能、というレベルなのか?

 

「幸也は優秀で素直な割に、ヒーロー業に関しては納得してなさそうだったのはそのせいか。もっと上を知ってるから、今の自分に満足できねえんだな。俺はその高い目標ってのがライデンなんだと思ってたが、身近にいたのか」

「はい。俺の憧れの人です。もちろんライデンさんもですよ! でも俺とライデンさんではできることが違うので、お互いにやれることをやればいいかなとも思いますから」

「母ちゃんに関してはちげえの?」

「うーん、やっぱりできることが似てると、どうしても比較してしまいますね。母だったら上手くやったんだろうなと、反省してばかりです。シミュレートとして役立ちはしますけどね。母ならこうするだろう、俺では速さが足りないから代わりにとるべき手段は、と計算できます」

 

 幸也はドジが目立つが、計画性がないわけではない。

 焦って混乱することも多いが、その欠陥を自覚して、できる限り事前に予想を立てているようだ。なにがあっても対応できるように、あらゆることを想定している。

 

 当たり前のようにストライクをとって戻ってきた幸也が、ぽつりと言った。

 

「俺も祈さんもボウリング上手すぎて、逆に盛り上がりませんね」

「ああ、お互い1球ずつで交代してっから忙しねえ。基本ストライクだと慣れてくる。かといってスペアだの出したときに囃し立てるのは違えし」

 

 さすがにギャラリーが集まってくるほどだ。

 裏で休憩していたらしいバイトも表に出てきて、受付の方から俺たちの試合を眺めている。

 あんま人気のボウリング場じゃなくて助かった。

 他にも客がいっぱいいたら、もっと騒ぎになっていたかもしれない。

 

「じゃあ俺一発芸やりますね。D.E.T.O.N.A.T.E.さんが言いそうで絶対言わないこと言います」

「は?」

 

 いやそういうのはストライク取れなかった場合の罰ゲームとかに設定するもんでは――俺がそういう前に、幸也はカッと目を見開いた。

 青い瞳孔をきょろきょろ動かす。急に何かと思ったが、D.E.T.O.N.A.T.E.の真似だろう。イケメンがやると全然印象が違う。

 なにやっても美形は美形だな。

 

明日を期待するな(Don’t Expect Tomorrow,)この世界じゃ秩序なんて誰も守っちゃいない(Order’s Not A Thing Enforced here.)

「ぎゃははははははははははは!」

 

 油断していた俺はひっくり返った。

 腹を抱え、でかい声を出しながら笑う。笑いが止まらない。

 

「お……面白すぎる! こんな才能あったのかよ幸也!」

「自分では面白いな〜と思ったんですけど、その予想より遥かに上回ってウケていて困惑しています」

「ぎゃはは、腹痛え〜!!」

 

 笑いながら何とか息をして、その合間に言う。

 

「秩序守りまくりそうだろどう見ても、自分命令されたことしかできませんみてえなツラしてるじゃん」

「そんなツラしてるかはわかりませんが、言わないでしょうね」

 

 俺はひいひい笑いながら球を投げ、見事ガーターにした。だめだ、俺はメンタルが弱い。これほど気持ちに左右されるようでは、スポーツ選手にはなれないだろう、ならんけど。

 

「もしD.E.T.O.N.A.T.E.さんの影武者が必要になったら俺に頼んでください。やり切ってみせますよ」

「さっきみてえな感じで真似したら、こんなD.E.T.O.N.A.T.E.はいやだ、になるだろ」

「こんなD.E.T.O.N.A.T.E.さんはいやだ。真実を語るな、私のもの以外は(Don’t Even Think Of Naming Any Truths Except mine.)とか言う」

「ぎゃははははははは! 笑い死ぬ!!」

「死なないで!」

「ぎゃははは!」

 

 幸也が真剣に俺の生死を心配したのも面白すぎた。

 俺の笑い声のデカさに、受付から眺めていた店員たちが度肝を抜かれたような顔をしているのも目に入って、俺は笑いを収めるのに、大層苦労した。

 




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