炸裂する銃声が狭い空間に反響する。
HK416Dの弾倉を交換、ボルトリリースボタンを叩き照準を合わせる。
ホログラフィックサイトのレティクルが目標を捉えた。
指切りの3点射、銃弾が目標の周りに着弾。
思わず大きな溜息を吐いた。
「ケイ、左手側の追加講習が必要ですね」
隣に立つ沙百合さんがムッとした顔で此方を見ていた。
局長との楽しいお茶会は終わりを迎え、命令が下るまでは手持ち無沙汰となってしまった。
普段なら他部門の応援業務なのだが、今回の案件では緊急出動部隊として待機しなければならない。
という訳で私達は署内の射撃場へと足を運んでいる。
彼女が背後から私の手を取り足取り指導を始めた。
左手側の射撃精度が絶望的なのが原因だ。
「沙百合さん、勘弁してよ」
「ダメです、ケイの為になるんですから」
彼女な頑固な部分が発揮されていた。
射撃姿勢の矯正が終わり単発射撃から始める。
目標への射撃を実行、10発中4発外してしまった。
連発に切り替えて指切り3点射、20発中5発外れる。
「どうですか?沙百合さん?」
私は教官殿にお伺いを立てた。
彼女はムッとした表情のまま唸り出す。
「まぁ…良しとしましょう」
「やったぜ!」
彼女のお許しで指導は終了、私は右手に銃を持ち直し弾倉を交換する。
ボルトをリリースし初段を装填、射撃を開始する。
単発5発、連発に切り替えて指切り3点射。
目標3つを確実に仕留める。
ホロサイトの手前に取り付けられたブースターを手前に引き出す。
遠くの目標2つに単発で4発からの指切り3点射。
3つの目標に的確に叩き込んだ。
火薬の匂いが鼻をくすぐる。
あぁ、キマったな。
「左手でも、これぐらいになりましょうね」
彼女の指摘が突き刺さる。
耳が痛い話だ。
「お疲れ」
背後からの挨拶に思わず振り返る。
同僚のアキト・ユウリだ。
「連絡の件ありがとう」
「結局連行されてたな」
私はお礼の言葉を述べ、沙百合さんが深々とお辞儀をする。
そんな私達を見て彼は笑って返した。
「アキトさんも今回の案件に?」
沙百合さんが問いかけた。
彼女は誰かを探しているようだ。
「はい、お兄様と一緒に」
優しい声が彼の背後から聞こえ、彼が驚きの声をあげる。
「お兄様、私から離れる時はちゃんと教えてね」
彼の背後からひょこりと現れた彼女、雪の様に白い髪に肌、深い青色のカメラアイ、アキトの相棒だ。
彼女は幼さが残る声でねっとりと忠告した後、彼の顔を眺めている。
彼と並ぶと彼女の低い背が際立っていた。
「霞ちゃん!」
沙百合さんが嬉しそうに声をかけると彼女もそれに応えるように喜んだ。
「お姉様!」
沙百合と彼女は駆け寄り手を取り合うと楽しそうな会話を始める。
霞、アキトの妹を名乗るドールだ。
彼が幼い頃にやって来た彼女はお兄様と呼び慕っていた。
今思えば変だよな自分よりデカい妹だぜ?
そう笑って彼は振り返る。
彼女の製造年月日で見れば確かに彼が先に生まれていた。
ウチの沙百合さんは後から入職したので彼女の方が先輩だ。
「どうだい?調子は?」
私は彼に問いかけると少し困った顔で話し始めた。
「局長からの依頼が来てから四六時中ずうっと一緒。」
後頭部を掻きながらどうしたもんかねと呟く。
確かに過保護な面やめんどくさい面はドール所有者なら誰しも体験する。
ウチの沙百合さんは一時期過保護になり、箸すら持たせてくれなかった。
「お前のが羨ましいよ」
アキトはそうポツリと溢すと霞が凄い勢いで振り返った。
「何かいいましたか?お兄様?」
「なんでもねぇよ」
アキトは気まずそうにハードコアケースから自分の武器を取り出す。
XM177E2、彼の武器だ。
M4のプロトタイプに当たる武器でコンパクトな全長を持つが、銃身が短いため発射炎が大きい。
古い銃だが、毎分750から900発の発射レートを有する強力な火力を持っている。
「お兄様、何か必要なものはありますか?」
「ん?特にはないぞ」
彼は慣れた手つきで弾倉に弾を装填していく、その傍に霞が付いて新しい弾倉を手渡していく。
「そう言えばナオは?」
作業の手は止めず、アキトは私に問いかけた。
ナオ・オクタ、私たちの仲間の一人。
彼のドールの燕ちゃんといつも一緒だ。
背の低い彼と背の高い燕の凹凸コンビだった。
「いや、見かけてないな」
今日はまだ彼らに会っていなかった。
彼自身は活発な性格ではないので粗方燕ちゃんに連れ回されているのだろう。
「どうやら、市内のカフェに居るそうです」
沙百合さんが口を開いた。
「燕からメッセージが、楽しんでいるみたいです」
少しゲンナリしている沙百合さん、きっと惚気話を聞かされたのだろう。
私から見て燕の性格は人懐っこい大型犬の様な印象を感じる。
基本物怖じせず、誰とでも友達になれる子だ。
「燕ちゃんらしいですね」
霞がくすくすと笑った。
そんな彼女に彼は珈琲を頼むと私の隣に並び立つ。
沙百合さんは彼女について行ったようで、辺りを見渡した時には居なくなっていた。
「まぁ、俺も一旦家に帰ろうとは思う」
アキトは弾倉を差し込み初段を装填した。
私も空の弾倉に弾を込める。
「あー、風呂とか?」
作業は止めずに彼へ質問を投げかけた。
視界には5.56mmの銃弾、1発1発手作業で装填していく。
「ここのシャワー室はちょっとね」
「あー、くっつき虫だもんな」
彼の言葉で察しが付く、霞の件だろう。
「あまり邪険に扱いたくもない手前、対応に困る」
「危ない仕事だからこそ尚更過敏になっているのでは?」
私の傍から移動し、彼はレーンに立つと銃を構える。
「だから一緒に働く様にしたんだけどな」
咆哮のような銃声が鳴り響き、銃口から火炎が吹き出す。
弾倉一つ全て打ち尽くして彼は銃を下ろした。
「そんなに信用ないかねぇ俺」
肩を落とす彼は銃から弾倉を抜き取った。
私は後ろに視線を向ける、沙百合さんと霞がコーヒーメーカーの前で談笑している。
職員所有人形雇用制度。
生活の質向上を目的に開発されたアンドロイド、人形やドールとも呼称されるが今やありふれたものとなり日常に同化している。
パーツやソフトの組み替えで彼女達は医療、接客、警備等様々な分野で活躍していた。
そうした組み替えオプションの中に武装オプションも含まれる。
司法機関などの身辺調査と特別自立行動人形免許の取得、各種届出などの手続きが完了すれば購入可能である。
店舗や公共機関などの警備名目で配備され、元々の民間機に少し手を加えるだけでいいお得感溢れるコレは瞬く間に広まった。
静かな軍拡、どこかの誰かが言っていたが言い当て妙だった。
無論、その波は司法機関でもそうだ。
職員の所有するアンドロイドを雇用する事で機体自体の高い導入コストを抑えながら配備する計画。
沙百合さんもこの制度で私と仕事をしている。
もともとは生活サポートがメインの為、リンクを結んだ所有者の健康状態の把握や応急処置機能がついている。
彼もその恩恵を受けていた。
過去に銃弾を受けた際にはこのリンクで霞の応急処置で一命を取り留めていた。
彼女は多分あの時の事をまだ気にしているのだろう。
「お兄様、珈琲お持ちしましたよ」
霞が湯気が上る珈琲を持ってきた。
沙百合さんもその後に続いている。
「おー、サンキューな」
「沙百合さんもありがとうね」
アキトと私は二人に礼を述べて受け取り口をつけた。
いつもの味と香り、所内に設置された自販機の物だ。
私は一気に飲み切った、沙百合さんが手を差し出してくる。
ゴミを寄越せということだろう。
飲み切った紙コップを手渡した。
「ケイ、呼び出しが来る前に帰ったほうがいいぞ」
アキトが霞の頭を撫でながら言った。
確かに彼と同じように家に帰ったほうが得だろう。
「なら、この練習で最後にしましょう」
沙百合さんが張り切っている、まだ私は帰れそうになかった。
追記 心霊現象が発生していたので修正しました。