「オッチャン、これ何?」
==== この物語はあくまでもフィクションです =========
私の名前は野本由起夫。姪の名前は如月来夢(らむ)。
私は、脊柱管狭窄症が進み、車椅子生活になった。私と大姪との同居生活が始まったのだ。
母が亡くなった後、私は徹底して『終活片づけ』をしていたので、大姪(妹の孫)は2階に居住した。
私が母と同居していた時の名残の『ナースコール』を復活して、私は必要時に大姪を呼ぶことになった。
水曜日。朝。
朝食時、大姪は、『ぶわー』という間抜けな音を出した。
「ははは。オッチャン、これ何?」
「以前、風邪でなかなか咳が収まらない時に、処方された『吸入器』。お前が持ってる、もう1つのが本番用。今、慣らしたのが練習用。本番用を使う前に、どの程度の吸い込み方をするか試すんだよ。」
大姪は、本番用を吸った。
「鳴らない。」「そう、鳴らない。だから、練習をする。それに、薬入ってないからね、今は。」「なんで?」
「治ったから。咳の症状ないなら、使わない方がいい。最初は頻度が下がっただけだったが、だんだん、咳が出にくくなって行ったんだ。
「ふうん。効いたんだね。」
「あ、学校で習わなかった?介護用の吸入器セットは、介護士は使えないんだよ。ベッドの側に置いてあったりするけど。看護師さんの仕事なんだ。多分手順通りやれば、介護士にも出来るだろうけど、法律が変わらないと、区分けは越えられない。」
「爪切り、もそうだよね。おかしいよなあ。」
「ああ。被介護者の家族が詰め切っても、何も罰則はない。でも、介護士はNG。複雑な爪の場合があるからって聞いたけど、それなら、『程度』を決めればいいことだ。お役人は基本的に融通が効かないし、バカだ。介護施設は、『何かあった時』を気にする。『虐待』そのものを気にしろ、って言いたいね。夜間の担当介護士は1人かゼロ人。帳面上は複数なのに。」
「オッチャン、ひいお祖母ちゃんの介護で散々苦労したものね。」
「いつか、もっとまともな介護体制になって欲しいけど、オッチャンが生きてる間は無理だな。新しい総理大臣は、色んなことやらなくちゃいけないから、後回しの『宿題』だらけだ。前の総理大臣が、お坊ちゃまだったからな。」
「今、何て言った?」
「ん?」
「『オッチャンが生きてる間は無理だな』って言った?」
大姪の平手打ちが飛んだ。
「2度と言わないで。絶望的なことは。」
「分かった。」
「吸入器、私が吸った時、反応した?」「した。」「スケベ。ちゃんとウェットティッシュで拭いたよ。
大姪は、新聞を取りに、玄関を出た。
「痛いな。」
―完―