ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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国王・ネムネム②

 ライデンが去った後、俺は行く当てを思いつかなかった。

 ひとまず大学へ戻ってもいいが、それより先に、俺の居候どもの安否を確認しなければ。

 

 アイアンクラッドは逃走中だろうか。

 D.E.T.O.N.A.T.E.は大丈夫だろう。自爆繰り返して死なない男だ。

 一番心配なのはすだまだ。家の中にいたのなら、怪我をしている可能性もある。

 

 ライデンとハグをしてだいぶ気を取り直したが、動揺は抜けきっていない。

 まずなにからするべきか、俺は判断に迷っていた。

 

 ふと、澪がなんでもないことのように、俺へ提案した。

 

「私が家買ったげましょうか?」

 

 俺は居候どもの無事を心配していたが、澪はその先――住居の心配をしていたようだ。

 さすが人生経験の豊富な元ヴィランだ。俺の一歩先を見ている。

 

「い……や、それは……ぐう……良く、ねえ、よなあ……」

 

 俺は血反吐を吐くような思いをしながら、澪の申し出を断った。

 ヴィランをやっていた澪の所有する金銭は、出所がやばい金である。

 本人曰く、資金洗浄(マネーロンダリング)は終わっているらしいが、だったら尚更だめである。

 

 苦しそうにした俺を見て、澪は頬へ手を当てた。

 

「公安時代に稼いだお金、少しくらいとっとけば良かったわねえ」

「それも綺麗な金か微妙じゃね?」

「あら。それを言ったら、すべての日本銀行券が汚らわしくなるんじゃないかしら?」

「うわ~。公安の闇、深い~」

 

 これ以上は聞かないでおこう。

 俺は既にデルタから命を狙われているんだ。

 国のヤバイ機密を知ってしまって、俺の命を狙う組織が増えたら困る。

 

 さて。今直面している問題に、現実的に対処しよう。

 

「正直な話。俺は結構友達いるから、数日転がりこむくらいなら問題ねえんだよ。そんで数日転がり込むのを何度か繰り返せばいいだけだから、数か月はどうにかなるわけ」

「うふふ。一部の人間が聞いたら、嫉妬で刺してきそうね」

 

 なんでそうなる。

 勘違いされているような気がしたので、訂正しておく。

 

「セフレじゃねえからな?」

「ただのフレンドが欲しい人だって、いっぱいいるのよ」

「へえ。俺がなってやるのに」

「刺されるわよ」

「なんでだよ」

 

 澪は肩をすくめるだけで、理由を説明してくれなかった。

 もし俺が刺されたとして、その原因が俺にあるかもしれないんだったら改善してえんだが、澪的にはお手上げということか。

 

 俺の顔かな。

 あまりの美少女さに人々が嫉妬して刺してくるのかもしれねえ。

 

 話を戻す。

 

「けど、俺の居候くんたちをほっぽりだすわけにはいかねえだろ。今どこにいんのか知らねえけど」

「D.E.T.O.N.A.T.E.なら大学のロッカーにでも詰めとけばいいんじゃないかしら?」

 

 D.E.T.O.N.A.T.E.は生きているだろう、というのは澪も同じ考えのようだった。

 探す方法より先に、どこに置いておくかの案が出てきた。

 さすが澪、やはり俺より一歩先を見ている。

 

「……最悪それでいくとして」

「採用されるとは思ってなかったわ」

 

 適当な未使用ロッカーにうまいこと鍵かけられたらワンチャン――いや、それって監禁か?

 D.E.T.O.N.A.T.E.なら、外に出たけりゃ自分で出れるだろうから問題ない気がするな。

 ……じゃあ、本当に最悪の場合はそれでいこう。

 

「ライデンに聞いとくの忘れたな。仁生きてんのかね」

「殺してたら、ライデンはもっと落ち込んでるでしょう?」

「そりゃそうだ」

 

 ならば、仁はライデンを殺せなくて、最高にイライラしているのだろう。

 俺の家ならまだしも、他の家屋を破壊していないといいが――いや、俺の家も破壊していいわけない。

 

 ポケットの中のスマホが震える。

 取り出して画面を確認すれば、すだまからの通話だった。

 無事そうなことに安堵しながら、電話をとる。

 

『申す申す、祈か?』

「……おう、俺だよ。怪我ねえか、すだま」

 

 すだまが「もしもし」の代わりに「申す申す」というのは、既に何度か聞いている。

 面白かったのでそのままにしておいたのだが、未だに面白い。

 

『うむ。雷電(ライデン)はやり手じゃの。こちらの誰にも怪我はない』

「そりゃ重畳。今どこだ?」

『ねむねむらんどじゃ』

「ネムネムランドォ!?」

 

 ふかふかの番人ことネムネムが運営する遊園地、その名もネムネムランド。

 思ってもみない場所を言われ、俺は電話口で素っ頓狂な声をあげてしまった。

 

 たしかにD.E.T.O.N.A.T.E.とは一緒にネムネムランドへ行ったことがあるものの、だからってなんでそうなる?

 

「他の面子は?」

『皆揃っとるぞ』

「D.E.T.O.N.A.T.E.も仁もネムネムランドォ!?」

 

 似合わなさすぎんだろ!

 大丈夫か!? あいつらが園内にいるだけでネムネムランドのコンセプトを破壊してねえか!?

 子供泣かしてねえか!? 大人も泣かしてねえか!? 心配になるが!?

 

『耳がキーンとしてしまうのう……音量はどうやって調整するのだったか……』

「すまん、音量を調整しなきゃいけねえのは俺だわ」

 

 驚きのあまりに、でかい声を出し過ぎた。

 一つ深呼吸してから、すだまへ話す。

 

「あー……とりあえず俺と澪もネムネムランドに向かうぞ。そのままそこで待てるか?」

『うむ。わしが迎えに行ってやろうな。入り口で待っておる』

 

 すだまは割と方向音痴気味だから心配だが、迷子になってもネムネムランドの中にいるのならばすぐに見つけられるだろう。

 迷子の放送で「狐耳のじゃロリをお見かけした方は~」とかやってもらえれば一発だ。

 

 ネムネムランドへ向かって歩き出せば、澪が「止まりなさい」と声をかけて来る。

 何事か尋ねるために振り返れば、そこには犬がいた。

 

 澪はいつの間にかフラックスの姿へと変わり、触手状に伸ばした液体で、ぐるぐると犬を絡めとっている。

 

「うぉい!? 動物虐待!?」

「あら、首輪もしてない野犬よ」

 

 どっから現れた犬だかわからんが、でかい犬だ。

 のしかかられたら、俺はつぶれる。そう思って澪も捕まえたのだろう。

 

「狂犬病の危険だってあるんだから、リードをつけるくらいにしてあげてるだけで情があるんじゃないかしら?」

 

 その犬は、澪に水で縛られているというのに、しっぽをぶんぶん振り回していた。

 舌がでろりと飛び出し、ハッハッと荒い息をしている。

 毛並みは黒で、目は黄色――いや、金か?

 

 黒犬は、明らかに俺を見ている。

 

 俺を見て大興奮している。

 澪が止めなければ、俺に飛びかかって来ていたのだろう。

 おそらく敵意を持って襲い掛かってくるというよりは、じゃれつくという意味で。

 

「俺、ドッグフードの匂いでもさせてるか?」

「いいえ? 祈はなんでも誑かすから、犬に一目ぼれされても驚かないわね」

「犬猫は好きだ。そりゃ嬉しいね」

「よくないわ。普通の犬じゃないもの」

 

 ――改めて、黒犬を見る。

 

 大型犬だ。小さいこどもなら背中に乗せられるのではないかと思うほどの。

 犬種はわからない。雑種か、俺の知らないミックス犬だろうか。

 毛は長くもふもふしていて、しっぽもふさふさだ。耳は立っている。

 犬というより狼っぽい顔つきだが、今は俺を見てふにゃふにゃになっている。

 黒いサモエドみてえな。でっけえポメラニアンみてえな。まあかわいいわな。

 

 じっくり観察したが、犬にしか見えない。

 

「確信ありそうだな?」

「ええ。能力上、人よりわかることも多いのよ。体の()()()とかね」

「……水風船の犬?」

「そこまでじゃないけれど、中身は()()()()って言われても納得って感じね。見た目は犬だけど、絶対に違う。この犬自体が能力者なのか、何者かによってこうされているのかまではわからないわ」

 

 人ではないものが異能を持つこともあるだろう。

 ナナメさんや、たぶんすだまもそうだ。

 あるいは最初は人間だったものが、そういう姿に変わっていったのかもしれないが、その順序がさして問題になるとは思えない。

 

 不思議犬くらいいて当然だろう。都会だし。

 

「アタシが公安を離れてからそれなりに経つから、収容されていたすべてのヴィランを把握しているわけじゃないの。これがそうって言われたら、そうでしょうね、ってカンジ」

 

 公安の施設が襲撃され、多くのヴィランが逃げ出した。

 そのタイミングで現れる不思議犬。澪が警戒するのは当然だ。

 

「とりまコミュニケーション試みるか。よーしよし」

 

 近づいて頭を撫でようとしたら、その前に舌で顔をべろんべろんに舐められた。

 あぶねえ。俺が化粧してたら体に悪いもん舐めさすところだったぜ。

 

 とりあえず、俺を食い物とは思っていないらしい。

 顔を舐められる俺を見て、澪は眉を寄せ、深くため息をついた。

 

「ペット可の物件は少ないわよ」

「おい、俺はなんも言ってねえだろ」

「祈ならそう言うのかと思ったわ。ちょうど新しい物件を探さなきゃいけないわけだし?」

 

 澪は俺より先を見すぎだ。

 この犬が異能を使うというのなら、とりあえず公安に保護してもらうとか――やばい動物実験に使われるだろうか? それは心が痛むな。

 黒犬の顔を鷲掴みにして、顔を舐めるのを止めさせる。

 

「……いいか、ワンコロ。とりあえず俺は今忙しい。お前に構ってる場合じゃねえんだ。またあとで話そう。わかったか?」

 

 言葉が通じるかはわからなかったが、俺は真剣な顔をして、黒犬にそう言った。

 黒犬はしばらくハッハッ荒い息をしていたが、徐々に落ち着いて、「クゥン」と鳴いた。

 

「通じてそうだよな?」

「犬語はわからないわよ。人間並みの知能があってもなくても、面倒ごとには変わりないわね」

「そりゃそう。っし、じゃまたあとでな」

 

 黒犬の頭をわしゃわしゃ撫でると、しっぽの回転数がさらにあがった。

 澪が黒犬を縛るのをやめても、犬は俺へ飛びかかってくることはなかった。

 その場にお座りして、「わん!」と一声鳴いた。俺の言うことを聞き分けたらしい。

 

 黒犬に背を向け、ネムネムランドへ歩き出す。

 努めて振り返らないようにしている俺の隣で、澪が言った。

 

「犬小屋の屋根の色は、赤と青どっちがいいかしら?」

「やめろマジで、おままごとじゃねんだぞ」

 

 家族ごっこやるにはメンツが物騒すぎるんだよ。

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