ガタガタと、窓が揺れていた。
今日の天気は大雨…テレビに電源を入れ、ニュースを見てみれば映し出されるのは真っ赤に染まった全国地図、ニュースキャスターが言うには今年度最大の大雨警報らしい。
当然学校は休みだ、インドア派の人間からしてみれば嬉しいことこの上無いであろう平日の休み、部活動を生業とする人間からしてみれば悲劇以外の何物でもない今日という日の中で…牧村司は、ベットにグデーッと寝そべっていた。
現在の時刻は午後の六時、朝に降り出した大雨は既に一日の半分を終えて尚も降り注いでいた、一向に弱まる気配を見せないその大雨を司は恨めしそうに見つめている。
「…今日は一日中…かぁ」
ため息を吐き出す、スマホ片手に天気予報を見てはため息を吐き出し、窓の外へと目を向けるを繰り返す…出来ることなら濡れたくないんだけどなぁ…と、避けようもない現実を前にして司は自身の片腕へと手を伸ばし…血蔵を発動させた。
飛び散る血液に飛び出る得物、周囲を汚しながら現れた自身の得物を手慣れた様子で何処からともなく取り出した大きめのテニスバックへと詰め込み、更に更にと血蔵を発動させる。
ナイフに短刀、手錠に少し長めの鎖…小さく小回りの利くものと何故に取り出したか良く分からない物も含めて司は様々な武器を自身の蔵から取り出しては服の中やら何やらに収納、隠し持っていく。
何故に…と、そう思っているであろう誰かの為に説明するのであれば…これこそが牧村司の血蔵の弱点だから…とでも言うべきなのだろう。
テニスバックをうんしょと背負って靴先でトントンっと床を叩く、履き心地の良い靴の音にうん…と一言納得するように呟いた司はガチャリとドアノブに手をかけた。
開く扉、叩きつけられる雨粒…先程に比べてみれば格段に弱くなったらしいその大雨の光景をダルそうに見つめた司は壁側に立てかけてあった傘を手に取って、雨が降り注ぐ外へとその身を晒した。
瞬間、襲い来る雨粒達、叩きつけるように降り注ぐ雨あられに思わずうぉっと声を漏らしてしまう…屋根を無視してやってくる水気にいそいそと階段を降りながら傘を広げ、司は目的地へと歩き出した。
行き先は、闘技場だ。
雨が降り注ぐ、風が吹き荒ぶ、差した傘が吹き飛びそうになるのを何とか堪えながら目的の場所へと向けて歩く。
車は走っているが歩いている人間は殆ど居ない、当然の話ではあるがやはり警報が出たということで外出する人間が減っているのだろう、何処かガランとした様子の道を水に濡れながら力を入れて歩く。
家から闘技場まではそこまで掛からない、それでも早めに出たのは警報ということもあって何が起きるか分からなかったのと、単純に服や肌を乾かしておきたかったということもあった。
司の血遊びは、その能力範囲の狭さや使い勝手の悪さに更に追い打ちをかけるような非常にデリケートな性質をしている…自らの血液に不純物が入り込むと、その途端に能力としての制御を失うのだ。
水に油、墨汁に他人が捻出した体液…それらの内のどれか、そうでなくても自身の血液以外の液体的な物体が内に入り込んだその途端に拒絶反応でも起こしたように活動を停止する。
これは科学的な反応が故ではない、水に溶けるわけでもなければ細胞膜が破けるわけでもない、ただただひたすらに言うことを聞かなくなる…司が血遊びを低く見積もるのは、この性質があるからというのもある。
故に牧村司にとって水浸しになる現在の天候…つまりは雨は一番の天敵、避けようのない天からの恵みはこと牧村司という人間にとっては不運の象徴とも言えた。
だからこそ司は前もって自らの武器を取り出した…狭い場所でも比較的簡単に振るえるような武器に中距離でも対応出来るような道具…それらを揃えて外へと足を踏み出したのだ、万が一の為に。
そして……万が一は巻き起こる。
大雨に大風、すれ違う人間は片手の指で数えられる程度でそれらはヤバイヤバイと焦ったように早足で家宅へと向かうその横をすり抜けながら闘技場へと足を進める司。
時間にすればどれくらい経ったのだろうか、ある程度遅く動いても余裕に辿り着く程度の時間を想定して家を出てこそいるが、それでも不安になってしまうのは人間の性というやつなのか。
ゴソゴソとスマホを取り出し時間を確認する、このまま進めば約束の時間に余裕で間に合う…そう認識しながらスマホを収めて、立ち止まっていた足を動かそうと前を向いて…ふと、その動きを止めた。
それは、立ち止まっていた。
赤い傘…雨に打たれて水を垂れ流しにする赤い傘、びちゃびちゃと大きな音を立てるその傘を持った何か…シルエットや服装からして少女なのだろうと推測出来るその存在を前に、司は目が離せないでいた。
容易く感じ取れる程に突き刺さる好奇の視線、眼前の存在から真っ直ぐと自分目掛けて放たれる戦意に、司の手は無意識の内にテニスバックへと伸びていた。
煌めく銀色の髪にその一部に混ざった赤色の髪の毛…雨に濡れて尚も輝くその銀糸を靡かせる少女はその赤い瞳を真っ直ぐと司へと向けて…口を動かした。
───み つ け た 。
喜悦に歪む少女の顔、常人には無い鬼の角が顕になる。
足を踏み出し地面を蹴り割る、膨れ上がる戦意と殺気を叩きつけるように外へと放出し、携えた刀の一振りへと手を掛けながら一息に踏み込み司へとその刃を振るう。
大音と共に吹き飛ぶ水溜りに雨を引き裂いて迫り来る鬼の姿、感じていた無意識は一気に有意識へと切り替わり、伸ばしていた手は迷いなく自身の得物へと伸びている。
ガンッと衝突する鉄と鉄の衝突音、テニスバックから抜き放つことなくそのままぶつける形で鬼の刃を防ぐ、破れたバックの内側から覗く無骨な湾曲した刃の光に少女はその笑みを深めた。
雷が鳴り響く…暗闇の空の奥で光る白い輝き、響き渡るか雷鳴の音はまるでゴングのように響き渡り、その光は両者の姿だけを色濃く世界へと映し出す。
ギリギリっと鍔迫り合う、時折弾ける火花が暗い夜闇の世界を彩る…そんな中で司は、ふと腕に込めていた力を緩めた。
突如として外された押し当てる力、唐突に消えた敵手の勢いに鬼の身体が前のめりに向かってくる…その自身の元へと倒れるようにやってきた少女の腕を司は掴み取り、その勢いのままに少女を投げ飛ばす。
背負い投げの形で投げ飛ばされる鬼、宙を浮かび地面を背後として投げ飛ばされた少女はしかし、瞬時に体勢を整えてさも当たり前のように地面へと着地する。
おっとっと…っと、何処か軽い様子でおたおたとした様子で立ち上がる少女…そんな少女の様子なぞ知ったことかとでも言うように司は破れたテニスバックの中から曲刀を乱暴に取り出した。
ビリリッと破けるテニスバック、刃に引っ掛かった先から強引に取り出した影響で飛び出すチャックの部品、それら全てを纏めて地面へと放り捨てながら司は件の鬼目掛けてその足を踏み出した。
急速な接近、水を打ち水を叩く音を響かせながら接近する司に少女は刀を振るい、ソレに合わせるように司もまた曲刀を振るった。
激突する刃と刃、鉄の音を響かせながら激突した両者の刃が互いの顔を映し出す…笑みを浮かべた少女と歯を食いしばるような表情をした司、互いに戦意を剥き出しにして激突した両者はそのまま振り解くように自身の得物を振るう。
ガギィィッンっと音を鳴らして弾かれる両者、僅か二歩か三歩か後方へと下がった司と少女は焼き直しでもするかのように再び前へと踏み込み刃を振るう。
火花がまた散る、冷たい大雨の中で振るわれる刃と生まれる火花、ただそれだけが響きそれだけが彩るその空間は、何処かこの世のものとは思えない雰囲気を放っているような気がした。
紅い瞳と夕焼け色の瞳…それが今、かち合った。
…そうして、
ホロライブは面白いけど作品にしようとすると大変。