「こちら16号車、現着」
「CP了解、十分注意されたし」
車載無線機のマイクを放り投げパトカーの扉を勢いよく開け放つ。
助手席へと視線を向ければ沙百合さんが散弾銃を構えながら降車する。
私も車外へと飛び出した。
じっとりとした湿度が吹き付け、夏空の青が私を染め上げる。
ギラギラと輝く太陽が私の肌を焼く。
半狂乱のような奇声がカフェテリアから聞こえて来ていた。
また同じ事件だ。
腰のホルスターからHK45Cを取り出しチャンバーをチェックする。
「ケイ、自動小銃を持っていきましょう」
散弾銃は構えたまま沙百合さんは親指を立てた手で後ろを指差した。
私は駆け足でトランクへと取り付く、いつものHK416Dと弾薬が入った斜め掛けバックに腕を通して身につける。
沙百合さんの銃口は一切のブレなく店内を捉え続けていた。
「沙百合さん、行けるよ」
彼女の背後に位置取り肩を叩く。
カフェテリアは混乱を極め、我先にと客が飛び出している。
彼女がゆっくりと店の入り口に近づき、私も後に続く。
「国土安全委員会だ!武器を捨てて投降しろ!」
いつもの台詞を怒鳴りながら店内に入ればエプロンを身につけた接客ドールが数体ほど、俯き啜り泣いている。
手には赤く染まったナイフが握られていた。
「国土安全委員会だ!武器を捨てろ!」
沙百合さんの肩に手を置きながら自動小銃を構える。
ピンと張り詰めた空気、緊張で手が震えてきた。
脆弱を破ったのは接客ドールだった。
「嫌だ!嫌だ!いやだ!こんな事したくない!」
彼女はそう叫びながらナイフを振り上げ私に接近してくる。
沙百合さんは躊躇なくナイフを持った彼女の手を散弾銃で吹き飛ばした。
青い擬似血液が飛び散る。
精神ストレスと擬似痛覚信号でOSの処理が停止したのか彼女はガクリと床に膝をついた。
彼女が床の血溜まりへ倒れ込む音を合図に他の人形達がゆっくりとこちらを向く。
私達はしばらく帰してもらえないようだった。
「ケイ、沙百合」
「対応ご苦労だった」
局長からの労いの言葉に椅子から立ち上がり軽く頭を下げて答える。
それよりも皆手元の資料に釘付けだ。
事の始まりは頭上から降り注ぐ冷気の心地よさが消えた頃、私達の緊急対応が終わり事務所にて休んでいた時の事だ。
サボりに来た刑事課の課長や事務方の子以外で機動任務部隊事務所に来客が訪れた。
ドーナツの箱を片手に来た局長殿と見知らぬメガネの女。
燕ちゃんがドーナツの箱を受け取りご機嫌に給湯室へと消えて行き、マルベリーが来客用ソファへと案内した。
全員に資料が分配され今に至る。
「暴走したドールのデータ解析の結果、今回の事件はキルドール事案の再来であると確認された」
局長の怖い顔が更に険しくなる。
やめてやってくれよ、彼女気にしてるんだからさ
「そのため今回はドールメーカー、東星工業より保安対策部門のリナ・フナモリ氏の協力の元対応する」
局長の紹介でリナさんは会釈をする。
皆、それに釣られて頭を下げた。
「早速ですが本題に入らせていただきます」
資料の内容に目を通す。
皆が釘付けになっているのは中程の頁にあった報告内容だ。
キルドール・グリッジは一体のドールが作り出したシステムであり、未だその機体を発見できていない点だ。
「このグリッジは人形の行動ロジックに作用し擬似人格制御を回避し、制御する弊社の緊急統制プログラムの改良型であり…」
「全機種に搭載されています」
彼女の淡々とした解説をBGMに資料を読み進める。
「お宅の会社にはないのか?その…ワクチン?」
「アキト、セキュリティパッチ的なヤツ?」
「多分それ」
彼女の解説にアキトが質問を投げかけた。
多分ナオが一番詳しいのでリナさんとの通訳に立ってくれている。
私はど素人なので話について行くのがやっとだ。
「緊急統制プログラムのアップデートで現在まで何とか凌いでいたに過ぎません」
「どの機種も物理的にもシステム的にも徹底的にまるで病的に自壊してしまうんです」
リナさんの目に憂いの色を感じた。
「感染したシステムデータがあれば解析ができるのですが…それこそ感染した外付けの記憶媒体などでも…」
「記憶媒体?USB的な?」
「お兄様、私たちは足がついたPCじゃないんですから…」
彼女の言葉にアキトが再度疑問を投げかけ霞が苦笑いする。
「そうですね、それに近しいモノと考えて頂いて結構です」
「初期のモデルはカチューシャやヘッドホンタイプ、今の主流は髪飾りやリボンタイプが一般的です」
「髪飾り…?」
彼女の解説にナオが思い当たる節があるようだ。
隣に立つ沙百合さんは話に飽きてきたのかチョコドーナツを口に押し付け始めた。
一口齧ると彼女はご機嫌そうに口元を緩ませ自身も齧り付く。
あの、自分の分あるじゃん?沙百合さん?
「はい、外付け機器はアクセサリー性を持たせて目立ちにくくしておりますので…」
リナさんの言葉でナオが意を決したように切り出した。
「あるかもしれません、データ」
「本当ですか?」
ナオの言葉にリナさんは椅子から立ち上がる。
背後の燕ちゃんが心配そうに彼を覗き込む、マルベリーも不安気な顔だ。
過去に話は聞いていた。
彼にとって最初のドール、柊の事だ。
キルドール事件の被害者でありナオの家族でもあった。
その事件は彼の心に大きなキズとして残っているのだろう。
サギリ峠の事件では単身で先行し燕を助けに行った事から何となくそう感じていた。
あの時の彼にはどうしようもない、最善の選択であり他に道はなかった。
しかし、彼の中で彼自身が許せないのだろう。
「私のドールの遺品ですが…役に立つのなら…」
「使ってやってください、彼女もその方が喜ぶ筈です」
彼の言葉にリナさんは気押されるように首を縦に振った