青空は”一番星”と共に   作:花札闘志

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プロローグ 旅を終えて

ひらり、と桃色の花弁が宙を舞う。

暦は4月。

世間一般では出会いと別れを謳う季節。

誰もが期待と不安を抱く廻りの刻。

そんな一幕を慈しむかのように咲き誇る桜並木の淡い香りが鼻の奥をくすぐった。

 

 

見えてきたその場所で、一度歩みを止める。

『私立 初星学園』

これから何度も潜ることになるアーチ状正門越しに澄んだ青空を見上げて、ひとつ深呼吸。

緊張がないと言えばうそになる。

だがそんな心情を心地よく感じる自分がいた。

よし、ともう一度深呼吸をして再び一歩を踏み出した。

 

 

つつがなく入学式、オリエンテーションを終えてしばしの自由時間に校内を進んでいく。

新学期特有の喧騒を懐かしく感じつつ、やがて目的の場所に辿り着いた。

 

————コンコン

 

「どうぞ、入り給え」

 

重厚な木製の扉をノックすれば渋みのある声音が返ってきた。

失礼します。とこちらも応じて扉を開く。

 

「やあ、待っていたよ。・・・と言っても、さして驚くことでもない。なぜなら、今日この日にキミがここに来てくれることを確信していたからね!」

 

中に足を踏み入れると、部屋の主が声を弾ませて出迎えてくれた。

そして「だが、どんな時でも形式美は大切だ」と言って朗らかに笑みながら続けて言う。

 

「ようこそ、初星学園プロデューサー科(・・・・・・・・)へ。キミの新たな門出を歓迎しよう———藤丸立香君」

 

これは、かつて人類最後のマスターとして冠位指定(グランドオーダー)を駆け抜けた、今を生きる人間の新たな旅路。

戻ってきた(・・・・・)ありふれた日常から始まる、まだ見たこともない景色を探すちっぽけな物語なのである。

 

 

さて、事は遡ること数か月前。

『人理焼却』と『人理漂白』

2度にわたる世界の滅亡に曝されながらも、多くの助けもあって未来を勝ち取った彼は現在———

 

「ふいぃぃぃ、やっと終わったぁ-・・・・・・」

 

絶賛ベンチでだらけていた。

とある公園の一角でだらしない姿をさらしているが、今は全体重を背もたれに預けることに何とも言えない脱力感に身を任せる。

 

『そうだそうだ~、難しいことなんて考えず怠惰に行こうぜYO~』

 

ほら、どこかの大天使様(イマジナリー)のお墨付きだってあるんだ。

それに誰にも迷惑をかけてもないから文句を言われる筋合いもないのだよキミィ。

・・・なんて、心の内でゴッフ所長の口調をマネてみたり。

そんな誰に対してなのかもわからない言い訳もそこそこに、少しだけ身体を起こす。

その視界に映るのはなんてことはない、特別なことは何もない平凡な光景。

あぁ、本当にいろいろなことがあった。

焼却された歴史を修正し、限りある命を憂いた憐憫の獣を打倒した。

漂白された世界に根付いた空想を切除し、異星の神を討ち倒した。

元々はただの数合わせの補欠がよくもまあ、ここまで辿り着けたものだと今でも思う。

たくさん泣いた。たくさん怒った。たくさん悔やんだ。そして———それ以上にたくさん笑った。

果ての見えない道のりに何度もくじけそうになりながらも、すべてのオーダーを終えた藤丸立香は日常に戻ってきた。

特異点や異聞帯で出会った人たち。

未熟な自分を全力でサポートしてくれたカルデアのスタッフ。

敵対しながらも進むべき道を示してくれたクリプター。

助けを求めて伸ばした手を取ってくれたサーヴァントのみんな。

悲観主義でお調子者ででぐうたらで、けど大切なものを託してくれた医者(恩師)

そして———いつも自分を守ってくれた頑張り屋で頼りになる世界一かっこいい後輩。

振り返るその道のりは決して嘉賞されるものではないけれど、ここまで導いてくれた輝きが確かにあったのです。

 

ふと、視線を下に向ける。

かつてマスターの証たる令呪が刻まれていた右手の甲。

それまでは発動すれば消しゴムの消し跡のようなかすかな輪郭が残っていたのだが、今はその痕跡すらない。

施術が終わった折に、きれいに消せるもんなんだな、と我ながらのんきなことを考えたものだった。

”前人未踏の聖杯探索”、その最後の地、南極に到達したカルデア一行は異星の神の手引きによりカルデアスにレイシフト。

その行く先は始まりの地———西暦2004年、炎上汚染都市冬木。

その先に待ち受けていたのはカルデアの初代所長マリスビリー・アニムスフィア。

そこで語られた『人理保障』の真実はなるほど、彼なりの”善”に基づいた思想だった。

その上で、自分が持ち合わせる”善”をぶつけ、ついに人類の未来を取り戻す。

・・・だが、その功績が称えられることはない。

”非人間”が基本スタンスの魔術師たちにとっては、救われた恩など他人事。

むしろ人類最後のマスターの存在は貴重な研究サンプルとしての価値しか見出さない。

故に、多くのサーヴァントと縁を繋いだ令呪を差し出すことで立香は魔術世界と相互不干渉の契約を交わした。

命がけで世界を救った人間に与えられたのは、身の安全を引き換えにした放逐だった。

それについては別段不満はないし、なによりカルデアの後ろ盾がなくなった自分に残された選択肢としては破格なものなのだ。

そんな彼にせめて他に残せるものはないものかとカルデア職員、サーヴァント一同が頭を悩ませてくれた。

そこで、過去にモリアーティー(裁)よりバレンタインのお返しで高校卒業の認定資格を獲得しているという出来事(イベント)から、『ならいっそのこと大卒認定までいってもいいよネ?』とモリーアイティ(弓)談。

若かりし頃の己自身への張り合い(対抗心)が絡んでいるような気もしないでもないが、とにかくそういう話に繋がった———繋がってしまった。

そこからはまあ、凄まじかったこと凄まじかったこと。

普段から平穏など流星一条(ステラ)、ノリと勢いとで突き進むのが我らがカルデア。

我こそはと、かつてその道を究め抜き人類史にその名を刻んだ傑物たちによる惜しみない、そして容赦ない指導が始まった。

普段は常識人枠のサーヴァントも便乗してくる現実には戦慄を禁じ得なかった。

学問のみならず、武術、芸術、家事全般etc・・・ありとあやゆる知識と技能の修学は、傍から見ると垂涎物の経験であることは間違いない・・・ないのだが、元来平凡なスペックに叩き込まれるスパルタを前に冗談抜きで黄昏れた。

そのあまりにも凄惨な一部始終を見てにドン引きする元クリプターの方々。

ゴッフ所長をはじめとした職員一同は諦観を決め込む始末だ。

いつも以上に献身的にサポートしてくれたマシュの存在とフォウ君のモフモフが本当に救いだった。

加えてその裏でやらかす連中もいるわけで・・・。

すでに極限を迎えていた立香に待ち受けていたのは『全員集合(オール・アップ)!!ぐだぐだハロウィンユニヴァース~さらばカルデアよ永遠に~』という過去最大最凶最悪トンチキイベント。

この日、かつてない絶叫が特異点を越え、南極の空に響き渡るのだった。

 

余談だが、そんな阿鼻叫喚の混沌(カオス)を前に、瞳をキラッキラと輝かせるキリシュタリアが事の発起人であることが判明した時は一部関係者の胃が死んだとかそうでないとか。

 

結局、終わりの時を迎えてもカルデア(常識破り)カルデア(平常運転)だったとういわけだ。

たくさん悩んだ、たくさん迷った、たくさん怒った、たくさん泣いた、でも、それ以上にたくさん笑った。

そんな綺羅星のような日々はつい先日の事ながらひどく懐かしく思う。

同時に、胸にぽっかりと穴が開いたような虚無感が顔を出す。

今ごろ、マシュはどうしているだろうか・・・。

頭に過ぎるのは最後の最後までオレの身を案じてくれた後輩のこと。

彼女も彼女でいろいろと目をつけられる立ち位置にいるのだが、まあ、そこは要領のいい彼女のことだ。

気にかけてくれる人たちもいることだし心配は不要だろう。

もう会うことは叶わないが、同じ空の下で自分の人生を精いっぱい生きてくれることを願うばかりだ。

閑話休題。

そんなこんなで、無事に日本に戻ったら戻ったでやることがあった。

その最たる、海外で取得した資格を有効にするための処理を終えて今に至る。

面倒な手続きから解放され、人心地つきながらこれからのことをぼんやりと思考する。

久しぶりに再会した両親からはゆっくり考えるといい、と猶予をもらったがどうにもしっくりこない。

やはりここは無難に就職かなー、いややっぱり本格的にパン作りの経験を積んでみようかなー、と考えていた時だった。

 

「そこのキミ。少しいいかね?」

 

不意にかけられた声に意識が現実に浮上する。

視線を巡らせると前方に人影を認めた。

一言で特徴を言い表すのであれば———黒い。

日差しの逆光になっているわけではなく、肌が焼けているというレベルではなく、ただただ黒い。

声音と背格好から壮年の男性だろうということはなんとなくわかった。

一体どういう原理なのか、髪も顔も衣服までも黒一色は、アンリマユを彷彿とさせるほどのの出で立ちだった。

 

「・・・えーと、すみません。どちら様でしょうか?」

 

だが、そこは腐っても個性の魔窟と呼ばれしカルデアのマスター、藤丸立香。

その程度で彼を動揺させるには及ばない。

対して、特に驚いた様子もなく返事をする立香に男性はどこか感心したような反応を見せた。

 

「いや、突然すまないね。わしはこう言う者だ」

 

そう言って懐から一枚の名刺を差し出した。

『初星学園学園長 十王邦夫』

どこかで聞き覚えのあるようなその名前に首をかしげていると、十王何某氏はコホンと咳を払って口を開く。

 

「おぬし、アイドルのプロデュースに興味はないかの?」

 

「・・・・・・・・・へ?」

 

この予想外の言葉に、さすがの立香も間の抜けた反応を返してしまうのだった。

 

私立初星学園

その後、十王氏の話を聞いていく内に思い出した。

天川市に設立された中学、高校、専門大学から成る一貫校。

一般的な学校施設であると同時に、国内では最大のアイドル養成校として有名な学び舎だ。

多数のアイドルを輩出してきた登竜門にして名門校としてその実績は言わずもがな。

加えて、その組織形態において他に特徴を挙げるのであれば、専門大学として設けられた『プロデューサー科』。

文字通り、アイドル科の生徒と並行してプロデューサーを育成することを目的とする制度だ。

学園の生徒であると同時に、アイドル科の生徒をスカウトし、導き育てる役目を担う優秀なプロデューサー候補生を強化、育成する場としてその特殊性を物語っている。

そしてまさかのそのトップよりお誘い(スカウト)の声がかかるとは思わなかった。

 

しかし、どうにも返答に困る案件だ。

会話の流れで「学生さんかな?」と問われたので、立香は自身の現状を話し始める。

高校の在学中にバイトのスカウトを受けて海外を飛び回っていた事。

その職務を終えて、先日日本に帰国したばかりだという事。

その間は休学していたが、この度バイト先の計らいで大学の卒業資格まで取得、今後の進路について考えていた事。

まさかカルデアの日々を話すわけにもいかないので、全体的にボカシを入れた説明だ。

立香としては、あえて怪しい言い回しをすれば手を引いてくれるのではと期待していた。

外部受験枠といえば聞こえはいいが、要は素人だ。

そんな経験の乏しい人材をまだ年若い少女にあてがうというのはいかがなものなのだろうか。

半人前同士を並べた結果共倒れ、なんて十分にあり得る話である。

そんな結末を防ぐためのプロデューサー科制度なのだろうが、なおのこと事前にノウハウを受けた身内を充てる方がずっと堅実だ。

思い返すのは過去に攻略したアイドル特異点(グレイル・ライブ)

一時とは言え、アイドルのプロデュースという仕事、その過酷さを身をもって思い知らされたが故の躊躇だった。

 

「そうか、それは上々!なおのこと我が校を受験してみてはくれんかの?」

 

だがそんな思惑とは裏腹に、十王邦夫の立香を誘う姿勢に俄然勢いが増す。

まるで狙った獲物を逃すまいとする押しの強さに既視感を覚えたのはここだけの話。

そこで頷いてしまったことで、気付けば南極だ。

 

「ちなみに、了承した途端に拉致して次に目を覚ましたら学園内でした、なんてことはありませんよね?」

 

「そんな犯罪まがいなことあるわけないじゃろう?」

 

面白い事を言うねキミ、と何気なしに投げかけた質問を笑われてしまう。

かつて、その犯罪まがいを経験したからこそ遠い目をしまうのだが、そこはご愛敬としていただきたい。

そんな立香の心境など当然知る由もない十王氏はひとり苦笑いを浮かべる彼に、この度声をかけた理由を語り始めた。

 

「おぬしの目は他の者には見えないモノを見渡せる目じゃ。おぬしならばきっとまだ名もなき星を、誰もが憧れを抱くソラへと至る道を見つけてくれる。・・・そう思わせてくれたんじゃよ」

 

「・・・さすがに買い被りが過ぎません?」

 

今日あったばかりの人間に対しての評価としては過剰すぎる気がする。

 

「なに、その時は頭に乗った愚か者だっただけのこと。じゃが、わしはこれでも人を見る目には自信があっての。妥当な判断じゃと確信しておるのだよ」

 

その臆することのない断言は、彼がこれまで積み上げてきた研鑽の賜物なのだろう。

むずがゆくなる気恥ずかしさを誤魔化した皮肉も健啖な笑いで一蹴され、いよいよ抵抗も難しくなってきた。

しかし・・・“星”、か。

いずれ数多の困難が待ち受ける(みち)を征くであろう、未熟な少女(アイドル)を“星”と例えたその言葉に、心は揺らいでいた。

思えば自分もまた、多くの縁、多くの(サーヴァント)が導いてくれた旅路を生きている。

『愛と希望の物語』

ならば、この新たに結ばれた縁———まだ見ぬ星々が生まれる明日(出会いと別れの旅路)を歩んでみるのも悪くないのかもしれない。

 

いつの間にか、迷いは消えていた。




あとがき

皆さま、初めまして。
この度FGOと学園アイドルマスターのクロスオーバー小説を書かせていただきました花札闘志と申します。
まずはここまで読んでくださりありがとうございます。
最初にネタバレ、独自解釈アリと忠告させていただきましたが、改めてご説明をば。

ネタバレについては、FGO本編、奏章4にて『異星の神撃破後、クリプターが生き返る可能性がある』と言及がありました。本作にはあまり関わらない予定なので当たり障りのない程度で採用しました。

独自解釈に関しましては、『クリプター生還の可能性』以外の部分。特にこの作品では魔術と縁を切って一般人に戻る、所謂『離別エンド』で行こうと思います。個人的には最後は藤丸以外の全員が本編の記憶を忘れる『置き去りエンド』が濃厚なのではと思うのですが、まだ本編が未完なのでノータッチ。別ルートを制作する時にはこっちを採用するかも?
あとは冬木へのレイシフト~日常に戻るまでの件。理由は同上。

ここまで書いておいてなんですが、ぶっちゃけ誰をプロデュースするかまだ迷っていたり(焦)
候補としては、

① ことね:個人的に一番相性がよさそう。一般的な価値観、基本常識人、基本ツッコみ役、ストーカー被害者・・・等共通点が多いのですんなりと意気投合。そこに藤丸のスパダリ[[rb:力 > りょく]]が加われば即落ち確定でしょコレ。そしてアイドル引退後は藤丸と一緒にパン屋を開いてそう。

② 広:ことねが相性なら、広は組み合わせたら一番おもしろそう。サーヴァントたちに揉まれたせいで辛辣な時は辛辣だけど、それと同じくらい甘やかす時はこれでもかと甘やかす。元は苦境に燃えるどころか萌える広さんだけど、藤丸なりの絶妙なアメとムチの力加減に一蹴回って学マス本編以上の湿度を見せそう、というのが作者の願望。

③ 星南:作者の推し。学マスを始めたきっかけ。『小さな野望』で心を奪われました。親愛度コミュで脳を焼かれました。藤丸と親愛度が高まると『好き!!(挨拶)』とかしてきそう。

④ リーリヤ:本作において、サーヴァントたちとの関わりを経て、歴史方面に強くなった藤丸くん。オタク文化経由でその手の話題になると盛り上がって語り合いに耽っていそう。

⑤ 莉波:「姉を名乗る不審者よりはずっと健全ですよ」(サムズアップ)「姉を名乗る不審者って何?!」・・・ちなみに、本作では藤丸と莉波は幼馴染ではありません。少なくとも別ルートでの彼女は学マスPとのはみだし隊を狙っているのだとも。

余談ですが、前述の『置き去りエンド』のストーリーとしては、担当アイドルとの親愛度が円熟していた時、己の平凡さに自身のプロデュースを過小評価してしまいう藤丸に苛立ちを覚えて口喧嘩。頭を冷やすために礼拝室を訪れたら、な ぜ か たまたまその場に居合わせたのが愉悦wな神父だった。からの名前は出していないにもかかわらず藤丸のことを指摘されて動揺。そこに追い打ちを変えるように人理修復における藤丸の罪をほのめかし困惑させる。かき乱すだけかき乱して退散後、今度は謎の白いモフモフな小動物に導かれた先で胡散臭い魔術師と遭遇。そこで藤丸の旅路を知る。―――――みたいな展開を考えていました。ただ、それはそれでハードル高ぇなと思い断念。
それはそれとして、マシュとの仲を嫉妬する様にはたまらんものがあるのですよ。尊み。

いずれにせよ、ヒロインにはFGOの楽曲を歌うてんかいにできたらな思っています。

以上、あとがきという形でためていた妄想を吐き出させていただきました。

こんな作品ですが楽しんでいただけたのであればなによりです。
先は長いですが、最後までお付き合いいただけると幸いです。それでは
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