今回は結構長くなりました。
仕事から帰宅してからチマチマと作っていたので大変でした。
沙百合さん、霞と来たので次回からはナオくん達の話です。
「首が痛えなぁ」
昼下がりの我らがオフィスにアキトの呟きが響いた。
無理もない、いつもは見下ろしていた霞が現在では見上げる大きさになっているのだ。
「霞?ちょっと来てくれ」
「はい、お兄様」
彼が霞を呼ぶと彼女は小走りで駆け寄った、そこまでは良かった。
「ゔっ」
「わぁ!」
勢いよく霞がアキトに衝突し彼が苦しそうな声を上げた。
これで15回目だ。
「おいおい、大丈夫かアキト?」
「なんどが…」
私の問いに苦しそうに答えるアキト、うつ伏せに倒れる霞に潰されていた。
さて、どうしたものか。
「やはり霞ちゃんは自分の身体に慣れていないようです」
「修理屋はソフトウェアと機体は互換性があるといってたぞ」
沙百合さんの言葉にアキトが霞の下から反論していた。
彼が喋る度に霞が切ない声を小さく上げて震える。
昼間から私は何を見せられてるんだ?
「人間が小型自動車から大型自動車に乗り換えたら事故の確率が上がるのと同じです。」
淡々と解説する沙百合さんにアキトが唸った。
「つまり、コイツは自身のデカさを理解できてないと?」
「はい、ソフトウェアと機体に互換性があっても…」
「あくまでも前の機体での最適化だからこのボディだと上手く行かないって訳か」
「その通りです」
アキトとの会話を終えると彼女はこちらを向き顔を少し上に向けた。
相変わらずのムスッとした顔だがなんとなくドヤ顔の雰囲気を感じる。
褒めろという事だろうか?
「沙百合さんは物知りだねぇ」
私の気の抜けた声に彼女は目を少し見開いた。
あの顔は嬉しいのだろう。
「当たり前です、お姉ちゃんですから」
胸を張りご機嫌そうに鼻を鳴らす。
厳密にはプリセットの音源なのだが…まぁ、いいだろう。
上機嫌な彼女は頭を私に突き出して動きを止めた。
頭を撫でろとのことなのだろう。
とりあえず片手で撫でておいた。
霞がなんとか起き上がったことでアキトが解放されていた。
「ごめんなさい、お兄様…」
「霞、失敗してばかりで」
悲しそうに声を振させて言う霞にアキトはどうしたものかと後頭部を掻きむしる。
「あー、なんだ?そう落ち込むな、これから改善して行きゃあ良いんだ」
アキトは霞にそう告げるとしゃがむようにハンドサインを送った。
霞が小首を傾げてしゃがみ込む、ちょうどアキトより背が低いぐらいだ。
「お前はできる子だからな」
アキトはそう言いながら頭を少し荒い手つきで撫でた。
流石兄貴をしてるだけあり、霞は心地良さそうに目を細めていた。
「ケイ」
そんな二人の様子を眺めていた沙百合さんが振り返る。
「なんだい沙百合さん?」
私の返事も聞かずに頭を撫で始める。
アキトのお兄ちゃんムーブに影響されたか?
「ケイは偉い子、いい子いい子」
相変わらずピクリとも変わらない表情の彼女はご機嫌そうに言う。
絶えず私の頭を撫で続けていた。
私が幼少期の頃、よく彼女がしてくれたものだ。
生憎、立派に大人となった今では恥ずかしいから程々にして欲しいものだ。
「やめてくれよ沙百合さん、頭禿げちゃうよ」
「たとえ禿げたとしても安心してください、私は貴方のお姉ちゃんですよ」
「いや、なんも安心できないよ?」
私は彼女の手を掴んで頭から引き剥がす。
沙百合さんは力を込めて撫でる動作を続けようとする。
クソ!力強いな!
「仲良しだなぁ、俺ら外廻りしてくらぁ」
アキト!待って!助けて!
そんな私をよそに彼は出ていってしまった。
いや、本当に力強いな沙百合さん。
右手に注意が向いていた私の頭上に左手が飛来する。
右手と左手をそれぞれ両手を使い対処した。
そのまま取っ組み合い押し引きし合う、最終的にお互いに指を絡めて動きを封じるに至った。
「ふふっ、恋人繋ぎみたいですね」
ピクリとも表情を崩さない沙百合さんの口からそんな言葉が飛び出した。
「うわ…キモ」
少しニチャリとした声色に思わず私は手を離す、彼女の両手が頭に飛来した。
「掛かりましたねお馬鹿さん」
無表情からやってやった感溢れるオーラを滲ませながら彼女は両手で頭を撫で回し始めた。
「クソ!嵌められた!」
「姉に勝る弟は居ません、それにまだ私はハメてないですよ」
「そんな話はして無いよ!」
彼女がたまにする突拍子のない事にはいつもやられてしまう。
普段真面目な顔をしてるから尚更だ。
「相変わらず仲良しだねぇ」
宙ぶらりんになったままのナオが珈琲を啜りながらそんな事を言った。
「その言葉そのままお返しするよ」
私の言葉に彼はマルベリーの顔を見上げ、しばらくお互いに見合った。
マルベリーは感極まったように彼を自身の胸へ抱きしめる。
ナオが器用にデスクへマグカップを置くとマルベリーの肩をタップする。
しばらくすると彼はだらんと静かになった。
あぁ、家に帰りてぇ…
私ははマグカップに入ったブラックコーヒーを啜り切実に願った。
「お兄様」
「なんだ?」
巡回に出てからしばらくして俺らはドーナツ屋さんの前で休憩していた。
霞が私の名前を呼びこちらを見下ろす。
いつもは背の低い彼女が私を見下ろしている現状は未だに不思議な感覚だ。
「背の高い私ってどうですか?」
彼女の問いに私は腕を組んで考える。
いつもの霞の面影を感じる大人びた顔にスラリと高い背、肉付きはグラビアアイドルのように良い。
人間だったらクラスのマドンナだったに違いない。
当たり前だ、何せ俺の妹だぜ?血は繋がってないけど。
「霞が人間だったとして、大人になったらこうなりそうだなって」
「つまり、魅力的に見える?」
「そうだな、山ほど貰えるんじゃねぇの?ラブレター」
私の答えに彼女は顔を緩ませた。
なんだそのドヤ顔は?何がしたいのか俺にはさっぱりだ。
ご機嫌そうな彼女を横目に店内へと入る。
美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり、カラフルなドーナッツが並んだ棚が出迎える。
落ち着くBGMに思わずホッと安心感が湧いた。
視線を移せば店員の姉ちゃんは気の毒なぐらい顔が真っ青だ。
何事かと注視すればレジの前に居る二人組の男が振り返る。
黒の目出し帽と紙袋を被った二人が驚きの表情を浮かべた。
コイツら、強盗だ。
お互いに予期せぬ出会いにしばらく無言で見つめあった。
「お兄様!」
霞の叫びに我に帰る、私は脇の下のホルスターからP226を取り出して素早く構えた。
霞はスカートの下に隠すように太ももへ取り付けられたホルスターから特殊警棒を取り出すと一振りして展開した。
「国土安全委員会だ!両手を見える所に上げろ!」
二人の男は私が叫ぶと鉛玉で応答した。
店員の姉ちゃんは怯えるようにレジカウンター下へ隠れ、私もパーテーションの裏に身を投げた。
二人の男が私を銃撃し注意が外れた瞬間を霞は見逃さない。
素早く前へ飛び出すとスラリと長い足から繰り出された蹴りが男の腹部へ直撃した。
飛び出した速度が乗った蹴りに男は吹き飛ばされ椅子とテーブルを倒しながら吹き飛んだ。
「このデカ女!」
紙袋を被った男が霞を銃撃する。
拳銃弾の被弾に彼女は動じる事なくそのまま歩みを進めた。
その姿に怯えた男は弾切れにも気付かずに引き金を引き虚しい音を響かせる。
彼女は手に持った特殊警棒で男の銃を叩き落とすと胸ぐらを掴んで持ち上げた。
「お兄様とのデートを台無しにしましたね…」
低くそう告げる彼女に男は半べそを描きながら首を振る。
お前、巡回業務をデートだと思ってたのかよ!
内心彼女にツッコミながら、霞を止めた。
余りにも見ていてかわいそうに思ったからだ。
「そのぐらいに」
そこまで言いかけた時、炸裂音が響き私の真横を弾丸が掠めた。
先ほど蹴り飛ばされた男がこちらに銃撃しつつ裏口へと駆け出して行く。
机を盾に頭を下げて鉛の雨をやり過ごす。
裏口へと男が飛び込んだ。
拳銃の安全装置を解除し、男の消えた入り口から照準を外さずに近づく。
霞は手早く手錠を制圧した紙袋男に掛けると小走りで私の背後へと移動した。
「霞、撃たれたけど大丈夫なのか?」
男の消えた扉から目を離さず霞へ問いかけた。
彼女はホルスターから拳銃を引き抜き安全装置を外す音を響かせた。
「アダルトモデルなので多少は大丈夫です」
「ちなみにそういう事もできますよ?お兄様?」
アダルトモデル、軍用品の素体によく使われるモデルだ。
前の霞のモデルのような小型モデルは冷却用擬似血液量が少ない為、被弾は致命的損傷に直結する。
しかし、アダルトモデルと呼ばれる規格は内部積載量が大きく、自己閉塞型修復システムや擬似血液予備回路など様々な物を付けられる。
それはもちろん、そういう大人なパーツも対象に含まれる。
「妹にそんな事する訳ないだろ」
私の答えに霞は不満そうな声を上げた。
先ほどの霞の動きからセクサロイドの外装だがパワーシステムは軍用である事が考えられる。
思い返せば仮素体の仕様書には軍用型番とセクサロイド型番が混在していた。
セクサロイド特有の滑らかな動きに軍用のパワーシステムが合わさり人間に近い近接格闘が行えるのだろう。
「お兄様、行けます」
「了解」
霞は私の前に躍り出るとP230JPを構えて扉へゆっくり近づく。
私は後ろに続いて追従するがポイントマンである彼女の肩に手を置けない為、彼女の背に手を置いて進む。
「お兄様、楽な位置に手を置いていいんですよ?」
「お前よ、俺にケツを掴めって言ってんのか?」
「私は全然いいんですよ?」
「良くねぇよ」
そんなやり取りをしているとあっという間に裏口への入り口に着いた。
「国土安全委員会だ!大人しく武器を捨てて投降しろ!」
怒鳴り声に応答はない。
私は霞の肩に手が届かないのでケツを叩いて合図する。
「んっ」
霞が変な声を上げると室内へ突入して行く。
なんだか調子が狂うな。
彼女に続いて室内へ侵入する。
業務用倉庫の窓に男の顔が見えた。
私は駆け寄りドアノブを引くが扉はロックされている。
「クソ!ブリーチングは車の中だぞ…」
「お兄様、お任せください」
悪態を吐く私を押し除けて霞が扉から距離を取る。
助走をつけて扉に蹴りをお見舞いした。
扉は大きくひしゃげ、隙間が開くと霞は腕を入れて掴むとメキョメキョと扉を剥がしてしまう。
我が妹ながら恐ろしい光景だ。
「あ、見つけましたぁ!」
彼女は扉をクズゴミをそこら辺に放り出すように捨てると男を見つけて嬉しそうにしている。
「降参!降参だ!」
男は銃を床に放ると両手を挙げて膝をついた。
そんな様子に私は余りにも可哀想なので優しく手錠をかける。
「お兄様、背の高い私も悪くないでしょう?」
そう微笑み問いかける彼女に私は苦笑する。
「そうだな、どんなお前も俺の妹だよ」
私の答えにを聞いて更に笑みを深めると身体をくねらせた。
デカいとなんかさらにキモいな。
こうして無事、強盗犯は全員逮捕された。
アキト達が強盗犯を逮捕した日から3日ほど過ぎた今日、我らがボスこと局長がコーヒーを片手に朝礼を進めている。
「アキトは昨日、修理が完了した霞の素体を受け取りに行って…」
「おはようございます!」
「おはようさん」
局長がアキトの不在を言いかけた時、霞の元気な挨拶とアキトの気怠げな挨拶が部屋に響いた。
なんだな似たやり取りをした気がする。
「霞ちゃん、復帰おめでとうございます!」
「おめでとー!」
「おめでとうございます!霞お姉様!」
どこからか取り出したパーティー帽子と鼻メガネをつけた沙百合さんがクラッカーを鳴らした。
燕とマルベリーもパーティー帽子を被っている。
「ありがとうございます!みなさん!」
「いつもの霞ちゃんが帰って来たねぇ」
霞が笑顔で感謝を述べるとナオがしみじみと呟いた。
相変わらず、燕に持ち上げられている。
「これで霞に潰される事も宙ぶらりんにされる事もねぇな」
「私、少し残念です」
アキトの言葉に霞が少し残念そうに返した。
「オメェ、アレ結構尊厳とか心に来るんだぞ?」
少しげんなりとした声でアキトは告げると少し粗雑に自分の椅子に腰を下ろした。
「あー、とりあえずだ」
局長がわざとらしく咳をして口を開く。
そうだった、朝礼の最中じゃん。
「各員、より安全に留意し業務に取り組んでくれ」
「私からは以上だ」
各々が自分のデスクに帰って行く。
あ、沙百合さんは鼻メガネとパーティー帽子は付けたままで仕事するの?
局長はマグカップとバインダーを机に置き霞に向き直った。
「霞、復帰おめでとう」
真面目な顔から柔らかな笑顔を見せて局長は霞に告げる。
霞は笑顔で敬礼を返すとアキトの膝上へ飛び乗るように腰を下ろした。
「ねぇ?お兄様?」
「どんな私でも愛してくださいね?」
アキトを見上げながら霞はそう投げかけた。
「当たり前だ、なんたってお前のお兄ちゃんだからな」
アキトが笑顔を浮かべそう返すと満足そうに霞は笑った。
私はそんな様子を眺め、自分のマグカップに口をつける。
ブラックコーヒーが甘く感じていた。
アキト(あの滑らかな近接格闘いいなぁ…セクサロイド用外装と関節システム、軍用パワーシステム付けとくか)⦅男の子特有の魔改造浪漫⦆
霞(セクサロイドの外装パーツ?!つまり、そういう事ですね?!お任せください、お兄様!)⦅深刻な誤解⦆