ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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国王・ネムネム⑦

 ひとまず、普通に声をかけてみる。

 

「おーい、自己紹介だ。俺は祈、お前はピニャータでいいのか?」

 

 斜視でないほうの目がぐるりと一周してから、俺に焦点が合う。

 

「ひゃは、祈る名前で祈らない目だ。いいね、いいね、いいねの4回目」

「おう。ありがと、ありがと、ありがとなの4回目」

 

 適当に話に乗っておく。思っていたよりは会話になってるか?

 俺の名前は認識してくれたような気がするな。

 

 ピニャータは両手の人差し指を、自分のほっぺたにちょんと突き立てた。

 

「ひゃははは! 祭りの裏面印刷、中面の表紙、ピニャータ参上!」

「意味わからんけど口上はあるんだな」

 

 名乗ったら名乗り返された。

 意味の分からない文章が付随しているが、一応やりとりにはなっている。

 

 ピニャータは唇の前に、人差し指を立てた。

 

「しー……音が眠れないって。順番を並べ替えよう。先に最後、後に最初、中身は外で待ってて」

 

 何を求められているかわからないが、とりあえずしーっとやられたのだ。

 静かにしろということなのかもしれない。

 俺は声のトーンを落として、こう言ってみた。

 

英語でおk(English Please.)

君の影が手紙をくれた(Your shadow wrote me a letter. )キャンディと沈黙を均等に(It says ‘split me evenly)分けてくださいと(between) 書いてあった(candy and silence.)’」

 

 返って来た言葉は確かに英語だったが、相変わらず意味は通らない。

 次。先ほどピニャータが言っていたhola(オラ)、はスペイン語の挨拶だ。

 

スペイン語だったら他よりマシに喋れるか(¿En español sí puedes hablar normalmente?)?」

僕の皮膚は紙(Mi papel es piel;)紙は僕の皮膚(mi piel es papel.)丁寧にくしゃくしゃにしてね(Arrúgala con cuidado.)

 

 それを聞いた俺は澪に向き直り、肩をすくめた。

 

「狂ってるわ」

「よくそこまで粘ったわね」

 

 英語はかなり話せるという自負があるが、スペイン語は日常会話程度だ。

 D.E.T.O.N.A.T.E.と幸也を会わせた後、イタリア語以外に他の言語もD.E.T.O.N.A.T.E.に通じるのか試すため、軽く勉強しただけである。

 ちなみにD.E.T.O.N.A.T.E.はスペイン語でも通じた。

 

「どうせ意味わからんこと言われるなら、外国語で捲し立てられる方がマシかもな」

 

 狂人は複数言語喋れるのが常識なのか?

 その上でやっぱり普通には喋れねえのか?

 ため息をつくと、ピニャータは袖のある方の手を口元に添えて言った。

 

「痛いのは言葉だよ。意味が骨に刺さって抜けない。文法の救急車、遅延中じゃん、ひゃはは」

「意味わからんって言ったのに傷ついてんのか? お前のことがわかりそうでわからねえ。あ~脳みそがムズムズする」

 

 話が通じているのか通じていないのか、判断できない。

 理解できないときは怪訝な顔をしてくれるD.E.T.O.N.A.T.E.が恋しいぜ。

 

「言語以外でのコミュ試すか」

 

 俺はピニャータに手を差し出した。

 通常の人間ならば、握手を求められていると理解できる動作のはずだ。

 ピニャータはにっこり笑い、俺の手を両手で握る。

 

「どーぞどうぞ、食べないで食べて。模型だから本物で、偽物だから正味だよ」

 

 手をはなされると、俺の手の中にはピンク色の包装紙に包まれたキャンディが残っていた。

 飴を配る関西のおばちゃん?

 

 手のひらの上で観察する。両端をねじって結んである、The飴玉だ。

 すると、隣のネムネムが俺の手から素早く飴玉を奪っていった。

 

 ネムネムは飴玉を握りこんだまま、両手の人差し指をクロスさせる。

 唇が動き、ネムネムは口パクで「メッ」と俺に示した。

 ドリンクのストローから口をはなした澪が言う。

 

「ピニャータはどこでも、誰にでも甘いお菓子を配るのよ。公安が調査した限り、そのお菓子に変なもの――毒なんかが混ざっていたことはないわ。けれど知らない人からもらったお菓子は、食べない方が良いわね」

「俺のこと何歳だと思ってんだよ」

「だって食べそうに見えたんだもの」

 

 バレている。正直、食べようかなと一瞬迷った。

 毒くらいなら大したことないだろう、その程度で俺は死なない、そう考えていたのを見透かされている。

 ネムネムにもバレていたのかもしれない。だから即座に奪われた、と。

 

「食べたらどうなるか、誰も知らないの。遅効性でなんらかの能力が発動するのかもしれない。絶対にやめておきなさいね」

「ピニャータの能力ってなんなんだ?」

「わからないわ。変なことしすぎるから、何処までが仕込みの手品なのか、異能力なのか、判別できないのよ」

 

 変なことをしすぎる。

 ピニャータのこれまでにおける奇行を聞きたいところだったが、長くなりそうだ。

 

「ただ変なこと言いながら飴玉配ってるだけなら、ヴィランじゃなくて変質者だと思うわけだが、そう扱われてねえ理由は?」

「神出鬼没だからかしらね。ホワイトハウスにも出たことあるのよ」

 

 俺はヒュウ、と口笛を吹いた。

 奇行のリストに連ねるには、ホワイトハウスでのショウは輝かしすぎる。

 

「凄腕の不法侵入者ってことにはならねえわけ?」

「特定不能の不可解な能力を持っていることにしておいた方が、国や警備会社の面子が保てるんじゃないのかしら?」

 

 んじゃ、マジで凄腕の不法侵入者、どこからでも無限にキャンディを取り出せるイリュージョニストなだけって可能性もある、と。

 それを行うことを容易にする異能力を持っていると考えた方がこの世界じゃ自然だが、素の人間もなかなか侮れないスペックを持っているからな。

 しかしこの話の通じなさを見れば、ミュータントということにしておきたい気持ちは理解できる。

 

 俺としてもお手上げだ。

 俺にできることなど話し合いくらいなのだから、話の通じない相手には歯が立たない。

 

「目的も能力も不明のヴィランだ。あいつがデルタなんじゃね?」

「なら殺していいかしら?」

 

 返ってきた言葉に、軽口を叩いた俺の方が驚いてしまう。

 澪の口からそんな発言が出るとは珍しい。

 仁から悪影響でも受けたのだろうか。すぐ殺意に結び付けるのはよくないぜ。

 しかしそういえばフラックスって元暗殺者だったな。

 俺の知り合いの中でトップクラスにまともだからすっかり抜けていた。

 話が通じる相手が好みだと言っていたが、好みではない相手ならば殺そうと考えるほどだったのか。

 

「意外にちゃんと嫌いだったんか、ピニャータのこと」

「見てると頭が痛くなってくるわ」

 

 気持ちはわかる。ピニャータの言葉を聞いていると、頭がムズムズしてくるのだ。

 彼の言葉は脳みその奥の方に閉まっておこう。

 ふと思い出して、意味のなさに苦しむことになりそうだからだ。

 

 俺の記憶力の良さでは、完全に忘れることは不可能なもんで。

 

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