昴くんはなにもしない   作:あまも

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たぬきはやってますね
キツネではないことはわかってる人なのでたぬきということで
ふゆのたぬきはかわいいのでしかたないですが、普通に先週ひかれたぬきが落ちてたので悲しくなりました。かわいそうかわいかわいそう

群馬県警をどうこういうつもりはありませんが、山村刑事がなんかしてるからまぁいいか…みたいな空気感は何故か感じます

閲覧ありがとうございます!


44-2:雪山から降りてきたたぬきたち

 

 

 

 

 ♤

 

 検問していた群馬県警の山村ミサオ刑事が車内を覗き込み、何故かサングラスをかけ、深く帽子を被り直して顔を背けた小林さんに目をつけた。

 どう見ても怪しかったから仕方ない。

 

「アナタ、怪しいですねぇ?!ちょっとこっ「はいごめんなさいね!!」ヌワッ」

 

 助手席側に回り込んだ山村刑事に、素早く飛び出して肩を組み、暴れかけた彼にコソリと何か耳打ち。

 

「……ヒ?」「ちょーっとこっちでお話しませんかねぇ〜!!」

「ヒロ、ちゃ」

 

 ざわめく群馬県警の面々をよそに、道路の端へと困惑中の山村刑事を連れ込み、サングラスを上げて何か喋っている小林さん。

 

「え、えぇえええ!!!!!ヒロちゃん、けいッモゴゴー!!!」

 

 大きな口から特大の驚愕の叫びを出したのに慌てた小林さんが両手で塞いでいる。

 

 ……のを、車内から見ていた。

 

「……さっきの様子といい、アレといい、……もしかしておまえら……」

「うん!ぼくもお兄ちゃんも、警察のおじさんと知り合いなんだ!」

 

 さぁと顔を青ざめさせる、運転席の男。

 

 話がついたのか、やけにキリッとした顔で山村刑事が小林さんに背を押され戻ってきた。

 

 あの顔には覚えがある。

 光彦が森で迷子になっていた時、歩美たちに持て囃されて良い気になり、「山さんと呼んでください……」とか言っていた時の顔だ。

 なんだか知らんけど、やけに張り切っている。

 

 これはまずい、とでも思ったのか、運転席の男がハンドルを握りしめてシフトレバーに手を伸ばし……発進させるその前に、俺は彼へと麻酔針を打ち込んだ。

 

 麻酔で昏倒した男の上半身がハンドルに向かって倒れ、けたたましくクラクションが辺りに鳴り響く。……山で良かった。

 

 

「やっちゃったかぁ」

「小林さん」

 

 俺の側の後部座席のドアを開けた小林さんがおいでと手招きしてくるので、雪の中に降り立つ。

 

 張り切っていた山村刑事は、クラクションで慌てている他の警察の人達と一緒にわたわたと、運転席の男と、後部座席で意識を飛ばして……寝ていた女を起こすべきかこのまま車から出すべきかと大騒ぎだ。

 

「なんだか大変なことになっちゃったなぁ」

「……ま、あと1人居るし大丈夫だろ」

 

 小林さんと一緒に、車の後ろ、トランクの前に立つ。トランクのロックは、予想通りかかってはいなかった。

 

「山村刑事!」

「へぁっ!? ちょっと待ってよヒロちゃん、今忙しいのが見てわかるでしょう!」

「わかったわかった。もっと忙しくなるから呼んでるんだってば」

「へ?もー、なんだってんですかぁ!」

 

 見る限りでは、他の刑事さんに指示された巡査さんたちが車から麻酔と睡眠薬で寝ている2人を引きずり出そうとしている所を山村刑事は後ろで慌てているだけで、何も忙しそうではないが。

 ブツブツ言いつつも、明るい表情で見に来た山村刑事。

 

 ……小林さんが「言うだけは言ったからいいか」と呟き、拳を振り上げる。

 

 俺は数歩分下がり、ベルトと靴のツマミに手を当てておく。もし飛び出して来られても、こっちの準備はOK。

 

 トランクに思いっきり振り下ろされた小林さんの拳がトランクを強かに打ち、そのまま彼は素早くトランクの蓋を開けた。

 

 そこには、顔を真っ青にしたままジャケットや毛布に包まっている男が1人、震えて縮こまっていた。

 そして彼の周りには布の袋の包みがいくつかと、袋から零れたのか、キラキラと、きらめく小さな石が転がっている。

 

 

「へ、え、えええ!!?」

「ほら、山村刑事。探してた3人目だぞ。良かったな!」

「ええぇぇぇえ?!」

 

 驚きに、震えるトランクの男とキラキラ輝く石と、ぷんと鼻を鳴らした小林さんと、彼の声に驚いてこっちを見てくる警察の人達と、また青ざめたトランクの男と……と見る場所を変えて顔をぐるぐると巡らせている山村刑事。

 

「ええぇぇーーと……? ど、どちら様で…?」

「群馬県警の探していた、3人組の宝石強盗犯だろ。ほら、この人が負傷してるって1人」

「ええぇ……?」

「ミッちゃん、呆けてないで、俺にミッちゃんの成長っぷりを見せてくれよ。せっかく会えたんだし。なっ?」

「はわわ……お任せあれっ!!」

 

 暖房のないトランクにいて、怪我と外からの音だけの情報で怯えて憔悴しきっていた男は、ほとんど被害者みたいな顔で毛布に包まれ、群馬県警の巡査さんたちに甲斐甲斐しく世話されながら出ていった。残ったのは出血の跡の滲んだトランク内と、キラキラとライトに反射して輝く、散らばった宝石。

 山村刑事や他の刑事さんが袋の口を開けると、中からはライトの光を反射して煌びやかに輝く…宝石の山。アクセサリー加工されたものや、大粒の宝石達がゴロゴロジャラジャラと出るわ出るわ。

 

「……ほ、本物だぁ……」

 

 状況的には宝石店から盗まれた……本物に間違いないだろうが、何が盗まれた宝石なのかもわかってるか怪しく見えてしまう。山村刑事は……へっぽこエピソードの実績があるもので。

 

「ミッちゃん、見て分かるのか?すごいなぁ」

「へっ?え?あ、はっはぁい!いやー、それ程でも!!無いですよぉ!」

 

 その山村刑事に、素直に感心したみたいな表情で言う小林さん。

 この後を誤魔化すため、わざと煽てているのか、本心から感心してるのかわかりにくい。

 

 

 ♤

 

 

 宝石を1粒手に取り、まじまじと見つめた後に小林さんから声をかけられて、慌てて宝石類を他の警察の人に任せた山村刑事は、検問から少し離れた所で待っていた俺たちのほうへ駆け寄ってきた。

 

「ヒロちゃんのおかげで無事犯人っぽい人たちが見つかって良かった!」

「ああ。俺もミッちゃんの手伝いができてよかったよ」

「えへへへっ!」

「……それであの、調書とか、必要だよな?」

 

 ニコニコと嬉しそうな山村刑事と、心からの笑顔ではあるがほんのりと困った気配を出している小林さん。

 

「……あっ、そうだそうだ。

 なんでヒロちゃんは彼らの車に乗ってたんです?それも……毛利探偵のとこの子ですよね?キミ」

「えへへ…こんばんは、山村刑事」

 

 先程車内でも挨拶はしたが、改めて。

 小林さんがしゃがんで俺のそばにより、山村刑事を手招きすると内緒話と察した山村刑事が「おぉっ?」なんて変な声を出しながらしゃがみ、近寄ってきた。

 小林さんは、口に手をかざして潜めた声で囁く。

 

「……実はね、ミッちゃん。俺、今……毛利探偵から頼まれて、とある重大事件の証拠を東京に持ち帰らなきゃいけないんだ」

 

 小林さんの言葉に合わせて、俺はディスクの入ったケースをコートの内ポケットから覗かせた。

 言葉と、俺の見せたそれにギョッと目を丸くして、また声を上げそうになっている山村刑事の口を塞ぐ小林さん。

 反対の手で、シィ、と人差し指を口の前に立てて続ける。

 

「詳しくは後で。……それで、“コレ”を俺は東京で待つ毛利探偵に、今日の午前4時までに無事に届けないといけないんだ。

 ……ミッちゃん、久しぶりに会えた君に、こんなこと頼むのも、どうかと思うけど……お願いがあって」

 

 いつものサングラスは頭にずらして、前髪を上げるのに使っている。

 だから、小林さんは今、スバルさんより歳上だとはとても思えない、高校生でも通じそうな顔をさらけ出している。

 面食いなスバルさんが悲鳴上げて吹き飛びそうなその顔を、困りきった迷子の子供みたいな表情で、山村刑事へ向けて、きっと昔、親しくしていた頃にそんな呼び方していたのだろうなと充分に察することができる声色で懇願した。

 

「俺たちを、東京まで送ってくれないか?

 聴取は車内で受けるし、ちゃんと何があったか話すから。それに車の受け取りもあるから、彼を送り届けた後もミッちゃんが帰るまで、しっかり時間取るからさ。

 な、頼むよ。……お願い、ミッちゃん」

 

「はい!いくらでも送ります!!」

 

 

 うわちょろい。

 

 

 こんなにちょろくて大丈夫なのかとか、友人とはいえ警察を騙して送迎させることに成功している小林さんとか、彼らの職務と勤務態度に疑問がぽこぽこと湧いてくるけれど……

 

 確かに、こんな深夜にまで縺れ込んだ事件。犯人とされる相手は逮捕されて、その逮捕に協力をしてくれた、おそらくは悪いことはしていなさそうな好青年と、小学生の2人組。

 

 帰り道でパンクで立ち往生し、山道に置きっぱなしになっていた車の話を伝え、帰れなくなっていた所を、怪しまれない為の作戦として犯人達が拾っただけ、というほぼ事実な話は、他の刑事さんも信じてくれた。

 

 山村刑事曰く、「毛利探偵といつも一緒に事件に巻き込まれているキミがいたから、信ぴょう性があったんですよ」とのこと。

 小林さん曰くは、「単純に、小学生連れてなんかやらかす奴はそんなにいないだろって発想だろうな」らしい。

 

 想像以上にあっさりと事は運び、山村刑事が東京の賢橋駅に送ってくれる事となった。

 

 

 

「山村刑事は、俺の幼なじみっていうか……俺が長野にいた頃の友達でさ。とはいえ、小学校の低学年で転校しちゃったから、それっきりだったんだけどな」

 

 車内で、被害者の別荘のログハウスから、ニュースの報道がされる前に犯人の証拠品を持って突き付ける必要があるため、こんな深夜から動いていたが、車が……という、事実8割だが一番大事なあたりだけ隠された“真実”をあたかも真実かのように、懐かしい旧友へとかたった小林さん。

 

 手馴れすぎていて、いつもこんな説明ばかりなのだろうかと思ってしまう。

 

 事実は言っていても、そこに何か隠し事はある……“バーボン”についてもそうだろうが、どうも彼も、スバルさんも“バーボン”が積極的にこちらを害したりはしない、と確信しているのもまた確か。

 隠しておきたい理由……灰原だろうか。

 

 

 ひと通りの説明で山村刑事も満足したのか、納得して頷いているところに、結局2人はどういう知り合いだったのかと問うた答えがそれだった。

 

「……あれ、でも……長野県と、群馬県?」

「そう!ボクらはこの長野と群馬の県境辺りでお互い出会ったんです!」

「たまたまね」

 

 ミッちゃん、ヒロちゃんと呼びあっている様子は、懐かしい友達との再会を素直に喜んでいる。

 小学校低学年でお別れした相手なら、それはそう。

 しかし、そんなに小さい頃に彼は転校したのか……親の転勤、とか?

 

 彼らがその県境での秘密基地での思い出話に花を咲かせ始めたので、俺は窓の外の、すっかり建物の多くなった景色を眺める。

 

 “小林”という名前に首を傾げていた山村刑事が、「ああ、ナルホド!親戚さんの名前!」と勝手に納得していたが、小林さんは否定も何も言わなかった。

 違うのは違うが、山村刑事がかつて知っていた名前とも違うらしい。

 やはり、『小林』という名前……

 阿笠博士は、あの時小林さんのことを『みっちゃんくん』と呼んでたし、スバルさんは親しさを押し出して呼ぶ時は『みっちゃん』と呼んでいた。

 ……彼の名前は『小林唯景(ただひろ)』だ。“み”の字は無い。彼のかつての名前をしっているらしい山村刑事が『ヒロちゃん』と呼ぶからには、『唯景』のほうは合ってる……のか?

 なら、偽名では無い……?

 小林さんが、山村ミサオ刑事の事を『ミッちゃん』と呼ぶのは、関係があるのかな……

 

「……でも、ふたりでケイサツカンになろうねってあの時の約束……叶えてくれてた時に会えたら良かったなぁ」

「……ごめんな、ミッちゃん。警察には、なれたんだけどさ」

 

 ふたりの会話は、しんみりとした空気を漂わせた。やむを得ない事情で辞めた小林さん。

 

「いやいや!かの有名な眠りの小五郎名探偵の人柄に感銘を受けるのはごもっとも、だよ!

 あの御仁は正義感しっかりしてらっしゃるし、ぼくら警察では手の出せないような事件をスパンと解決していくあの姿!

 そうそう、この間の事件なんて!ニュースこっちでもやってましたよぉ!インタビューの去り際!くぅ〜!かっこいーい!」

 

 ……彼の中ではそういう事になったらしい。小林さんがたびたび、『毛利探偵のため』を押し出してたから、彼の助手に脳内変換されたんだろう。

 そう思わせようという口ぶりでもあった。……ただし、明言は避けていた。

 ……こういう会話、普通に俺たちとの話にも織り交ぜてるんだろうなぁ……

 スバルさんも似たような事してくるし、ちゃんと確認出来ることは確認しないと。また何か勘違い“させられている”かもしれない。

 

 

 雪道の運転で、山村刑事が運転席、というのは不安だったが、むしろ丁寧なのに早いくらいで東京へと入った。

 

「ミッちゃん、早いね!」

「へへん。ボクだって群馬で警察として長年運転してますからね!雪道なんてチョチョイのチョイのスーイスイでアッ!」

「アッ」

 

 ……小林さんが感心して褒めた矢先に、得意げに自慢した山村刑事の車がつるりと後輪側が流れ始めた。スーイスイと……止まろうとしたはずの停止線を、越えてしまう。

 山村刑事があわあわと慌て、ハンドルをくるくると。

 ……油断するとすぐこれか。

 

 なんとか、速度を落としていたおかげもあって交差点に差し掛かり横断歩道に斜めに、……完全に乗ってはいるが、車は止まった。

 まだ日の出る前で、走る車もほとんど無い。1台のトラックが、交差点を、この車を迂回するように離れて横切って行った。

 あ、危なかった……

 

 赤点滅の信号を、ソロソロと車はゆっくりと発進。

 

「あっははは……失敬失敬。……おかしいなぁ。まだ路面、そんなに滑らないと思ったのに」

「気温、下がって来たのかもね。……安全運転でお願いします、お巡りさん」

「あっはっはっは……了解でーす」

 

 苦笑いの小林さんと、誤魔化すように笑い飛ばした山村刑事。

 ……大丈夫かぁ?

 次また滑ったら、小林さんに代わってもらった方が良いか……?

 

 

 ♤

 

 

 なんとか無事、午前4時前に賢橋駅前に辿り着いたが、その前を小林さんは通過させ、一駅分離れたところに車を停めさせた。ただの商業ビルの前だが……

 

「ヒロちゃん?目的地はここ?」

「……江戸川くん、ここからは君だけで向かってもらえる?俺、買い出しも頼まれてたんだった。今コンビニ見たら思い出しちゃってさ。……あ、携帯借りてたの、返すね」

「え?」

 

 彼が首をこちらに向けて、黒い携帯を差し出してくる。画面には、数行の文字列。

 その1番上の行。

 

「――うん!わかった!連絡はバッジでよろしくね。先にこのディスク、おじさんに渡してくる!山村刑事、ありがと!」

「へっ?あっ、えぇ……」

 

 俺はさっさと車を降りて……車が来た道とは違う道路沿いを走って、賢橋駅入口に向かう。

 

 駅入口の見張りが多い。覆面とはいえ、警察と一緒には行けない。

 悪い。見られるわけにはいかない

 

 ……文面曰く。見張りがいるらしい。

 バーボンとしては、小林さんを駅に入れないためだろう。

 ……そして、バーボンがウォッカに向けて、見張りを置く理由の説明、は……取り引きに万が一板倉さんが来たら、彼を――?

 

 カチカチと、外気ですっかり冷たくなった、小林さんの黒い携帯のメール画面を下へとスクロールする。

 

 今回のバーボンは信用するな

 試されてる とは言ったが、あいつも俺たちも君に無茶させたいわけじゃない。

 証拠とか、考えなくていい。

 安全第一

 

 あの駅前から渡すまでの短い時間でここまで打ち込めても、途中なのか、それとも伝えたかったのはここまでなのか。

 

 

 ……仕掛けを施すだけの時間のため、全速力で雪道と駅構内を駆け抜けた。

 俺の目からは監視の目は無いように見えたが、酔っ払って寒さから逃れるように何人か、構内に伸びている人たちがいたから、彼らだろうか……

 

 指定のロッカーへ細工をしたディスクを置き、2分と経たずにカツカツと、硬い革靴の音が近寄ってきて、俺は慌てて物陰に隠れた。

 

 しかし、来たのは……黒い帽子に黒い服、大柄な人影。こんなに暗いのに外さないサングラスを掛けた…………

 

 ウォッカ、だと?

 

 

「おい、誰もいねーじゃねーか。板倉の野郎も来てねーぞ。……あぁ?ロッカーを見ろだ?」

 

 ふかしたタバコを吐き捨てながら、ウォッカはライトで0032番のロッカーを照らし、小切手や、中のディスクを確認したようだ。

 固定したテープを外すため、手袋を取ろうとしている。

 

 ……よし、これなら――

 

 

 

「――ウォッカ。それではまたジンに怒られてしまうのでは?」

 

 

 

 ……何?

 

 大柄なウォッカの背後に、もう1人。

 彼が捨てたタバコをひょいと拾い上げた白い手袋に包まれた手。

 ウォッカの体格が大きいからか、ライトで照らしていた彼の陰で暗がりに紛れていたからか……見えていなかった。

 ……あの電話の……女の声だ。

 

 

「そのソフト、何故ケースがテープなんかで固定されていたか。……『手袋を嵌めたままではテープが剥がせない』から。……どうやらあなたの指紋を取ろうとしたようです。

 ……中々、面白い考えですね」

 

 ロッカーから、カリカリと丁寧にテープを剥がす音が聞こえる。狙いは読まれ、全部回収されてしまった。

 

「しかし詰めが甘い。こんな所に発信機なんて付けて……随分ヤンチャなタヌキが山から降りてきましたね」

 

 ケースの内側の発信機までバレたか。

 ウォッカの板倉さんへの悪態を「まぁまぁ」と宥める女。

 ウォッカへかける声は、電話の時の声より、穏やかで、余裕がある。

 

「……物は手に入りましたし、我々はこれを確認してジンに報告しなければ。

 ……さ、警察も呼ばれているかもしれませんし、見た目変えてとっとと戻りましょう。僕は良いですけど、あなたは変えないと。だからそのままで行くのはよせと言ったでしょうに。

 ……ああ、先に行ってください。僕はこのテープのカスを掃除してから行きますね」

「チッ……毎回悪いな。“バーボン”」

「いえいえ。ゴミ掃除は僕の……最初から今までずっとやってる大事な――“お仕事”ですから。お気になさらず」

「……ったく。おめーみたいのが怪しい、だなんて、アニキもお人が悪いぜ。おめーは人が良すぎるがな!早めに来いよ!」

「……ええ」

 

 ……ウォッカから、気遣わしげに声をかけられた“バーボン”と呼ばれた人。

 カツカツと靴を鳴らしながら、ウォッカが去っていった跡、沈黙が空間に落ちる。

 

 

 

 ……何も、しないのか?

 

 

「総評は『詰めが甘い』、ですね」

 

 ゾワッと、鳥肌が立った。

 冷や汗もドっと出た。

 

「そもそもこの大雪の中、心臓に疾患がある人間が温度差の負担も考えずに山奥の別荘にいるはずないし、その上都会まで降りて来て……外気と車と、なんて行き来するわけないでしょう。

 電話でちゃんと、『それでは私の心臓がもたない!』くらい言わないと」

 

 俺はロッカーの陰に隠れていた。そのロッカーの反対に、今、“バーボン”がいる。

 移動の音も気配も何も無かった。

 

 しかも、今声色を、俺が変声機で変えた声に一瞬だけ変えて、俺の電話の声を真似……いや、再現したのか?

 

「それに、このケース……生暖かくて気色悪いですよ。これでは、『ボク、まだ近くにいるよ!』――って言ってるみたいじゃないですか」

 

 ……今度は高く……子供の、“俺”の声。

 コイツ、まるでキッドみたいに声変えて――

 

「まぁ、予期せぬ事故や事件に巻き込まれたようですから。及第点とさせてもらいます。

 すこし甘いウォッカだから何とかなりましたが、ここにいたのがジンなら、あなた今頃……

 何も言えない姿で、ロッカーに詰め込まれてたんじゃないですかね。

 

 ……あまりこちらを舐めるなよ」

 

 

 最後。静かで、固い口調はこれまでのどの“バーボン”でも無かった。

 

 慌ててロッカーの反対を覗き込んだが、そこには誰もおらず。

 

 

「――迎えが来るまで構内は出ない方が良いでしょう。これらを仕掛けた本人が、わくわくと獲物がかかったか、楽しみに戻ってくるのを見ている人達が残ってますからね。……おっと、言わない方が良かったかな。

 

 では、また会いましょう」

 

 

 真っ暗な、ロッカーエリアの外から聞こえる女の声はどんどん遠ざかって行った。

 

 

 

 …………なるほど。

 ジンに疑われようが、まだ粛清されずに組織に残ってる理由を、垣間見た気がする。

 

 

 





原作のハンガー鍵開け怖すぎる…傷的な意味で

ウォッカは良い人なのでジンと絡みたくない彼との間に良く入ってくれる良いひととなっております。


読んでいただきありがとうございました!

ーーーーーーーー




オールド・タイム・ロンドン

プレイヤー:「で、ここでジャックを捕まえれば良いんですか?」
管理:「だから、なんで高い所に登ってるんだい?」
プレイヤー:「……ホームズさんって居ます?」
管理:「いるよ?アパート行けば会えると思うよ」
プレイヤー:「…………???」
管理:「なんで不思議そうにしてるの?」

――ノアズ・アークがバグと言いつつ、作り出したトマス・シンドラーの正体をばら撒くためのウイルスだったんじゃないの?と疑問らしい


このあとマイクロフトファンな主人公がお兄ちゃんに会いに行こうとして「未実装」と言われ膝から崩れ落ち、ホームズさんで妥協しようとしたらワトソンに見覚えのある面影を見て「地雷!!!」と叫び、肉体への負荷を感知したコクーンが強制終了したためクリアならず。

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