昴くんはなにもしない 作:あまも
ここまでの話の中で視点が変わった所の前のぽっち(■)を別の形にしてみたりしてみました。一応主人公では無い人なんだなぁとわかる程度の変更ですが、一旦それで許して下さい……読みにくくてすいません
サブタイに困っています。
閲覧ありがとうございます!
「さて、し…コナンくん」
「その開幕わざと言い淀むのやめろよな」
「私で慣れておくと良い。後でもっと酷い人が来るかもわからないから」
ほんまか工藤もろたで工藤なあの人とかや工藤。工藤やのうて苦労やく・ろ・う!
小五郎さんと蘭ちゃんがいない隙に情報共有しておこうかと、新一くんをバルコニーに誘い出した。
下のプールでキャッキャウフフしてる男女が最高に夏してて、良かったねと他人事の顔してたら新一くんに妙な顔されたので、遠く海へと目を向き直す。いやいやなんにもないって。
「いつもだけど、怪しまれても仕方ない格好してるからね?」
自覚はある。
今日は夏日で、午後の日もそろそろおかえりの時間だというのに未だサンサンキラキラ眩しい。
なので眼鏡は夏用レンズで偏光入ってる、青っぽいギラギラ反射グラサンだ。これは目線もわからないだろう。
更に長袖灰色パーカーに白手袋と10分丈レギンスにワークパンツ装着した不審者は私です。
海では一応水着ではあったから。パーカー着てたし泳ぐ気ゼロだったけどね。
なんなら日傘まで欲しい。
新一くんは蘭ちゃんに売店に誘われていたので早めにすませよう。
「さてコナンくん。1つ確認です。
このミステリーツアー、事前にホテルの部屋番号と泊まる人物の名前が提示されていましたが、その時点で『闇の男爵』の正体は推理できますか?」
「正直難しい……と思う。部屋番号というより、部屋の配置が重要なんじゃないか。人物の名前は関係無いはず。オレたちみたいに、当選した当人と違う人物の参加が認められている以上、人もあまり関係は無いだろうし」
「じゃあやっぱり、『闇の男爵』が起こすという事件を待つしか、手がかりは生えてこないですかね……」
「一応確認するけど、スバルさんは違うんだよね?」
「おや、確認するんですか?名探偵」
降参の言葉と捉えて良いのかな?の意味を含ませて笑いかけると、ぐぬぬと返す言葉を詰まらせる新一くんの表情の良きこと。かわいいね。
ゲームはあまりやらない彼に、こういうゲームもある事を教えてあげたい。ゲーム操作は下手っぴちゃんだけど、状況見て答えを探すゲームは……
普段から犯人探してる? それはそう。
普段のやつがゲーム感覚?……一理あるな。
金田一少年を探さないか?彼の苦悩を知ったら……知っても……新一くん意識たかいたかーい系男子だから決定的な所で噛み合わないんだろうなぁ……
とはいえ。流石に今回、ゲームの前提だけど、どんな事件だかわからないからね。ゲームの推理をやらせたいところだけれど、名探偵には仕事してもらわなきゃならない。
「今回はゲーム性の提供と、競合相手への牽制。そんなところなので、私のあの発言はそこまで意味はないですよ」
「いやあんだけ意味ありげに……そうだ、意味といえば、『闇の男爵』になんか意味があるのか?皆、なんで小五郎のおっちゃんが探偵だって知った時にあんな──」
「コナンくーん、まだ~?」
階段下から声がかかる。顔が覗いたが、蘭ちゃんだ。私と話をしているのを見て、あらと目を丸くして、そしてにっこり。良いね。
新一くんが慌てて「も、もうちょっと~!」と子供らしく高くした声でお返事している。いやー、かわいいね。
お話してますんでちょっとだけ先行っててねと蘭ちゃんを送り出す。
「早めに済ませましょうか」
「おう。……なんであの人たち、探偵って聞いただけで、あんなに驚いてたんだ?たかがゲームだろ?」
「そうですね……みなさん、ご褒美が欲しくて参加してるようですから」
「ご褒美って、博士が言ってた“オレには必要ないもの”?」
「ええ。ある極秘プログラムの入ったフロッピーディスクです。かく言う私も見てみたくて参加したわけですが」
「うん。スバルさんが欲しがってたから、謎解きを手伝ってあげて欲しいってのも言ってたよ、博士。
でもさ……みんな中身知ってるみたいに言ってるけど、どうして“極秘プログラム”としか言われてないのにみんな知ってるんだ?」
うむ。頷いて見せる。その理由は明確だ。
「……名前でしょうね」
「名前……?名前だけでわかるの?」
うむうむ頷いて見せる。わかる人にはね。あの名前でプログラムあげるよなんて言われたらね。
「ふふ。この界隈にいる人はわかる人が多いかと。
……かつて、様々な大企業や研究室のコンピューターに次々と侵入して、データを荒らしまくったコンピューターウイルスがあったんです。見つけることも止めることも出来ない、悪質で完璧なプログラム。
そのターゲットには法則性は無く、発見、出現のタイミングもまちまち。神出鬼没のそのウイルスに、人々は呼び名を付けました。
それが────『
最近、闇の男爵に良く縁がある。私もあの仮面一枚くらい持っといたら何かに使えるだろうか。車に載せておいたら工藤氏が喜びそう。
「ナイトバロン……って、父さんの」
「ええ、工藤先生の作品の、正義のダークヒーロー、仮面の主人公です」
「そうか、主催者がその名前を名乗ったから……」
「そう。……ソレが皆の目当ての物かは、私は半信半疑……いいえ、正直信じてはいません。それでも可能性はあるから確認したいのです」
あわよくば解析して利用……とは思うけどね。
「……あの時、スバルさんは皆、闇の男爵に因縁があるって言ってたけど」
「コンピューターウイルス欲しがってるなんて、好奇心か、あのハッキング事件の犯人を突き止めたい人か、消されたデータの恨みがあるかのどれかじゃないですか。
まぁ……中には悪いことに使いたい人もいるかもしれませんが……」
「…………アンタにも、因縁があるのか?」
慎重に訊ねられた言葉に、思わず笑みが零れた。
因縁なんてもんじゃない。全然大した事はない。ホントに。
新一くんが肩をビクつかせて後退りしている。なんも、なんもないですよ。
「一昨年の────おや?」
「もう!コナンくん全然来てくれないじゃない!」
「あっ!ご、ゴメンなさ~い」
ここで蘭ちゃんキャンセル!新一くんが捕獲されてしまった!
「沖矢さんも売店、どうですか?」
「私は遠慮しておきます」
「そうですか! コナンくん、借りていっても大丈夫ですか?」
「ふふ、借りてたのは私のほうですよ。そうだ、おこづかいをあげましょうね」
「えっ!いえいえいえ、わ、悪いですよ!大丈夫です!行きましょっ、コナンくん!」
颯爽登場、のちにまだ私の話を聞きたげなコナンくんを引きずって行ってしまった。引きずられる時のコナンくんの嘆きボイス、どこかに需要ありそうな気がする。
人の去っていったバルコニーで、止めてしまった言葉の続きが喉まで出かかったまま。
階下のカップルの楽しそうな声。
ようやく赤くなってきた夕陽のおかげで、なんだか無性にむなしい気分になる。
柵に背中を預けて、ウミネコのみゃあみゃあ鳴く声に赤い空を見上げた。
随分速く飛ぶ鳥だこと。風が強いのかもしれない。
「──一昨年の、私の留年の原因ですよ」
なんもない。原因の一端ではあるけれど。
あれは私の管理ミスだ。
一年かけて集めた研究データも、頑張って書き上げた論文も、まとめて全部まっさらにされた日には巡り巡って『闇の男爵』を生み出した工藤氏に鬼電して怒鳴り込んだからね。理不尽のかたまりの所業よ。
自分のファンボーイだったはずの私の、あまりの剣幕に困惑した末、工藤氏に
「何か、君から手を出したり……奇妙なファイルを拾ってきたりしてないかい?」
と至極真っ当なことを訊ねられて、そういえばちょーっと黒いところにこころなしかなんとなーく深く入り込み過ぎた覚えがあってしまったから、誰を怒ることも出来なくなって、消化不良が酷かっただけである。
愚か…ッ!あまりにも愚か……ッッ!
自業……自得……っ!
あれ以来、私は全てのデータのバックアップを共同研究者にも預けるようになったし、メインにしてるのは私プロデュース阿笠博士カスタムのパソコンの方。セキュリティは自分と、共同研究者の協力の元、死ぬ気で再構築した。
そして阿笠さんにスペックそのままでノートパソコン型になるよう頼んで作ってもらったサブPCもある。
これらは全て、コナンくんが小さくなる前に作ったので、件の電子機器逆行の恐怖体験の一助にもなっているんだが、ある意味現状の世界では、どのPCよりも優れてると思っている。
使うの怖いけど。
だもんで、研究室により一層近寄らなくなった。
いやー、頑張ったんだよセキュリティ。
阿笠博士の発想と、共同研究者の彼の手伝いもあって……
もうね、侵入された日にゃ相手側まで辿って行って、中身吸い尽くした上で相手の使用機器を熱暴走で爆発……させてやろうかと、過激な考えをしてしまったのを、共同研究者の彼に『それはさすがにやめなよ……』と渋面されたので止めた程度には、あの頃の私は過激だった。
今は辿った先を吸い出すだけですよ。
……終わってから『熱暴走させちゃう?』って聞いてくるポップアップはまだ出るけどね。ダメって選んであげれば良いのさ。
まぁ……若気の至りというあれである。
そんな黄昏サンセットロンリーボーイを気取っていると、ふと、視界の端に何か黒いものが映った気がして空から視線を戻す。
階段を上がりきってこちらに向き直る、黒い姿。
黒いシルクハットに吊りあがった口元、黒いマント……最近見たな。最近?最近。
「『闇の男爵』……ああ、イベントですか」
「…………」
仮面越しにこちらへの強い視線を感じる。睨まれてる気のする強い、強い視線。カツカツと足早に近づいてくる闇の男爵。
……ツアー中にイベント……事件起こすんだっけね。
カツカツだった足音は、カッカッカッと、勢いつけて走る速さだ。
サラマンダーよりずっとはや~……
…………あっ、これ、被害者、私?!
「え、あの、ちょっ」
「……っ!」
ナイトバロン の たいあたり!
スバル は うしろに たおれた !
たいあたり じゃねぇよ とっしん だよ。
咄嗟に後ろに伸ばした手の先には何も無い。私はバルコニーで、柵に背を凭れていたから。
上半身を突き飛ばされて、瞬発力のない私は体勢を戻せない。
「お、わ」
足が柵から落ちる。縁を掴もうと手を出して、いつもの革手袋じゃない滑りの良い白手袋では何も掴めず。
浮遊感与えちゃったか。
独特な笑いを浮かべた仮面が、見下ろしてくる構図が印象的である。
私ってば、『闇の男爵』に襲われ過ぎィ!
そうして、派手に着水。
なんとか身体を丸めて、頭から落ちるのは防いだけど水はいっぱい飲んだし鼻から入ったし強かに背中は打ったので息が漏れて、底まで沈むこと沈むこと。
誰だこんな深いプール作ったの。ありがとう。
プール底を蹴って急浮上。水面の光の反射が眩しい。ああクソ、眼鏡落とした。後でホテルの人に探して貰わないと。
なんとか水面から出ても、咳き込みながらでは呼吸がしづらい。布が水吸って重いし、そもそも私は風呂より広くて深い水場で泳ぎなんて、この沖矢 昴ではやったことないんだからな。
溺れかけていると、カップルの男性の方が大丈夫ですかと声をかけてくれて、肩と彼女のピンクの浮き輪を貸してくれた。
ありがとう、命の恩人、マジ感謝。これ命の一句。
突き落とされはしたけれど、下がプールで助かった……と思うじゃろ?
「(ありがとうござ、い、ま……)」
「えっ」
あーもうやっぱりだよもう。
私の口から出た、ガサガサの聴き取りにくい声に、男性がビックリしている。久しぶりに自分のホントの声聞いたけど、一層聞き取れなくなってるな。はーやだやだ。
命は助かったものの、どっこい私の日常生活の必需品、変声機が逝かれたらしい。
生活防水だけど、水没はダメなんだよなぁこれ。
水音と騒ぎ──恐らく『人が飛び降りた』とか──を聞き付けて、新一くんがいち早く駆け付けて来てくれた。青い目が見つめてくる。
アイコンタクトで会話試みるのやめてね?
私にその特殊技能無いから。
咳き込みながら、バルコニーを指さし、その指を滑らせてプールへ。ガサガサ声でなんとか、「ないとばろんが……」と、言ったつもりだが聞き取れたかどうか。
たぶん身振りだけで状況を察したのか、「クソっ!」と悪態をつきながら彼は階段を駆け上がって行った。
うーん、事件事件。
■
とっぷり水に浸かったチョーカー型変声機は、とりあえず天日干しして様子をみるしかない。ついでにホテルの人に見つけてもらった眼鏡も、とりあえず天日干し。
夏ではあるけど……元々潮風浴びてるし……帰るまで電源入れないでおこう。
メカは博士に預けるのが一番。
私は声が出ない。
正確には、人がまともに聞き取れる声が出ない。
子供の頃に大火傷した時に喉が焼けて、その頃から怪しかった声。
変声期過ぎてみたら、変声期中の変な声からみるみるガサガサ声になっていき、酒焼けを疑われる声を経由して、ついにはまともに聞き取れない声になってしまった。
子供の頃、損傷した喉のまま喋り過ぎたらしい。喋れたから喋ってたらそんなんなるとか……ねぇ?
それでみんなに会話に付き合わせる度に耳を澄まさせたり、聞き返させたりするのが悪くて、会話というのを忌避した私に、阿笠さんがこの変声機を作ってくれたのである。
どちらかというと声帯の補助みたいな物で、新一くんのアイテムなら蝶ネクタイ型変声機よりキック力増強シューズに近い、超技術方面の物らしい。
…………えっ、あまりにも昔から使ってて考えたことなかったけど、もしやこれ、私の喉が虹色に……?
尚、監修に有希子さんが入り、有希子さん好みのスーパーイケメンボイスに調整されている。地声がそうなのかはもはやわかんないね。
閑話休題。
その変声機が水没で壊れちゃった。
と、このガサガサ声で新一くんたちに説明するのが手間過ぎて、持ち込んでたパソコンの画面越しに文字で話を伝えると、3人とも憤慨してくれた。
イベントだとしても、やり過ぎである、と。
ところが、『闇の男爵』に突き落とされた事を皆に言うと、逆に他の参加者は私への疑惑を強めたらしい。
怪しいムーブした私も悪いが、言うに事欠いて『自ら飛び込んだのでは?』はないだろう。
電子機器壊してんやぞこちとら。
…………そう、分厚いパソコン使ってる連中なので、阿笠博士のスーパー異次元メカがあのサイズで電子機器であることが理解出来ないのである!
おのれ!名探偵に情報チクってやる!
『今回のこのイベントで、結構絞り込めたかと思いますよ。
私の感覚にはなりますが、相手はかなり細身です。もっと力のある相手なら、あんなに助走つけて気合い入れなくても、私くらい弾けるはず。
なので前田さんは除外。同じく、一応小五郎さん、蘭ちゃんも除外出来ますね。
そして走ってきたことから、まずご老体の金城さんも除外。その補佐の……女性に言いたくはないのですが、体格も年齢も結構ある様子の林さんも現実的ではない。
よって、今野、江原、上条、佐山が私視点の容疑者です。
彼らのアリバイなどが判ると良いのですが……』
これだけで一つ頷いて「ご飯の時、みんなに聞いてみるね!」と駆け出してく新一くんは頼りになるなぁ。彼視点だと江原さんか今野さん辺りかな。
……小五郎さんも「任せとけ!」と張り切って出てったけど、あれひとまず上条さんとこ行ったな。
蘭ちゃんは終始私を心配してくれていたけれど、一旦前田さんと佐山さんに話聞いてきてみるとのこと。
私は部屋待機勢である。喋れないし。夕飯はルームサービスでいいかな。
……画面越しなら話せるけど、それじゃいよいよもって不審者じゃん?
みんな戻って来るまで、飯食って部屋で寝てるか~
■
なんか起こされて出てったら、人死んでるし私が容疑者第一位なんだけど!!
たすけてぇ 名探偵~!!
ここんとこずっとアホやっておりまして……
誤字脱字報告ありがとうございます!
読んでいただいてありがとうございます!