ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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サイコメトリー・高遠ことは③

「一瞬考え事するから、具合が悪くなりそうならテレパス切ってくれ」

「はい」

 

 ことはちゃんが公安にとって厄ネタである理由はすぐに理解できる。

 あらゆる機密情報が機密でなくなるからだ。

 うまく利用できれば、これ以上ない情報収集能力を披露するだろうが、そんなことはできないからここに閉じ込められている。

 

 見たところ身体能力はそれほどなさそうだ。

 外に連れ出して利用しようとすれば、殺されるかさらわれるかするだろう。

 公安の中に囲って利用するのが無難だ。

 

 理解できないのはなぜ彼女を俺に会わせたか、という点だ。

 それほど公安へ敵対しているようには見えないが――ビットヴァインよりも尚、だ。

 

 まず、彼女は本当に()()()()()()()

 心が読めるだけで、それ以外は一般的な女性のように見える。

 大それた犯罪をやってのけるほどの度胸がありそうにも見えない。

 

「インサイダー取引でつかまりました」

 

 わあ。

 

「そうだった、犯罪って暴力だけじゃねえもんな。金に困っていたのか?」

「いえ。異能にこまっていたんです。()()なことをすれば、そういう人があつまるばしょへ、いけるかとおもって。ちょっと、おもってたかんじのばしょとは、ちがいましたね」

 

 インサイダー取引とは、株の売買にまつわる犯罪だ。

 機密を知っている人間がその情報をもとに株を購入し、株価へ影響を与えることを禁ずる法律がある。

 要するに「これからこの株の価値上がるって知っちゃったから、買っちゃお!」はダメだということだ。

 

 彼女が()()と表現したということは、インサイダー取引をド派手にやってのけたのだろう。

 確実に株価の上がる複数の会社の株をどっさり買うとか。

 心が読めるのならば、機密情報など知り放題だ。

 

「災難だったな」

「いえいえ。めだつほうほうに犯罪をえらんでしまったので、これくらいはかくごしていましたよ」

 

 国による監禁。

 犯罪者への対処としては逮捕と似たようなものかもしれないが、おそらく彼女の拘留に関して正式な手続きは踏まれていないだろう。

 本当に納得しているのだろうか。

 

 心が読める、などという能力は、公安は喉から手が出るほど欲しいだろう。

 ことはちゃんが厚遇を受けていることを祈る。

 俺以外に友達とかちゃんといるのかな。公安の異能者にまともなやついたかな。

 

「視界にははいっていませんが、面影さんはきましたよ。お互い、能力は窓ごしでも使用できるようで」

「少し待ちな、ことはちゃん。俺は読まれても構わねえが、君の負担が心配だ」

「……ひゃい」

 

 活舌があやしくなったので、やはり体調は悪くなっていそうだ。

 完全にはコントロールできないのだろうが、多少は「心を読まないようにする」という選択ができそうだ。

 そうでなければ、俺を見た瞬間に悪くなった調子を、取り戻すことはできない。

 

「面影と心の読み合いになったのか? ミラーマッチ?」

 

 ことはちゃんに変身した面影がことはちゃんの心を読んだ場合、どうなるのだろう。

 

「ふふ。わたしがかちましたよ。面影さんは、自分のかんがえていることしかよめませんでした」

 

 本当にミラーマッチだったらしい。

 鏡のように能力を返したということか。

 ことはちゃんは面影の心を読み、その読んだ面影の思考を面影に読み取らせた。

 だからことはちゃんの内面を、面影は知ることができなかった、と。

 

 面影の能力は万能ではない。

 コピーした能力を初見でもある程度扱える器用さは持ち合わせているが、本来の能力者よりうまく扱うことはできない。

 

 だがやはり、面影は非常に便利ではある。

 面影を手中に収めているのならば、公安の意に沿わないが、有効な能力を持っている異能者は、監禁するメリットが増すはずだ。

 面影にコピーさせて、その能力だけを自由に使うことができる。

 

 面影は一度見ればその人物の姿と能力をコピーすることができる。

 だが、自分で能力を解除したり、気絶したりすれば、姿は元に戻る。

 再びコピーしたい人物を視界に入れなければ、コピーすることはできない。

 だから、何度も繰り返し能力をコピーさせるならば、異能者本人を押さえておく必要がある。

 

 俺が面影を公安に入れるよう導いたから、ことはちゃんが監禁される羽目になっている?

 

 なんにせよ、こんなんは全部、後で考えればいい話だ。

 いけねえな、優先順位をミスっている。

 俺が今この場でやらなければならず、考えなければならないことはなんだ?

 

 少しだけ考えを整理した。

 

「ん、おっけ。負担かけてねえといいけど、どうだ? まだ話せそうか?」

「はい、大丈夫ですよ。祈さん、とっても上手です。わたし、読みたくないとおもっても読んでしまうことがあるんですが、祈さんはそれがなさそう」

 

 それを聞き、俺は多くのことを放念した。

 思考はもっと単純でいい。可能な限りアホになれ。

 

「俺にしてほしいことはあるか?」

「い、え……とくに、おもいつきません」

「じゃ、七夕のとき、短冊に何書く?」

 

 ことはちゃんは「そんなこと聞かれるとは思っていなかった」とばかりに目をぱちくりさせた。

 

「こんな力、なくなりますように」

「そっか」

 

 俺は苦笑した。

 似たようなことを、俺も短冊に書いたことがある。

 

「俺たち、きっと仲良くなれるよな?」

「はい。そう願います」

 

 俺は歩み寄って、ことはちゃんと握手した。

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