「霞、アイス食おうぜ」
「はい、私バニラアイスがいいです」
パトカーを路肩に停めるとお兄様が無線機で降車の報告を上げる。
私は急いでシートベルトを外して降車する。
お外はとても良い天気でお天道様が皆んなを照らしていた。
「でも、いいんですか?お兄様?」
「何が?」
「お仕事中にアイスなんて買って」
私の質問にお兄様はうーんと唸った。
「今現在をもって我が哨戒班は休憩とする、いいな?」
彼は悪戯っぽく笑う、その笑みに釣られて私も笑顔になった。
「はい!霞、休憩します!」
彼に駆け寄って手を握る、昔からお兄様は優しい人だ。
「母ちゃんにはないしょだぞ」
そう言って幼い頃のお兄様は戸棚からくすねてきたお菓子を分けてくれる。
妹とはいえ人形だ、お母様に報告する義務がある私にも渡してくれた。
「かわいい妹なんだから当たり前だろ?それにオレはお兄ちゃんなんだからな!」
幼い彼は胸を張って言って見せる。
根はあの頃から変わらない、本当に優しくて素敵なお兄様。
二人で並んで歩いていると公園の広場に停まったアイスクリームの移動販売店が昔から変わらないポップで印象に残りやすい呼び込みの曲を響かせていた。
「親父さん、バニラと弾けるキャンディーの入ったやつ!」
「あいよ」
私の身長ではカウンターに届かない為、お兄様が注文してくれた。
小さい頃は私が彼を肩車して受け取ったっけ。
「どうだい景気は?」
「街の西側は柄の悪いのが闊歩してて商売にならんな」
叔父様は大きな溜息を一つ吐いた。
「どのへんだ?地域課に共有してみるよ」
「スミ通りからアオモリ病院の方に抜ける辺り」
「あー、薄気味悪いあそこか」
お兄様は嫌そうな声で唸る、きっとお化けが怖いのだろう。
「通るたびに人が居るから何かしてるぞきっと」
「最近、抗争関連の事件が多いから親父さんも気をつけてな」
「ありがとな、ほらアイス」
お兄様は私の脇に手を入れるとヒョイっと持ち上げる。
私は叔父様からアイスを受け取った。
「あんだや、お兄様とデートか?」
「えへへ、やだ叔父様ったら業務中ですよぉ」
叔父様の言葉に顔が熱くなる、本当に商売が上手だ。
私は少し恥ずかしくて身を捩った。
「うお、なんかウナギみたいだな」
お兄様がそういうと私の足を地面に着けた。
内心もう少し抱っこして欲しかった。
「まいどあり!」
「また来るよ」
叔父様が手を振り見送ってくれた。
私も手を振りかえしてパトカーに戻る。
サクサクのアイスコーンの上に白いバニラアイスとチョコアイスの二つが鎮座していた。
一つだけだと思っていたがお兄様が気を利かせて二つ重ねたのだろう。
「ここは涼しくていいな」
パトカーの車内に戻ったお兄様の口からそんな言葉が漏れた。
彼の手には緑のアイスに赤と青のパチパチ弾けるキャンディーが入ったアイスが二つ、コーンの上に載っている。
もう、欲張りさん。
プラスチックの小さなスプーンでアイスを掬って食べる。
冷たくて美味しい。
「はい、お兄様」
私のチョコアイスを掬って差し出す。
彼はパクリとスプーンを咥えた。
私は慎重にスプーンを引き抜く、テカテカと光るスプーンが現れる。
「チョコも悪くないな」
お兄様はモゴモゴと口の中で咀嚼すると私にアイスを差し出した。
スプーンを自分のアイスに刺して口を目一杯開け齧り付く。
自分の口が小さい事を少し恨んだ。
大きければいっぱいお兄様を味わえたのに。
冷たいアイスが口に広がり、パチパチとキャンディーが弾ける。
微かに検知する彼の唾液。
あぁ、幸せだ。
思わず顔が綻ぶと彼は嬉しそうに微笑んだ。
あぁ、こんなはしたない演算をしてるなんて露知らず、アイスが美味しくて喜んでいるなんて思っているのでしょう。
自分のアイスを掬って口に運ぶ、スプーンに付いたお兄様の味がアイスに溶け込んでいる。
私の口で体内で彼を感じる、とても美味しいと味覚センサーが報告を上げた。
自分の人口唾液が付着したスプーンでアイスを掬って彼に差し出した。
限りなく人間の唾液に近く作られているため人間に害はない。
彼は私の感情など知らずにパクリとスプーンを咥える。
あぁ、お兄様の身体の中に私が入っていく。
お兄様の栄養として吸収されていく。
お兄様の生きる為の燃料に私がなっている。
うぉォン、私はまるでお兄様のガソリンだ。
彼の生命活動の一部になっている事に喜びが胸の奥から湧き出てくる。
思わず顔が緩む、堪らなく幸せだった。
「えへへぇ…」
思わず笑い声が出てしまう。
「なんかその笑い声キモいな」
お兄様が少し引き気味でそんな事を言う。
いけない、少し気を緩ませすぎた。
「なんか良いことでもあっ」
アイスを多めに掬ってお兄様の五月蝿い口を塞ぐ。
一瞬目を見開くとモゴモゴとスプーンを咥えた。
「えへへ、内緒です」
スプーンをゆっくりと引き抜きそう言うとお兄様は小首を傾げた。
あぁ、愛おしい。
私に世界を教えてくれたこの世にたった一人のお兄様。
私の脳内でさまざまな演算が始まりCPUが急速に活動する。
それに釣られて冷却液の働きをする擬似血液を送る水冷ポンプの送り量が上がる。
高鳴る擬似心臓と空冷型補助冷却器である擬似肺と負荷が上昇した。
お兄様に餌付けしながら私はアイスを堪能した。
パトカーの助手席から運転するお兄様を眺める。
仕事中の真面目な顔も素敵だ。
何千、何万回みても飽きない横顔に擬似心臓は高鳴りっぱなしになる。
「ドライブデートですね、お兄様?」
「ドライブデートにしては物騒な車に乗ってるけどな」
彼は鼻で笑うとコンビニで買ったアイスコーヒーを啜る。
レジを通した後、コーヒーカップをひったぐった私はコーヒーメーカーまで小走りで進む。
ラミネートされている蓋を剥がして隠し味の"愛情"を込めた。
「んぇ…」
音響センサーをフル稼働させればお兄様は愛用している煙草の銘柄を探している声が聴こえる。
はしたない姿を見られるんじゃないかとドキドキした。
そうしてメーカーにセットし、コーヒーを淹れた。
お兄様好みの濃さ、ミルクの量、砂糖の本数は全て把握している。
完成した物をマドラーで混ぜる、回数は5回と210度。
最後に蓋をすれば完成だ。
「美味しいですか?お兄様?」
コーヒーを片手に運転しているお兄様に尋ねた。
「あ?美味しいぞ?」
お兄様は不思議そうに答えた。
きっと美味しくできたか不安なのかななんて思っているのだろう。
半分正解だ。
「霞が入れるとなんか違うんだよなぁ」
お兄様は再びコーヒーを啜る、私の気持ちなんて知らないで。
"愛情"が込められている為、間接キスになる。
最早、私の唇を啜っていると言っても過言ではないのでは?
そんな演算を叩き出し、思わず顔が赤くなる。
熱を帯びる顔を抑えて、湧き上がる悦びを抑える為身を捩った。
「またウナギみたいになってる、そんなに嬉しいのか?」
呆れたような目線で言うお兄様。
あぁ、そんな目も素敵です。
そのまま、こんなはしたない妹にお仕置きしてください。
「うぇへへぇ」
「なんかキモいぞ」
お兄様の辛辣な言葉に更にCPUがトリップする。
「ありがとうございます」
「そういう趣味かぁ、お兄ちゃんちょっと不安だなぁ」
お礼を申し上げるとお兄様は少し複雑そうな声色で答えた。
「お兄様が望むのならSからMまで演じてみせますよ?」
「別に求めてないかなぁ」
私の言葉をお兄様はさらりと躱わしてみせた。
素晴らしいです。
「お兄様が私をこんな風にしたんですよ?」
「世界を、優しさを教えてくださって、そして未熟な私を受け入れて育ててくれた」
「だから、私はこの身体でお兄様に頂いた分を返したいんです」
過去を振り返る、お父様やお母様の優しい愛情も確かにあった。
しかし1番側にいて寄り添ってくれたのはお兄様だ。
お父様とお母様は彼が私を甲斐甲斐しく世話を焼きながら成長するのを見守る方針を取っていた。
その為、ほとんどのデータは全て彼から学習したものが多い。
私という存在はお兄様で出来ていた。
きっとお兄様が居なかったら私は居なかっただろう。
「んな事気にすんな、俺はお前のお兄ちゃんなんだから」
「かわいい妹のために頑張るのは当たり前だろ?」
お兄様は平然と言って退ける。
本当にお兄様、貴方って人は。
何故こうも私の胸を高鳴らせるのか。
誘ってるんですか?
「うぇへへへへぇ」
思わず笑い声が口から出てきた。
余りの幸せに身体を捩るとお兄様がまたウナギと形容する。
今なら7カ国の連合軍が攻めてきても来ても私を止められないような気がした。
今ならお兄様の為になんでも出来そうだ。
霞「7カ国軍が来ても私は止められません」
(背後で流れるロックにサングラスを付けて擲弾銃を担ぐ霞の図)
サッカーでもお馴染みの曲ですが自分の中ではバトルフィールド1のイメージが強いです。
かっこいいよね、あの曲。