「それで、防衛隊に大強盗をかけた大馬鹿者について少しは分かったのか?」
パトカーの後部座席でアキトが局長に問いかける。
私はと言うと道交法ギリギリの運転で目的地に向け車を走らせていた。
「最近勢力を伸ばしつつある半グレ集団だ、取引先はシベリア」
通話音声をスピーカーにしているため、パトカー内に局長の声が響く。
「旧露の軍閥か」
かつて隣の国に侵攻し泥沼の消耗戦となった大国は国内不満の高まりから崩壊、各軍管区の軍閥が覇権を巡り熾烈な内戦へと発展していた。
「戦争をすれば兵隊が必要になる、そこでアンドロイドに目をつけた」
「でもよ、肝心の器になるヒトガタがなけりゃ意味ないじゃんよ」
アキトが不思議そうに呟いた。
局長は苦虫を噛み潰したように答えた。
「海外からのドールやジャンク部品の購入が一般的だが、国内の一部ジャンク部品の流出も確認されている」
「内戦が始まってから多いもんな、そういう事案」
懐かしそうに言うアキト、確かに内戦が始まった後から激増している。
ジャンクを売り大金を得ていて、我が国の国民より裕福だろう。
「悪い事して儲けてるんだ、そろそろ年貢を徴収しなきゃな」
私の言葉に沙百合さんは眉を顰めた。
「国内治安悪化の要因に絡んでいるのは間違いない、ここで仕留めて置きたい」
「ケイやアキトに苦労をかける事になってしまって大変申し訳ない」
申し訳なさそうな声色の局長、彼女の立場を考えると私達に仕事を押し付ける形になるのは仕方がない。
しかし、それに甘んじず、こう言う気配りが出来る彼女は真面目と言うか律儀というか。
「姉貴、社交辞令はいい」
「やるのか?やらないのか?」
「どっしり構えて命令してくれ、でないと格好つかないやろ」
立場的に必要なんだろうけどさ、と言うアキトの言葉に局長が少し呻いた。
私らの先輩であり上司であった彼女は様々な部門との合同捜査で素晴らしい功績を多々残しており、気がつけば雲の上の人になっていた。
彼女のデスクに二人並んでお説教を受けたのは良い思い出だ。
しかし、仲間として仕事をしてきた私達からすればそんな前置きはいらない。
昔みたいに言って欲しいと思っていた。
「アキト、ケイ、やってくれ」
昔のように命令する局長、久しぶりの感じだ。
「まかせろ姉貴」
「了解」
私達の返事に彼女は嬉しそうに笑った。
「現地にはナオが待機している、装備は一式彼に持たせてある」
「それと沙百合、あと霞も」
「はい」
「なんですか局長?」
局長が沙百合さんと霞を呼んだ。
「くれぐれも無理はしないでくれ」
局長に噛みついた二人だ、多分無茶をする事もお見通しなんだろう。
「仰せのままに」
「お任せください」
二人の返事に少し心配そうに彼女は唸った。
わかるよ姉貴、私も不安になった。
内心で彼女に同意して車を走らせる。
局長が別れを告げて通話を終了し車内に無言の空間が広がる。
私は気まずさから車載ラジオの電源を入れた。
丁度、ポップロックが流れている。
しばらく走らせて行くと目的地付近に装甲車が止まっていた、ナオと燕だろう。
脇に車を止めて車を降りると装甲車から人が出てきた。
「デート中に呼び出されて災難だったな」
「デートじゃないし!」
アキトの冗談にナオが答えた。
彼を背後から燕が抱きしめる形で密着していた。
「えー!ご主人様とのデートだと思ってたのに!」
そんな彼女は抗議の声を上げる。
「だって、あそこのカフェで食べられるパンケーキ食べたいって駄々こねたから…」
「私の心を弄んだの!ひどーい!」
またいつもの痴話喧嘩が始まる、大体その後の惚気とセットだ。
「とりあえず事を片付けましょう」
沙百合さんの言葉に一同、真面目な雰囲気に切り替わった。
ナオから情報を受け取り装備を確認する。
被疑者達の居るジャンクヤードの見取り図とホシの顔写真。
「いかにも悪そうな顔だな」
アキトがボディアーマーを着ながら顔写真を眺め呟いた。
そんな彼を霞はくすくすと笑った。
「お兄様もいい勝負だと思いますよ」
彼女は40mmリボルビング擲弾発射機に紫の線が入った弾薬を手慣れた手付きで装填する。
「それどういう意味だよ?」
「お兄様の顔は素敵って事です」
思わず問い返す彼に霞は笑顔で答えた。
「上手い事煙に巻かれた気分」
なんとも言えない顔のアキトがこちらを見る。
そんな彼に肩をすくめて見せて私も準備に取り掛かった。
いつものボディアーマーとヘルメットを取り出した
銃弾が装填された弾倉と無線機が付いているボディアーマーを身に付け、トラウマプレートを挿入する。
背面のプレートは沙百合さんが入れてくれた。
ヘルメットにはヘッドライトが左側頭部に、右側頭部には沙百合さんが使うヘッドカメラが付いている。
ヘッドカメラを彼女が覗き見る事で別行動時の私の行動や状態を確認でき、危機的状況をいち早く把握できるのだ。
ハードコアケースには射撃場で使ったカスタム済みのHK416Dに閃光手榴弾、HK45Cにはレッドドットのサイトとタクティカルライトがついている。
弾倉にはそれぞれ5.56mmと45ACPが装填されていた。
「ケイ、忘れ物はありませんか?」
いつものメイド服に白い重防御型ボディアーマーを着用した沙百合さんが脇から覗き込んだ。
「大丈夫だと思う…たぶん」
「多分って何ですか、はっきりしてください!」
眉を顰めた彼女が私に詰め寄った。
私は彼女を押し除け、自動小銃のスリングに体を通した。
「勝負に出てみないとわかんないよ」
「心配性ですね」
私の言葉に沙百合さんが溜息を吐いた。
君にだけは言われたくないな…と思ったのは内緒だ。
アキトも準備を終え、煙草を咥える。
彼の背後からスススと出てきた霞が彼の煙草に火をつけた。
「お兄様、本日8本目ですからこの後はダメですよ?」
火をつけ終わると彼女は彼の右隣に移動する。
背中に背負った大きな擲弾発射機が揺れた。
「あと4本は吸いたいなぁ」
彼がそういうと霞の顔が険しくなる。
それを見た彼は大事そうに火のついた煙草を吸い込んだ。
ナオが車の窓を開ける。
助手席にはちょこんと燕が座っている。
「僕らは所定の位置から援護するから…ご武運を」
ナオと燕が手を振り出発する。
私達は手を挙げて答えると彼らは夜の街に消えていった。
缶のジュースを飲み干して空き缶カゴに投げ入れる。
「上手です」
沙百合さんからのお褒めの言葉をいただいた。
夜の闇を街灯の光だけが照らしている。
「じゃあ、始めるか?」
アキトが左肩辺りに着いた無線機のスイッチを入れる。
「機動隊現着、状況対応を開始します。」
「こちらキング、了解した。」
局長が返答を返す。
夜勤業務開始だ。
私達はパトカーに乗り込みエンジンを掛ける。
表の通りはパトカーのサイレンがうるさく響いていた。
ライトを担当させ、サイレンを鳴らす。
パトカーのエンジンを噴かして点検する。
退け退け、機動任務部隊のお通りだ!
私はアクセルを踏み込み発進した。