昴くんはなにもしない 作:あまも
職場で感染源になっちゃったような気がします……
少し戻ってのお話です
言い回しとか気に入らないので後から手直しするかも……
閲覧ありがとうございます!
*
「いやぁ、面白い子ですね、彼も……君も」
俺は返事もせずにその男を車内に押し込んだ。
抵抗するでもなく、まるで昴のように困ったような、どこか面白がったような顔のまま、されるがままただついてきたこの男。
「……どういうつもりで?」
「……どういうつもり、とは?」
にんまりと、陽だまりの猫みたいな昴の顔とも違う、悪巧みした狐のように目を細めて笑う男。
これがあの昴の親戚なはずはない。
俺も、ゼロも、工藤先生だって全力を尽くして探していたのだ。
当時の工藤先生や小林刑事があれだけ探して、俺たちも大きくなってからそれとなく探してみたりもして……それでも見つからなかった、“沖矢
それが突然見つかって、しかも相手の方から近寄って来て、挙句こんなに見るからに『血の繋がりがあります』と言いたげな顔してるわけはない。
そんなことがあってたまるか。
「真相を答えないと言うのなら、その顔、引っぺがされる覚悟を決めてもらうしかないのですが」
「おやおや」
昴がこいつの顔を引っ張って見せたが、あんな……力の入っていない、震える指で摘んだって、ティッシュボックスから紙1枚取れるかも怪しい。
手袋で分からなかったが、最初から最後までずっと上半身以外動かなかったし左に体重をかけない様子から察するに、あの時の怪我の中で、蹴り飛ばされた後、強かに打ち付けたと見られる左の腰がまずいんだろう。
『入院沙汰になりそうだ』、とけろりと言ってのけたあいつは、初めて病院で出会った時から何にも変わりない。
昔からずっと痩せ我慢して取り繕って、辛い顔を本当に限界になるまで見せてくれない。
……とっくに檻の中ではあるが、傷害でもう少し罪を重く出来たんじゃないかと、犯人の顔が頭に浮かんだ。
そして、目の前の小首傾げてる、親友と同じ顔の男を見る。
「……」
こんな所まで。
昴と同じく、こちらにどう考えたのかを訊ねるような沈黙で、薄めた糸目でこちらを見つめてくる。
この癖まで知ってて寄せてるのか。
「……昴があなたに『力を貸したい』と考えている以上、あれは誰がなんと言おうとあなたに協力するつもりだろう」
「それはそれは……義理堅い方ですね」
問題なのは、そこまで信じられる理由だ。
電話の時点で、あまりにも似過ぎている男を不審がってたのは確か。
しかし、そこに“俺”を呼び出した時点で、すでにあいつの“人見知り”の壁を易々と越えている。
さらに、俺が駆けつけるまでの間で、昴の中で推論を重ねた結果が、『力を貸す』答えだったのなら。
彼の勘の良さと、“身内相手なら”働く人を見る目が上手く動いた結果の答えだったなら。
「怪しくはあるが、“敵”ではない。
正体はわからないが、急を要する問題でもない」
「ふむ」
「――何のつもりですか、工藤先生」
ニンマリと、昴の顔がいい笑顔を作った。
「
「俺は有希子さんから変装の手ほどきを習ってますよ。彼女は『身内の変装はかなり上手に作れる』と自慢してくれました」
「ホー……」
江戸川コナンと灰原哀を入れ替えたり、俺に女装を教え込んだあの人の変装技術はかなりのもの。
学生時代に、有希子さんが昴の顔でこちらをからかいに来たこともあった。
……きっとゼロは覚えていないだろう。
「証拠が欲しいのであれば……あなた達の渡航記録を探ればすぐわかることでは?」
「ふ。……そうだね――イタズラはここまでにしようか」
男がそう言って細めていた目を開けると、昴の薄い色ではない、しっかりとした青があった。
「……イタズラですか」
「最初から、君には協力してもらうつもりだったからな。
この“橋波”という男が工藤優作だとは、伝えるつもりはあったさ。
ただ、有希子が『ちゃんと作れたか確認したい』、と言い出したのも理由ではある」
「そんな理由で……」
スバル360の狭い車内で大の大人が2人ですし詰め状態。
クツクツと肩を揺らす男……昴の顔した、大作家、工藤優作を、木馬荘の昴の部屋ではなく、俺の仮拠点となっている、昴の倉庫がわりとなったアパートにまで運んだ。
目立たない、肌色のチョーカー型調声機なんて、博士に作らせてまで……何してるんだこの人たち。
■
「散らかってますが、昴のものなのであまり動かさないでくださいね」
「ああ。……すごい量だな」
阿笠博士の発明品の中でも大型のものが並ぶ部屋の中。
後ろには、段ボール箱に詰め込まれた『限定的なやつ』や『小型のもの』『パーツ類』といった細かいものが積まれている。
俺が木馬荘の部屋と中身を入れ替えた時から、昴はあまり弄っていないようだ。
使わないなら処分か、もしくは博士に返却してしまえばいいのに、好意でもらったものだから残しておくしかないのだと。
中には、フックショットのように後から別の機構と組み合わせて便利な発明品になる例もあるから、残しておくのは決して悪くないが……
昴の格好のまま、ただし目だけは鋭く青い工藤先生が、部屋の中を見渡したのちに、俺が奥から持って来た座布団に座った。
座る前に表裏の見聞してたのは、間違って発明品を持って来てはしないかと警戒したのだろうか。
「それで、どういった理由で『お兄ちゃん』なんてものが必要になったんですか」
「事情が重なってね。丁度いいから、少しばかり“小細工”してみようかと」
「小細工?」
「私がこの格好をしている事情だが、『いずれ必要になるため』だ」
「それは、いったい」
それは、沖矢昴の顔がもうひとつ必要なのか、それとも手元にあっても違和感のない“人物”として“橋波”が必要だったのか。
「ここから先は昴本人も『聞かなくていい』と言った話になる。覚悟は?」
昴はそういうところがある。
自分の口の軽さを重く見て、聞かないままで終わらせるか……もしくは。
「いつでも」
「よろしい」
彼は目を伏せ、昴の顔で頷いた。
「
「なんですって?」
「君もやっただろう。組織の目を欺くための手だ」
確かに死んだフリはしたし、それこそライには偽装の証人になってもらったが。
「それで何故その姿が……まさか」
自分の、いまの“小林”としての立場を考えた。
「ああ。彼に、この“橋波正二”として潜伏してもらおうとしていてね」
「何故ハルなんですか!」
淡々と語る彼へ、食い気味に返してしまった。
よりによって、どうしてわざわざその顔を選ぶ必要があったのかと。
何故それで昴の身内に名乗りを上げる必要があったのかと。
……信憑性と誤認、そして、“沖矢昴”の天涯孤独の点の利用。
わかりやすい。浮かぶ疑問が自己で解決できてしまう。
工藤先生は、俺の顔を見て頷いた。
「君もわかっているだろう。身元の詳細が不明な人間の方が、後から付け足しやすいんだ」
さらに他の親戚が出て来て、『誰だお前?』と不審がられる心配もない。
最初に身分の保証さえしっかり作ってしまえば、書類上ではそこにはいなかったものが“いた”ことになる。
「あの彼……“赤井秀一”君と新一の取引でね。
この後、
そうでなければ、彼は彼の意思で動く。
ここまでの情報と、新一の読みがどう噛み合うかはこれから、といったところだが、どうやらアイツも中々頑張って情報を集めたようだからな。……昴が残した“準備”と合わせて、残りを上手くやれるかは新一と、FBI次第だろう」
自分の、普段は髭があるはずだが、今は昴のヒゲの気配ひとつない白い顔をなぞりながら、工藤先生が言うには、江戸川くんとライが何か取引をしたのだと言う。
そう簡単にあの男が動くはずはない。見返りかなにかがあったはずだ。
「彼の亡き恋人の妹。その子を阿笠博士が引き取ったそうだが」
「彼女の身柄の要求ですか?」
「いや。ただ、『守らせて欲しい』のだと」
そんな言葉が出てきて、俺は耳を疑った。
いやいや……
「…………アイツが?」
「らしい。義理堅い人物じゃないか」
にこりと彼が昴顔で笑うと、途端に昴に雰囲気は似るが、どことなく漂う胡散臭さは顔から出てるものなんだろうか。
いやいやいや。
ライのことを、姉の死の原因のひとつとして、己自身と同じくらい毛嫌いしてる灰原さんを?
最近ようやくすこし険が取れてきて、ズボラな阿笠博士と昴に容赦なくダメ出しして“小さなお姉さん”しているそうで、慣れてきたみたいだと、昴が安心していたのだが……そこにまた、ライなんて爆弾投げ込むのか?
「基本的に接触はしないさ。本人も謝罪と贖罪の気はあるが、過剰な接触は望んでいないようだ。ただ、見かけた時に不快にならない顔、という意味でね」
今の自分の顔、すなわち昴の顔を指さして、昴のように柔和な、どこか困ったような笑顔を見せてくる。
「他にも、目くらましや偽装、手続きの観点からも、昴の身内にしてしまうのが手っ取り早くてね。
ついでにはなるが、『お兄ちゃん』として昴の警備をする必要もできるだろう?」
自分の“顔”、かつパトロンで、護衛対象と距離感も近い。
となると、確かに……
ライが何考えてるのかはわからないが、確かなのは『傷付ける意図は無い』であろうことだけはわかる。
「昴が入院前に彼自身の確認が必要な手続きの書類は済ませてくれたからな。あとは木馬荘で橋波正二としての“実績”を作っておくだけだ」
「……」
もっともらしい説明はしているが、彼は――いや、新一くんや彼は、この後“赤井秀一”が組織に追い詰められて、死ぬしかない状態になると読んでるっていうのか?
俺は俺一人を助けられればそれで良かったから、後からライやバーボンがどうなるかなんてことまで深く考えられずに、あんな真似をして……結果今、赤井は追い詰められるかもしれない状態で、バーボンはいつまでも監視の目が外れない状態にさせてしまっている。
「死亡偽装にあなたが出張ってきて、ここまでする必要はないはずだ。
……他にもなにかありますよね」
「なにかはあるとも」
頷いて、にこりと目を細める工藤先生。
「組織への楔、不透明な団体を味方寄りに寄せる網、そして私の思惑と、昴や君たちの休息……色々と可能性はあるだろう。
好きに想像するといい」
工藤先生が上げるものは、どれも真意としてありそうで、けれど彼が言葉にした途端、それはあくまでもののついでのような、『わざわざここまで彼がする理由』とは言えないもののような気がしてくる。
一言、昴や俺たちを休ませるため、とだけ言ってくれたら、あるいは信じてしまったかもしれない。
しかし……なんで昴みたいな見た目で、昴みたいなこと言い出してるんだこの人。
『好きに想像しろ』、だなんて。
「あなたの狙いは?」
「…………」
困ったような笑み。寄せてるのか、寄ってるのか、“そう見えてしまうのか”もわかりにくい。曖昧な表情だ。
「……実のところ、これでどうにかなるかはまだ確定はしていないのだよ」
「あなたが?」
「ああ。この工藤優作が、だ」
大体の想像は出来るが、とクツクツ笑いを残しながらも、それは苦笑に近かった。
この、なんでも見透かすような、事実全てを理解してるような人が、「まだわからない」と言い出した。
「新一の読み通りとなり、“赤井秀一”を組織に追わせ、死亡偽装させる……これはかなりの確率で起こりうる。むしろそうなるであろうとふんだから私がここに来ているわけだが、本来私は手を貸すつもりはなかった。有希子の協力で済む話だったからね」
こめかみと顎に指を置き、少し首を傾げるのは昴のよくやる考えている時の動きだが、本当に寄せてやってるのか、あまりにも自然だ。
「読み切れていないのは……
この件に、 “ 彼が ” 協力を申し出た事に、何らかの意味があるのだろう」
「ハルが?」
だが、あの昴の人を呼び出しておいて飄々とした態度……怪我の痛みを取り繕ってる中に、僅かに混じっていた困惑は本心だったはず。
協力する気はあったが、こういうのは予想してなかった、といった様子だった。
しかし、俺の問いに工藤先生は首を横に振った。
「……この顔を使う提案をしたのは“彼”からだ。
ただし、ずっと昔の話だがね」
「………………昔?」
工藤先生は、少ない手荷物を漁ると、小さな手帳を取り出して、中から1枚の写真をさらに抜き取るとこちらに見せてきた。
「これは……
写真に写るのは、糸目の青年が困った様な顔で眉を下げて笑っていた。
髪は癖のある、ミルクティーみたいな、赤っぽい茶髪。色白で、背は高く、細身。
首まで覆った長袖のセーターに、ジャケットを羽織っている。
黒い革手袋は今の昴のものとは違い、分厚いバイク用の物に見える。厚手のジーパンや靴もよく見ればバイク用のブーツか?
へにゃりと暢気に笑って、陽気なピースなんかを作ってカメラのレンズ越しに笑いかけてきている。
……珍しい、写真だ。
そんな感想が真っ先に出た。
昴が、証明写真以外で真正面からカメラに写るなんて。
「……彼
“この”顔は、有希子に“その”写真の顔で頼んだ結果だが、有希子も珍しいと欲しがっていた」
「彼、ら、って……」
どこかの湖の前で撮られたらしいその写真。
後輪が見えるから、大型のバイクに乗っていたのだろうが、昴は『バイクとか剥き出しで速度出すなんて、事故ったら大惨事じゃないですか』とか言って、一応免許だけは取った……程度のはず。
「それは彼の父の、唯一の写真だよ」
「………………」
……こんなに、そっくりなのに?
いや、待て。
もう亡くなった人が、今この時起こる“かもしれない話”に、『協力を申し出た』と言ったか?
工藤先生は、写真の中と同じ顔を少しばかり俯かせ、昴みたいな仕草で、しかし昴とは違うクツクツとした、喉を鳴らすような笑いをしながら。
「“奴”は、『物語のひとつとして。もし人を1人殺すのであれば、その時は是非、僕の“顔”を使ってくれ』と言っていた。当時の私は、その言葉の真意がわからなかった。作中で死ぬ人物のモデルに自分を使え、と、そう言ってるのだと思ったんだ。
なのに実際登場させたらあの野郎、微妙な顔しながら『こうじゃないんだよな』とか言い出しやがって……思い出す度、腹の立つエピソードばかりで、本当に……」
この自由な工藤先生を、さらに振り回す……有希子さんのような人だったようだ。
「当時のまだ青二才の私をからかって遊んでいたような男だったからな。奴の言葉が今になって、“何か”の真意があったのでは、と思い返している。
……今の私なら、奴の言葉の意味を理解してやれたのかもしれない。……過ぎたことだがね。
まぁ、その過程で――奴が得意げに指さしていた“この顔”に、何か意味があるのでは?と思ってね」
にこ、と、若干騒ぎ立てた腹の虫を抑え込むような無理やりの笑顔。
なんというか……本当に相当、振り回されていたんだな。
今の昴と、江戸川くんの様子が頭に浮かんだ。
あんな感じだったのだろうか。
工藤先生が、柔和な笑みの細目の顔を指さして小首を傾げる。
「ほら、昴も“顔”にはうるさいだろう?彼も何かしらは感じてるんじゃないか」
「まぁ……」
あいつ、化粧は許すけど“加工”は嫌がる様子を見せるからな。
顔に意味がある……の
「…………え、で、なんでそのハルのお父さんが、当時から今のことなんて分かってたみたいなことを……?」
「だから、そこが読み切れていないんだ。
現状、奴の“勘”だったのでは?説が濃厚だがね」
クツクツ笑いを再開させた工藤先生だが、その言い方……大体想像はついてるが、確定してないから言わないだけ、のいつものような気もする。
なんで確定するまで言ってくれないんだ、この人たちは。
「……わかりました。それで、俺は何をすれば?」
「ああ。君には少し、酷なことを頼むが――……」
あれっ、名前出すつもりだったのに名前出てないや
読んでいただきありがとうございました!