「ねぇ、帰ろうよ沙百合さん」
「大丈夫です、お姉ちゃんがついています。」
「霧が晴れるまで休んだ方がいいよ」
私と沙百合さんは霧の濃い峠道を進んでいた。
私達、機動任務部隊に飛び込んできた仕事はまたまた変な事件だった。
霧がよく発生する峠道で有名なサギリ峠で事故や失踪事件が多く発生している為、捜査の応援部隊として導入された。
やっぱり、ジャンクヤードやドローンの件から察するに何でも屋だと思われてるんじゃないかな…
内容としてはドールが道路に立っていたのを回避しての単独事故と路肩に立っていたドールを目的地まで乗せた際に気絶させられ、所有するドールが失踪する事件が起きていた。
単独事故の件数はそこそこ多く、実際に被害者達から証言が上がっているが人里離れた峠の周辺住宅等の所有するドール達とは一致しなかった。
失踪ドールは機能停止で全て見つかっている。
パーツの欠損があり、腕や足、冷却液循環を担う擬似心臓など一貫性は無い。
記憶部品は破壊されては居なかった為、被害者達から回収した記録映像を解析したが犯人は写っていない。
一時的に機能停止された後、再起動後にはパーツがとられている。
この不気味な事件は署内七不思議になろうとしていた。
「やっぱお化けだよ、絶対俺らじゃなくてお祓い師に頼むべきだって」
「お兄様は怖いものがダメでしたね」
「管轄外だからであって怖いわけじゃない!断じて!」
無線からアキトと霞の会話が聞こえる。
向こうはサギリ峠を走る道を別ルートで調査している。
ナオ達も同じだ。
車を走らせ1時間、目立った収穫もない。
不気味な景色だけが広がっている。
「こちら3号車、降車します」
燕がパトカーから降りる報告をする。
「こちら16号車、了解」
何か見つけたのだろうか?
私達はトンネルへと辿り着いた。
サギリトンネル、心霊スポットで有名な所だ。
肝試しに行くと赤い目の怪物に追いかけられるともっぱら噂になっている。
車では通れない為、中に入るには降車する他ない。
できれば行きたくない。
引き返すための広場にパトカーを停車させる。
沙百合さんが急に車を降りた。
「16号車、降車する」
「了解」
先をゆく彼女に慌てて報告を入れ後を追う。
薄暗いトンネルの天井には小さな灯りがついていて昼間でも夜のように薄暗かった。
「ケイ、ここで待っていてください」
暗いトンネルの中、沙百合さんは言った。
冗談でしょ?こんな不気味な所で一人だって?
「いや、冗談キツイっすよ沙百合さん」
「男の子なんだから泣き言いわない!」
彼女はトンネルの奥に行ってしまった。
オイオイ、マジかよ。
怪事件多発地域、よりにもよって心霊スポット!今すぐ逃げ出したくてたまらなかった。
「沙百合さーん!」
私は薄暗いトンネルの奥に呼びかける。
「帰ろうよー!」
私の声がトンネルに反響している。
世界にひとりぼっちになった気分だ。
「お姉ちゃんは聞こえてますよぉー」
小さいけれど声が聞こえ、少し安心した。
しかし、その後に響いた衝突音に背筋が凍りつく。
薄暗いトンネルの向こうから赤い光が見えた。
二つ揃った光は揺れている。
まるで目みたいに。
「さ、沙百合さーん?」
向こう側へ呼びかける。
応答はない。
追い討ちをかけるように引き摺る音と足音がトンネル内に木霊する。
赤い光は段々と大きく強くなっており、確かに近づいて来ていた。
「沙百合さーん!お化け出たー!」
赤い目の怪物が小さなライトが支配する空間へと足を踏み入れた。
怪物の正体は他でもない沙百合さんだった。
「誰がお化けですか、貴方の愛しのお姉ちゃんに向かって」
暗視装置をオフにしたのか赤い眼光は消えいつもの沙百合さんに戻る。
一安心したのも束の間、彼女引き摺って来た背後の異物に私は驚いた。
捻じ曲がった手足に頬のスキンが剥がれた人形のようなもの。
衣類は身につけておらず、剥がれた痕が残る局部が見えた。
「お、お化けだ」
「ドールなんですよ、コレ」
彼女は人形のような物を足元へ放り投げた。
「トンネル内から微弱ながら起動信号を検知したので行ってみればコレです」
「ドールの失踪事件はおそらくコイツらの所為でしょう」
沙百合さんが冷たい目で見下ろしている。
「解析の結果、ここら辺一帯で活動してるらしいです」
小型端末を人形に繋ぎ解析したのか内部データを見せてくる。
画面には地図が映し出されており点で示されていた。
あまりの多さに私は疑問に思う。
「こんなに居るなら流石に表沙汰になるのでは?」
沙百合さんは養豚場の豚を見る目で転がるガラクタを踏みつけた。
「カラースキンを応用した光学迷彩を付けてました」
「思考解析の結果だと私を無力化したらケイを襲うつもりだったんです」
「舐めやがって、私はお姉ちゃんですよ?」
彼女は低く見積もられ、私に手を出そうとしていた事に相当ご立腹のようだ。
そこまで怒ってくれてる事に少し嬉しかった。
「待って、みんなも危ないんじゃ」
「行きましょう、ケイ」
私達は踵を返してパトカーへ戻る。
どうやら、とんでもない事件に首を突っ込んでしまったようだ。