ゼンカイジャー、戦隊、個人で11位おめでとう!
『前回の〜・・・・ゼンカイジャーはァ〜〜〜!!!』
『トジテンドとの戦いに勝利し全ての並行世界を解放した介人達!』
『そして介人達は平和になった他の並行世界を訪ねる旅に出たチュン!』
『でもたまには里帰りしてみんなに顔を見せることも大事チュンね!』
※※※
◯並行世界間ゲート・内部
世界と世界を繋ぐ並行世界間ゲート。
静かで優しい光に満たされた空間を一羽の機械の鳥を先頭に一人の人間、四人のキカイノイドが賑やかに歩いている。
彼らは『機界戦隊ゼンカイジャー』
メンバー唯一の人間・五色田介人を中心に、キカイノイドのジュラン、ガオーン、マジーヌ、ブルーン、そして鳥のセッちゃんで結成されたスーパー戦隊である。
かつて彼らは世界をドジルギアという小さなギアに閉じ込め、全ての並行世界を支配しようと企むキカイトピアの悪の王朝『トジテンド』との戦いに勝利し、全ての並行世界を解放したのだった。
そんな彼らは現在、並行世界を巡る旅から故郷のゼンカイトピアへと絶賛里帰り中である。
『みんな!そろそろゼンカイトピアに到着するチュン!』
「了解全開!あ〜久しぶりにヤッちゃんのヤツデスペシャルが食べたいなぁ!」
セッちゃんからの報せに介人は故郷の祖母の味を思い出しながら声を上げる。しかし隣を歩く赤いキカイノイド、ジュランはどこか浮かない表情だ。
「いや〜俺はぶっちゃけ、帰ったらすぐにでも休みてぇ気分だわァ・・・・」
「ジュランおじちゃん大丈夫?どこか具合でも悪いの?」
「ジュランなら心配しなくても大丈夫だよマジーヌ。どうせ年甲斐もなくはしゃいで変なものでも拾い食いしたんでしょ」
「え!? ジュラン拾い食いしたんですか!? いったい何を食べたんですか!? というか拾い食いしちゃダメですよ!」
純粋にジュランを心配するピンクのキカイノイド、マジーヌ。
大したことはないと笑う黄色いキカイノイド、ガオーン。
注意しつつも自身の好奇心を隠そうともしない青いキカイノイド、ブルーン。
「ちょ待てよ! 誰も拾い食いなんかしてねぇっつーの! つーか、俺が疲れてるのは主にお前らのせいなんですけど!?」
「・・・・僕ら何かやったっけ?」
「さぁ・・・・? ワタシにも心当たりは・・・・」
心底わからないといった様子で首をかしげる二人。
「なんで忘れてんだよ! 例えばブルーン!」
「え、ワタシですか?」
ビシッとブルーンへ指を向けるジュラン。
「お前、SDトピア行った時に勝手に動き回ってまた"SDトピアの呪い"にかかってたろ!」
そこまで言われてようやく思い出したのか、途端に申し訳なさそうな表情になるブルーン。
「いやぁ、好奇心が刺激されつい・・・・」
そう、自他ともに認める好奇心の塊である彼はSDトピアを訪ねた際、好奇心のエンジンが見事暴走。そのままなんやかんやあり、身体がSDキャラのようになってしまう呪い、通称『SDトピアの呪い』にかかってしまったのだった。(2回目)
「あの時ブルーンだけじゃなくて自分や介人もSDになっちゃったんすよねぇ」
「まあ言うて界賊のあんちゃん達ほど切羽詰まった状況じゃなかったけど、呪い解くの結構大変だったんだからな!」
ジュランの言う界賊とはかつてゼンカイジャーと共にトジテンドに立ち向かったツーカイな世界海賊である。彼らも"SDトピアの呪い"にかけられた仲間を救うため行動していたのだが、当時はトジテンドによる侵略の最盛期であり、そもそもSDトピア自体がトジルギアにされているというかなり危機的な状況だった。
そんな彼らの状況に比べれば自分たちの被害も大したことはないのだとジュラン自身も理解してはいるが、それはそれこれはこれなのだ。
「でもSDになった介人も可愛かったよね〜」
そんなジュランの心情も知らず、だらしなく顔を緩ませるガオーン。
「自分は関係ないような顔してるがガオーン!」
だが案の定、次はお前だとばかりにジュランの指がガオーンへ向く。
「お前、動物好きなのは結構だが明らかヤバめな猛獣にもガンガン突撃すんじゃねーよ! 何回も食われそうになるお前を助けるこっちの身にもなれっての!」
「いやぁ、いろんな世界の動物ちゅわんたちが魅力的でつい・・・・」
世界を巡る際、その世界特有の珍しい動物たちに目を輝かせながら色々とやらかしていたガオーン。全員の脳裏にその時の記憶が蘇る。
「そういえばガオーンって食べられてもなぜかすぐ吐き出されてたよね」
『キカイノイドはお口に合わなかったみたいチュン』
「まぁ、つーわけで俺はカラフル戻ったら少しばかり休ませてもらうんでヨロシコ」
言うことは言ったとひと息つくジュラン。だが、そんな彼に向けおずおずと上がる手が一つ。
「あの・・・・、自分は何かないんすか?」
マジーヌである。ブルーンとガオーンだけ注意されて自分だけ何もないというのは気の小さい彼女にはいたたまれなかったのだろう。
「えっ、あ〜・・・・そうだな」
だがジュランは困っていた。ブルーン、ガオーンには言いたいことが山程あったのだが、マジーヌは二人と違い特にやらかしもなかったため言うことがないのである。
しかしここで何も言わなければ彼女の気も収まらないだろうし、年長者として他の二人に示しがつかない。
時間にして0.3秒。光速で思考を巡らせたジュランが口を開く。
「マジーヌは・・・・、帰ったら部屋、片そうな?」
『特にないならそういえばいいチュン』
その時である。
ビー! ビー!
けたたましい警報音が全員の鼓膜を叩く。
音の発生源はセッちゃんだ。
「セッちゃん!この音はなに!?」
介人がセッちゃんへ問う。
『ア"ア"ア"ア"ア"ッ!?!? 介人マズいチュン!! 並行世界間ゲートに原因不明の歪みが発生しているチュン!! みんなはやくゼンカイトピアh』
そうセッちゃんが言い終わる間もなく、彼らの目の前に異変が生じる。
そこには穴が空いていた。どこまでもどこまでも底が見えない暗闇。アレに呑まれたらマズい。全員の背中に冷や汗が伝うのと同時に、生き物としての本能が警鐘を鳴らす。
「ちょいちょいちょい! あれはヤバいだろ!」
「か、介人! はやくゼンカイトピアへ帰ろう!」
「というかあれは何なのですか!?」
「わかんないけどハチャメチャ嫌な感じがするっす!」
『あれは時空の裂け目チュン! あの中は時間や空間がメチャクチャになっている未知の領域で、あそこに入ったらオイラたちでもどうなるかわからないチュン!』
「みんな落ち着いて! とにかく近づかないように気をつけて進もう!」
突如降りかかった厄災に取り乱すメンバーをなんとか宥め先へ進もうとする介人だが、傍らに現れた恐怖は彼らを待ってくれない。
次の瞬間、身体が持っていかれそうなほどの凄まじい風が後方へと流れていく。時空の裂け目が周囲のものを吸い込み始めたのだ。
体重の重いキカイノイドであるジュラン達はなんとか踏ん張ることができたが、ただの人間である介人はそうはいかない。
「ぐっ・・・・全力、全開・・・・ッ!」
介人は全力でその場に踏みとどまろうとするが、その努力も虚しく身体は穴へと近づいていき、そのまま足先から少しずつ呑み込まれ始める。
「介人! 掴まれ!」
「ジュ、ラン!」
ジュランが必死に手を伸ばし、介人も限界まで腕を伸ばしその手を掴もうとする。
「介人ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ジュラン! みんn」
しかし、あとたった数センチ。ジュランの指が空を切る。そしてそのまま介人は時空の裂け目へと消えてしまった。
「うわあああああああああああ!!!!!! 介人が! 介人が!!」
「ヤバいっす! はやく助けないと!!!」
裂け目へと消えた仲間を助けようとガオーンとマジーヌが動こうとする。
「二人とも駄目だ!! 動くんじゃねぇ!!!」
しかしそんな二人をジュランが制止する。
「どうしてだよジュラン!? はやく行かないと介人が!」
「そうっす! 今ならまだ間に合うかも・・・!」
「いえ、今はジュランが正しいと思います!」
納得がいかないと叫ぶ二人に対し、ブルーンは冷静に発言を続ける。
「私だって本当は介人を追いかけたい! ですが、今ここで最も避けねばならないのはこれ以上の被害を出すことです! それに、今ここで私たちが裂け目へ飛び込んだら今度は一体誰が私たちを助け出すのですか!?」
「そ、それは・・・・」
「ぬぬぬ・・・・」
ブルーンの言葉を聞き、ガオーンとマジーヌは自分たちの行動がさらなる被害を生むところであったことを理解する。だが心はまだ納得しきれていない様子だ。そんな中、ジュランが静かに口を開く。
「・・・・俺もみんなと同じ気持ちだ。だがブルーンの言った通り俺たちが今やるべきことはそうじゃねぇはずだ。 それに・・・・」
ジュランの視線が裂け目へと向き、全員の視線も裂け目へと集まる。
「裂け目が・・・・」
「小さくなっていってるっす・・・・」
いつの間にか先ほどまでよりも風が弱まり、穴の大きさがひと回り小さくなっていることに彼らは気づく。最初は大人ひとりが余裕で通れる大きさだった穴も、今は子供が通れるかくらいの大きさしかない。そしてこの瞬間も穴は小さくなり続けている。今から行動しても裂け目を通過するのは難しいだろう。
「でもッ、やっぱりこのまま黙って何もしないわけには!」
『・・・・オイラが行くチュン!』
今まで沈黙していたセッちゃんが言葉を発する。
『オイラならあの大きさの穴でも十分通れるチュン! それに、裂け目の向こうで介人を見つけたらゲートを出して帰って来られるかもしれないチュン!』
「セッちゃん・・・・」
セッちゃんの言う通り、この中で介人を連れて帰れる可能性が最も高いのはゲートを出せるセッちゃんである。しかし、あの穴へ入ったら自分たちでもどうなるかわからないと言ったのもセッちゃんである。
もう一人仲間を失うかもしれない。そんな恐怖が場の空気を支配しようとしていた。
『・・・・みんなの心配もわかるチュン。 でもオイラだってみんなと同じゼンカイジャーチュン! だからどうかオイラを信じて欲しいチュン!』
「「「「!!」」」」
セッちゃんは他のメンバーと違い、人の手によって造られた存在だ。しかし、その瞳には確かな覚悟が宿っている。そしてその覚悟に応えられないほど、彼らの信頼関係は浅くない。
「・・・・わかった。絶対介人を助けろよ!」
「僕らも僕らで何か手はないか探してみるよ!」
「自分も! 絶対二人を迎えに行くから!」
「大船に乗ったつもりで任せてください!」
『みんな・・・! ありがとうチュン!』
頼もしい仲間たちの声にセッちゃんの胸が熱くなる。
『ゼンカイトピアへのゲートは開けておいたチュン! ・・・・それじゃあみんな、行ってくるチュン!』
「「「「いってらっしゃい!」」」」
仲間に見送られながら、セッちゃんはもはや子供の頭ほどの大きさとなった裂け目へと飛び込んでいく。それと同時に裂け目も消え、あとに残ったのは四人のキカイノイドと元の静かな空間のみであった。
そして彼らはゆっくりと前を向き、仲間の覚悟に応えるため、新たな決意を胸に故郷へと歩みを進めるのだった。
※※※
【我々は望む、七つの嘆きを。】
【我々は覚えている、ジェリコの古則を。】
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介人が目を覚ますと、そこは元の世界で慣れ親しんだ電車の中だった。
窓の外を見ると、朝焼けのようなまばゆい光と共にどこまでも透き通るような青空が見える。
自分は時空の裂け目に吸い込まれたはずでは? ここは一体どこだ? 他のみんなは?
様々な疑問が脳内に浮かびつつも、介人は冷静に自身の状況を整理しようと電車内を見渡す。
すると、静かな車両内に一人の少女が座っていることに気づく。
そして少女をよく観察してみると、水色がかった美しいロングヘアー、真っ白な制服、そして真っ白い制服にベッタリと付いた真っ赤な血が目に入った。
介人は思わず少女に駆け寄ろうとするも身体が全く動かない。それどころか指の一本、声を発することさえできないことに気づく。
突然自身に降りかかった出来事にパニックに陥りかける介人であったが、これまで培ってきた精神力でもってなんとか平静を取り戻すことができた。
そんな介人を他所に、少女が静かに口を開く。
「・・・・私のミスでした。」
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて」
「……今更図々しいですが、お願いします。」
「カイト先生。」
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、恐らくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから。」
「ですから・・・・大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしか出来ない選択の数々」
「責任を負う者について話した事がありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが・・・・今なら理解できます。大人としての責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも」
「・・・・ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたになら、この捻れて歪んだ終着点とは、また別の結果を・・・・。そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかるはずです」
「だから先生・・・・どうか・・・・」
そう言って少女は確かに介人の目を見て優しく微笑む。
少女の独白、自分を先生と呼び慣れ親しんでいるかのような口ぶり、縋るように自分に向けられた言葉、そして最後に見た優しい表情。彼女が何を見て何を経験してきたかはわからないが、介人はこの少女が自分に大事な何かを託したことを強く感じていた。
そうであるならば、自分はそれに全力で応えなければならない。そのような衝動に駆られ、声が出せない介人は声の代わりに強い決意を乗せた視線を少女へ送る。それと同時に強い眠気が介人を襲い、視界が徐々に暗転していく。
介人が最後に見たのは、微笑んだ少女が流す一筋の涙であった。
※※※
「・・・・い」
声が聞こえる。
「・・・・先生、起きてください」
女性の声だ。それと同時に肩を揺さぶられるような感覚がする。どうやら声の主は介人を起こそうとしているようだ。
「介人先生!!」
それにしてもなぜ彼女は自分を先生と呼ぶのだろう?
そもそも自分は時空の裂け目に吸い込まれたはずでは?
もしかして自分は死んで、ここは天国なのだろうか。
気になることはたくさんあれど、とにかく起きなければと介人はゆっくりと瞼を開く。
介人の視界が明瞭になると、そこには真っ白な制服を着てメガネをかけた黒髪ロングの気の強そうな少女が立っていた。そして視線を上へ向けると、少女の頭上に青い天使の輪のような光輪が浮かんでいることに介人は気づく。
「(もしかして本当に天国に来ちゃった・・・・?)」
困惑しつつも介人は少女の後ろに見える窓から外の景色を見る。そこにはどこまでも広がる透き通る青空と空に浮かぶ巨大な光輪、そして下に広がる高層ビル群が見えた。
自身が思い浮かべる天国のイメージとはかけ離れた光景を見て、介人はますます自身が置かれている状況を飲み込めずにいた。
そんな介人の様子を見て少女は小さくため息をつきながらメガネの位置を直す。
「少々待っていてくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。中々起きないほど熟睡されるとは・・・・」
「え、っと・・・・ここはどこ? それに君は・・・・」
とにかく今の状況を把握しなければと介人は少女へ問いかける。
「・・・・夢でも見ていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。もう一度、あらためて今の状況をお伝えします」
そう言って少女は介人の目を見ながら丁寧に説明を始める。
「私は七神リンと申します、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生・・・・のようですが」
「学園都市、キヴォトス・・・・?」
少女、あらためリンの言葉に介人は内容を咀嚼しようと努める。どうやらここは天国ではなく、ゼンカイトピアとは別の世界らしい。時空の裂け目に吸い込まれた時に流れ着いてしまったのだろうか。そこまで認識した時、リンの説明に気になる点があることに介人は気づく。
「ってちょっと待って、先生・・・・?」
「・・・・ああ。推測系でお話ししたのは、私も先生がここにいらっしゃった経緯を詳しく知らないからです」
「???」
返ってきた曖昧な回答に思わず疑問符を浮かべてしまう介人。
「混乱されてますよね。分かります。こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください。どうしても、先生にやっていただかなくてはいけないことがあります」
「やらなくてはいけないこと?」
「学園都市の命運をかけた大事なこと・・・・ということにしておきましょう」
そう言うとリンは部屋の外へと歩き出す。いまいち状況を飲み込めないまま介人もその後をついていくと、そこにはエレベーターの搭乗口があった。リンがボタンを押すと扉はすぐに開き、そのまま二人を乗せエレベーターは下の階層へと下っていく。
「うわ~! すっげ~~!!!」
エレベーターから見えるキヴォトスの景色を見て介人は声を上げる。先ほどは混乱していたため景色を楽しむ余裕はなかったが、なんと美しく透き通るような青空なのだろう。そして足元に広がるビル群も故郷の街並みにどこか似ているが、ビルの形状や掛けられている看板などのデザインも見たことのないものがチラホラ見える。初めての景色、これから体験するであろうこの世界での冒険に思いをはせ、介人は心を躍らせていた。
「『キヴォトス』へようこそ。先生」
子供のようにはしゃぐ介人を見てリンは笑みを浮かべる。
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働く場所でもあります。きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが・・・・でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」
「っと、そうだリンちゃん。さっきから聞きたかったんだけどなんで俺を先生って? それに働くって?」
ここでかねてより疑問に思っていたことを再度リンへ問う介人。
「ああ、それにつきましては・・・・」
介人の疑問に対し、言葉を返そうとするリンであったが。
チン
タイミングが良いのか悪いのか、エレベーターは目的の階へ到着し、小気味良い電子音を鳴らし二人へ目的の階への到着を知らせる。
「・・・・到着しましたね。では、その件ついては後でゆっくり説明することにしましょう」
リンは開く扉を手で押さえながら、扉の先へと介人を促す。
またしても疑問は解消されないまま、介人は促されるままエレベーターの外に出た。
エレベーターを出てしばらく歩くととそこはレセプションルームだった。
白を基調にした清潔感のある広い部屋だ。きっと普段は静かで落ち着いて話すにはもってこいの場所なのだろうが、今は部屋の中央に少女たちの一団がおり異常に騒がしい空間となっている。
するとその少女の一団の中から一人の少女がこちらへと近づいてきた。他の少女たちもそれに気づくや否や続くようにこちらへと歩み寄ってくる。
「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて!」
黒いスーツの上に白いジャケット、菫色のツーサイドアップが特徴的な少女がハキハキとした口調でリンへと詰め寄る。
ふと介人はその少女が手に持っている黒く光るものに目を向け、唖然とした。彼女が持っていたのは所謂サブマシンガンだったのだ。
確かに介人もギアトリンガーという武装を所持しているが、それはトジテンドという脅威に立ち向かうための力として必要であったからだ。
だというのにこの自分より年下の少女はさも当然というように銃を身に着けており、周りもそれについて特に気にした様子もない。むしろ、他の少女たちをよく見てみると、種類は違うがそれぞれ銃を所持していることが見て取れた。
もしかしたらこのキヴォトスという世界は自分が想像するよりも過酷な世界なのでは。介人は思わず黙り込んでしまう。
「・・・・うん? 隣の大人の方は?」
リンへ詰め寄った菫色の少女は隣に立つ介人の存在に気づき首を傾げる。
「主席行政官。お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
それと同時に菫色の少女の後ろから続々と他の少女たちもリンへ近づいてくる。
一人は長身黒髪の黒いセーラー服を着たスナイパーライフルを持った少女、もう一人はストロベリーブロンドの髪とメガネが特徴的なハンドガンを所持した少女であった。
リンは少女たちを見るや否や、途端にまるで嫌なものでも見たかのような表情となる。
「あぁ・・・・面倒な人達に捕まってしまいましたね」
露骨に溜め息をつきつつ、少女たちへ向き直るリン。その光景を介人はただ見ていることしかできなかった。
「こんにちは、わざわざ時間を割いてここまで訪問してくださった各学園を代表する生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ・・・・大事な方々がここを訪ねてきた理由はよく分かっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために・・・・でしょう?」
もはや不機嫌さを隠すこともなく、リンは少女たちへ若干トゲのある言葉と視線を向ける。
「そこまで分かってるならなんとかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、ウチの学校の風力発電所と、新鋭のメガソーラー設備の大半がシャットダウンしたんだから!!」
菫色の少女の言葉の端々から、介人はこの連邦生徒会という組織がキヴォトス全体のインフラの中枢であることを察する。さらに現在、連邦生徒会が何かしらの原因で機能しておらず、そのためにキヴォトスが混乱に陥っていることもなんとなく理解した。
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
次に口を開いたのはメガネの少女であった。どうやら刑務所らしき施設から脱走者が出たらしい。
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。有志の方のご助力も受けていますが、それでも治安の維持が難しくなっています」
そう発言するのは、先ほどまで一団の後ろに控えていた、灰色のセーラー服を着た白髪の少女であった。服の袖に付けられているマークのようなものから察するに、彼女は黒髪セーラー服の少女と所属を同じくしているのだろう。
「戦車やヘリコプター、機動兵器など、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
「(・・・・2000%?)」
聞いたこともないようなぶっ飛んだ桁に介人は一瞬思考が停止した。聞き間違いかと思いリンの顔を見るが、どうやら事実のようだ。
というか2000%増加とはいくらなんでも治安が悪いというレベルを超えているのではないだろうか。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」
連邦生徒会長とは先ほどリンも言っていた、おそらくリンの上司の事だろう。しかし、その生徒会長が何週間も姿を見せないという話は初めて聞く。介人はだんだんと嫌な予感がしてきていた。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
嫌な予感がすぐに現実となってしまった。集まった少女たちにとっても良くないニュースだったようで、それぞれが言葉を失っている。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」
そうリンは淡々と告げているが、行政制御権というのはきっとキヴォトスを管理する連邦生徒会にとってかなり重要なもので、それがないことにより今の状況が引き起こされているのではないだろうか。それってかなりマズい状況なのでは。
この世界に来て30分も経っていない介人だったが、ここまでの会話の内容でなんとかそこまで理解することができた。
「制御権の認証を迂回できる方法を探していましたが・・・・先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」
「はい」
黒セーラー服の少女の問いにリンは淀みなく答える。
だが、介人はまたしても嫌な予感がしていた。そしてまたしてもその予感は現実のものとなる。
リンは介人へと視線を向け、少女たちへとこう告げたのだった。
「この先生こそが、フィクサーとなってくれるはずです」
少女たちの視線が介人へと集まる。
「・・・・俺が?」
「はい」
「やることってそういうことなの?」
「はい」
何かの間違いと思いリンへ確認する介人だったが、返ってきた回答は無慈悲なものだった。
「え」
「?」
「えええええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?!??!!?」
介人の叫びがキヴォトスの空に響く。
こうしてゼンカイザーこと五色田介人のキヴォトスでの生活が幕を開けたのだった。
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第1カイ!『流れ流され青春世界!!』
だっチュン!!!
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数分後。
「先生、そろそろ大丈夫でしょうか?」
「あ、うん。ごめん、急に叫んじゃって」
「いえ、こちらこそ説明が遅れてしまい申し訳ありません」
唐突に絶叫した介人へペットボトルの水を渡したリンは改めて少女たちへ向き直る。
「それではあらためて、こちらの先生は、これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名・・・・? ますますこんがらがってきたじゃないの・・・・」
リンは少女たちへ介人についての紹介を簡潔に済ませると視線を介人へと向けてくる。自己紹介をしろということだろう。そう解釈した介人は一度大きく息を吸った。
「はじめまして! 俺は介人! 五色田介人! 元の世界ではヒーローをやっていました! この世界に来たばかりでわからないことも多いけど、みんなこれからよろしくゼンカイ!!」
元気よく、ハツラツと、介人の挨拶はこれまでのギスギスした空気を一瞬にして吹き飛ばした。
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの・・・・ってヒーロー? い、いや挨拶なんて今はどうでもよくて・・・・!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと・・・・」
「誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカ。覚えておいてください、先生!」
「うん! よろしくユウカ!」
リンに言葉を遮られつつも菫色の少女改めユウカは手早く挨拶を済ませる。
「・・・・先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」
どうやらリンは介人がここへ呼ばれた理由、先生としてやるべきことについて話すようだ。介人の表情も少しばかり真面目になる。
「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しの戦闘活動を行なうことも可能です」
超法規的機関。それはつまりシャーレは、法律に縛られることなく己の判断で行動することを許され、例えば武力でもって他の生徒の自治区に強引に立ち入ることもできる権利を持つ機関であると介人は理解した。そしてその権利の使い方を間違えれば、キヴォトスという世界がメチャクチャになってしまうことも。
連邦生徒会長は何を考えてこのような組織を作ったのだろうか。
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが・・・・シャーレの部室は、ここより約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何も無い状態ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます」
「とあるもの?」
「はい先生。そして我々は先生を、そこへお連れしなければなりません」
そう言うとリンは端末を操作しどこかへ回線を繋げる。数秒後、回線が繋がり一人の少女の映像が浮かび上がる。
「モモカ。シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど・・・・」
通話相手はモモカというらしい、そしてどうやら目的地へはヘリコプターで向かうようだ。
『シャーレの部室? ・・・・ああ、外郭地区の? そこ、今かなり大騒ぎだけど?』
通話に応じた桃色の髪の小柄な少女、モモカはポテトチップスを頬張りながら気だるげに答える。だがその内容はあまり良いものではなかったようで、リンの表情がだんだん険しくなっていく。
「大騒ぎ・・・・?」
『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
「・・・・うん?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
戦車。確かにモモカはそう言った。あまりにも自然に言うものだから、介人も一瞬聞き間違いかと流しそうになってしまった。
確かに、このキヴォトスでは先のユウカたちのように一般市民が銃を持ち武装することが当たり前であるのだろう。しかしそれはつまり、一般市民でもその気になればそれなりの武装を用意できるということでもある。それだけ武器が身近であり、それだけの脅威がこの世界には存在しているということだ。
「(でも戦車、戦車かぁ・・・・)」
様々な世界を巡ってきた介人だったが、さすがにここまでとは想像していなかった。
『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占領しようとしているらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど? まあでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な・・・・あっ、先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!』
そう言ってモモカは一方的に通話を切る。自由な子だなぁ、と介人は思ったが、隣に立つリンを見ると。
「・・・・っ」
今にも血管がキレそうなほどに震えていた。
「えっと、リンちゃん、大丈夫?」
「・・・・だ、大丈夫です。・・・・少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
湧き上がる怒りを何とか抑えたリンは、ふとこの場にいる各学園からの四人の来訪者たちに視線を向ける。
そして何かを思いついたかのように、あくどい表情を一瞬だけ浮かべ、すぐさま笑顔へと変えた。
「・・・・?」
「な、何? どうして私たちを見つめてるの?」
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「・・・・えっ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って!? どこに行くのよ!?」
そう言うや否や、リンは足早に部屋を去っていく。
介人は、絶対にリンだけは怒らせないようにしようと思いながら、少女たちと共にリンの後を追うのであった。
※※※
あれから数時間後、介人たちは30kmの距離を徒歩で進み、D.U.外郭地区、シャーレの部室があるビル付近まで到着していた。戦車だなんだと聞かされていたが、ここまでの道のりは特に戦闘などもなく安全に移動することができていた。そうここまでは。
「な、なにこれ!?」 ドカーーーーン
ユウカの悲鳴を砲撃音と銃声がかき消す。
発砲音、爆発音、悲鳴、怒号、そして辺り一帯を覆いつくす硝煙が介人たちを迎える。
目の前に広がるのはまさに戦場。トジテンドが活動していた頃のゼンカイトピアと同じかそれ以上にカオスな様相だ。
「どうして私たちが不良たちと戦わなきゃいけないの!」
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから・・・・」
「それは聞いたけど・・・・! 私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど! なんで私が・・・・!」
思わず愚痴を溢すユウカに対して真面目に応えるメガネの少女改めチナツ。
しかし会話をしながらもユウカや他の面々の動きには迷いがなく、それぞれ飛んでくる銃弾が介人へ当たらないように立ち位置を意識して動いている。
バババババババババババッ!
「いっ、痛っ! 痛いってば! あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」
「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」
「うちの学校ではこれから違法になるの! 傷跡が残るでしょ!」
「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう。先生を守ることが最優先。あの建物の奪還はその次です」
「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので・・・・、私たちとは違って、弾丸一つでも生命の危機にさらされる可能性があります。その点ご注意を!」
「分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないでください! 私たちが戦っている間は、この安全な場所にいてくださいね!」
キヴォトスの人々は銃弾に当たっても平気である。
介人はここに来るまでの道中で彼女たちから話だけは聞いていたが、実際に目の当たりにし、やはりここはゼンカイトピアとも他の並行世界とも違う異世界なのだと実感した。
普通の人間が銃弾を受ければ、ジュランたちのような頑丈なキカイノイドでもない限り、死に直結するのが普通だ。しかし目の前の少女たちは、生身で銃弾を受けても痛いで済み、それどころか傷が残ることを気にする余裕まである。そんな彼女たちの丈夫さの理由は、彼女たちの頭上に浮かぶ光輪『ヘイロー』の存在によるものだという。
なるほど、銃弾を受けても多少の傷で済むということは、逆に言えば銃でなければ護身として十分な役割を果たせず、そして彼女たちにとって銃は命を奪うほど危険なものではないという認識なのだろう。介人は一人で頷きながらこの世界の常識に納得していた。
だがそれはそれ。自分より年下の女の子を盾にして何もしないことなど介人にはできなかった。
それにいくら介人が彼女たちほど頑丈でなくとも『戦うための力』なら持っている。しかし今まわりで暴れている不良たちも、これから自分が守っていかなければならない大切な生徒である。なので怪我をさせないようになんとか乗り切らねば。
そう考え、介人は荷物の中から2つのアイテムを取り出しユウカたちの前へ飛び出す。
「ちょ、ちょっと先生!?」
ユウカの叫びを背中に感じつつ、介人は鳥のような形の真っ赤な銃『ギアトリンガー』の上部の蓋を開け、表面に45と書かれた金色のギア『ゼンカイザーギア』をセットする。
「チェンジゼンカイ!」
そしてそのままギアトリンガーのハンドルを回しトリガーを引く。
がしかし、何も起こらない。
「え、なんで!? もしかして壊れちゃった!?!?」
予想外の展開に介人は驚愕する。
そして唐突に前へ飛び出してきた謎の大人に不良たちは一瞬呆気にとられるが、すぐさま気を取り直し射撃を再開した。そしてその一部は飛び出してきた謎の大人、介人へと降り注ぐ。
「なんじゃオマエ、ナメてんじゃねぇぞ!!!」
「荒れるぜェ! 止めてみなぁ!」
「うわわわわ!! ちょ、ちょっとタンマ!!」
介人はなんとか近くの瓦礫の影へと身を隠す。幸運なことに弾は一発も受けていない。
「先生なにやってるんですか!? 安全な場所にいてくださいと言ったでしょう!!」
「ご、ごめん! なんかダメだったみたい!」
怒りながらも介人の怪我の確認を行うユウカへ謝りながら、介人の視線は先ほど機能しなかったギアトリンガー、センタイギアへと向いていた。
時空の裂け目に吸い込まれた時に壊れてしまったのだろうか。だとしたらおそらく他の装備も同様に壊れてしまっている可能性が高い。しかし、修理しようにも介人では直し方が分からない。
「(せめてセッちゃんがいてくれたら・・・・)」
子供の頃からの親友を思い浮かべる介人。しかし今この場には友達も仲間もいない。
だが例えチェンジできなくても、力がなくとも、五色田介人は機界戦隊ゼンカイジャーである。
結果を出すまで諦めない、それによって数々の困難を仲間と共に乗り越えてきた。
「(仲間・・・・)」
介人はぐるりとまわりを見る。この世界に元の世界の仲間はいないが、今、自分を守ろうと戦っている新たな
「・・・・みんな、今からこの戦いの指揮を俺に執らせてくれないかな?」
「え、ええっ!? 戦術指揮をされるんですか? まあ・・・・先生ですし・・・・」
「今の俺にはみんなを守れる力はない。けど、みんなが安全に戦えるように俺も全力でやれることをやりたいんだ! だから、今は信じて欲しい!」
無理を言っているのは承知だ。なにせ彼女たちにとって介人は、数時間前に会ったばかりの素性の知れない大人なのだから。しかし──
「分かりました。これより先生の指揮に従います」
「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」
返ってきたのは、『信頼』であった。介人は胸の奥でなにか熱いものが燃え上がるのを感じた。
「ありがとう・・・・! よし、それじゃあみんな、出発全開だ!」
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それから、介人たちはこれまでの苦戦が嘘のように着実に目的地へと進行していた。
「ユウカ! 前へ出て相手の視線を惹きつけて!」
「スズミはユウカの前に相手が集まったら閃光弾を! 投げたらそのままユウカと一緒に射撃で牽制して!」
「ハスミは二人が隙を作るから確実に相手を狙撃して!」
「ユウカ、一度下がって! チナツ、ユウカの手当てをお願い!」
介人はゼンカイザーとして戦っていた頃の経験を総動員して、攻撃、相手の妨害、味方の支援のタイミングを逐一指示していた。介人自身は指揮の経験はなかったが、ユウカたちが介人の思ったように動いてくれるため、少しづつだが確かに前へ進むことができている。そしてそれは直接指揮を受けている彼女たちも感じていた。
「なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします・・・・」
「・・・・やっぱりそうよね?」
「先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」
「なるほど・・・・これが先生の力・・・・。まあ、連邦生徒会長が選んだ方だから当たり前か・・・・」
確かに銃撃戦を行うことは彼女たちの日常の風景の一つであり、各学園でも戦闘訓練や集団戦での立ちまわりに関して学習する機会もある。しかしその中に他学園の生徒との連携は想定されていなかった。
故に介人が指揮を執るまでは、各々が独自に判断し、実質単独で戦闘を行っている状態だった。だが今は介人が中心となることで、彼女たちの戦闘にまとまりが生まれている。戦闘がやりやすくなったのも当然の結果だろう。
「よし! もうシャーレの部室は目の前よ!」
そうこうしているうちに、介人たちは順調にシャーレの部室があるビルへとたどり着いていた。
すると介人の持つ通信端末にリンからの呼び出しがかかる。
『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました』
「正体?」
『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がいくつもある危険な人物なので、気をつけてください』
※※※
◯D.U.外郭地区 市街地中枢部
連邦捜査部シャーレ部室棟 近辺
「・・・・あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません」
介人たちがリンからの通信を受け取ったのと同時刻、シャーレ近辺のとある歩道橋に一人の少女が立っていた。
黒地に白い花柄模様があしらわれた着物風のセーラー服を纏い、先端にナイフの付いた独特な形状の銃を持っている。そして特徴的な白いキツネ面を被っておりその素顔は見えない。
「あの建物に何があるかは詳しく存じませんが、連邦生徒会が大事にしているモノと聞いてしまうと・・・・壊さなければ気が済みませんね・・・・」
そう一人溢すのは、連邦矯正局より脱獄した「七囚人」が一人、狐坂ワカモだった。
先ほどリンが言っていたこの騒ぎの元凶である。
「ああ・・・・久しぶりのお楽しみになりそうです。ウフフフ♡」
自身が巻き起こした破壊の音を聴きウットリとしながら、ワカモは次は何を破壊しようかと思考を巡らせる。
ドカアアアアアアアアアン!!!!
すると一際大きな爆発音があたりに響いた。そのあと不良たちの怒声と銃声が聞こえ、すぐにその声は沈黙する。音の方向と距離、そして不良たちの反応から察するにどうやら自分たちを鎮圧しようと動く者たちがいるようだ。そしてその集団は着実にワカモの方へと近づいている。
「・・・・ふむ、連邦の犬にしては動くのが早いですね。まあいいでしょう」
予想よりも早い鎮圧速度に敵ながら関心しつつ、ワカモは慌てる様子もなく思案に耽る。
「あら、そうですわ」
しばらくして何かを思いついたワカモは、懐から通信機を取り出し不良たちへいくつかの指示を出した。
端から不良たちには戦力としての期待はしていないが、時間稼ぎくらいならできるだろう。
そう考え、ワカモは切り札を切ることにした。
「それでは後は任せましたよ」
そう言い残し、ワカモは軽やかに歩道橋を飛び降り、シャーレのあるビルへと向かうのだった。
※※※
「よし! 建物の入り口まで到着!」
迫りくる不良を鎮圧しながら、介人たちはついにシャーレのビルの入り口前まで到達していた。
ここまで来ればあとはビルに入り、サンクトゥムタワーの制御権を取得するだけ・・・・。
そう思っていたのもつかの間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
辺りに地面を揺らすほどの轟音が響く。
「・・・・うん? この音は・・・・」
「気をつけてください、巡航戦車です・・・・!」
チナツの言う通り、介人たちの前に現れたのは、砂漠迷彩を纏う一台の戦車であった。リンが言っていた戦車とはこれの事のようだ。
「クルセイダーⅠ型・・・・! 私の学園の制式戦車と同じ型です」
「不法に流通された物に違いないわ! PMCに流れたものを不良たちが買い入れたのかも!」
「えっとユウカ、それはつまり?」
「つまりガラクタだから、壊しても構わないってことです!!」
そのセリフを聞いて介人は作戦を考え始める。ユウカたちの頑張りのおかげでここまでの道のりでの体力消費は少なく済んでいる。しかし残弾数はそうはいかない。元々彼女たちはこのような戦闘をする予定などなく、持っていた弾薬も少なかったからだ。
もしこれ以上不良たちの増援が来たら、先にこちらの弾が切れてしまう。その前にこの戦闘を終わらせるためには、目の前の戦車を早急に止める必要がある。それならば。
「ユウカ、あの戦車のエンジンってどこにあるかわかる?」
「え? そ、そうですね・・・。おそらく、車体の後部にあるのではないでしょうか」
「うん、わかった。それなら・・・・」
そう言って介人は皆に作戦を伝える。
「ハスミにあの戦車のエンジンを狙撃してもらう。そうすれば戦車を止められるはず。ハスミ、いける?」
「ええ、徹甲弾ならばあの戦車の装甲を貫通することは可能かと」
「そうしたら、ユウカとスズミは相手の注意を惹きつけて! ユウカが前へ出て、スズミは閃光弾をお願い! そしてチナツはハスミの援護を!」
介人が作戦を伝え終えると全員が力強く頷く。
「それじゃあ全力全開で作戦開始だ!」
介人の宣言と同時に四人の少女が動き出す。この作戦は速さとタイミングが重要だ、二度目はない。介人は瓦礫に隠れつつ機会を窺う。
瓦礫の影からユウカが飛び出し最前線を走る。そして懐から端末を取り出し青白いシールドを展開する。その後ろにはスズミが続く。突然飛び出してきたユウカとスズミに反応し、不良たちの銃口と巡航戦車の砲塔が二人の方へと向き射撃を始める。
「出やがった! あの太もも女をぶっ飛ばせ!」
「誰が太もも女よ!」
ユウカたちが相手の注目を集めている間に、ハスミとチナツは遮蔽物を利用しつつユウカたちとは反対の方向から巡航戦車の後方へと回り込む。
ユウカとスズミは上手く相手の視線を誘導してくれている。ハスミとチナツもこのまま順調にいけばあと数秒で巡航戦車の後方へ到着するだろう。
その時だった。不良たちの一人が違和感に気づく。
「あれ? アイツらってもっと人数いなかったっけ?」
マズい。介人は背中に冷や汗が流れるのを感じた。
違和感に気づいた不良はまわりの仲間に確認を取り、その仲間が別の仲間に確認を取っている。このままでは彼女たちがハスミとチナツに気づくのも時間の問題だ。
そう思った瞬間、介人は瓦礫の影から飛び出していた。
「ちょああああーーー!!!!」
あらん限りの大声を出し介人は不良たちの注目を集める。突然の出来事に不良たちは会話を止め、介人に釘付けとなった。そして介人は明後日の方向を指さしこう叫ぶ。
「あ!!! 近くのコンビニでプリン50円セールやってる!! 急がないとー!!」
あまりにも古典的、どこの世界にもそんな嘘に引っかかるやつは──
「な、なんだって!? おいお前! どこだ! どこでやってるんだ!」
「ここからだとエンジェル24が近かったよな!?」
「早く行かねぇと無くなっちまう!」
──効果てきめんであった。
不良たちはプリンに目がくらみ一気に集中力が削がれる。その隙を見逃さず、すぐさま介人はスズミへと指示を飛ばす。
「スズミ! 今だ!」
「了解!」
指示と同時にスズミが投擲した閃光弾は、不良たちの視線の先、ユウカの目の前で炸裂し、辺り一帯を眩い光で包み込む。あらかじめ作戦を聞いていたユウカたちは直前で目を閉じることができたが、それでもなお眩い閃光が不良たちを襲う。
「め、目が~~~!!!」
「あんにゃろう! 閃光弾投げやがった!」
「お"の"れ"た"ま"し"た"な"!"!"」
この瞬間、これまで鳴り響いていた銃声が止んだ。
これ以上ない機会を介人は見逃さない。
「ハスミ!!!」
「承知しました!!」
ハスミの放った一発の徹甲弾が巡航戦車の後方、エンジン部へと吸い込まれていく。そして戦車の装甲を容易く通過すると内部のエンジンを貫通、そのまま反対側の装甲も突き破り空の向こうへと消えていった。
エンジンを貫かれた巡航戦車は、途端に動作を停止し車体のあちこちから黒い煙を吐き出し始める。
「や、やべぇよ! 虎の子のクルセイダーがやられちまった!!」
「仲間もほとんど倒されちまったしこれ以上は無理だ!!」
「こんなところにいられるか! アタシは帰らせてもらうぞ!」
「それじゃあオツカレサンシタ~!!!」
巡航戦車がやられたと分かるや、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく不良たち。
「よっしゃー! 作戦成功! 世界全開! オールオッケ~!!」
こうして、介人のキヴォトスでの初めての戦闘は完全勝利で幕を下ろしたのだった。
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「着いた!!」
「はい」
巡航戦車との戦闘から数分後、介人たちはようやくシャーレの部室があるビルの真下まで来ていた。それと同時にリンから通信が入る。
『シャーレ部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』
「了解! それじゃあ俺はシャーレの部室へ行くけど、みんなは・・・・」
「私たちはここでシャーレの入り口を警備しています」
「ええ、また不良が戻ってくるかもしれませんので」
「わかった。それじゃあよろしくね! あ、そうだ。チナツ、みんなと降参してきた子たちの手当てを頼めるかな?」
「はい、わかりました」
介人は四人にシャーレの警備と不良たちの治療を頼むとビルの中へ入っていく。そしてシャーレの地下へと続く階段を下っていくのだった。
※※※
◯シャーレ・建物の地下
「うーん・・・・これが一体何なのか、まったく分かりませんわね。これでは壊そうにも・・・・」
薄暗いシャーレの地下室。主をこれから迎える予定の部屋で狐坂ワカモは一台のタブレットを持ち頭を悩ませていた。介人たちよりも一足先にシャーレへと到着した彼女は、連邦生徒会が隠しているモノを見つけようと部屋の中を物色していた。そこで謎のタブレット端末を見つけたのだが中身を見ることができずどう扱ったものか決めかねていた。
「・・・・あら?」
その時、彼女の耳が階段から小さな物音を捉えた。彼女は反射的に音のした方向へと振り向き、地下室の階段へ目を向ける。するとそこにいたのは先ほどユウカたちと別れた五色田介人であった。二人はそのまま数秒間見つめ合う。
「えっと、こんにちは。俺は五色田介人。 君は・・・・」
先に沈黙を破ったのは介人だった。誰もいないと思っていた地下室で何かを探している様子の少女、どう考えても怪しさ全開なシチュエーションであるが、敵か味方かを判断する前にまずは挨拶をしようと考えたのだ。
「あら、あららら・・・・」
だが少女は銃を向けるでも、言葉を返すでもなく、ただ固まってしまっている。仮面を被っているためどんな表情をしているかもわからない。
「あ、ああ・・・・」
「? どうしたの?」
もしかしたら自分を警戒しているのかもしれないと思い、介人は笑顔を向けながらゆっくりと少女へと近づこうとする。
「し、し・・・・失礼いたしましたー!!」
すると、半ば悲鳴のような、若干の羞恥を含んだような、そんな叫び声を上げ少女は持っていたタブレットを放り投げて、部屋に設置されている通気口へ飛び込み逃げてしまった。
「・・・・どうしたんだろう?」
少女もといワカモが逃げた方向を見つつ、介人は首を傾げる。その時、地下室の入り口のドアが開き、リンが入ってくる。
「・・・・? 何かありましたか?」
「え、ううん、大丈夫」
「・・・・そうですか。ここに、連邦生徒会長が残したものが保管されています。・・・・幸い、傷一つなく無事ですね」
先ほどワカモが取り落としたタブレットを拾い上げつつ、リンは目的のものが無事に保管されていたことに安心した表情を浮かべる。そしてリンはそのままタブレットを介人へと渡す。
「・・・・受け取ってください」
「これは・・・・、タブレット端末、だよね?」
「はい。これが連邦生徒会長が先生に残したもの。『シッテムの箱』です」
「シッテムの箱・・・・」
「普通のタブレット端末に見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明」
「・・・・」
「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも・・・・」
そこまで言って一度リンは言葉を切る。
その様子を見て介人は察する。きっとリンにとってこのタブレットは最後の希望なのだろう。もし自分がタブレットを起動させられなかったらこれまでの苦労は水の泡、キヴォトスは混乱したまま。彼女は恐れているのだ、最悪の未来を。
「リンちゃん、大丈夫。連邦生徒会長? さんが俺ならタブレットを使えるって言ってたんだよね? それなら絶対に使える! 会長さんを信じようよ!」
「・・・・ええ、そうですね。・・・・では、私はここまでです。邪魔にならないよう、離れています。・・・・それでは先生、どうかよろしくお願いします。」
そうしてリンは真剣な眼差しを介人へ向けた後、一礼して地下室から出て行く。リンの背中を見送り、そのまま介人はシッテムの箱と呼ばれたタブレットを見つめる。そして介人はシッテムの箱の電源を起動させた。
果たしてタブレットは正常に起動した。だが、システムに接続するためのパスワードを求められてしまった。
「えっと・・・・パスワードは・・・・」
そういえばパスワードを聞いていなかった、今からでもリンに聞きに行こうか。そう介人が考え始めた時だった。
不思議なことが起こった。介人の脳内に文字の羅列が浮かび始めたのだ。
これが何を意味しているのかは分からないが、なぜかこれがパスワードであるという確信が介人にはあった。介人はそのまま、頭に浮かんだ文字列をタブレットへ入力する。
【我々は望む、七つの嘆きを。】
【我々は覚えている、ジェリコの古則を。】
『「シッテムの箱」へようこそ、介人先生』
どうやらパスワードはあっていたようだ。介人は一安心しつつも画面に表示される案内に注目する。
『生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステム A.R.O.N.Aに変換します』
そう画面にメッセージが表示されると、画面から放たれたまばゆい光が一瞬にして介人の視界を覆いつくす。思わず目を閉じ、再び開けてみれば、そこは学校の教室のような場所だった。
教室の壁や天井は大きく崩れ、床は浸水している。さらに崩壊した壁からはどこまでも続く青空と海が見える。
『くうぅぅ・・・・』
そして教室の真ん中で、水色の髪の小さな女の子が机に突っ伏した状態で居眠りしていることに介人は気づく。
『むにゃ・・・・カステラにはぁ・・・・いちごミルクより・・・・バナナミルクのほうが・・・・』
近づいてみると、少女はどうやら夢を見ているのだろう。思わずこちらも微笑んでしまうような幸せな寝言を呟いている。
しかし、今は緊急事態。心苦しさを感じつつも介人は少女を起こすことにした。
「もしも~し」
『えへっ・・・・まだたくさんありますよぉ・・・・』
「まだ食べるの!?」
どうやら介人の言葉は少女には届かなかったようで、少女は夢の中でカステラのお代わりをしようとしているらしい。
仕方がないので、介人は少女の頬を人差し指でつついてみることにした。
「お~き~て~!」
『むにゃ・・・・んもう・・・・ありゃ? ありゃ、ありゃりゃ・・・・!? え? あれ? あれれ?』
しばらく少女の頬をつつき続けていると、少女は目を覚ました。椅子から立ち上がり、あたりを見回した少女はようやく状況を把握したようだ。
『せ、先生!?』
少女は介人の事を先生と呼んだ。
『この空間に入ってきたっていうことは、ま、ま、まさか、本当に介人先生・・・・!?』
「俺の事を知ってるの?」
『う、うわああ!? 落ち着いて、落ち着いて・・・・。えっと・・・・その・・・・あっ、そうだ! まず自己紹介から!』
少女は何回か深呼吸を繰り返し姿勢を正す。そしてキリッと真面目な顔を作り介人へと向き直る。
『私はアロナ! この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!』
水色の髪の少女アロナは元気いっぱいに自己紹介をする。どうやらアロナは人間ではなくシッテムの箱そのもので、所謂AIのようなものらしい。介人はなんとなくセッちゃんを思い出していた。
『やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!』
「ならこっちも自己紹介! 俺は五色田介人! これからよろしくね、アロナ!」
『はい! よろしくお願いします!』
介人が差し出した手をがっしりと握り握手を交わすアロナ。新たな仲間との出会いに心から喜ぶ介人であった。
『まだ身体のバージョンが低い状態でして、特に声帯周りの調整が必要なのですが・・・・。これから先、頑張って色々な面で先生のことをサポートしていきますね!』
そう言ってアロナは両手で握りこぶしを作り胸の前で構える動作をする。やる気は十分なようだ。
『あ、そうだ! ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います♪』
「うん、わかった!」
『うう・・・・少し恥ずかしいですが、手続きだから仕方ないんです。こちらの方に来てください』
「? 俺は何をすればいいの?」
普通のタブレットなら画面に指紋を読み込ませるところだが・・・・。どうすればよいか介人が考えていると。
『さあ、この私の指に、先生の指を当ててください』
アロナは人差し指をピンと立てると、介人の方へと指を近づける。
なんだかそういう映画あったなぁ、と思いながら言われた通り介人は自分の人差し指をアロナの指と重ねる。
『うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう? これで生体情報の指紋を確認するんです! 画面に残った指紋を目視で確認するのですが・・・・すぐ終わります! こう見えて目は良いので!』
「目で確認するんだ!?」
ハイテクAIのまさかのアナログすぎる確認方法に思わずツッコむ介人。
『どれどれ・・・・』
それでも構わず介人の指紋を目視で確認するアロナだったが、だんだんと目が細くなっていき、最終的に何か妥協したかのような表情となった。
『・・・・はい! 確認終わりました♪』
「最後なんか適当じゃなかった?」
『え、て、てて適当じゃないですよ! そんなことありません! そ、それより! 確認完了です!!』
「まあいいか! ありがとうアロナ!」
『いえいえ! これで先生はシッテムの箱の機能を使えるようになりました! それでは早速、何をすればよろしいでしょうか!』
無事シッテムの箱への登録も終わり、準備万端と張り切るアロナ。介人は、連邦生徒会長が失踪しサンクトゥムタワーの制御権が失われたことによりキヴォトスが混乱の最中にある事を説明した。
『なるほど・・・・先生の事情は大体わかりました。連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなった・・・・。』
「ところでアロナは連邦生徒会長について何か知ってる?」
『私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが・・・・連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも・・・・。お役に立てず、すみません・・・・』
「ううん、そんなことないよ」
もしかしたらと思いたずねてみたが、アロナでも彼女についてのデータがないようで、詳細を知ることはできなかった。
『・・・・ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです』
「本当!? それじゃあよろしくアロナ!」
『はい!それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します! 少々お待ちください! サンクトゥムタワーのadmin権限を取得・・・・』
アロナはムムムと念じるような仕草を見せる。
『先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今、サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります! 今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です! 先生さえ承認して下されば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます!』
「お疲れ様アロナ、そのまま権限を連邦生徒会へ移して」
『でも・・・・大丈夫ですか? 連邦生徒会に制御権を渡しても・・・・』
心配そうに介人を見るアロナだったが、介人はアロナへ笑いかける。
「大丈夫だよ。それに俺が持ってても仕方がないしね!」
『分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!』
アロナは再び念じるように目を閉じる。それと同時に介人の視界が光に包まれ、介人は反射的に目を閉じた。そして介人が再び目を開けると、そこは元いたシャーレの地下室であった。しかし、部屋の天井では明るい電灯が部屋を照らし、いつの間にか部屋へと入っていたリンがどこかと連絡を取っているようであった。
「・・・・はい。分かりました。」
リンは通信を切り、介人へと向き直る。
「・・・・サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。一時は本当にどうなるかと思いましたが・・・・これからは連邦生徒会長がいた時と同じように、行政管理を進められますね」
「よかった! ちゃんと制御権は戻ってきたみたいだね!」
「はい。お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」
そう言うとリンは介人へと深くお辞儀をする。
「ううん、俺だけじゃここまで来れなかったよ。ユウカやハスミ、スズミにチナツ、みんなのおかげだよ!」
「・・・・そうですね、あの方たちにも後でお礼を言いませんと。それと、ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」
「えっと、ほどほどにね」
「はい。・・・・それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は・・・・あ、もう一つありました」
シッテムの箱を巡る問題も解決し、一息つこうとするリンだったが、まだ何かやるべきことがあるらしい。リンは地下室の入り口前に立つと、介人へと視線を向ける。
「ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」
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◯シャーレ・メインロビー前
地下室から移動すること数分。介人とリンはとある部屋の前にいた。部屋の扉には『空室 近々始業予定』と貼り紙がしてある。
「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」
リンは部屋の鍵を開け先に部屋へ入っていき、介人もそれに続く。
「ここがシャーレの部室です」
部屋へ入るとそこは広々とした空間であった。まず目に入ったのは部屋の正面奥、天井まで届くほどの大きな窓。そこからはキヴォトスの景色を一望できた。そして壁際には資料が詰められた書類棚とダンボール、ホワイトボード、銃が掛けられたラックがあり、部屋の中央にはデスク、その上に数台のディスプレイが乗っている。
「ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう」
「俺はここでどんなことをすればいいの?」
「・・・・シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない・・・・という強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です・・・・」
「つまり、特にやることが決まっていないってこと?」
連邦捜査部という名前なのだから何かしらの事件を解決する刑事のような仕事をするのだろうな、と思っていた介人は予想外の回答に呆気にとられる。
「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。ですが特にやることが決まっていないということは、裏を返せば先生が思うことを何でもやって良い・・・・ということですね」
そこまで言うと、リンは深く息をつく。
「・・・・本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
ここまでリンの話を聴き、介人はリンが自分に何を求めているのかだんだんと分かってきた気がした。
「今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情・・・・、支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど・・・・、もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。」
要するにリンが自分に求めているのはこういった『問題』への対応だろう。つまり規模や内容は違うだけでゼンカイトピアや他の並行世界でやってきたことをここでもやれば良いのだ。
「うん、分かった。任せてよ、リンちゃん! 俺、こう見えても元の世界では色々と事件を解決してきたヒーローだからさ!」
やることの方向性さえ見つかれば、もう迷うことはない。介人はリンへ元気よく宣言する。
「ヒーロー、ですか・・・、それは頼もしいです。では、その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。すべては、先生の自由ですので。それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」
介人の言葉にリンはわずかに微笑むと、他の業務が立て込んでいるのだろう、足早にシャーレを去っていった。介人も一通り部屋の中を見て回り、一度ユウカたちの元へ戻るためエレベーターのボタンを押すのだった。
※※※
「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ」
「ワカモは自治区に逃げてしまったのですけど・・・・すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。あとは担当者に任せます」
「お疲れさまでした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
しばらくしてシャーレのビル入口へと戻った介人は、ユウカたちへサンクトゥムタワーの制御権が戻ったことを伝えていた。
「俺だけじゃなくてここにいるみんなの活躍のおかげだよ。みんながいなかったらきっとここまで来ることはできなかった」
そう言って介人は改めてここまで共に戦った仲間を見渡す。今回の事件は間違いなく自分一人では解決することはできなかった。しかし、彼女たちが、この世界で出会った仲間がいてくれたおかげでタワーの制御権を取り戻すという結果をつかみ取ることができた。
この世界に来たばかりの時はこれからこの世界でやっていけるか不安に感じていた介人だったが、今はもうそのような心配はなくなっていた。彼はもう一人ではないのだ。
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください、先生」
「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねてください」
「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも? 先生、ではまた!」
「うん! みんなありがとう! きっと遊びに行くね!」
一つの大きな事件が終わり、それぞれの学園へと帰っていく少女たち。介人は大きく手を振り見送る。そして彼女たちの背中が見えなくなると、介人は一つ背伸びをし、これまでの事、そしてこれからの事について考えながらシャーレのオフィスへと戻っていくのだった。
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次回の、ゼンカイジャーは!!!!
「うおーーー!!! 砂漠ゼンカ~~~イ!!!」
先生として初めての任務へ!
「ようこそ、アビドス対策委員会へ!」
「全力全開・・・・? まさかこの人が・・・・」
「ふん! アタシはアンタなんて認めないんだから!」
「全力全開で救出開始だ~~~!!!」
第2カイ!『砂漠の街の委員会!!』
だっチュン!!!
小説の感覚をつかむために一気にチュートリアルを駆け抜けましたが、次からは小分けにしたい…。
次回、アビドス編突入(予定)。