小鳥のうるさい鳴き声と眩しい朝日に今日も今日とて目を覚ます…パチリッと開いた瞳に差し掛かる日光の明かりが今日は特に煩わしく感じた。
身体を起こして洗面台へと足を運ぶ、水道から水を流して顔に叩きつけ、未だに眠たい眠たいと騒ぐ脳と眠気を黙らせる…今日はもう起きる時間だぞっ…と。
適当に朝食を取る、今日は何にしようかなぁっとボ〜ッとした頭で考えて、特に答えを出すまでもなく冷蔵庫を漁ってはこれまた適当に材料を取り出した。
取り出したるはベーコンとレタス、手慣れた手付きで小型のフライパンを引っ張り出して火を付ける、多少温まったかなっと思ったタイミングでベーコンを乗せて焼いていく…油の弾ける音と肉の匂いが空腹感を誘ってくる。
なんてことない日常…随分前に同じようなことを言った気さえするような…そんな何時も通りの日常、焼くのも面倒くさいとそのままの食パンにベーコンとレタスを挟み込んでバクっと頬張りながら咀嚼する。
我ながら微妙だなぁっと、自分製朝ごはんにそんな評価を下しながら、もっしゃもっしゃと飲み込む…そんな、何てことない日常。
何時も通りの日常…と言うには随分久しぶりに気もするが、兎にも角にも何時も通りの日常だ、食事を終えて食器を片付けて着替えに入り、歯磨きを終えて何時も辺りの時間に扉を潜る…そんな、見慣れ行い慣れた当たり前の日常。
ガチャリッと扉を開けた先にあるのは眩しい陽光で、そこへと踏み出して学校へと向かう…そんなルーティーンが今日も待っている───
「───やっほー、おひさー?」
───はずだった。
ガチャリと開けた扉の先、外へと足を踏み出そうとしたその先にソレは居た。
鮮やかな水色の髪に深青の瞳、にっぱりと笑いながら気軽な様子で挨拶をしてくるその態度には一片の乱れも見えない…何の乱れかと言われれば、突然扉を開けられたことに対する動揺と言うべきか、それとも扉の前でスタンバイしていたことによる苛立ちの片鱗と言うべきかだろうか。
にっぱり笑う姿は美少女そのもの、何処となく勝ち気な様子が感じ取れるその立ち姿は惚れ惚れする程に堂々としていた。
そんな少女を前にして、牧村司は───
───ガチャ…!!
躊躇無く、扉を閉めた…鍵を閉めることも忘れない。
「───」
呆然としていた、眉間を揉んで見間違いかと疑いもした…しかし、先程までの感覚がそうではないだろうと抗議の声を上げてくる。
ガチャリ、扉を開ける。
「いきなりなご挨拶だなぁ、久しぶりなんだからもっと他にやることあるでしょ───」
ガチャリ、扉を閉めた。
いた、普通に居た、夢でも幻でも見間違いでもなくさも当然のように扉の前に立っていた。
堂々と、それが当然であるかのように、腰に手を当てて不機嫌そうに眉を上げながら少女は扉の前に立っていた…その事実を認識した司は軽く頭を抱えながら思い悩んだ。
───えっ…どうしよう
突然の出来事に思考は完全に混乱していた、何をどうしてそうなったと言わんばかりに牧村司という人間の脳内はてんやわんやと化していた。
どうして? なんで?…そんな言葉が頭を巡る、巡って巡って完結せずにまた繰り返す…それほどまでの異常事態ということだった。
瞬間、扉が蹴り破られる。
悩む司のことなぞ知ったことではないと粉砕される扉…吹き飛ぶことこそなかったが、ひしゃげ破損してしまったパーツと共にその鉄は音を立てて地面へと沈む。
「おうおう〜、随分な反応じゃないの〜…久しぶりの幼馴染、しかもこんな美少女相手にそんなことしちゃうなんてさぁ…流石にちょっと傷ついちゃうなぁ〜私も〜…」
ズカズカと部屋の中へと踏み込んでくる少女、壊した扉を踏みつけて苛立った様子でギラリっと司を見下ろした、深青の瞳の奥に何処かメラメルと燃え盛る炎のようなナニカが見えたのは気の所為であると思いたい。
ライトブルーの髪がさらりと揺れる、前の頃によくしていたサイドテールの髪型ではなく、特にこれと言った工面も何も無い流しただけのシンプルなロングヘアー…髪型が違うだけだと言うのにその姿は以前に比べて明らかに違って見えた。
「…なんでいんの、
無意識の内に司はそう口にしていた、変わらず馴染みのある渾名と共にここに在る理由を問うていた。
別にトラウマがあるとかそういう話ではない、苦手だとか嫌いだとかそういった話でもない…ただ、単に自分の家に来ている理由が分からないだけで。
声の色はどんなものだったろうか…司自身でも良く分からない。
困惑していたか、煩わしく思っていたのか…どうにも違っている気がする中でその言葉を受けた少女は腕を組みながら答えた。
「予想よりも早く帰ってきた、住む場所の準備出来てない、泊めて」
三段論法と言わんばかりに粛々淡々とそう答える少女、有無を言わさぬ雰囲気を纏いながら言葉を告げる少女に司はなるほど、分からんと困惑を浮かび上げる…が、そんな風にしていてもどうにもならないというのもまた事実。
「…とりあえず…上がる?」
「上がる」
司の言葉に食いつくように即答する少女ことすいちゃん、先程までの不機嫌そうな表情からは打って変わって何処か嬉しそうに靴を脱ぎ捨てる少女の姿に司は軽くため息を吐き出すのだった。
…あぁ、そうだ…言い忘れていた。
少女の名を、星街すいせいと言った。
「…それで帰ってきたの?」
「うん、帰ってきた」
そんな、少女達の話し声が辺りに響いた。
肩や無傷、片や傷だらけのボロボロ状態…所々に服は破け皮膚から血が垂れて流れる、腕や足と言った一部の箇所には火傷のような外傷が見受けられた。
「いやぁ、やっぱりココちゃんは強いよねぇ、こっちも本気でやってたっていうのに平然と噛み付いてくるんだもん」
カラカラと笑いながらそう言ってのける少女…もといAZKiは、ひらひらと黒焦げとなった掌を振った、奔る痛みにいちちと喘ぎながら自身の膝を枕としてくれている少女へと続けて話しかける。
「やっぱり、能力がどれだけ強くても万能にはなれないってことだよね…同レベルの強さを持ってる相手だと改変が上手いこと作用してくれなかった」
言葉を紡ぎながら思い起こすのは夜闇の中での戦い…発せられる熱閃と暴風、肌を掠めていく爪と尾に牙、改変の隙間を駆け抜けるようにやってくる激昂した竜…正直な話をするなら、怖かったというのがAZKiの心からの感想だった。
明るい茶色の髪が肌を擽る、上から覗き込むようにAZKiの瞳を眺める青色の瞳は心配そうに眉を下げていた。
「───大丈夫なの?」
「───全然大丈夫…殺し合いというよりかは、単なる喧嘩に近かったから…だからそんな顔しなくてもいいんだよ、
その頬を優しく撫でる…安心させるように、実感させるように、己を心配して堪らない親友の少女へとAZKiはにっかりと笑いかけた。
そんなAZKiにようやく安心できたのか、少女ことそらは静かに笑みを浮かべてAZKiの頭を撫で始めた…さらりさらりと溢れてゆくその髪質にやっぱり綺麗だなと、そんな感想を頭の内に溢して。
「…すいちゃんが帰ってきたって」
「司くんの所?」
「…うん」
言葉少なく語られた現状報告、そらの言葉にまるで分かっていたと言わんばかりにすいちゃん…すいせいの居所を予測したAZKiは、帰ってきたそらの言葉にそっか…と重たく言葉を溢す。
「どんどん増えていっちゃうねぇ、あの子の周り」
「…そうだね…前会った時は、あんなに静かだったのに…今は、凄く賑やか」
「…見る目のある子が増えた…って、ことなのかなぁ…?」
小さくか細く淡々と…AZKiとそら、二人の
忘れない、忘れられない、忘れられないのだ…終わったことだと、もう戻れないのだと言い聞かせても決しても手放せない思い出が確かにそこにあるのだから。
唯一その内から消えることなく残り続けた彗星の魔女、唯一難を逃れたか一番星…それが、時たまとてつもなく妬ましく感じてしまう時があることを彼女達は自覚している。
唯一の救いは…鬼神が多少なりとも…ほんの一欠片ではあるが、思い出の一部を未だ強く握りしめていることであろうか。
「…今度、また会いに行こうね」
「………うん…」
酷く物悲しげな表情で頷くそらの頭を、AZKiは目一杯に撫で回した…そうするくらいしか思いつかなかった、とも言うべきだが。
何時しか彼女達は出会うのだろう…かの鬼神を拠り所として。
主人公とすいちゃん、AZKi、そらの関係性
共通の幼馴染、ただしAZKiとそらに関しては諸事情的に司の記憶から消えている、原因はAZKiとそら。