LAD-T-Lilium。
それが私の型式です。
現在のマスターはケイ・ミタケ、私の弟。
いえ、血も繋がっていませんし、私は人形ですから、厳密には違います。
しかし、彼が生まれてから今まで一緒にいるため姉を名乗っても問題ないはずです。
異論は私が許しません。
さて、私が購入された時の管理者登録は彼の祖父母でした。
お爺様は頑固で口数は少なかったですが思いやりのある方で、お婆様は世話焼きが大好きで、お二人は私に実の孫娘のように接してくださいました。
起動して間もない私は右も左も分からず、不安定要素や不確定要素が多々ありました。
そんなお二人にこの世界を教えて頂いた事は今でも私のメモリーに強く保存してあります。
今でも会いに行くとお二人はとてもお喜びになられ、私も嬉しいです。
そんな二人と数年ほど過ごしたある日、彼の両親がやってきました。
奥様と旦那様もとても優しい方で私を娘のように扱ってくださいました。
そんなご夫妻になんとお子様が出来たため、報告にいらっしゃいました。
お爺様とお婆様は大変お喜びになられ、まだ生まれていない我が子の為にニットの帽子を作り始めるほどでした。
奥様が手招きし、私が傍に向かうと手をお腹に当てるように促されました。
私は初めての経験で力の出力に困っていると奥様は私の手を引いてお腹に接触させます。
その時、確かにセンサーで検知しました。
お腹の子が蹴る振動が私のセンサーユニットを通り受信する。
私は未知の体験に思考回路を唸らせているとお婆様が言いました。
「沙百合ちゃんはお姉ちゃんになるのよ」
その時は理解できませんでしたが、奥様が出産を終えてお子様と一緒にいらした時に理解ができました。
奥様の腕の中に抱かれた小さな命、製造ラインなどなく、唯一無二の代わりのない命。
その小さな息遣いに様々な悪い予想が頭に浮かんできました。
きっと想定できる全ての事案を彼は生き抜く事のできません。
世界に一つだけしかないのに恐ろしく不安定で儚い命。
しかし、同時に無限に匹敵する可能性の未来をこの命はもっている。
私はそれを目の前にして弾き出した答えは一つだった。
護らねばならない、そして幸せにしなくてはならない。
先に生まれた者として、お姉ちゃんとして、私は強く認識しました。
お爺様、お婆様が子供の面倒は大変だろうと私の管理者登録をお母様に移しました。
離れ離れになるのは少し残念でしたが、お姉ちゃんとしてこれからを助けてあげて欲しいとお婆様からの『お願い』をされ、私はご夫妻のお家での生活が始まりました。
そこからの月日は本当に瞬きする間に移り変わりました。
彼の成長はあっという間でした。
泣いている顔、指を握ってくれた事、素敵な笑顔を見せてくれた事、初めての離乳食、初めて寝返りを打った事、這い回る姿、私の名前を舌足らずでも言ってくれた事、初めて立ち上がった時の事、歩いた日の事。
ご夫妻と共に彼の成長を見守りました。
全部全部、私は覚えております。
大きくなるに連れて彼はとてもパワフルになっていきました。
おぼつかない足取りでついて来ていた彼がお姉ちゃんと呼び後ろをついてくる姿に感動を覚えました。
覚えておりますか?保育園で作った折り紙のリボンを私に付けてくれた事。
あの時のリボン、まだ大事に残してあるのですよ?
あと、大きなニホンアマガエルも下さいましたよね。
大っきいのあげると下さったアマガエル様は残念ながらご帰宅させましたがとても嬉しかったです。
そういえばニホンヤモリを下さった時もありましたね。
彼は初代窓際防衛大臣として網戸の向こうで立派に職務を遂行して、亡くなった時は私のエプロンを掴んで泣いていましたよね。
鼻水でぐちゃくちゃになったのは今でも覚えております。
いえ、怒ってませんよ?いえ、全く、ええ、全然。
あと、私にビームを出してと強請った時もありましたね。
私にそんな機能搭載されてないと申しても聞いてくれなかった事覚えております。
私に対して全幅の信頼を向けてくださり、なんと言いますか…嬉しかったです。
しかし、時間が流れるに連れて私の体は限界が近づいてきました。
段々と部品の替えがなくなり、機能の衰えから私が倒れてしまった事もありました。
あの時は一緒にボール遊びをしていましたね、ケイが泣きながら玄関に引きずってでも運んでくれた事は大事に記憶しております。
そして、私の処分に泣きながら反対した事。
私は大量量産品の一つに過ぎません、奥様や旦那様の迷惑になるぐらいなら処分して欲しいと言った私をケイは抱きしめてくれました。
その時の温度、湿度、ボディに付加された力、カメラ映像、接触センサーから読み取った感触、全て大事に保存しております。
変えの効く私を大事な人として扱ってくれた事、とても嬉しかったです。
そんな様子を見た奥様と旦那様が私のOSと記憶を新しい身体に移してくださりました。
新しい体になる度にケイは本当に私なのか不安になっていましたね。
私もケイに拒絶されてしまうのでは?と最悪の想定ばかり演算して擬似精神がエラーを吐きそうでした。
いつものように過ごすうちに私だと安心してくれて内心ホッとしていました。
家庭用電源蓄電池方式からバイオ発電方式に切り替えた時、ケイは食事をする私を見て一緒にご飯が食べらると喜び私の口にお菓子を詰め込んだ事もありましたね。
人に食べさせてもらう経験は新鮮で私はとても嬉しかったです。
流石に口が塞がるのはどうかと思いますが。
話が大分脱線しましたが長い時間一緒に過ごして来ましたね。
しかし、これからも私は変わりません。
貴方のお姉ちゃんとして、これからも側に置いてくださいね。