ここはどこだ?
私は暗い部屋の中で目が覚めた。
確か廃墟となった洋館の調査に向かって、燕がお化け屋敷とはしゃいで入ってから…えっと…
頭が冴えてきた、視線を動かして辺りを探る。
窓もないコンクリの壁、地下室か?
視線を落とせば年季の入った椅子に私を縛るロープが見える。
燕は何処だ?
彼女の姿が見えない、大丈夫だろうか?
私は身体を捻って抜け出そうとした。
緩む気配もなく、得たものといえば痛みだけだ。
「フフフ、可愛らしい」
「うわっ」
背後から声が聞こえて思わず声を上げる。
三日月のように歪んだ笑みを浮かべるドールが視界の端から現れた。
「あぁ、可愛らしい」
「誰?誰君?」
赤い目を光らせ不敵に笑う彼女に言葉が上手く出てこない。
「申し遅れましたね、マルベリーと申します旦那様」
「は?」
「フフフ、私の旦那様ですよ?」
呆気に取られた私を気にせずとても愛おしそうに私を撫で回す彼女。
不気味なほど綺麗なメイド服が逆に怖かった。
「ふざけるな、燕は何処だ?無事なのか?」
気を取り直して私は強く問いかけた。
不愉快そうに彼女は顔を歪めると拳で回答した。
鋭い痛みと共に右頬が熱を帯びる。
「私と居る時に部品の名前を出さないで!」
ヒステリック気味に彼女は叫ぶと左頬にもう一撃を喰らわせてきた。
口の中に広がる鉄の味。
口の端を生温い液体が伝う。
「あぁ、もったいない」
彼女は嬉しそうに顔を近づけた。
伝う液体を彼女の舌が舐めとった。
背筋に悪寒が走った、コイツイカれてる。
「あぁ、ごめんなさい旦那様」
「こんなつもりじゃなかったの」
少し悲しそうな顔をして謝罪してみせる化物を睨みつけた。
「私のお姉様は主人様が亡くなってからずっと修理しようとしており、その為に私は部品回収の為の狩をしていた所、部品と貴方を見つけました!」
「まさしく運命!狩のご褒美として部品の番である貴方を飼う許可をお姉様に頂いたのです!」
こちらの反応などお構いなしに嬉しそうに語る化物、私は周囲を伺い使えそうなものはないか調べる。
暗い部屋に慣れてきたのか物が少し見やすくなった。
「部品はもう少ししたら解体して主人様に移植され、お姉様の望みに近づく事でしょう」
彼女の言葉に昔の記憶が蘇る。
機体の破損、復元不可能となる彼女、私の大切な人が…
最悪な予想が脳裏をよぎる、あの日の悪夢がもう一度やってきた!
燕が危ない!
「燕だ!部品じゃない!私の大切な人だ!」
化物に私は吠えた。
「フフフ、可哀想な旦那様」
「部品の事が忘れられないのね、今私が忘れさせてあげます」
ねっとりと化物は笑うとスカートの裾を持ち上げて私の膝の上に跨った。
「あぁ、やっと手に入れた私だけの旦那様」
「私の愛を受け取って…」
刹那、背後の扉から銃声が響く。
「ナオ!無事か?」
アキトが拳銃を発砲すると化物はするりと私から離れて闇へと消えた。
私の傍を霞ちゃんが通り抜けてポンプアクション式の散弾銃を放つ。
暗い地下室を青白い閃光が照らした。
「お楽しみの途中邪魔したな」
アキトが縄を解くと霞ちゃんが散弾銃とシェルの入ったポーチを渡してくれた。
「いや、助かったよ」
M870のチューブにシェルを装填しチャンバーチェックを実施、ちゃんと装填されている。
「燕は?無事なの?」
私の問いにアキトは化物が消えた方向を警戒しながら答える。
「位置は割れてる、ヤツはなんて?」
アキトは素早く拳銃をリロードし、霞ちゃんは背負い鞄からMP5を準備する。
「主人様とやらにウチの燕をバラして移植するって、先に行くわ」
「おう、コレ持っていけ」
彼が小型端末を投げ渡す、燕の現在位置が表示されていた。
「助かる」
「道中は任せろ、無茶はするなよ」
彼が拳を出したので私の拳をぶつけた。
いつもの挨拶だ。
私は廊下に飛び出した。
燕が、柊みたいになってしまう。
あの日を繰り返しちゃいけない、今度こそ助けるんだ。
廊下にいる地を這う化物達に散弾を叩き込みながら私は進む。
端末を頼りに私は百鬼夜行の廊下を駆け抜けた。