闘技場のモブ(自称)は今日も頑張る   作:富竹14号

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乱入及び強制終了

 

 

「───いい加減にしなさいっ!!」

 

 その声は、唐突にその場に響き渡った。

 

 百鬼あやめが二刀目の妖刀を解放しようとしたその瞬間、降りしきる雨を根こそぎ吹き飛ばさんばかりに響いたその怒声にあやめの肩をビクリっとさせる。

 

 ギギギっと油の抜けた機械のような動きで声の方向へと振り返る、決して見たくない光景が広がっていると言わんばかりの表情を浮かべながらの行動にさしもの司も刀を下ろし…ふと、響いた怒声に聞き覚えがあるなとなんとなく思った。

 

 結果として視線の先に存在したのは双方共に既知と言うべき人間の顔だった、露骨な怒り顔でぷんぷんと煙を頭から噴き出し、如何にも私は怒っていますと言わんばかりにズンズンっと地面を踏みしめながら自身の元へと歩いてくるその女の姿にあやめは顔面を蒼白とさせた。

 

 

「ミ…ミオちゃん…」

 

 絞り出すような声で呟かれたあやめの言葉と同時に女は…大神ミオは前へと踏み出す。

 

 ずンっと踏みしめた地面から煙が舞う、大きく上へと振り上げた拳は何処か見た目以上に巨大であるように感じさせる、まるでその身に纏われたプレッシャーが視覚の中に入り込んできたような光景に司は知らずの内に生唾を飲み込んだ。

 

 拳が振り下ろされる、音を裂きながらあやめの頭へと振り下ろされたその一撃はゴツンっと重たい音を立ててあやめの頭へと直撃する、如何にも痛そうなその一撃に司は無意識の内に頭を手で押さえた。

 

 うわっ、痛そ…っと、何処か他人事…まぁ、事実他人事ではあるのだが、そんな風に内心で呟いている司をさておいて拳骨をモロに受けたあやめからして見ればそれどころではない。

 

 痛い、とにかく痛い、普段の倍近い威力を持ったように錯覚してしまいそうになるくらいの痛みが頭を駆け巡る、あまりの痛みに思わずと二刀を取り落としてしまう程に痛かったのだ。

 

 打たれた拳骨の上から煙が噴き上がる、ギャグ漫画に良くある描写そのままの光景が目の前にある、痛みに呻くあやめをじろりと見下ろした大神ミオはすぅっと息を吸い込んだ。

 

 

「───何でこんなことしたのあやめっ!! 」

 

 

 叱りつけるような…いや、ようなではなく実際叱りつけているのだろう、明確な怒気を感じさせるその声にあやめは再びビクリっと震えた…まるで母親に怒られる子供のようなその態度にしかしミオは構わず言葉を重ねる。

 

 

「元々司くんとは対戦する予定だったでしょ? わざわざ彼処まで足運んで挑戦状叩きつけたんでしょ? なのになんでこんな不意打ち染みたことしたの!?」

 

「…だって───」

 

「だってじゃないっ!!」

 

 

 有無を言わさぬ叱り声、自身を叱りつけるミオの言葉にあやめは縮こまりながらも何かを言おうと口を動かすが、それを他ならぬミオによって潰される。

 

 傍から見ればそれは正しく親子の光景だ、叱りつける母親にそれに縮こまる子供、自身の言い分を口に出そうとするがそれを母親に有無を言わさず潰される、言い分を一切聞く気も無さそうなその光景は如何にもな光景であったと言えるだろう…そして、少なくともそうされても仕方のないことを百鬼あやめはやっている。

 

 夜の…しかも大雨により聴覚が効かなくなっている所への不意打ち染みた襲撃に加えて、審判役もいざと言う時の為の実力者も居ない中での妖刀の解放…下手をしなくても死人が出ても可笑しくなかったこの状況の中でただ説教をするだけに留めているミオの行動は傍目からしてみれば甘いと言わざるを得ないものと言えた。

 

 本来であれば警察に突き出された上で重たい処罰が下されて可笑しくない、裁判ごとになって刑務所にぶち込まれて可笑しくない…百鬼あやめが妖刀を解放するとは正しくそういうことなのだ…だが、しかし───

 

 

「まぁ…まぁまぁミオ先輩、そんな上から怒らなくても…」

 

 

 ここに、そこら辺の一切状況を飲み込めていない男がいる。

 

 司からしてみれば現在の状況は唐突の連続だ…急に襲われここまで戦っていざ決着を付けようと思ったら唐突に知った顔が敵手であった少女に説教をしている…言葉にしてみれば中々に意味の分からない状況ではあるだろう。

 

 まぁまぁと言う様に手で制する司の姿にミオはフッーフッーと興奮したように吐息を吐き出しながら司へと視線を向ける、怒りに震えながらもそれを理性で制御しようとしているような色が見えるその瞳が、牧村司を捕らえる。

 

「…一番怒らなきゃいけないのは君なんだよ、司くん…なんで怒らないの?」

 

 興奮をそのままに理性的に言葉を吐き出すミオ、本当であればお前こそが最も怒らなければならないのだぞと告げられるその言葉に司は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 実際その通りなのである…状況的に言え一番怒らなければならないのは牧村司本人、当の本人もつい先程までは盛大に苛ついていたこともあって叱りつけるのも吝かでないような状況である…ではあるのだが…しかし───

 

 

 

───元々司くんとは対戦する予定だったでしょ?

 

 

 ミオの放ったこの言葉とその後に続いた言葉が、その苛立ちや怒りを全て持っていってしまったのだ。

 

 対戦する予定だった、わざわざ出向いて挑戦状を叩きつけた…この時点で司の頭の中では百鬼あやめは今回目的地に向かう原因となった存在…つまり自分と戦いと言ってくれた件の挑戦者なのであるという認識が司の苛立ちを埋めてしまったのである。

 

 そうなってしまえばもう怒る理由などありはしない、寧ろあるのは笑いながら楽しそうに戦っている姿を思い出して抱いた、ガッカリされずに済んだという安堵感だけなのである。

 

 故に───

 

 

「…いや、まぁ……何処でやろうが同じなので」

 

「同じじゃないよっ!?」 

 

 

 こうなる、こうなってしまう。

 

 司がなんてことなく吐いた言葉に驚いたように大神ミオは言葉を重ねる、さも当然のように放たれたその言葉を食い気味に否定するミオの姿にやはり司は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

 もうちょっと自分を大事にしなよっ!? と騒ぐミオをどうどうと宥めながらも司はチラリっとあやめへと視線を向ける。

 

 縮こまった姿はそのままに、目を真ん丸とさせて何処か唖然とした様子で此方を見ているあやめの姿は先程まで死闘を繰り広げていた相手とは到底思えない、それほどまでに雰囲気が別物だった。

 

 

「───楽しかった?」

 

 ふと、言葉が口を突いて出た。

 

 唐突に放たれた言葉、あやめへと視線を向けながら放たれたその言葉にあやめはえっ…と言葉を漏らした、自分に話しかけられるとは到底思っていなかったらしいその様子に吹き出しそうになりながらも司は更に言葉を続ける。

 

 

「期待には沿えたかな? 俺は」

 

 続けられたその言葉に、百鬼あやめは一連の言葉が自身へと向けられたものであることにようやく気付く、ミオを宥めながらに唐突に投げ込まれた問いかけの言葉にあやめはえっとえっと…っと、しどろもどろになりながらも言葉を返した。

 

 

「───すごく楽しかった」

 

 この言葉は嘘ではない…本当に楽しかった、最後まで出来なかったことが心底勿体無いくらい、地団駄踏んで悔しがりたいくらいに楽しかった…己の語彙力を恨みながら、百鬼あやめはなんとかそう言葉を吐き出した。

 

 そんなあやめの言葉にそっかと呟いた司は、眩しく思えるような笑顔を浮かべながら、その言葉を紡ぐ。

 

 

「───じゃあ、次は最後までやろうな?」

 

 父親が子供に言い聞かせるように、父親が子供と約束するように、小指を立てながら片目を瞑って悪戯っぽくそう言い放った司にあやめはぽかんっとしたような表情を浮かべていた。

 

「───司くん?」

 

 非難するような声色だった…しっかり怒ってよと言わんばかりの声と表情を司へと向けるミオだが、そんなミオへと司は良いじゃないですかと嗜めるように言葉を続ける。

 

「元々戦う予定だったんだ、場所が違うってだけでそこまで怒るようなことじゃありませんよ…まぁ、流石に準備してた運営の方々には謝って貰わなきゃいけないけど」

 

 見に来てた観客にも申し訳ないですしね…そう言う司に釈然としないような表情を向けるミオ、そういうことを言ってるんじゃないんだけどと言いたげなその視線に司は困ったような表情を浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 兎にも角にも、こうして鬼とかつて『鬼神』と呼ばれた男との死闘は、不完全燃焼ながらも幕を閉じた。

 

 この死闘の続き、その決着が付くのはこれより先の後のこと…大凡数ヶ月後のことであった。

 

 

 

 

 

 




 余さんの末っ子感は異常。
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