一日で書いた、ブルアカとどっちを書くか悩んだ。
雨が地面へと落ちる、無数の雫達がドシャドシャと大きな音を立てて落ちていく、暗い夜の街灯…そんなものが無くても平気でその形を捉えられてしまう程に大きな雨粒が地面を打つ。
鉄が鳴る、火花を散らして激突した刃と刃が夜闇の中に花を咲かせる、降り注ぐ雨粒が振るわれた刃達の軌跡を後追いのように表現する中で牧村司は自らの歯を噛み締めた。
「───チィッ…!!」
舌を打ってしまう…右手が痛い、痛くて痛くて仕方がない、どれだけ強く握り締めたのかと問い質したくなるレベルで痛い。
放たれた斬撃を僅かに後方に下がることで躱す、目の前を通り過ぎる紅い刃を目で追いつつ、そこから一気に方向を前方へと変換し左手に持ち替えた曲刀を相手へと叩き込まんと振るい…そしてまた、弾かれる。
同じ流れ、またもや交差、刃の激突によって発生した火花が夜闇を照らして両者の顔を映し出す、紅と夕焼けの視線がまたもやかち合う。
「───…何なんだよ、もう」
呆れたように、うんざりしたかのように、司は思わず口から言葉を漏らした。
弾き飛ばす、鍔迫り合いへと移行しかけていた状況から一気に相手を押し切って後方へと下がらせる、左手一本の状況から出たとは思えないその剛力にさしもの鬼も相手の思惑通りになるしかなかった。
追撃はしなかった、したところで有効打を与えられるとは思えなかったし、今はそんなことよりも自らの内にある文句を吐き出したい気分だった。
あぁ、本当に、本当に───
「───何なんだよ、
心底うんざりだと、どうしてそんな目を向けられなければいけないのかと苛ついたように、司は少女へと言葉を吐き捨てた。
最初は気にならなかったのだ、何せあまりに唐突に始まった戦闘ではあったし、そもそも向けられる視線の種類がその時に関してはまだ別物だったのだから。
しかし、それも次第に変わっていく。
最初は何処か楽しそうに思えた…自分と戦うのが楽しみで楽しみで仕方がない、次はどうするのだとその瞳を爛々と輝かせていたように思えた。
しかし今ではどうだ、その瞳にあった熱はとうに冷め切っている…何だこんなものかと、何だか思っていたものと違うと…そう言いたげな色が瞳の中を漂っている…勝手に期待して、勝手に失望しているのだ。
「───何なんだ…お前」
ふざけるなと言いたくなった、ふざけるなよと叫びたくなった、なんで出会って早々に襲い掛かられた俺がそんな風に見られなければならないのだと喚き散らしたくなった。
約束があるのだ、しっかりと時間と予定を確認して帳尻を合わせて行った契約があるのだ、遅刻するなよと楽しそうに言った尊敬する先達とこんな自分と戦いたいと言ってくれた誰かが自分のことを待っているのだ、司自身もソレに応えたいと思っているのだ…それを、何故に初対面の良く分からない誰かに邪魔されねばならないのか。
最初は何も感じていなかっただけに苛立ちは募る、右手を傷物にされて痛みを感じ続ける現在の自分、万全とはとても言えないこの状況の中で司は噛み砕かんばかりに歯を噛み締めた。
どうしてくれるんだと、脳内で言葉を吐き出した。
これで向こうさんにガッカリされたらどうするだと、脳内で乱暴に吐き捨てた。
頼むからどいてくれと、脳内で必死そうに乞い願った。
脳内、脳内、脳内…心と頭の奥底で吐き出される文句に罵倒に愚痴にその他諸々、今回のことに気合を入れていただけにそこから捻出される感情の揺れ幅は非常に大きく、であるが故に───
「…あぁ、もういいや───」
───半殺しにしてやる。
ほんの少しの拍子と共に、司の頭の中で何かが千切れた。
牧村司の、
気配が変わった……それを彼女が読み取るのに、然程苦労はしなかった。
だらりと垂れ下がるようにブラブラと揺れる片手、深く落とした顔からは表情は読み取れず、ただ静かに腰を落としていた。
張り詰めていた空気が霧散する、溢れていた敵意と戦意が対象の内から消え去った…そう錯覚してしまいそうになるほどに静かで、無気力だった。
ブラブラと両手を揺らす司、その姿に…その一切の脅威と敵意を感じさせないその姿に彼女は知らずの内に息を飲み、カチャリと抜いていないもう一振りの刀へとその手を掛けた…その表情は、笑みに染まっている。
ようやく、ようやくだとでも言いたげな様子で彼女は刀の柄を握り締める、ごくりっと飲み込んだ生唾の音が大雨の中に静かに沈められる。
雨は変わらず降り注いでいる、ゴウゴウっと大風を巻き上げながら雷を打ち鳴らし、叩きつけるかのような大雨を自身等の元へと延々と降り注ぐ、夜闇は暗く月すら見えない。
ブラブラと手が揺れる、無気力に無感動に無機物のように、一切のやる気を感じさせないその動きをただ真っ直ぐと見つめていた彼女。
………その瞳から、ふと唐突に…牧村司の姿が消えた。
「───…ッッ!!」
瞬間、彼女は…
雨を斬り裂きながら奔る刃、誰も居ないはずの虚空へと振るわれた刃はしかし、当たり前のようにそこに存在していた斬撃へと躊躇無く激突した。
火花が飛び散る、強い衝撃と重さにあやめの身体が後方へと引きずられる、足の裏から火花が出るのではないかと考えてしまう程に強く勢い良く後方へと弾かれたあやめは出し渋っていたもう一振りの刀を躊躇無く引き抜き───
「───ガッ…」
そんな彼女の腹部へと、司の拳は突き刺さる。
逃がしてやるか、半殺しにすると言ったろうが…そう言うように何の容赦も無く突き立てられた一撃があやめに息を吐き出させる、骨の軋む音が体内から響くのを感じながらあやめの肉体はピンボールのように吹き飛ばされる。
言うことを聞かない身体、先程の拳とは段違いの威力を誇るその一撃、そこから発生した痛みを歯を食いしばりながら我慢して百鬼あやめはくるりっと体勢を整えて地面に足を付ける。
勢いは死なずに引き摺られる、ズザザザァッと漫画の擬音のような音を掻き鳴らしながら速度を落としたあやめは完全に停止する直前にゴンッと背後の標識へと頭をぶつけた。
普通に痛かったのだろう、頭を押さえて涙目となったあやめは痛いぃっと先程までの様子とは別人なのではないかと言わんばかりの姿を見せつけ…そして、そんなこと知るかと言わんばかりに司はそんなあやめの顔面目掛けて蹴りを振り抜いた。
咄嗟に頭を屈めて蹴りを躱す、先程まで頭があった場所を音を裂いて迫った蹴りが通り過ぎ、そして獲物を見失った蹴りは八つ当たりのようにその先にあった標識をいとも容易く蹴り壊す。
宙を舞う標識、まともに喰らえばきっとただでは済まなかったのだろうその一撃、しかし躱した今からしてみればそれは反撃の隙に他ならない。
だからこそ刀を振るう、抜き放ったもう一振りも携えて百鬼あやめはその両の手の刃を交差するように振るった。
鋭い刃だ、とても良い軌跡だ、綺麗で美しくて努力の鍛錬と才能に裏打ちされた斬撃が攻撃後の隙を狙って襲い来る、きっと喰らえば痛いのだろうなと確信してしまうような…そんな一撃を牧村司は無理矢理叩き落とす。
踵落とし…振り抜いた蹴りを瞬時に上方へと跳ね上げるように動かしてからの振り下ろし、空気を裂く刃が如き一撃があやめの放った斬撃へと激突する。
何を馬鹿なと思うことだろう、脚と刃物相手であれば傷つくのは脚の方だ、しかも向かってきているのは明確に刃物を扱う者達が放つ斬撃だ、その威力の前ではどんな威力の体術であろうと意味を成さないと…そう思うのだろう、普通は。
しかし、そんな当たり前はこの世界では簡単に崩れる。
激突した斬撃と蹴り、ガゴンッと人体VS鉄の音にしてはあまりに重たい音を響かせながら衝突した両者の一撃は、一切の血を見せずに拮抗していた…否、寧ろ───
「ッッ!!!」
足が沈む、上から下へと振り下ろされた一撃が重く身体に伸し掛かる、刀で防いでいなければどうなっていたと想像してしまうと身体が震えるのが止められない…それほどまでに、重たい衝撃。
刀が五体に負ける…それはこの世界に於いては別に珍しい話でもない、何せ躯力と言う肉体の強化に最適な異世界特有のエネルギーが存在しているのだ、それもまた当然と言えた。
これは堪えきれないとあやめは踵落としを逸らす、あんな重たいもんを馬鹿正直に背負ってられるかと言わんばかりにあやめは乱雑にその一撃を横へとズラした。
瞬間、目標を失った足が地面に破壊する、亀裂と陥没を生み出しながら突き刺さったその一撃は大量の粉塵を撒き散らすに至る。
煙で視界が遮られる、雨が降っていることもあって音を聞き分けることが困難な中での土煙、言ってしまえば自業自得とも言えるその状況下で、司はキョロキョロと周囲を見渡し───
「───後ろ」
そう呟いて、さも当然のように背後からやってきたあやめの斬撃を叩き落とすように曲刀で受け止めた。
火花が散る…今の一合によって晴れた土煙、姿を現して早々に防がれたその一撃にゲッとでも言いたげにその表情を歪めたあやめ、そんなあやめの元へと、動かせないと本人が断じたはずの右手から繰り出された裏拳があやめの顔面へと突き刺さった。
振り抜かれる裏拳、変わらず先のソレに比べたら遥かに重いその一撃は容易く百鬼あやめという鬼の身体を吹き飛ばし…そして、その当の百鬼あやめもまたさも当然のように吹き飛ばされた先に存在した電灯を掴み取り、そこから更に回転しながら勢いを殺した上で電灯の上へと降り立った。
「───ッハハッ!!」
鼻を擦りながら漏れ出た鼻血を拭う、鼻先から感じる痛みとツンっとした感触に意識が割かれるのを自覚しながらも、あやめは堪えきれないと言わんばかりに吐き出すような笑みを吐き出した。
───ようやく、
その心中にあったのは、純粋な喜びだった。
牧村司について
強さに段階があって、時間経過及び条件達成で強さの段階が徐々に上がっていくタイプの人間、段階(ギア)が上がり切るとヤバイ。
因みに本人が知らないだけで、中学時代の渾名は『呂布』だった。