ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる   作:九条空

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金属ヴィラン・アイアンクラッド①

 氷雪ヒーロー・雪狐(セッコ)と、炎熱ヒーロー・インフェルナのチームアップは好調のようだ。

 

 お互いそれなりにドジっ子のようだが、お互いのドジをフォローしあってなんとかやっているようである。

 彼らのせいで人死が出たという話は聞かない。それがなによりだ。

 

「というわけで被害も抑えられ、ヴィランの捕縛率も上がり、祈さんには感謝の念が耐えないのですが……」

 

 氷雪ヒーロー・雪狐こと氷室(ひむろ)幸也(ゆきや)は神妙な面持ちでそう言い、言葉を濁したため、俺は続きを促した。

 

「ですが?」

「それ本当に大丈夫なんですか!? 医者に行かなくて!?」

 

 炎熱ヒーロー・インフェルナこと赤沢(あかさわ)(ひな)は、幸也から発言を引き継いでそう叫び、元気よく頭の炎を燃やした。

 

 俺の皮膚は現在紫色だ。

 奇抜なメイクではなく、毒のヴィランによる攻撃の余波を受けたからである。

 

「平気平気」

 

 俺を氷漬けにしたやつと火傷負わせたやつが何心配してんだよ、と冗談っぽく言ってやろうかと思ったが、そんなこと言ったら両者共に本気で落ち込みそうだったのでやめる。

 冗談じゃない冗談は言うべきではない。

 

 実際、毒が平気かどうかはあんまりわからない。毒なんて食らったことないからだ。

 賞味期限切れの食い物くらいしか摂取したことねえよ。

 そんな人を不安にさせるようなことも内心に留めておくべきである。

 言ったところでどうにかなるわけでもない。

 

「お医者さんに行けない理由があるんですか!? 保険証やお金がないとか!? 私出しますよ!? 国籍がないとかですか、医者を脅して連れてくればいいんですか!」

「あ、そういや雛には言ってなかったな。俺は再生能力のある異能力者だから、このままで平気だ。お前の手形も消えてきたぜ」

「そうなんですか!?」

「そうだったんですか!?」

「なんで幸也も驚いてんの?」

「いや俺も聞いてないですけど!?」

 

 そういや幸也にも言っていなかったらしい。

 あれ初対面だったもんな。

 初対面からいきなりスーパーパワーを暴露するのはマナー的にどうなんだって話。

 スーパーパワー持った人間は全然一般的ではないので、マナーもなにも共通理念が存在しねえけど。

 

「普通全身氷漬けになったら人間死んでんだろ」

「確かに……」

「確かにじゃねえわ」

「実は人なら凍らせても死なない能力だったのかと思って……」

「危ねえ! 俺以外にやってねえだろうな!」

「やってないですよ、必要もないし。コールドスリープとかできるのかなって期待したんですけどね」

「まあ夢は大事だな。スーパーパワーってのは解明されてねえし、信じればいつかはできるかもしんねえ、諦めんな」

「コールドスリープの必要ないんでそんなに頑張る気しないです」

「なんなんだてめえ」

 

 俺と幸也のやり取りを聞いて、雛は頭をぼうぼう燃やしている。

 頭が炎の人間による感情表現には詳しくないが、これはおそらく爆笑だ。

 笑えるくらいには元気になったようでなによりである。

 

「幸也くんはとても頼もしいですよ。私が温度を上げ過ぎてしまったとき冷やしてくれるし」

「いやいや、それはこっちの台詞です。雛さんがいなかったら街が冷蔵庫になってたタイミング何回かありました」

 

 いいコンビらしい。

 雛は両手を握って、頭の炎を勢いよく燃やした。

 

「私としては、ぜひアイアンクラッドと再戦したいですね! ヴィランを逃がしてしまったのはあれが初めてなので!」

「そうなん? 優秀だな、インフェルナは。ライデンなんかもっと逃がしまくってるだろ」

「それはライデンさんが優しいのと、ヴィランが多すぎるからだと思います」

 

 むっとしながら、幸也はライデンをフォローした。

 おっといけねえ、幸也はライデンのファンなんだった。

 俺にとってはただの知人だが、幸也にとっては憧れの人である。

 ヘタなことは言わないようにしよう。

 

 アイアンクラッドの話に戻す。

 最初期のヴィランだが、一度も捕まったという話を聞かない強敵だ。

 

「俺としてもアイアンクラッドはなんとかしてほしいな。俺のこと最初にぶん殴ったヴィランだし」

「は? そうなんですか? 殺しますか?」

「そこまでせんでいいわ」

 

 おっといけねえ、雛は俺のファンなんだった。それも強火の。

 俺は一般人に過ぎないが、雛にとっては――なんだろう。

 憧れとかでいいのか? 友達? 親友? カウンセラー? ようわからん。

 なにかとても重い感情を向けられているということは理解している。

 

 雛の人生には、親身になって話を聞いてくれる人があまりにもいなかったのだろう。

 雪狐という相棒ができれば、助け合える人間が増え、もうちょいメンタルが安定すると思ったのだが、そう簡単にはいかないな。心の問題だ、もっと時間がかかる。

 ヘタなことは言わないようにしよう。

 

 メンヘラになりかけている――いやもうなってんのかな――雛の様子に、幸也はあまりピンときていない。

 友達いないって言ってたし、女友達ってこんなもんかと思ってそうだ。

 

 幸也はこめかみのあたりを、立てた指で押し上げる動作をした。

 これ眼鏡の位置直すときの癖だろ。ライデンもやってたやつ。

 そういう細かいところから身バレしそうだから気をつけてほしい。

 

「アイアンクラッドって金属ヴィランですよね。雛さんと俺が交互に攻撃して、熱して冷やしてを繰り返したら金属疲労で倒せないかな」

「ほら祈さん、幸也くん頭いいんですよ。私はとりあえず殴る蹴るしかできないので、ブレーンとしても頼れます」

「ありがとうございます! 遊ぶ友達がいなくて勉強しかやることありませんでした!」

「……なんかごめんね?」

 

 褒められた幸也はハキハキとお礼を言い、雛はおずおずと謝った。

 幸也と雛はまだ知り合って間もない。

 こういう気まずい空気が流れてしまうこともあるだろう。

 

「特殊能力持ってると社会に馴染むのが大変だよな。お前らどっちも生まれ持っての異能だろ? 苦労したんだな」

「大天使・イノリエル……!」

「変な名前をつけるな」

 

 そうか、雛は俺を天使だと思っているらしい。

 こんな口の悪い天使がいるかよ。いるんかな。

 ヒーローとかヴィランとかいるから、天使とか悪魔もいるのかもしれない。

 

 今の俺は毒を食らって皮膚が紫なので、天使っつーより悪魔なんじゃないか。

 本物の天使を見たことがないので、実はブルーベリー色をしている可能性はある。

 

 神もいんのかな。

 転生って概念があるなら、仏とかはいるかも。

 

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