───ブーーーーッ!!!!
その音は、唐突に鳴り響いた。
合口拵の刀を振り抜こうとした牧村司と自身の本領の一角を呼び出そうと構えた獅白ぼたん…その未だ止まる気配をまるで見せぬ加速し続ける闘争に終止符を打つように、その音は両者の耳へと問答無用で響き渡る。
司とぼたんの動きが止まる、掌から零れ落ちる血液をポタポタっと地面に落としながら、何かを掴み取ろうとしていたような動作を取ろうとしたまま、両者は揃って同じ方向を向いた。
その先にあったのは薄く存在するディスプレイだった…時刻は、昼休憩の終わりを示している…時間切れだ。
「……ここまで…ですね」
そう言って獅白ぼたんは構えを解いた、滾っていた熱が一気に冷めてしまったかのような何処か残念そうな笑みを浮かべながらそう告げたぼたんに、司はそうだなと一言返しながら引き抜こうとしていた刀をそのまま自身の掌の元へと収納した。
ズズズッと吸い込まれるように司の掌の中へと消えていく刀、最後にはまるで合掌するような形でパンっと音を響かせながら柄ごと掌へと押し込まれながらその姿を消した刀を、獅白ぼたんは興味深そうに見つめていた。
「…珍しい?」
「そりゃもう…血を媒介とした収納能力なんてそう見ませんから」
言葉少なめに問われたその言葉にぼたんはあっけからんと返す、何処に行ってるんだろと呟くその言葉に司は内心で共感した…何せ、司自身もこの収納した武器達が何処に行っているのかを理解出来ていない。
『血蔵』…これは元々は司自身が開発した拡張能力ではなく、司の祖母が開発した拡張能力だった。
血液そのものが空間を繋ぐ楔としての特性を持つという特異体質を待った祖母『牧村千代子』がそこから更に能力の解釈を拡大し、血液そのものを『門』と仮定してそこから物体を収納、取り出す能力へと昇華させた…それこそが『血蔵』である。
本来であれば拡張能力は遺伝しない…それは当たり前の話で何せ拡張能力とはその能力を持つ当の本人が能力を応用し、解釈を広げるという努力と発想によって生み出される能力だからだ…言ってしまえば、個人の編み出した技という側面が強いのだ。
当然同じ『恵与』と体質を持っているというだけでは血蔵は使えない、先に言った通り『血蔵』は司の祖母が編み出した拡張能力である、当然その使い方や発動条件等には本人特有の癖がある。
血を媒介に空間を繋ぐ…では繋ぐにしても何処に繋ぐのか、門と仮定したとしてもその出口は何処でどんな風に繋げているのか、そもそも何を条件としてその門を開くことが出来るのか…そんな理論と条件のやり繰りを成立させて、始めて拡張能力と言うものは成立するのだ。
…そして、そんな個人の生み出した技を教えて貰ったという訳でもなければ体質が遺伝していたというわけでもなく、ただただ能力そのものにデフォルトで備わっていたというのが牧村司という人間なのである。
…だから、分からない。
自身の血へと収納された武器の行き先が何処なのか、祖母と違って特異な体質を持たないのに何故能力として成立しているのか、そもそも何故拡張能力が遺伝してしまっているのか…その尽くを牧村司は知らないままでいる……まぁ、だから何だと言う話ではあるのだが。
最早そういう能力と割り切って使っている司からしてみればそこはどうにもどうでも良いことで、能力の理解度自体も一般的且つ平均的に考えてみれば寧ろ高い方なのでそこを突っつかれる謂れは何処にも無い訳で、それを考えてみればやはり全部纏めてどうでもいいやと言う回答に行き着いてしまうというの現状なわけで。
珍しいと、そう言う獅白ぼたんへと司は見えるように自身の得物を取り出してみせる、掌の内側から血が飛び出しその範囲を広げ、そこから出てくる柄を掴み取りながらゆっくりと分かりやすいように刀を引き抜いていく。
それをおぉ〜っと言う感心したような声を出しながら見つめるぼたんに若干の優越感のようなモノを覚えながら、司は改めて取り出した刀を再び掌の中へと戻した。
ズズズッと体内に取り込まれるようにして消えていく刀、その様子をやはり物珍しそうに見つめる獅白ぼたんの瞳は、何処か子供のような輝きを見せているような気がした。
その後のことは、特に話す必要も無いように思える。
獅白ぼたんとの模擬戦を終えた司はそのままぼたんと別れて授業へと向かった…先程のブザーは休憩時間終了十分前を伝える為の措置だ、当然時間にすればギリギリも良い所だったのである。
若干の急ぎ足で授業へと向かい、特に遅刻することもなく間に合ったので普通の授業を受ける、カンカンっと響くチョークの音と教師の声に耳を傾けながら、しかし考えるのは獅白ぼたんのことだった。
───強かったなぁ…。
強かった…素直にそう思う、能力は恐らく殆ど使っていなかったのだろうがそれでも充分強かった、司的には大会に出たとしても能力無しでそれなり以上にやれるのではないかと判断してしまう程に。
授業を聞きながらあのまま続けていたらと考えて、十中八九負けていたのだろうなと司は考える…体術で食らいつけていたとしても能力のスペック差で押し切られると判断してのことだった。
牧村司の異能…恵与『血遊び』…実際は『操血』と言う本来の呼び名が存在するのだが、与えられた物のスペックがあまりに低かったことから司自身がそう改名した。
最大射程距離は半径四m、その四m以内であれば多少自由に血液を動かせるが逆を言えば四m外に出ればその瞬間に今まで施した全ての仕組みを焼却して単なる血液へと戻る。
硬化しようにも最大硬化能力が非常に微妙、硬化したとしても足場程度にしかならないというあまりにも微妙過ぎる司のソレに祖母は目をパチクリとしていた。
では圧縮しようかと考えてみればその圧縮も不得手、圧縮出来る最大値が決まっていてそれを少しでも踏み越えるとその瞬間に爆発する、役に立たない。
では身体強化に使用しようかと考えてみれば、そもそも操れる血液量が少ないので体内でドーピングしようとしても思うようにいかない、無理にやろうとすると一部の血液だけが異常に動いているということで身体に不調を来すという意味の分からない結果に陥る…要するに不得手なのである。
じゃあそれら全てを踏まえた上で応用してみようとも考えるだろう…無理だったのである。
デフォルトで備わっていた血蔵という能力…司本人からしてみれば割かし便利なこの拡張能力は牧村司という人間の容量を大幅に食ってしまっていた…それこそ、新たに能力を拡張しようとした司の足を思い切り引っ張ってしまう程度には。
例えば某穿血を放とうとすれば圧縮の最大値が低いせいでまともな威力にならず、そもそも撃てたとしても四mの外に出た瞬間に施した細工全てが無に帰して地面に落下するという結末を迎える…要するに何しても意味が無いのである。
故に結論、クソ雑魚…スペックが低すぎて拡張も叶わない、応用性も低ければ特化的な性質を持つわけでもないというどうしようもない能力、それが牧村司の血遊びという能力なのである。
それを考えてみれば今回の模擬戦は運が良かったことこの上ないであろう、何せ向こう側も此方側も殆ど能力を使用していなかったのだから…向こう側が本格的に使ってきたのならば此方も使わざるを得ないが、それをしたところで果たして勝てたのかと言われればやはり首を傾げるしかないのが現実である。
終了のHR、夕焼けが照らす中での帰路に付く中で司は自身の掌で血を弄ぶ、チクチクと動かしながらもやはり自身の反応に若干遅れて動くその自身の能力に弱いなぁっと若干の文句を垂れながら足音を片手に司は夕焼けの中を歩く。
そういえば明日は試合の日だったな…なんて、そんなことを考えながら。
…明日は、強い雨が降るらしい。
牧村司
能力がクソ雑魚過ぎて頑張ろうにも頑張れない男、因みに初期の能力の範囲は2mだった。
一言で説明するなら近接の鬼。