昴くんはなにもしない 作:あまも
これ投稿するのは中々勇気がいりましたが主人公があんなんなので今さらって言われたら今さらかと開き直りかけましたがめっちゃ顰蹙はされる覚悟は一応引っ張って来ました
よろしくお願いいたします
閲覧ありがとうございます!
*
昴から連絡が来た。
大抵、メッセージやメールで済ませ、電話するとしても先にメッセージで『現在、電話が可能か』をこちらに確認を取るアイツ。
それが、全ての工程をすっ飛ばして緊急用の電話番号で連絡してきたことで、こちらも組織や、本堂瑛祐に何か起きたのかと、慌てて急いで電話に出たんだが。
『お兄ちゃんが、出来てしまって……!』
「……はぁ?」
一体何を言ってるんだコイツ。
しかし、電話の向こうの声は心底慌てて、困惑しきった声音だった。
先日リフレッシュしてくるとか言って山に行ってきたそうだから、リフレッシュし過ぎて“また”頭のネジが飛んだのかもしれない。
『いえ、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんですが、まさかここまでとは、というか私には何がなにやらというか……とにかく、相談事なんですよ!このままでは私はまたもやパンクしかねません!』
真剣に困っていそうな声だったのは確かで、少なくともいないはずのものが現れたのは事実なんだろう。
相談事というからには、知らせておかないといけないと、昴が考えたのではあろうし……
……とりあえず行ってみるか……
何言ってるのかわからないが。
*
阿笠博士の研究室。
玄関ドアを開けて駆け付けた俺は、そのソファーに、並んで座る2人が真っ先に目に入って、思わず叫んでしまった。
「増えてる!?」
「……アブラムシの増殖みたいに言わないでください……」
「ふ。言い得て妙、ですね」
紅茶色の癖のある髪。中々の長身。
白い肌は顔だけ晒して、首から下は長袖や手袋で隠している。
糸目でメガネをかけた、見慣れたのほほんと呑気な顔の、胡散臭い男。
が、
片方は楽しそうにクツクツと笑い、片方はへにゃりと困りきったように眦を下げている。
服装も似ていて、表情や仕草以外の違いがほとんどない。
「……ッ!阿笠博士の発明か!?」
「いやいやいや」
お茶をポットごと持ってきた博士が慌てて首と手を横に振っている。
阿笠博士が灰原さんの手を借りて、妙な薬品かなんか作った……可能性を真っ先に考えたんだが、違うらしい。
「彼なら有り得ますが、人体増殖は流石の阿笠さんでも…………やる気になったら出来そうです」
「それはそれは。阿笠
阿笠博士について、知ったふうな口をきいた困った顔の男と、面白がる男。
つまり、この困ってるほうが。
「こっちが昴か!」
「ええ、正解です」
「お見事」
困ってるほうが頷き湯呑みを手に取り、面白そうにしてるのが小さく手を叩いている。
なんなんだこいつら。
困ってるほうが隣をマジマジと見て、湯呑みに口をつけてホォーとため息。
「……やっぱりそっくりなんですねぇ」
「古い友人、という彼も一瞬見分けがつかないとは。面白いですね」
「いやぁ、私は怖いですけど」
「そうですか?」
のほほんとした彼らのやり取りは、どうにも見ているこちらの脳がバグるというか……困ってたんじゃなかったのかよ。
「っ……昴!コイツ、何者だよ!お前、もしもこれが……」
組織の手の者の変装だったり、何か探りに来ている連中だったりしたらどうするつもりなのか。
俺は、その言葉は飲み込んだ。
この場には阿笠博士もいる。
何より、この謎の男に、情報を漏らすのはまずい。
不用意な単語は出せないが……それでも、この男へ向ける態度には隠しようのない不信感は混じってしまっているだろう。
隠す必要もないと思っている。
…………昴が、それでも俺を呼んだのは、こいつのことを『小林唯景の顔は見せてもいい』程度には信用してる……のだろうか。
だが、あの電話から察するに、『人を見る目がない自分の代わりに、見極めて欲しい』という依頼だと考え直した。
サングラスはかけたままであるのを指で確認して、昴たちの対面のソファーに座り、話を聞く姿勢。
……灰原さんは玄関に彼女の小さな靴もなく、普段生活している痕跡も無い辺り、来るのがわかっていて席を外しているのだろう。
その程度には警戒済みか。
…………マジで、コイツなんなんだ?
「……落ち着いてください。彼が私の親戚であることは、これから確認するのでまだ確定はしていませんから」
右側に座るいつもの昴が、なだめるように手を振った。
いや、お前。
それは余計に怪しいだろう。
■
「……小林くん。そんなに怖い顔をして。隣の彼がビックリしてしまいます」
「ふ……彼の怒りに怯えてるのは君の方では?」
「あはは。確かに?あなたはあまり怯えたりなんてしなさそうですね」
冷えた手を温めていた湯呑みを机へと戻した。
隣の男は楽しげに、胡散臭い顔に笑顔を貼り付けているが、これ自分もこの顔なんだよなぁと思うと、胡散臭くて仕方なくなってくる。
おかしいなぁ、こんなにイケメンなのに。
目の前で今にも隣の男を研究所から蹴り出しそうな形相で眉を釣り上げて
この格好からして、今日の配達のバイト中だったりしたのかな、と悪いことした気になってしまった。
私の電話で仕方なさそうにしながらも、慌てて来てくれたんだろう。
これが実は私だって結構困っている。
身寄りのないはずの私の隣に、まるで鏡合わせのように私とよく似た瓜二つな男が、当然のような顔をして座っているもんでさ。
こちとら運営してたサイト経由で私宛に連絡が来て、試しに話だけ聞いて、『ほぇ〜親戚なんてホントに居たんすねぇ』なんて……ごくごく軽い気持ちだったのに。
そんな、まさかそんなにとは思わないじゃん。
こんなにとは思わないじゃん。
いざ顔合わせてみたら“コレ”。
物の見事に完璧な、“沖矢昴”らしい沖矢昴が現れたってワケ。
そりゃあなた、困るでしょうよ。
私は実は沖矢昴じゃ無かったのか!?とか、私のアイデンティティくんが旅に出ようとしちゃったから必死でつなぎ止めたのである。
隣の男を見る。
沖矢昴フェイスでのほほんと湯呑みの茶を啜っている。
お前……湯呑み似合わないな。
どことなく漂う異国情緒。コーヒーや紅茶やグラスが似合うよ。
服がシャレオツなせいだろうか。
こう……有希子さんの好みそうなフォーマルに近い格好で、色味が淡くて暖色系。
たぶん工藤邸のクローゼットとか漁ったら出てきそう。
手が冷えてきたので、置いたばかりの湯呑みを取った。
のほほん顔で2人して茶をシバいてるのを、阿笠さんがおろおろと、小林くんが眉根をめっちゃ寄せて見てくる。
やっぱり似てるというか、これ、……“寄せてる”よねぇ?
擦り寄りとか、誰かの成りすましとか、こっちを冷えさせたいとか色々な可能性がぽこぽこと浮かんでしまって、現状では3つに絞れない。
どれもどうとも言えなくて困るな。
小林くんが、依然として強い視線。
サングラスで眉しか見えないけど。
「…………で? なんだって、この不審者がお前の『親戚』を名乗ってるんだよ」
「不審者、ですか。これはこれは、手厳しいですね……」
クク、と喉を鳴らして笑う横の男。
私はあんまりその笑い方しないから、隣で見てて新鮮だ。
てか、なんか……笑い方が常にニヒル。
私も施設育ちだったらこうなってたんかな?……いやぁ……
私もニヒルな笑いっての、やってみる?
灰原さんに『キモいわよ』とか言われそうでは?
うーん。
「僕は“
横の彼が、名乗りとともに軽い会釈。
聞かない名前なのは確か。
そうして、彼は横の私の方を手で差し示した。
「僕の存在については、彼の開発したシステムが証明してくれるはずですよ」
「私の開発ではないんですけど」
「システムだと?」
小林くんの怪訝そうな顔。いつでも尋問モード入れそうな体制してる彼を怒らせないようにしないと。
横の人が蹴り飛ばされちゃう。
人殺せるパンチの友人に対抗して人殺せるキック鍛えた友人である。
怖スンギ!
湯呑みを置き、温まった手を揉みながら隣に置いていたノートPCを手に取った。
「ええと、これですね。
この――
これが、彼と私の親戚関係を証明してくれちゃったりなんかしちゃいまして」
私は手元のノートPCを起動し、その画面を小林くんの方へと向けた。
阿笠さんも、何故か隣の彼も覗こうとしてきたので見やすく机の角にズラして斜めに置き直す。
なんか企業に行った時のプレゼン大会みたいでやだなぁ。
そこには、複雑に絡み合う幾千もの光の渦……『螺旋』が、一点に向かって収束していく鮮やかな系譜図が映し出されている。
ここら辺全部ヒロキくん制作。
私にデザインでのセンスを求めてはいけない。
私は使いやすさとか、一般的な感性ってのを天才たちにお伝え申し上げる担当ですからね!
「かの天才少年、サワダヒロキが製作した、『DNA探査プログラム』。
それを活用する為、かつ研究に利用するために手を加えまして。
出来上がったのがこちらのシステム。正式名称を、『The Eighth Biological Archive & Heritage』……なんて、長いと覚えられませんからね。
通称
ヒロキくんに、名前は短いのが良いと伝えたらこんなにめっちゃ短くしてくれたのである。
美味しそうな名前でよろしいと思う、と素直な感想を伝えたら、ニッコリされたのも大分前の記憶。
あのニッコリは何だったのだろう。
私の瑞々しい感性を褒めてくれたんだと信じているが。
この名前……“
たぶんノアの方舟になぞらえて、家族の人数とかそんなんだったと思うんだが。
神話好きな製作者がこれで行くと決めたのだから良いのである。
名前の由来とかは使う側には関係ないのさ。
「このプログラムは、高精度の遺伝子アーカイブ・システムです。膨大な人類の航跡から、希望者の中に眠る“そこに至るまでの系譜”を細かくサルベージし、ルーツを辿るために再設計されました」
ヒロキくんの趣味は神話になぞらえる事だからな。
なにかとすぐ神話出してくるので、ノアズ・アークもそれ真似してすーぐ神話の話を始める。
こっちもゲームの話で返してるからどっこいどっこい。
ファンタジーの元ネタは神話や伝説が多い。
……人類史巡る戦い、ちゃんと真面目にやっとけばよかった。時間なくて途中までしか知らないんだよな。
何はともあれ、あの革エプオジサンを狂気に落とし殺人へと動かした『DNA探査プログラム』。
動物に適用するより早く、データが集まるよりずっと早く。
元々学習させてあったデータの再使用許諾が取れたので、ノアズ・アークと合わせていた部分を遺伝子追跡システムとして別個で独立させてリニューアルしてみたのである。
これはこれで使い道があるからね。
でも小鳥だって恐竜に辿り着ける未来の夢はまだ諦めてないからな……!
「……私はこの開発に関わる側ですから、テストも兼ねて、自分の全ゲノムデータも当然放り込んでありました」
テストというか……“沖矢昴”の手がかりになればと思ってね。
私みたいに、『天涯孤独〜!マジ卍〜!』と世を儚んで『世界に私は一人きり……』とか孤独なシルエットしてる人がこの世にはゴマンといるはずなので、そういう人たちの僅かながらの希望になれば、ヒロキくんも開発したかいがあったと喜べるだろうからな。
創り出したことが間違いだったなんて言わせねぇからよ。
選択して、実行。
すると、私のデータを示す輝点から、細い糸がスルスルと過去へ、そして海を越えて西の方角へと伸びていく。
「私の父方はイギリス系。特に、ロンドンの郊外に住んでいた父方の祖母の家系は、記録が途絶えがちでしたが古い一族でした。土地持ちでしたしね。……それで、最近になって大陸やヨーロッパの方に、このプログラムの人気が出てきまして……」
最近、なんかいきなりデータの登録希望と利用許諾許可申請と提携希望と……サイトの連絡フォームに大量に届き始めた。
どれもこれも、海外からばかりどさどさと届き、慌てたヒロキくんから相談されてね。ノアズ・アークが審査しつつ登録や許可出ししてくれているが、ヒロキくんにそっちは任せてある。
どうやら西欧の芸能人の方が、このプログラムで自分の本当の母や、それに繋がる自分のいとこの、『生涯会ったことのなかった祖父の墓参り』という願いを叶えた、なんてお涙頂戴話をテレビで語ったそうで、以来、あちらではちょっとしたブームなのだという。
なるほど移民などが多く人種のるつぼな欧米や、陸続きの大陸やら西欧諸国。
自分の血が何処から?という疑問は、話題作りには最適だったんだろう。
ちなみに古い時代に日本人の遺伝子が混じってたりすると凄い自慢話になるらしい。
距離もそうだが、鎖国ら辺の話かね。
まぁなんにせよ、外国人のデータ登録がめちゃくちゃ増えた。
忙しくはなったが、研究が捗ってヒロキくんホックホクである。
元々こういう使い方したかったはずが、ファッキンITエンペラーがよぉ…
「……その海外から登録された膨大な新データが、私の祖母の系譜の『空白』をいくらか埋めてしまったんですよ」
この“沖矢”の家系、遡ると1親等から既に亡くなった方ばかりではあったのだが。
故人を示すただの暗い点の繋がった紐の先、キラリと、イギリス辺りで輝く1点。
私は、横に座っている“私にそっくりな男”に視線を送り、それから再び小林くんに視線を戻した。
「このテバが弾き出した結論ですが。
私の祖母の系譜を遡り、さらにそこから分かれた枝葉を辿った先に……これほどまでに高い一致率を示す個体が存在してしまった。
……科学的に言えば、親戚である“可能性は”、かなり高いでしょうね」
とまぁ。
DNA鑑定結果は『めっちゃ親戚』と言っているが、ヒロキくんが「要検証」と言っていたので確定とは言えないらしい。
というのも、それなりに離れてるはずの系譜なのにかなり近いデータ値が並んでるそうなのだ。
――まるで、私の登録データをちょっと弄っただけ、みたいな。
あちら様、こと橋波さんからも、この数値のかなり近い人に会ってみたい、と今回の連絡をつけてきたそうなので、ほいだら試しに実際会ってみるか〜、と、そうなったのだ。
そしたら“ コレ ”が来たから、マジでびっくりして小林くん呼んじゃったけど、話してみたら案外そう悪い人でも無さそうというか……
でも変装ってわけでも……体つきとか私に似てるし、頭はちゃんと素材感ないし……顔があまりにもそっくりなだけだ。
テバの情報集めの段階で、欲しい情報が出てきてしまって、このパターンで結果を確定していいのかわからない。
ダメならエラー出てるし、停止させて確認しないとまずい。
これまで大体のパターンは合ってたのに。
結果、現在真偽不明中。
というか裏付けが出来ないのである。
「……戸籍や書類上の確認はまだですが、してみた所でこちらの『お兄ちゃん』、施設育ちで自分の親も知らないとの事ですからね。そちらを辿ったところで、といった話です」
「施設」
「ええ、いわゆる“橋の下で拾った”ってやつですね」
世知辛〜。
私も阿笠さんが受け入れてくれてなかったらと思うと、他人事には思えない。
戸籍が、拾ってくれた施設の管理の人の名前だからもうそこから道が途切れてるのである。
「……ですが、遺伝子の配列という、何よりも雄弁な真実が、彼を私の元へ連れてきました。
………………そしてこの顔が……どうしたものか……」
「おやおやおや」
隣の男の顔、その頬をはみとつまんで軽く引いてみる。
痛そうにもしていないが、体ごと寄せてくるので、来ないで欲しくてすぐ離した。
怪盗キッドの変装対策に、事件に参加する警官はみんなやられるらしいと新一くんから聞いている。
その顔は剥がれる様子もない。
「……正式に調べるのであれば、研究機関に連絡取って再検査となりますね」
「まだ信じていただけませんか……」
隣で、つままれた頬を擦りながらおやおや、なんて首を傾げている私と同じ顔。
おいやめろ、私はこの顔も好きなんだ。
うっかりかわいいとか思わせるんじゃない。
かわいいなこの男。あざと。
「……………………というか、何しにお前の所にわざわざ来たんだ」
小林くんの言葉に、そういえば言ってなかったかと隣の顔を見た。
橋波さんは面白そうに笑っている。
こいついっつも楽しそうだな。
「あ、言ってませんでしたね。なんでも世話になっていた施設が閉鎖になって、居所が無くなっちゃったそうです」
「いやぁ、施設で育った後、そのまま施設の職員してたんですがね。……世知辛い世の中ですから」
やれやれニコニコと飄々としているが、つまり家なし職なし1文無しの無職お兄さんである。
オマケに家族も無い……所に、“私”という、なんか頼れそうなデータ上の『親戚かも?』を見付けたので、せっかくだから会いに来たらしい。
「…………それ」
小林くんがかつてなく最高に眉を顰めた。
「ええ、
つまり親戚を頼って来ました」
文無しのお兄ちゃんは頷いた。
︎︎小林くんは絶句した。
つまり、金の無心の話であった。
こーれ、どうしたらええんや?
と、困っちゃっての小林くんへの相談事ってわけである。
勝手にあちこちで仲良くなってたり話が進んでたり裏で
話合わせたりしてる人達多すぎる……
一般人は振り回されるしかない
いやあれあの事件、本当にかわいそうな迷惑テロ行為過ぎるのであれだけは何とかさせないと……
読んでいただきありがとうございました!