…………バイバイ・ω・
……………( 一一)サッ
長物を振るう…地面を削りながら迫る一撃、土埃を上げながらやってきた斬撃をおかゆはほんの一歩後方へと下がることでやり過ごし、次の瞬間にその足を急速に前へと踏み出す。
踏み出せれた足に体重を乗せて、放たれるのは刃が如き足技、ギュオンッとやってくるおかゆの蹴りをくるりっと回した長物で受け止める。
軋み上げる長物の柄、ギシリッという音が間近から聞こえてくる…マトモに受け続ければ壊れるなと、そう思わせられるような重さがその一撃からは感じられた。
受け止めた蹴りを弾き、そこから更に回転を加えた斬撃へと派生させる…先程と同様に地面を削りながら振り抜かれた刃がおかゆの紫色の髪を掠める、ハラリっと舞った女の命とも呼ばれるそれが宙を舞う中で更に更にと地面を削りながら回転と共に斬撃は振り抜かれる。
立ち昇る土煙、一太刀振り抜く度に削れる地面から発生したソレは次第に両者とそれによって引き起こされる戦闘の全貌をひた隠しにし、外側からその様相を覗くことを拒み始める。
響くのは放たれる斬撃音と打撃音のみ…恐らく大して移動していないのだろう、その場から聞こえてくる音だけがそれを観戦していた者達が得られる情報源だった。
バク転に見せかけたサマーソルトキックが司の長物を上へと打ち上げ、その体幹を僅かに崩す…大きく上へと打ち上げられた長物に引き摺られる形で体幹を崩した司へとおかゆは一気に突っ込み貫手を突き出した。
音を裂いて、喉元という急所目掛けて突き出された貫手、当たれば大怪我は間違いないだろうその一撃に司は武器を手放し、素手での対処に当たった。
放たれた貫手を横からパシンッと叩いて軌道をズラして一撃を捌く、急所を離れて頬を掠めた一撃は司の皮膚を抉り、血を吹き出させる。
掠めた貫手、頬が熱を帯びて血がおかゆの手へと付着したその感覚、全てがゆっくりに感じる中で牧村司は動き出す。
横へとズラしたという行動、そこから一歩前へと踏み出した司はその動きのままおかゆの横面へと肘打ちを叩きつけ、更にそこからその流れのままに回転を加えて腹部へと更に肘打ちを叩き込む。
骨の軋む感触、響いてくる一発一発に歯を食い縛って、うめき声を上げたくなるのを我慢して、後へとよろめいたおかゆはそこから膝蹴りを打ち込もうとしている司の足を仕返しと言わんばかりに肘で打ち落とし、身体全体を捻った回し蹴りを司の顔面へと打ち込んだ。
吹き出す鼻血、モロに食らった蹴りが司の脳を揺らす、たたらを踏んだ司へとおかゆが獣のように飛び掛かる。
視界が僅かにブレる…そんな状態から繰り出される飛び掛かり、目の前に紫色の影が飛び掛ってきたという事実に司は咄嗟に両腕を上げてガードを固めた…そこへと振り抜かれる爪による一撃、獣人種の持つ高い身体能力にモノを言わせた力任せが司の腕へと浴びせ掛けられる。
最初に感じたのは熱、その後にやってくる痛み、それなり以上に深く刻み込まれた爪痕がその鋭さを物語っていた。
「ッッッ…!!」
絞り出すような痛みへの喘ぎ声、想像以上に深く鋭くやってきた感覚に判断を間違えたかもしれないと司は考えるが、腕の隙間から見えた次撃を放とうするおかゆの姿に強制的にその思考は堰き止められる。
貫手…いや、違う、同じく爪による斬撃…そう理解するが否や、牧村司の身体は動き出していた。
振り抜かれる爪、それに合わせる形で司の拳が突き出される…互いにほぼ同時に放たれた一撃は互いが互いにすれ違いながら標的へとその刃を届かせた。
拳はおかゆの顔面へ、爪は下斜めから植へと奔るように、互いの一撃は其々の対象に直撃していた。
「───ぶっ…!」
「───っぁっ…!!」
互いに痛手を負った、一撃の衝撃に仰け反る形で後ろに足が下がる。
痛み分け…否、純粋なダメージという意味では司の方が余程不利な状況だ、断じて痛み分け等ではない。
仰け反ったことで互いに離れた距離、地面へと足を踏みつけて踏み留まると同時に足へと手放した長物が当たり、それを司は反射的に蹴り上げた。
宙に浮かぶ長物、その向こう側から速度に任せて前進してくる猫又おかゆの姿、宙へと浮かんだ長物へと手を伸ばし握り締めた司はその長物を大きく振り上げ、自らの膝へと打ちつける。
バキィっと音を立てて圧し折れる長物だったもの、丁度真ん中辺りで圧し折られたそれは最早長物というよりマチェットである。
突然の行動におかゆは目を剥く、そんなおかゆへと司は思い切り地面を踏み締め、圧し折った柄を全力でおかゆへと投げつけた。
大して距離も離れていないそこからの投擲、二秒と掛からずおかゆの眼前へと到達したその飛来物を、しかし猫又おかゆは首を傾げるだけで躱した。
チッと掠める柄だったもの、掠った箇所から血が流れ落ちてくる、奇しくも同じような状況になったおかゆと司は互いに更に一歩敵手目掛けて全力で踏み込んだ。
ズガンッと割れる踏み締めた地面、互いに後退を一切考えていないだろう踏み込みと共に至近距離へと近づいた両者は同時にその刃を振るった。
おかゆは爪を、司は長物の先端を…お互い防御は何も考えていない、互いに突き刺さるかもしれない相手の一撃をまるで考慮していない。
煙が晴れる、それと共に振り抜かれる互いの一撃、観戦していた生徒や教師からしてみれば唐突に映し出された最終局面、目が良いものは最早模擬戦の範疇から逸脱している事実に早々に気が付き、その顔を青くさせた。
当たる、直撃する、同時に食らう…両者共にそう考えていた……そんな時だった。
───駄目だよ、二人共。
ふと、声が響いた。
何時からそこに居たのか、どうやってここまで来たのか…そんなことが頭に過ることすら忘れてしまう程に唐突に現れたその人影…黒く長い髪、裏側に藤紫色がチラホラと見え隠れするそれを揺らしながらその彼女は余裕そうな笑みを携えて、司とおかゆ双方の一撃を受け止めていた。
司の一撃は刃が振り抜かれるよりも先にその腕を掴んで勢いを止め、おかゆの爪を指の隙間に手を差し込むことでその勢いを殺していた…言うだけなら簡単かもしれないが、実際にやるとなるとそれは馬鹿みたいな難易度を誇る、実際に繰り広げられていたその速度を考えればその難易度は更に高くなる。
それを、当たり前にやってのける、当たり前に成し遂げたその人影に司は冷や汗を流しながら引き攣った声色で口を開いた。
「あず───」
瞬間、おかゆと司の身体は後方へと吹き飛ばされていた。
身体を貫く打撃の衝撃、吐き出してしまいそうな程に重く鋭く響いてきた腹部への一撃が司とおかゆの双方へと打ち込まれた。
防御すら許さぬ程の速度、気が付けば打ち込まれていたという認識と共に地面を転がった司は打ち込まれたあまりの衝撃に大きく咳を吐き出した。
「駄目だよ二人共、学校の許可も無しにこんなことしちゃ…しかも休み時間終わっちゃってるし」
そんな司の耳へと届く余裕そうな声、まるで一仕事終えたと言わんばかりに身体を伸ばすその姿に司は腹部を押さえながら乾いた笑みを浮かべた。
誰かしら来るとは思っていたけど、よりにもよって貴女が来るのか…そんなことを脳内に浮かべながらゴロリっと地面を転がった司は未だ収まらぬ腹の痛みに顔を歪めた。
教師の声が聞こえてくる、怒り心頭と言った感じの声色だった…だが、そんかことを気にしてられる余裕が司には無かった…だって、単純に腹が痛いのだ、そんなこと気にしてられない。
打ち込まれた腹を押さえながら空を見上げる司、なんでこんなことになったんだっけと半ば現実逃避気味な言葉を脳裏に浮かび上げていた…そんな司の視界を影が覆う、ひょっこりと顔を出した自分の腹をこんなにした首謀者の顔が司の視界に映り込む。
「もう…駄目だよ、嫌なら嫌って言わなくちゃ」
「それで止めてくれたならそれで終わってるんですよ、
あずき…そう呼ばれた少女の言葉に司は反射的にそう返していた。
…いや、実際あずきの言う通り嫌なら嫌と言ってしまえば良い、止めてほしいなら止めて欲しいと言ってしまえば良いのだが…事実として司の言葉通り、それで終わるならとっくに終わっているのだ。
これは司の感覚的な問題だが、あぁいう雰囲気を出した人間は基本的に言っても止めてくれない、実際それで止まった試しが無い…というのが、司の経験則だった。
そんな司の言葉にあずきは如何にも怒っていますと言わんばかりにぷんぷんっとすると、ビシィッと指を司へと差し向けて言葉を向けた。
「そんな態度なら、次はもう少し強めに行っちゃうからね?」
「止めてください死んでしまいます」
あずきのその言葉に司は勘弁してくれと言わんばかりに言葉を返した、ただでさえ痛いのにこれ以上強くされたら吐いちゃうと表情が露骨に物語っていた…そんな司の態度と言葉にだったらもうしないこと…と、そう笑顔と共に口にしたあずきはコツンっと司の額を小突いたのだった。
───時野あずき、現異能学部最高学年…現校に於いて最強の名を欲しいがままにする、現代の魔王。
時野あずき
言わずと知れたあの人…名前に関しては理由があるので突っ込まないでくれると有り難い。