ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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前半は元々番外編として書いていたのですが面白くなり過ぎたので本編に突っ込みました


シェアハウスの人々

 祈が家を出た直後――事態は急激に動いた。

 

 すだまと薄墨が、同時に立ち上がる。

 

 クローゼットが開き、D.E.T.O.N.A.T.E.が顔を出す。

 

 仁が新聞と、それを読むためにかけていた眼鏡を机の上に置く。

 

 場には、奇妙な緊張感が走った。

 

 最初に口火を切ったのは、すだまであった。

 もっとも身長が低いが故に、全員を上目遣いに睨みながら、牽制のように言葉を発する。

 

「……なんじゃ? わしはちょっと出かける用事があるから留守を頼みたいのじゃが?」

「おほほほ、それは某のセリフでもありますな。皆様には理解できなかったでしょうが、祈氏は某に明確なヘルプを出してから行かれました」

 

 薄墨の言葉にひるんだすだまは、1歩後ろに下がった。

 動揺を隠さないままに、すだまが反論する。

 

「な……! そ、それくらいわしももらったもん! む、迎えに来てと頼まれとったのを聞いておっただろう!?」

「迎えに来てくれ、しばらくしたら連絡をする――それは連絡がない時点でしか異常が判明せず、つまりすぐに来てくれというメッセージとはむしろ反対のものだと思われますがなあ」

 

 すだまはさらに、よろよろと2歩後退した。

 言い返す言葉が思いつかないのか、口をぱくぱくさせている。

 

 そんな言い争いをする薄墨とすだまの間を通って行こうとしたD.E.T.O.N.A.T.E.に、すだまがとびかかる。

 

「待てい! おぬしは何を普通に外に出ようとしとるんじゃ!」

 

 D.E.T.O.N.A.T.E.はすだまに掴まれた自分の腕を見て、怪訝な顔をした。

 

「話が通じておりませんぞ、すだま氏」

「ぐぬぬ……!」

「ぐぬぬって言う人本当にいるんですなあ、いえ狐でしたか」

 

 薄墨のオタク的な感想を無視し、すだまはD.E.T.O.N.A.T.E.に怒鳴る。

 

「なんじゃお前、見とったぞ! 祈と会話もせず……目と目で通じ合う仲とでも言いたいのか! 当て付けか! このっ! 羨ましいんじゃあっ!」

 

 耳としっぽの毛を逆立て、すだまはD.E.T.O.N.A.T.E.にありのまま嫉妬をぶつけた。

 それを見て、薄墨は感心した。

 薄墨もD.E.T.O.N.A.T.E.と会話をする祈を何度か目の当たりにしたが、祈は終始頭が痛そうな顔をしていた。

 D.E.T.O.N.A.T.E.と祈のやりとりを羨ましく思えるのは、恋は盲目――ということだろうか。

 

 薄墨は、おもむろに立ち上がった仁へ声をかける。

 

「お待ちくだされ仁殿。貴殿は明確に来るなと言われていたではありませんか」

「ああ? それが、俺に、なんの関係があるってんだよ」

「祈氏に踊らされておりますぞ! そう言ったら逆に来ると思われているのでは!?」

「だからそれがてめェと関係あるのか。俺の行動を誰かに制限されるいわれはない。あいつにも、お前にもだ」

「くっ……! 正論アタック! 薄墨は3000のダメージをくらった!」

「チッ。時間を無駄にした」

「養豚場の豚を見るような目! 薄墨はめのまえがまっくらになった……」

 

 薄墨は、それ以上仁を引き止めるのは諦めた。

 命が惜しいからである。

 祈からも、未だに人を殺そうとするから、できるだけ放置しておけ、とアドバイスをされている。

 

「いやじゃーっ! 行くなーっ! おぬし、ただでさえ特別な言葉で祈と喋って、祈から特別扱いされておるじゃろうがーっ! これ以上親しくなるでないーっ!」

 

 D.E.T.O.N.A.T.E.は腕にしがみついたすだまを無視し、ずるずるとすだまを引きずりながら、ゆっくりゆっくり前に進んでいた。

 

「しかも祈は最近おぬしのために色々やっとるんじゃろ!? 妬ましいーっ!!」

 

 すだまは引きずられながらも、足をばたばたさせる。

 

「すだま氏、祈氏の安全を最も優先すべきではないですか」

「きぃーっ! これだから感情ではなく理論で生きとるやつは! ぱっしょんがないぞ!」

「人狼で即日吊られそうな発言ですな」

 

 薄墨はそう言った。

 すだまは引き続き駄々を捏ねた。

 

「やーじゃーやーじゃー! わしを置いてゆくなーっ!」

「駄々っ娘になっちゃいましたなあ。狐耳のじゃロリ巫女の駄々っ娘、属性を盛りすぎですな」

 

 D.E.T.O.N.A.T.E.の横を通り抜けようとした仁も、すだまの魔の手にかかった。

 すだまは体勢を変え、D.E.T.O.N.A.T.E.と仁の片足を抱き抱え、二人三脚の繋ぎ部分と化す。

 

 突如二人三脚に参加させられた仁は、当然こめかみに血管を浮かび上がらせ、腹の底から低い声を出した。

 

「チッ……! おい馬鹿力、離せ」

「おぬしもなかなかじゃぞ、わしには及ばんがなあ!」

「ボケが。殺すぞ」

「ほほほ! できぬことを抜かすなよ、仁! お前程度にわしが殺せるか」

「やってみるか?」

 

 部屋に満ちていく殺気を無視し、薄墨が言う。

 

「帰ってきて家が無くなってたら祈氏泣いちゃうかもですぞ」

「む……。家がなくなったら田舎に帰ってきてくれるかのう?」

「大学がありますからな。研究室で寝泊まりするのでは? そうなると部外者は入れなくなりますぞ」

「やーじゃー!」

 

 すだまはD.E.T.O.N.A.T.E.と仁にしがみついたまま再び駄々をこねはじめた。

 D.E.T.O.N.A.T.E.はしばらく自身の片足にしがみつくすだまを眺めていたが、ふと自分の片足を()()()()()()()一歩踏み出した。

 バラバラになったパーツはすだまの手をすり抜け、D.E.T.O.N.A.T.E.が一歩踏み出した先で元通りにくっついた。

 

「な……っ! 卑怯じゃーっ! そんなことできたんかおぬしーっ!」

 

 やはりすだまを無視したD.E.T.O.N.A.T.E.は、そのまま歩き出す。

 それを見て、薄墨も続こうとする。

 

「とりあえず某は行っていいですかな? すだま氏の腕も2本しかありませんし、仁殿かD.E.T.O.N.A.T.E.殿か某、誰かひとりは止められぬでしょう」

「なにをーっ! このわしを舐めるなよ、腕の数くらい――」

 

 玄関からガチャリという音がする。鍵が開いた音だ。

 すだまはすぐに黙り、仁の足を放して立ち上がった。

 巫女服の乱れをサッと直し、廊下を歩いてくる足音が近づいてくるのを待つ。

 

 リビングに顔を覗かせたのは、当然祈だった。

 

 

 ……

 

 

 めっちゃ早く帰って来れて逆におもしろい。

 

 あんな大冒険があったとは信じられないほどだ。

 ライデンは相変わらず忙しそうに疾風迅雷のスピードでどこかに消えたし、薄井ちゃんも娘連れて煙に消えた。

 

 俺は澪と一緒に帰ってきた。

 フラックスに乗せてもらって、広めの下水道をウォータースライダーのようにスピーディに駆け抜けるという貴重な体験もさせてもらった。

 

 家の近くのマンホールから出て、さっと帰宅したというわけだ。

 すべてが10分以内の出来事だったかもしれない。

 

 いつものように鍵を開けて玄関を通り、リビングに顔を出すと、なぜか全員立ち上がっていた。

 

「ただいまー。お、どうしたみんな立ち上がって。D.E.T.O.N.A.T.E.まで出てきてるなんて珍しい。立食パーティみてえ。我が家なんだけど狭すぎんだろ、ぎゃはは」

 

 原因はおそらく俺なんだけど、なんで立ち上がったまま全員で変な空気になっていたのかはわからない。

 俺の伝えた遠回しなヘルプ、回りくどすぎて誰にも通じなかったのか?

 あいつ何言ってたんだろうな、みたいな緊急会議でも開かれてたか?

 

 すだまが俺に飛びついてきたので、受け止める。

 

「祈ーっ! 無事じゃったかーっ!」

 

 ひとまず、すだまは俺のことを心配してくれていたらしい。

 さすが幼馴染だ。俺のことをわかってくれているようで安心する。

 

「心配させて悪いな、すだま。俺は平気だよ、薄墨も平気になった。ヘイズフォグ、ヒーローやるってよ」

「桐島部活やめるってよ!?」

「桐島が帰宅部になるかどうかは知らねえけど、薄井ちゃんは公安には戻らんらしい」

 

 俺の説明に対し、薄墨は頭の上にハテナマークを浮かべまくっている。

 この様子じゃ、薄井ちゃんに夢渡りの力があることは知らなさそうだ。

 ならば彼らの関係はそれほど深くないのだろう――いや別に安心とかしてねえけど?

 

 立ち上がっていた仁はどかっと座り直し、不機嫌に俺を睨んだ。

 

「チッ。意味深なこと言うんじゃねェよめんどくせェ。もっとストレートにやれ」

「それじゃ無理な時があんだって。まったく短気だな仁は。もう少し会話を楽しめ」

「死ね」

「無理そ〜っ」

 

 仁は再び眼鏡をかけ、新聞を読み始めた。

 俺がストレートに「助けてくれ」っつったら、助けてくれんのかね。

 そんなことはわからないが、わざわざ真実を試さなければならないほど、俺は愛に飢えちゃいない。

 

「D.E.T.O.N.A.T.E.」

 

 名前を呼んで、ピンクの瞳孔をじっと眺める。

 D.E.T.O.N.A.T.E.は次第に眼球の動きを遅くし、やがて俺としっかり目をあわせた。

 

 にっと笑ってピースしてやると、D.E.T.O.N.A.T.E.は頷き、すんなりクローゼットの中に戻って、内側から扉を閉めた。

 自分で充電できるタイプの家電みてえ、とか言ったら失礼だろうか。だろうな。

 

 さて、随分騒がせてしまったが、これで元通りのはずだ。

 

 おっと、薄墨がまだだったか?

 すだまの頭を撫でながら薄墨を伺えば、眉を下げて頬をかいていた。

 

「大してお役に立てず申し訳ないですな。それどころか、こちらばかりお世話になってしまい」

「気にすんなよ、と言い切ってやりてえが、俺に少しでも恩を感じてくれんなら薬のこと頼むわ」

「承知」

 

 短い返事だったが、だからこそ真剣であると伝わってきた。

 薄墨は喋ると基本、長いからな。なんならライデンよりお喋りかもしれねえ。

 オタクくんはやっぱ早口だからな。

 

 早速とりかかってくれるようで、薄墨は帰り支度をした。

 といっても、そもそも薄墨は荷物なんざほぼ持っていなかった――持ってきていたのは試験管と、スマホと、少女漫画1冊である。

 しかもその少女漫画は俺に布教するべく持ってきた贈答用であったので、ここに置いて行くつもりらしい。

 読んでる暇あっかな。これでも俺は忙しい学生だ。

 

「短いシェアハウスだったな、薄墨。また遊びに来いよ、次はぜひ丸っこい中年スタイルで」

「おほほ、そうですなあ。貸したい漫画もたくさんありますし、近いうちにお邪魔いたしますとも」

 

 ……読んでる暇あっかなあ。

 あんまり忙しかったら、アニメ上映会に変更してもらおうかね。

 それか、目の前で読んでもいい読書会ならいい。

 俺はそれなりに読むのがはやい方だし。

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