ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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炎熱ヒーロー・インフェルナ①

 ライデンに対し、大学生と伝えたのは真実だ。

 俺は15の頃から大学生をやっている。18の今は院生だ。

 前世の記憶があるし、この体の脳みそは結構優秀だった。

 

 俺は飛び級している。正確には、高校を丸々スキップして大学に入学した。

 そんで大学4年間もちょっとだけスキップして、3年で院に進んだ。

 博士号を取るまでにもいくらかスキップできそうだったが、院生というポジションはなにかと便利だ。

 

 いっそこのまま爆速で教授になるという手もあるが、そうすれば今より忙しくなるだろう。

 研究に割ける時間が減ってしまう。

 いつまでも学生ではいられないので将来的にはいいかもしれないが、今はその時ではない。

 こっからは奨学金を借りながら、じっくり研究に勤しむつもりである。

 

 小学2年生までは、俺も普通の人生を楽しむつもりだった。

 なにしろ新しい人生だ。かつての後悔を取り戻せる。

 女になってしまったのは不運だったが、ガキの頃なら性別はそれほど気にされない。

 身体に精神年齢がひっぱられてか、ガキの遊びも楽しかったし、友達もできた。

 

 そんな悠長なことを言っていられなくなった事件が起きたのは、ある日突然のことだった。

 

 交通事故だ。

 運転していた母は死に、助手席に座っていた父は片足を切断。

 

 俺は――無傷だった。

 父は泣きながら、母が守ってくれたのだというが、違う。

 

 本当は俺も死んでいた。

 あるいは、死んでもおかしくないほどの重症だった。

 父は錯乱していて覚えていないのだろう。

 俺はいっそ死んでしまいたいくらいの激痛の中、自分の体がゆっくりと再生していくのを見た。

 

 ひしゃげた骨が伸び、血はあっという間に乾いて、飛び出して転がった自分の目玉と目が合った。

 運転席を見ると、そこは完全に潰れていた。どこまでが車の金属片で、どこまでが()()なのかわからないほどであった。母だ。

 車のパーツに挟まれた足をなんとか引き抜いた父に抱えられ、引きずられるように外に出た。

 瞬間車が爆発して、母は木っ端微塵になった。

 

 それ以来、対外的には医学の道に進み、こっそり自分の体質を研究して他者の治療に使えないか研究を続けている。

 

「だから爆死と焼死が一番嫌なんだよな。ちょっとトラウマ」

「エピソードが重い……」

 

 次点で嫌なのが圧死だ。

 本来なら爆死・焼死と並んで嫌な死に方だったのだが、何度か瓦礫に潰されたのでちょっと慣れてしまった。

 

 ヒロインにはなりたくないが、ヒーラーにならなりたい。

 

 自分の体を治せるより、他人の体を治せるほうが有用だからだ。

 このヒーロー社会では、自分の代わりにヴィランと戦ってもらった方が良い。

 戦うのなら治療は必須だ。

 異能力バトルをするのなら、怪我も異次元である。

 であれば、治療も異次元でなければ釣り合いが取れない。

 

 俺の知る現代日本より、死者の数は遥かに多い。

 犯罪の数も、行方不明者の数も、みなしごの数も、全部多いのだ。

 治安が悪い、これに尽きる。

 出生率は記憶にあるより高い気がするが、生まれた分死んでたら意味がない。

 

 今日も今日とてヒーローとヴィランによる戦闘に巻き込まれ、傷を負った俺は、回復を待つ間ライデンと雑談していた。

 近くで爆発炎上した車によって若干火で炙られたので、それにまつわる昔話をしたが、ライデンは俺の話を聞いて頭を抱えてしまった。

 

 雑談の話題をミスったらしい。

 いつもライデンの話を聞いてばかりなので、たまには俺からもなんか話すかと思ったのだが、もうちょい段階を踏んでからする話だったかもしれねえ。

 3年もこんな関係を続けているので、知人から友人くらいにはなったかと思ったんだけどな。軌道修正する。

 

「新ヒーローに炎の能力者が来てくれてよかったよ。完全にないってわけじゃないけど、あんま能力被ることないじゃん。街燃やしまくるヴィラン来たら最悪すぎた」

「あー……そうだね」

 

 ライデンの歯切れが悪い。マスク越しでもわかるくらい目を逸らされている。

 ライデンは多弁だ。いつも喋りまくっている。

 3年も交流があるというのに、こういう昔話を一切聞かせたことがなかったのは、俺が喋らなくてもライデンが何か喋るからだ。

 普通に話が面白いので聞いてしまう。俺が話すまでもない。

 

 今まではそう思っていたのだが、今日は趣向を変えてみたのだ。

 ライデンは意外と聞き上手でもあり、話しやすかったが、俺の話した内容が内容だったのでライデンの気分を沈ませてしまった。

 次は鉄板滑らない話を用意して挑もう。

 

「言いたいことあるなら言えよ」

 

 ライデンはわかりやすい。心理戦とかになった時に大丈夫なのか心配になるほどである。

 いつもよどみなく話すのだ。三点リーダーを使用したとあれば、なにかあるとわかってしまう。

 

 ライデンは中指で眉間のあたりを押し上げる動作をした。

 たぶん、普段はかけている眼鏡を直す癖が出たんだろう。

 そういう細かい手掛かりで身元特定されそうだから気をつけて欲しい。

 散々言いよどんだライデンは、最終的にはこう言った。

 

「その、炎はヒーローだけど、爆破の方は……」

「いるのかよ! 爆死したくねェ〜!!」

 

 俺は巻き込まれるだけの犠牲者で、特にヒーローオタクでもヴィランオタクでもない。

 ヒーローについては多少調べたが、いちいちヴィランの名前だの能力だのは覚えていないのだ。

 いるのかよ、爆発担当のヴィラン!

 

 マスク越しなのでそれほど表情はわからないが、ライデンはたぶん真剣な顔をした。

 少なくとも声色は真剣だった。

 

「今度こそ君を守ってみせるよ」

「ほどほどに期待しとくぜ」

 

 ライデンは多弁なヒーローだ。

 普通なら言いにくいこともズバッと言ってくる。

 

 プロポーズかい、とか茶化すことはしなかった。

 できないことを言うな、と切って捨てるほど薄情でもない。

 ヒーローは夢をでっかく持つべきだと思うしな。

 

 不可能なことを言ってのけるくらいが頼もしい。




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