昴くんはなにもしない   作:あまも

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朝早くに出ないと間に合わない……おのれ道路状況……


閲覧ありがとうございます!


47-1:事上磨練

 

 

 

 

 

 

 本日はブルーパロットにて。

 

 私の退院祝いだ。

 

 退院もなにも、頭を打ったから経過を見るための入院がメインだったので。

 その頭と、あと右手の術後の様子が特に問題なければちょっと頻繁な通院で済むもの。早々に退院の日程は決まりまして。

 そんで先生や看護師のおばちゃん達からも2度と危ない事すんなよと怒られながら、お見送りされまして。

 

 なんだか今回、待遇が良かったが……なんだったんだろうな。

 あれかな、ちょっと前……書類まとめてた時、新一くんや灰原さんやら知り合い含めてよくお世話になるし、と思って、鈴木の史郎さんとノアズ・アークに相談して、ちょうど良い感じの額の寄付を連名でしたやつかな。

 設備投資に使ってもらえればそれだけでよかったのに。

 先生から特に念を押されたのは、「火傷跡の下の組織がまだ不安定だから、長距離の運転や、激しい温度変化……それから深酒で血流を乱すのは絶対に避けて」という三箇条。はいはい、分かってますって。

 しばらくは大人しく、米花町の平穏な空気を吸って過ごすとしましょうかね。

 

 

 さて、気を取り直して。ブルーパロットである。

 最近暗いことが多くて、ちょっとだけブルーな気持ちだった、と言う景光くん。

 それで、気分転換に大怪我した友人の退院祝いをやりたい旨を話したら、寺井さんが快く店を貸切にしてくれたのだそう。

 普段の営業時間より早めに閉めたブルーパロットを貸切にしてもらって、店の身内だけを集めたささやかなパーティーを開催してくれた。

 

 急遽休み!なんて迷惑かけることもあるバイトにも優しい寺井さん(マスター)である。

 

 個人経営はこういうのが味わい深くていいよね。

 ポアロとかも、毛利さんちとかうちとかでお誕生日会やりたいって言うと気軽に空けてくれることがある。

 こういう……“行きつけ”のお店ってなんだか暖かくていい。

 

 憧れあるよね、「マスター、いつもの」って注文。

 

 

 景光くんの運転(なお私は運転禁止令発令中)でブルーパロットに送られて、『本日貸切!』の手書きの貼り紙についつい笑顔になってしまう。

 

 いいなぁ、これ。

 

 夜遅くなると困る、なんてよくわからない理由で店に押し込まれると、目の前で『ポン!』なんて音と煙と共に赤いお花が差し出され。

 

 その花をどけたそこに、ちゃんと大きな新一くんがいて、それはもうかなりびっくりした。

 彼もびっくりしてしまうくらい腹の底から驚きの声が出てしまったと思う。

 

 にこりというか、にしゃりというか。

 

 よくよくまじまじと見ると、いたずらっ子成分の強い笑顔と、若干ぼさついた髪。

 あの特徴的なアホ毛がない。

 

 ……すごいな。

 それくらいしか違いがわからん。

 

 強いていうなら目の色……?でもこれは照明の関係か?

 日本人にしては珍しい青色なのは変わらないんだが。

 

 

 なんでも彼は寺井さんが呼んでくれた、若いながらも凄腕な、手品師らしく。

 

「俺は黒羽快斗!マジシャンだ!よろしくな!」

 

 明るく元気な自己紹介。同時に、ポポポポーンと音を立て、握っていたお花は紙吹雪やリボンや鳩へと姿を変えて飛び出した。

 

 

 

 

 いや、お前怪盗キッドやろがい。

 

 

 

 

 景光くんばかりずるい怪盗キッドに会いたい会いたい見たい話したいと駄々こねた私のために、景光くんがサプライズで呼んでくれたのか……

 それとも本当に、お祝いならばと気を利かせた寺井さんが、彼の知ってる中で1番腕のいいマジシャンを呼んだ結果だったのか、判断に困る。

 ︎︎

 

 この店に飾られている“伝説のキュー”なる宝石で装飾された豪華なキューの奪還には、怪盗キッドが絡んでいるそうだから、そこから協力者となったりしたんだろうか。

 

 

 ……だってこれ、寺井さんがそうと知らなかったならまだいいけど……

 ……もしも知っていたのなら、ブルーパロットこれ……

 この場所自体、怪盗キッドのアジトって可能性がバカ高くなるんだが。

 怪盗キッドには初代も2代目にも、お付きの協力者がいるのは間違いないからね。

 ………………まさか、寺井さん……?

 

 …………むむ……景光くんも零くんも、普通にここで内緒話してたし、彼ら、特に零くんが警戒していなかったなら、もしもここがそうであったとしても大丈夫では……あるはず……

 

 

 もしくは彼の秘密を知った景光くんが、何かしらの条件で取引したか?

 

 

 ここのバイト、確か、最初は“バイトの緑ちゃん”の名義で入ったけど『相手方の勘が鋭くて』バレてしまって、以来“小林”で働いてると前に言ってたっけ。

 

 ……もしや、その時バレた勘の鋭い相手ってのが怪盗キッドで、そこから怪盗キッドとこの店との繋がりに勘付いて、小林として怪盗キッドと互いにやりとりしてた……とか?

 

 あの時、あんなにも私をこの店に呼びたがっていたのは落ち込んでいた私の気を紛らわそうとしていたのだと思っていたけれど……

 あれは、彼らに“私”を紹介したかった、とか……?

 いや、でもあの時福井さんは普通にいつもの福井さんだったよな……待て待て、怪盗キッドはなんだか女の子に変装してた話が多い。

 まさか……?その次行った時も話は通じたし、なら本人?まさか福井さんも……?

 

 う、うーん……?

 

 怪盗キッドが妙に良い人過ぎるせいで、悪人の基準が組織準拠になった景光くんが『コイツ、他人は傷付けないしなぁ』でなぁなぁに許してそうな気もするし、事情が事情なだけに手伝ってさっさと目的達成させて、足洗わせてやるかぁ!くらい考えてもいそう。

 この快斗くんの正体を知ってるのなら、悪い感情での付き合いでは……なさそうだ。

 

 お互いね。

 

 ……様子見かなぁ。

 

 

 このためだけにわざわざ持ってきたのか、小さな小上がりのステージにしゃがんでゴソゴソと準備している彼、怪盗キッド改め黒羽快斗くん。

 ふと顔を上げた彼と、見つめていた私とでばちりと目が合うと、彼はニカりと笑って「わりぃ!もうちょい待ってろな!」と言い、「言葉遣い!」と横で見ていた女の子に殴られている。

 大人とは到底言えない彼らがいるから、夜遅くなってはいけない、ということなのだろう……が……

 

 

 

 え〜?わっかんね〜!

 

 

 

「ほらほら、お前、楽しいマジック好きだったろ?彼のマジック、凄い面白いから!座って座って!」

 

 ステージの真ん前に椅子を並べていた景光くん、いや小林くんが、突っ立っていた私の肩を掴むと真正面の席に案内してくれた。

 裏で着替えてきたのか、いつものバーテン服がよく似合う。

 

「バカイトも、マジックだけは(・・・)中々すごいのよ。毎日毎日うるさいくらいやってるんだから!」

「バカイト言うなよアホ子!」

「青子よ!」

 

 テキパキとトランプや箱やら用意している快斗くんと言い合う、これまたどことなく蘭ちゃんに似た、けれどなんとなく蘭ちゃんより幼く見える女の子。

 2人ともなんだか子供っぽいが、あれで2人とも新一くんや蘭ちゃんと同じ高校生で、幼馴染らしい。

 ……そんなとこまで似てるのぉ?

 

 今日は寺井さんも福井さんも出勤していて、この快斗くんのマジックショーだけ見たら福井さん達は帰るそうな。

 

「え、ああ……好き、ですけど……」

「なら是非、楽しんでってください!今日はあなたのためのマジックショーですよ!」

 

 立ち上がった彼の子供っぽい、いたずらっ子感満載な笑顔は新一くんが滅多に見せてくれない顔で、これはこれで可愛らしくて微笑ましい。

 人懐っこく、明るくて、見てるだけで元気を分けてもらえるみたいな……演技。

 

 うーん…………生意気なガキンチョ……しかし新一くんの顔で怪盗キッドってだけでもうかわいいな。

 

 怪盗キッドの正体が彼であるなら、この笑顔にも絶対に裏があるんだろうなんてわかってるのに、この……新一くんがやってくれなさそうな笑顔が素直で……

 

 コイツ絶対わかっててやってやがる。

 

 これはあくまで予想なんだが、いつぞやの雪山ロッジで私が真田くんのファンだとか言ったから対抗心燃やしてんじゃなかろうか。

 

 

 真田くんは真田くんなの!

 盗一さんも好きだし……あの時の土井塔さんのマジックも大好きだ。

 あとはそうだな……最近流行りの星河童吾も顔は良いんだが……春井風伝もそうなんだけど観客がハラハラするような危険な脱出マジックが多くてちょっとだけ苦手。

 

 

 パチンと、ウインクひとつをこっちに飛ばし、快斗くんは両手を広げて舞台に立った。

 自信満々な顔は、新一くんが事件の真相が分かった時の顔にそっくり。

 ただしこちらはタネも仕掛けも無いこの魔法をご覧あれと、『見破れるかな?』と問いかけるような顔。

 

 うーん……生意気。

 こう……盗一さんみを感じる。

 

 

 ………………えーん!

 観る前から既に顔ファンになりそう……!

 

 

 

 まぁまぁまぁまぁまぁまぁね。

 何はともあれ、わざわざこうして、ロクな知り合いでもない私なんかの退院祝いなんてのでその腕前の一端を披露してくれるって世紀末の魔術師が言ってるのでね。

 あれ?世紀末の魔術師はラスプーチンだっけ?

 ……まぁいいや。

 

 

「よろしくお願いします!」

「いや、そんなに肩張って気合い入れないで、気楽に楽しく見ろよ……」

「そうよ、気合い入れるのはアンタのほうなんだから!こんなに楽しみにしてるお兄さんの事、がっかりさせたら承知しないわよ、このバカイト!」

「バカイト言うなっての!アホ子!!」

 

 キャンキャン言い合うと途端に子供っぽくなる。本当に怪盗キッドか?と思ってしまうくらい。

 

 隣に福井さんと青子ちゃんというきれいどころを侍らせ、カウンターからニコニコと見ていてくれる寺井さんと小林くんというなんだかホームパーティ感がものすごい。

 

 それでも彼が怪盗キッドだと認識している私としては、これが私のためのマジックショーなんて……何だかとっても贅沢な気分だ。

 

 こりゃおひねりは奮発せねばなるまい。

 

 

 

 

 ■

 

 

 最高のマジックショーを見せてもらい、その間に焼いていたという小林くんが作ったケーキと、お土産の焼き菓子と、私からのそれなりの額のチップでホクホクしながら、快斗くんと青子ちゃんは寺井さんの送迎で帰って行った。

 福井さんも後片付けして小林くんが駅まで送迎。

 

 その隙にひょこりと顔を出した零くんを迎えて、戻ってきた景光くんを混ぜた3人で、改めて報告会を兼ねた退院おめでとうの会。

 

 

 なんと今日は……私、日本酒を飲みまぁす!!

 零くんが持ち込んでくれたのである。

 

 飲むわよ飲むわよ!

 

 小さなお猪口にちょぴりと注がれた透明な液体。

 舐めてみると、甘くて、酸っぱくて、みりんとはまた違った風味が鼻に抜ける。

 

 

 飲みやすーい!

 なるほどなぁ、これが日本酒か〜

 

 

「いやそんなんただの水だろ」

 

 

 隣から茶々が入った。

 なんだいなんだい、持って来た日本酒を自分で飲んでる零くん。

 

 いやいやだって、なんとなく甘くてちょっぴり酸っぱくて、良い感じに美味しいって。これが甘口ってやつなのかい。

 こう……透き通った甘酒って感じ。

 養命酒とはちがうねぇ。

 

「そりゃ大体作り方は同じで、手順が変わっただけだからな。……はぁ、勿体無い」

「これ、蒸気を集めたら酒になったりしないか」

「うま!」

「はいはい。……そんな煮詰めたの、酒とは言わせないぞ」

「煮切り酒なんて調味料みたいなもんだろうに」

 

 うるせーやい。

 

 

 お高いと噂のそれを持ってきてもらった手前、断り切れずにペロと舐めてはみたが顔を顰めてしまい。

 

 零くんなりに厳選し、甘口の中でも特に飲みやすいものを持ってきてくれたらしいのだけど、それでも、せっかくもらったものを美味しく頂けないのが申し訳なかった。

 

 そこでそのグラスの酒を、景光くんが小さなお鍋でぐつぐつと沸騰させ、アルコール臭とアルコールを飛ばしてくれたのである。

 

 そうして差し出された、ちいちゃいお猪口で事足りるほど煮詰まったのに、何故だかさっきよりちょっと薄い元日本酒さん。

 酒ってのはアルコールありきなんだなぁなんて。

 

 何はともあれこれなら飲めそう!!

 

「勿体無い……」

「まぁまぁ。不味いって言われるよりはいいだろ」

「はい。美味しかったです」

「残りは貰っていいのか?」

「はい。2人で呑んでください」

「よっしゃ!」「うむ」

 

 これ、零くんが持ってきているが代金はクリスさんのお支払いらしい。

 本人が今、日本に来れないから、代理で選んで購入することになった零くん。しかし『(オキヤ)の飲めそうな酒を』と条件つけられてしまったそうな。

 とはいえ酒なんて、その当の私がほぼ全ての酒を好んではいない。

 ︎︎彼女への嫌がらせも兼ねて、高くて美味い、比較的飲みやすい酒を選んでくれたのだとさ。

 

 ……零くんのグラスに注ぐ手が止まらなかったり、私達の帰りの送迎のために今夜は飲めない景光くんが、止まらない零くんから奪い取った一升瓶を抱いて大事に撫でているので、相当良い酒なんだろう。

 

 仲良く分けて飲みなさいね!

 

 私の怪我の原因となった弁護士サマとその手下共、及び彼らに御指南頂いていた脱税連中は現在進行形で、関東はハムちゃんたち、関西以南は大阪府警たちで、重箱の隅まで齧り尽くしているらしい。

 零くんが何か言ったのかと思ったら、なんでも大阪府警の方が張り切って、普段なら公安と連携なんて取らないだろうに、逐一報告上げては声掛けしてくれてるそうな。

 普段の跳ねっ返りっぷりとのあんまりにも違いすぎるもんだから、ハムちゃん側が一周まわって恐れを感じているそうな。

 あの関西の虎の化身みたいな強面おじちゃんたちが素直すぎて。

 そりゃ怖えでしょうよ。

 がんばれ、なぜか零くんに代わって陣頭指揮任されたらしいくたびれおにいさん。

 

 銀司郎さんからは病院で、服部くん経由で電話をくれている。

 危険な依頼をしてしまったことを謝られたが、あれは単純に私がゲーム脳のままの調子で向かってしまって、そして鈍臭かっただけだからね。

 きっと向かったのが安室透だったなら、あの男が扉を開けた瞬間から制圧してたに違いない。

 だから、危ないかもと考えていても彼に頼まなかった私が悪いのである。

 

 悪代官退治は任せたぞい!

 がんばれ銀司郎さん!

 

 

 ■

 

 

「……で、結局コレはなんだって?」

 

 零くんが、自分の白い携帯を振って訊ねてきた。

 

 ノアズ・アークは悪い子じゃないよ!

 低リソースノアくんも悪い子じゃないよ!!

 

「わかったわかった。……仕様の長所と短所をちゃんと正しく説明しろ」

「はい」

 

 長所と短所……ねぇ。

 食べかけだった、景光くんが作ってくれたフィナンシェを口に突っ込み、零くんの質問の意図を考えてみる。

 

 ……つまりこれを使ってもいいものかどうかわからないってこと?

 

「……ではそれぞれ3つずつ」

 

 右手で指を3本立てようとして、包帯巻き巻きだったことを上げてから思い出した。

 フィナンシェをつまんでいた左手を、布巾を借りて拭いてから改めて上げる。

 

「まず長所から。

 ひとつ、『作業の劇的な効率化』。ふたつ、『セキュリティや安全性の強化』、みっつ、……うーん……『壁打ち相手にして思考整理』なんてどうですかね」

「3つまとめてから言えよ」

 

 零くんのご指摘はごもっとも。

 

「いやねー、他にも良いところあるんですよ。私なんかは『健康管理』として睡眠時間短い週はアラート報告してくれてますし」

 

 作業に集中し過ぎて食事や水分補給忘れてる時とかね。

 この間の爆弾作りの時は、阿笠さんと一緒になって熱中してしまって、こまめな水分補給をノアズ・アークが注意してくれてねぇ。

 

「ホー……短所は?」

「はい。そちらも大きなもので3つですね。

 

 ひとつ、『彼は嘘をつきます』」

 

「オイ」「何それ」

 

 焼き型の洗い物をしながら聞いていた景光くんまで声を上げた。

 ……言い方悪かったかな。

 

「いやいやいや、これは今勉強中の彼には仕方ないことなんです。入力された情報を、彼なりに考えてから出力しますが、そのやり取りが上手くいかないと時折奇妙な事を返す。

 ……そういった事を、極力無くす努力をしているので、この子にはそれはほとんど無いはずですが、仕様上どうしても、嘘や冗談が通じない時はあるので」

「あー、『ユーモアが足りない』ってそういう意味だったのか?」

 

 景光くんが納得したように頷いている。

 人間の言ってる言葉を真に受けちゃうのはどうしてもでちゃってねぇ。これでもかなり減っては来たから。

 

 とはいえみんなに渡しているのは低リソースノアくんなので、あまり検索方向の使い方はしないで欲しいって話ね。

 

「他には?」

「ふたつめは、『プライバシーの懸念』ですかね。学習データとして、どのように使用されたのか、などの入力された情報をこちらで管理させていただいてます」

 

 景光くんが洗い物の手を止めて、対面のカウンターまで戻ってきた。

 作業しながらで聞く話じゃないと思ったらしい。

 

「何もなければそれらはそのまま、ノアズ・アークの中で学習データとして思考の一例に組み込まれるだけですし、誰が何を入力したのか、までは見れませんよ」

「……重要な情報の取り扱いはさせるなということか?」

「それはそう……なんですが……

 断言しますが、先程長所として上げた通り、セキュリティは現行最高峰です。“誰が”の情報を抜き取られる心配はほぼゼロですよ」

「……」

 

 むむ。零くんが難しい顔してら。

 ぶっちゃけ、本当に気にしなくて良いんだけどな。

 低リソースノアくんはざっくり使いそうな情報だけ切り分けて持って行って、必要そうなら本体と同期しているから、入力されたものを返す事は得意だけれど、ものを探したりといった本来のノアズ・アークの出来ることはほとんど出来ないに等しいし。

 

「3つ目は?」

「みっつめは……『思考力の低下』ですかね。正直これはそのうちもっと優れた情報機器が出回れば出回るほど、顕著に現れると思うので、気を付けていれば問題ないと思います」

 

 現代の人間、スマホ無いと生きてけないからね。

 そんな現代に生きてた私とか、既にノアズ・アークの利便性にやられてしまって、どっぷり依存してるようなもんだが。

 零くんも景光くんも私みたいにはならなかろう。

 

 “思考を止める”、なんてことのありえない人たちこそが、探偵なんて真似を出来るのさ。

 

「…………ふむ」

 

 お、零くんが考えてくれてる。

 景光くんは景光くんで、黒い携帯を開き、中のペンちゃんに色々入力してるが、聞いたところで聞かれたところで。別にペンタ・ゴンちゃんが悪いことするわけでもなし。

 

「確か、使用者に応じて機能を成長させるんだったな?使用例を3つ上げろ」

 

 前に説明した時のやつか。

 ノアズ・アークは低リソースノアくんの運用方を、私のNebulaを元にしてくれたらしく、使用者を覚えて自分でカスタムしてくれる仕様。

 

「はい?……はい。えーと……

 みっちゃんは連絡特化ですね」

「俺?ああ。手が離せない時も多いから、メッセージやメール、電話とかを知らせてくれるな。あとは……暇つぶしのジョーク?」

「まだやってるんですか、オヤジギャグ」

「オヤジじゃねーっての」

 

 おもんないやつね。

 

 読み上げノアくんとしての使用は、景光くんのところの子が1番特化してるかな。

 

「ARATAの樫村社長や智ちゃん……新出智明くんは、スケジュール管理に使用してますね。来客、来院予約、会議予定、消耗品の在庫管理……」

 

 あの使い方するなら、携帯よりPCに移してあげて欲しいところ。

 とくに樫村さんところの子が、スペック足りなくてバッテリー消費激しくしているのを申し訳なさそうにしているから、今度ヒロキくんに言っとくか。

 

「大体はその2種類ですね。その他、後は……後は変わり種なんで参考にしなくても大丈夫です」

「配ってる相手は少ないって言ってたのになんでもう変わり種がいるんだ」

 

 景光くんが呆れ顔。

 だってなぁ。

 

「だって、工藤優作先生と羽田名人ですよ」

「…………ああ、そりゃ変わり種だ」

 

 名前だけで納得されてる彼らのネームバリュー。

 秀吉に関してはそこまでの面識無いだろうに、テレビのニュースやバラエティーでの映像だけで人となりは大体把握してるっぽい。

 

 工藤氏は自分の情報ではなく編集者達の情報を打ち込み、彼らの手を逃れる為の使い方をしている。悪いこと教えないで欲しい。

 秀吉は将棋学習ソフト貰ったとか思って対局相手にしているので……すーぐ充電無くしててね。

 充電器繋ぎっぱなしで使うから、バッテリーがもう死にかけで……新しい携帯買わせたけどさ。

 ここのツートップはもうね。良いんです。

 

「……なるほどな。大体わかった」

「わかったんです?」

 

 わかるもんなんです??

 考え込んでいた零くんが頷く。

 景光くんからの報告と私の話、そして状況と、彼の知る情報から導き出された答えを知りたいが、彼は確認を優先したいらしい。

 

「ハル、手が治ってからでいいが、携帯を渡したらもう1台、そのノアズ・アークのインストール頼めるか?」

「今すぐでも構いませんが、誰かに渡すんですか?」

「まず手を治せ。安静にしろと言われてるんだろう」

 

 むん。

 それこそ、繋いだらあとはノアズ・アークに頼むだけなのに。

 

「……物は試しだ。風見に使わせてみようかと思ってな」

 

 

 …………

 くたびれおにいさんが実験台にされてる……

 

 

 

 





景光さんが抱いてた日本酒は読者の皆さんの想像する中でも特に最高級の日本酒で想像してください。
ピンキリのピンでいいです。値段を知らず気にせずアルコール飛ばした馬鹿です。マジで酒飲まずの勿体ない人間です。


読んでいただきありがとうございました!
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