「あなたのかれたからだをきれいにして」
「いのちをあつめておいわいをしよう」
「あかりをともしてさんびかをうたい」
「めざめのときはいまここに」
蝋燭の明かりが部屋を照らし床には冷却用擬似血液で描かれた魔法陣。
その中央には安らかに眠る燕の姿が見えた。
さっきの化物と同じ型式の人形が三匹、彼女を囲んで歌っていた。
奥の壁際には大きく高価そうなベットがあり、土色のミイラにドールの部品が継ぎ接ぎに取り付けてある。
死後数年は経過しており、生きてる様には見えない。
人形に照準を合わせて引き金を引く、炸裂する散弾銃が足を吹き飛ばす。
次弾装填、驚きの表情を浮かべるヤツの胴体に次撃を放つ。
胴体から真っ二つになった。
掴み掛かろうとするヤツの口に拳銃を突っ込んだ。
「退いてくれ」
迷いなく引き金を引く、燕の元に急がねば。
口を抑えて立ち尽くす人形に蹴りを入れ進路を確保する。
私は燕の元に駆け寄った。
「そこまでです、主人様の部品から離れなさい」
奥の扉からドールが出て来きた。
朽ちた建物と対照的な綺麗すぎるメイド服。
白髪ロングの髪が靡く、まるでファンタジー小説から出てきたようだ。
私は散弾銃を発砲する。
残像のように揺らめくと彼女は弾丸を避けた。
ここはモンスターハウスかよ!
「主人様のためです、貴方には大人しく終了してもらいます」
銃口を掴む怪物は飴細工の様に銃身を捻じ曲げる。
私は銃を放し、飛び退いた。
アキトやケイ達が向かってきている筈、少しだけ耐えればいい。
「人様の子を部品呼びするな!」
怪物の蹴りを回避し武器を探す。
何かないだろうか?
「大体、君の言う主人様は死んでるじゃないか!」
「死んでなどおりません!!」
私の言葉に彼女が叫んだ。
「たとえ心臓が停止していても、体温が冷たくなっても」
「まだ死んでおりません!」
「少し長くお休みになられてるだけなのです!」
「主人様もそうおっしゃったのです!」
彼女の動きが止まる。
カメラアイから擬似涙液が頬を伝っていた。
「だから私は認めません!そんな事!」
彼女が崩れた壁から鉄筋を抜き取ると私へと投げつけた。
ものすごい速度で飛んできたソレを右側へ身を投げて回避する。
私の立っていた場所に槍の様に刺さっていた。
「やっと今日、全てが終わるのです」
「部品を集めて生命に必要な臓器を全て交換しました!」
「遂に主人様が目を覚ますのです!そして私を…」
「そして私を今まで頑張ったねって、褒めてくださるのです!」
彼女は腕を壁に叩きつけた。
壁から飛び出た配管を掴むと力任せに引き抜いた。
感情プログラムの暴走で出力調整機のリミッターが外れているのか?
この調子では長くは持たないだろう。
やっと燕の元に辿り着いたのに、人形と人間の差を前にして己の無力さを呪った。
「だから、私のために!今ここで死んで!」
彼女が配管を振り上げた。
私もここまでか…
「世界に光あれ!」
聞き慣れた声と共に円筒形の何かが金属音を奏でながら足元に転がる。
見慣れたソレを前に咄嗟に目を守る。
眩い閃光が世界を照らし、爆音が響いた。
彼女は目を抑え、身を捩る。
滑り込んできたメイド服に足を攫われた。
黒のおかっぱ頭にアンニュイな顔、泣きぼくろが印象的。
ケイのお姉さんの沙百合さんだ。
強かに腹を打ちつけた彼女の足に沙百合さんが散弾を叩き込んだ。
足が吹き飛び悲鳴に似た叫び声を上げた。
後から追いついた霞ちゃんとアキトが銃口を向けて取り囲む。
「嫌だ、嫌だぁ!主人様に会いたいよぉ!」
自身の結末を察したのか彼女は駄々をこねる子供の様に泣く。
彼女に少し同情した。
「お願い殺して…殺してよぉ!もう一人はいやだよぉ!」
彼女はそう叫ぶと沙百合さんが向けている散弾銃の銃口を咥える。
沙百合さんは辛そうに視線を背け、霞ちゃんはアキトに抱きつき顔を埋めた。
それもそうだ、沙百合さんや霞ちゃんにとっては姉妹に当たるのだ。
こんな痛ましい姉妹の姿を見るのは耐え難い苦痛だろう。
殺してもらえないことを察した彼女は啜り泣きながら壊れた脚を引き摺り這う。
彼女の通った後には青色の冷却用擬似血液が跡を残していた。
もう誰も彼女に銃口を向けていない。
ベットの周りには先ほどの人形たちが集まって事切れていた。
片足が吹き飛んだ子や下半身を無くした子、喉をやられた子も青い血溜まりの中で眠っていた。
彼女は眠る主人のベッドへよじ登ると愛おしそうに抱きしめる。
「嗚呼、主人様、あの世があるなら私を抱きしめて」
「私を沢山、たくさん、ほめてくださいね」
甘えるように彼女はそう言うと、冷却用擬似血液を失いすぎたのか小さく破裂音がした。
駆動音が静かになる。
オーバーヒートで事切れたようだ。
普通なら再起不能を避けるため、安全装置で致命的損傷が生ずる前に機能が停止する。
しかし、長い月日が安全装置自体を故障させたのだろう。
「ゆっくり、おやすみなさい」
沙百合さんは事切れた彼女の瞼を閉じさせて囁いた。
彼女達の長い悪夢は終わった様だった。