==== この物語はあくまでもフィクションです =========
私の名前は野本由起夫。姪の名前は如月来夢(らむ)。
私は、脊柱管狭窄症が進み、車椅子生活になった。私と大姪との同居生活が始まったのだ。
母が亡くなった後、私は徹底して『終活片づけ』をしていたので、大姪(妹の孫)は2階に居住した。
私が母と同居していた時の名残の『ナースコール』を復活して、私は必要時に大姪を呼ぶことになった。
「なあ、オッチャン。」
オッチャンとは、普通の言い方である。怒ると大姪は「オッサン」と言う。
「なあに。」「何で、門扉の前、板で蓋するようになっているの?」
「いい質問ですねえ。」「芸能人か。何で?」
「あの下には『枡(マス)』があるんだよ。」「マス?」
「簡単に言うと、家の排水溝。あそこから、外の溝に生活用水が流れていく。水洗トイレのある家は、トイレからあそこで合流する。本当は、あそこにするべきじゃなかったみたいだね。ひいお爺ちゃんが、色々木を植えたから、上手い場所が無かったんだ。昔はね。トイレの前とトイレの横にも木があったんだ。ひいお爺ちゃんが亡くなった時、ひいお婆ちゃんの為に手すりの工事をした。そして門扉前の段差を無くした。くなった。以前、お婆ちゃんが介護施設にいた頃、役所の人が来て喧嘩したことがある。」
「役所の人と喧嘩?」「あそこ、専門用語で『マス』って言うらしいんだけど、オッチャンは知らなかった。『マスは何処ですか?』って聞かれても意味が分からない。外の溝をさして、ここに流れるルートがある筈だ、って。初めから、そう言えよ、って言ったら、『だから、マスはどこですか?って聞いている。』専門用語で言われても分からない。『専門用語じゃ無い。』シルバー人材センター経由で来たらしい、爺さんは力んだ。後で、役所に苦情の電話入れたよ。他の家では、何でトラブルにならないか?他の家は分かりやすい場所にあったから。」
「ふうん。面白い。で?」
「で、ここに蓋があって、彼らが言う『マスの蓋』は埋まっている。何故中途半端な蓋になったのかは、手すりの工事をしたからだ。もし、水洗トイレにする場合は、掘り返さなくちゃいけないから、全面コンクリに出来なかった。もう水洗トイレにしないから、マスとやらを確認して、水洗トイレを強要されても金はない。私が死んだら、この家は更地になるんだ!そう言って追い返した。それまで何度も『勧誘』に来ていたが、来なくなった。工事費を役所が全額負担するなら、水洗トイレを考えなくも無い、って言ってやった。『割引するから』じゃ説得力はない。業者紹介して貰っても、有り難くはない。そもそも。ひいお爺ちゃんが亡くなった時に、ひいお婆ちゃんがオッチャンと同居することになったけど、手すりと一緒に門扉前の段差を無くす工事をしたんだ、介護保険で。台所も段差を無くす工事したんだよ。そこで、段差を無くす為にコンクリで埋めることになった。いつか水洗トイレにする時に完全に埋めてしまうとコンクリを掘り返さなくちゃいけない。それで、あの形になった。予定と違う工事させた、って役所の女性が怒ってたな。で?」
「あのう。あのトイレ、水洗トイレじゃないの?用を足した後、ジャーって、水流すよ。」
「ああ、知らなかったんだ。トイレと郵便受けの間にマンホールあるだろ?あれは、くみ取り口のマンホール。『半水洗』って言うんだ。水洗トイレにすると、工事費だけじゃなく月々下水道料金も払わなくちゃいけない。オッチャンには、そんな余裕はない。」
母の遺産分割で、あまり相続出来なかったからだ。
「あ。あの板、腐ってきてるよ。プラスチックのって無いの?」「無い。注文建築だからね。来夢、交換、チャレンジしてみるか?」
「うん。やるやる。」と、来夢は私に抱きついた。
「あ?反応した?」「した。」「手出すなよ、オッサン。」
「後が恐すぎるよ。」
大姪は、ホームセンターに、私が書いた図を持って板を買いに行った。
もう改築する余裕がないのだ。「工夫」以外に方法はない。
にしても、大姪の「ツンデレ」には、いつも翻弄される。
まるで、SFのように、一瞬で顔が変わる。
誰に似たんだろう、と思っていると電話がかかって来た。
相手の声を聴いて、DNAだと判断出来た。
「私の娘に手出してないよね。」「手は出してないが、金は出したよ。板を買う金。」
私は、ゆっくりと姪に事情を説明した。
―完―