昴くんはなにもしない   作:あまも

138 / 154

ヤッタレマン


閲覧ありがとうございます!




61-1:相談事と頑固者

 

 

 

 

 小林くんに何が起こってたのか、詳しいところを聞いた。

 

 

 発信機で部屋特定かぁ。やるねぇ。

 

 

 ………………アリの巣とかゴッ……きげんようおひさしぶりなお方の巣を根絶するのに、餌を持ち帰らせるのに近いやり方じゃんねとは言わない。

 

 効率がいいよねとか思っちゃったのも言わない。

 なんでこう、悪い人たちって悪知恵が悪い方向に働くのかね。

 

 

 小林くんは、小学生の小さい江戸川コナンくんが病室内をひとりでふらふらしてないよう、そばにいて、随時必要なものの買い出しや、食事の調達やらをしてたそうな。

 

 

 瞬間接着剤なんて何に使ったの?

 

 

 結果、ちょっと陰のあるスパダリなイケメンと朗らかだけどどこかミステリアスなイケメン二人を左右に侍らせた江戸川様が爆誕してたらしい。

 

 

 まぁ、新一くんだし……有希子さんとかもしょっちゅう両手に工藤氏やら新一くんやら私やら捕まえてルンルンでパーティー行ってたし……

 親子だもんね……無自覚で自分の見映え整えちゃう人たちめ。

 工藤邸のリビング、ふとした時でもそのまま宣材写真に使えそうな場面切り取りできちゃうから本当に心臓に悪い。

 ありゃあ有希子さんが悪い。

 

 

 

 ……しかし、そういう配達かぁ。

 

 いくら小林くんとはいえ、FBIから大事なものの輸送、頼まれたりはしないよね。

 

 なんか爆発騒ぎとか聞いちゃったから、てっきりその爆弾集めて処理してきたのかとか思っちゃったよ。

 

 ………………してないよね?

 

 

 

 わざと組織に奪還させて、FBIは敵の敵は味方、程度とはいえ、赤井さんが抜けて以来(バーボンによるガードで)組織に送り込めなかった諜報員が送り込めた状態。

 協力者程度でも、ゼロよりはマシだろう。

 あ、バーボンの事じゃなくってね。

 指示できないとしても、ジンニキのように一般人を巻き込む過激な思考を持たない彼女の出す『反対意見』は、組織において結構大事なはず。

 

 水無怜奈……CIAというよりかは彼女自身のメリットとしてはこの協力によって、FBIの拘束から上手いことやって、組織の回収に間に合わせたようなもので……ちょっとはポカを挽回できた、はず。

 組織側の捜索の目を減らすこともできて、しかもFBI経由ではあれど本国……アメリカのCIAとも連絡取れるし、更には弟の、本堂くんの保護もFBIに頼めるわけで。

 

 残りはまだまだ綱渡りな事象が盛りだくさんだろうけれど、上手く再潜入出来たんじゃなかろうか。

 

 

 安室バーボン零くん曰く、戻ってきたキールのことをベルモットがめっちゃ怪しんでるとのことだけれど、彼女……とバーボン含めて、好き勝手やりすぎて組織から怒られてる状態なのであまり勝手なことは出来ないし、かといってこのキールが怪しいって話しようにも、芋づる式に私やら小林くんやら新一くんやらに辿り着かれては面倒という、彼等なりの制限もある。

 

 

 守るものがあるって、大変!

 

 守られてる側の言うことじゃないって?

 いつも感謝は欠かしてませんから許して欲しいのだわ!

 

 

 あと、どうせこの後もまだ新一くんによる、組織への『キールはFBIからの回し者じゃないよ』アッピルは続くだろうからね。

 

 

 ベルモットさんは様子を見てるつもりだそうなので、バーボン(零くん)が……どれくらいの、どこのタイミングで、気づくか、が問題ってところかなぁ。

 

 

 ずーっと不思議なんだけど、なんでFBIさんは日本警察を頼ってくれないんですかね?

 

 

 

 『捜査協力しますよ!』って、わざわざ大々的に言う必要も無いだろうし、こっそりでもなんでも、協力すりゃいいのにさ。

 正義の味方同士なんだから。

 

 国益? こ、国益……?

 難しい話は病床のお兄さんにはよく分からないッピ……結局社会科が苦手なままな私ですよ。

 

 

 みんなの見立てとしては、この後水無怜奈が組織のほうで上手くやれていれば、何かしらの方法で接触を図ってくるはずなのだとさ。

 それを待ちつつ……FBIの皆さまは、杯戸町で巻き起こってたそんな大騒ぎに、組織幹部が多数参加していた事は確認できている為、彼らがまだ日本に居るうちに見つけるべく、「水無怜奈の捜索」の名目で捜索中らしい。

 

 

 

 いやー……どうせ見つからないでしょうよ。

 

 

 

 

 …………今日はホテルバイキングに行く、と言っていた灰原さんと阿笠さん……そして新一くんや少年探偵団が、心配になってきたな。

 大丈夫かな。

 また変な事件に巻き込まれてないだろうか。

 

 そこら辺で潜伏してた、組織の人と事件の最中鉢合わせ!とかしてたら怖いよね。

 

 

 

 少年探偵団、私が入院した話を灰原さんから聞いて、お見舞いに行くべきか行かざるべきか会議の末、『今はまだその時ではない』という結論で意見が一致したそうなので、まだお見舞いには来ないらしい。

 立場としては現在、彼ら視点での私は、灰原さんの(義理の)お兄さんである。

 彼らにとっての親友(灰原さん)の兄、それも一応知り合いのお見舞いとあれば、行った方がいい……とはいえ、私からもだけど……彼らとしても私のことは苦手だろう。

 現に、『あの人意地悪だし』とか、『オレたちが会いに行っても嬉しくないだろ』とかなんとか。

 会議では小嶋くんや吉田さんが渋っていたそうな。

 

 でもなんだかんだ音頭を取ってくれたのは円谷くんだそうで。

 行きましょうとなったのだとさ。いつとは決まってないみたいだけど。

 

 

 

 えぇー?

 来ないなら“来ない”で良いんだけどなぁ。

 

 

 

 ■

 

 

 どうもやっぱり心配だ。

 なんせ今日は13日の金曜日だし。

 なんだか胸騒ぎもする。

 

 ザワザワするというか……落ち着かないというか……

 

 

 小林くん、ここはいいから、早めに新一くんたちと合流してあげて?

 たしか少年探偵団の面倒みるの、小林くんも手伝う予定だったよね?

 

「いや、お前の監視の引き継ぎが来てから行くよ」

「大人しくしてますってば」

「お前、今日だけでいったい何回看護師さんに怒られてるんだ」

 

 小林くんが呆れたように、腰に手を当ててため息をついた。

 

 

 いやぁ……

 

 

 朝イチからなんだか無性に落ち着かなくて、何かしなきゃいけない気がして、仕方なくってねぇ。

 

 動けるんだから動いてただけなのに、まだスカスカの足で何言ってるんですかとか車椅子持ってこられてしまって、逃げ帰るようにしてこのベッドに戻るを繰り返している。

 

 

 こう……むしのしらせというかさぁ!

 ムズムズというか……ザワザワというか……なんか落ち着かないんだよ。

 

 これ絶対新一くんと組織とで何か起こるって。

 

 ジェイソン!

 

 

「こんにちはー! あ、小林さん!」

「お、引き継ぎが来た」

 

 元気の良い声とともに開いたスライドドアから、本堂くんが現れた。

 

 現在、彼は大事をとってFBIのお偉そうな髭のダンディから直接保護を提案されたそうで、丁度いいからと当時の手術からの術後の経過観察と、血液検査の為の検査入院の名目でこの米花総合病院にお泊まり中の本堂くんである。

 せっかく同じ病院にいるし、監視されながら寝てるだけなのも居心地悪いからと、私の監視役を引き受けてくれたそうな。

 目立たないよう、日系とはいえ、知らない屈強な外国人から見張られてるよりは、知り合ったばかりとはいえ良い人たちから良い話しか聞かない上に事実良い人な小林くんや、知り合いの私のとこにいた方が気が楽なのだとさ。

 

 本堂くん、君ねぇ。

 

 こんな怪しい大人、ちゃんと警戒しないとダメだよ?

 

 お姉さん狙いで君のこと、好き勝手するかもしれないんだぞ?

 

 ほら見ろ、ここに人の良さそうないつもの顔でにこやかに歓迎してる、その実案外悪い人な、スポーツサングラスの男とかさ。

 

 小林くんとしても、FBIの監視が本堂くんついでに私にも向けられていて、何かあった時も連絡が小林くんに届くし美味しいことばかりだそうで、大歓迎なのだと。

 

 

 ベッドで寝てるだけの私の監視なんて、要らないと思うんですがねぇ。

 

 

「ベッドで寝てるだけなら監視はいらないんだよ。わかってるじゃないか」

「なら……」

「寝てろよ」

「うーん……」

「『うーん』じゃないだろうが」

 

 出来ることならやりたいじゃんねぇ?

 

 

 

 ■

 

 

 小林くんを送り出し、病室の扉の見えるベンチでそれとなく警戒中だった本堂くんの監視のおじさんに会釈して缶コーヒーを差し入れして、さて本堂くんとのお時間だな。

 

 学校休んでいることになるので、蘭ちゃんたちから現在のテスト範囲を聞いて、家庭教師ついでにお勉強に付き合っている。

 アッキーの家庭教師は、あれは半ばメンタルヘルスケアだったけど、その他小遣い稼ぎの家庭教師には東都大学の名前は便利に機能したもんだ。

 私の指名、短期の人気はそれなりにあったけど、女の子とかマダムからの圧が凄くて……むしろ短期しかやれんかった。

 私としてもその方が助かったから良いが。

 

 私の外ヅラは短期しか無理です!

 

 

 というわけで、今更外ヅラ被る必要もないから気楽に、本堂くんの自習を眺めている。

 たまに分からないところとか聞かれても、イチから一緒に解いていったらちゃんと理解できているのだから、やっぱり彼の頭の出来は全然悪くないんだろう。

 むしろ私の方が、教科書見てどう解くんだっけなと思い出しながらなので、私のほうが勉強してんじゃなかろうか。

 

 

 ……じゃああのドジは本当になんなんだろうか。

 設計上で設定されてしまってるから、解除不可な称号なんかね。

 

 

 数学とか化学、物理は答えがあるからいいんだけどさぁ。

 

 社会は本当に、未だに苦手だから聞かないでください……

 カンニングスピーカーとしてノアズ・アークに解説してもらったのを、そのまま私の口から逆腹話術するっきゃない。

 

 そんでも高校生の学習範囲くらいならまだ全然理解できるからよかったよ。

 ちゃんと勉強見てやれるから。

 

 

 まるで“お勉強は得意なお兄さん”だろう!

 こんなんでも東都大学現役1発合格だぞ!エッヘン!

 

 

 …………その後留年してるけどさ。

 

 

 初日は私のことを怪しんでいたFBIの方々も、私がお勉強を主に見ていると知ってからはああやって、部屋の出入りの確認程度に落ち着いている。

 本堂くん、普段がこんなんだし、慣れれば人懐っこい様子も見せるような陽キャ系人見知りだけど、案外“見張られてる生活”ってのが苦手みたいだ。

 

 聞いてみたところ、縛られるのが嫌いで、自由時間がないと落ち着かないらしい。

 

 

 それすごいわかる〜!!

 

 

 そういう時はねぇ、あえてその見張りの人に接触すると良いよ。

 護衛対象に近付く怪しい人を警戒してくれてるけど、ターゲットとされる可能性のある人物が見張り役の人に接触してしまうと、その狙ってる人の方に護衛してるのがこの人か、とバレちゃうからね。

 あちらも接触は極力避けるし、『しないで欲しい』と頼まれるだろうけど……

 

「そこはゴリ押しです」

「ゴリ押し」

 

 感謝の気持ちは大事。

 それを伝えることも大事だからな。

 

 あとは自然と、相手側のほうが距離を離してくれるか、むしろ仲良くなって融通の利く“友人”となるかだろう。

 友人ならまぁ見られていても別に……からかったりして楽しく過ごせるし。

 

 中には頑固な、くたびれメガネのおにいさんみたいな、頑なに距離感大事にして事務的な対応で堪えてる人もいるけど。

 

 大体は業務がキチンとこなせるならば円滑に過ごせて、かつ護衛対象の負担にならない形を一緒に模索してくれるものである。

 

 

 

 ちなみにそんな感じでああして缶コーヒーの差し入れだのしてたら、本堂くんの護衛は今日の彼で3人目である。

 その変更になった彼も距離がどんどん離れてるから、そろそろまた切り替わるんだろうか。

 

 コロコロ変わり過ぎ!

 人員潤沢かよ!

 

 

 …………何人で来てるんだよ全く……

 

 

 

 そんなFBIさん、本堂くんに証人保護プログラムを打診……しているそうな。

 どっこい、彼は頷いていないどころか、断ろうと考えてるそうな。

 

 

 なんでまた。

 

 

 逃げるみたいで嫌だからとか言ったら引っぱたくが。

 

 あれは灰原さんが……もう家族が誰もいないから、彼女自身だけの覚悟としての発言であって……本堂くんの方は、証人保護プログラムを断るってのは、頑張ってるお姉さんの努力に対しての反抗に近い。

 

「……瑛海姉さんが、FBIとの交渉に僕の保護を頼んだとは聞きました。でも、僕は瑛海姉さんの力になりたいんです。守られてるだけは……僕は我慢できません」

「ホォー」

「でも、今の僕には力はない。……だから、せめてこの『名前』だけでも守りたいんです」

「ホォー?」

 

 えーーーーと?

 

「だって、姉さんはいつか、悪い人たちをみんな捕まえて……戻って来ますもんね?」

「あぁ」

 

 そういうことか。

 帰る場所を、戻ってくる場所を無くしたくないって事ね。

 

 ………………別に名前なんてなんでもいいじゃないかと思わなくもないが、“沖矢 昴”としてはわからないでもない。

 “沖矢 昴”を渡せなかったことを未だに悩んでるからな。

 でもそれとこれとは話が違うというか、“沖矢 昴”の名前には意味はあるけど本堂瑛祐という彼は確固たるキャラクター性があるのだから今更名前変えたところで……

 

 

 うーん………

 

 確かに、組織潜入において彼女は“水無怜奈”として潜ってるから、誰も彼女を呼ばなければ“本堂瑛海”には辿り着けないか。

 

 うーん…………

 

 

 ……………………大阪での彼女のデータ、片付けといてあげるか?

 

 新一くんや服部くん、それに小林くんで本腰入れて探したら見つかるような情報はまずいだろ。

 CIA側にデータ残ってるかもしれないのは……CIA側になんとかしてもらうしかない。

 あと本堂くんの“白血病”の治療履歴も簡単には見れないようにしとかないとか。

 

 うーん……

 

「……なら、君も今後はお姉さんが戻ってくるまでは、お姉さんの名前を不用意に口に出さないようにしないといけませんね」

「あ、そうですね!蘭さん達にも内緒にしてもらおうっと……」

 

 顎に手を当てて、ふむふむとか頷いている彼。

 

 

 正直、この“水無怜奈”に激似なお顔が1番問題なんだよなぁ。

 

 女顔でかわいらしい、男らしさのない顔である。

 かわいいねぇキミ。

 女子高生ふたりと一緒に歩いてスイーツめぐり行っても違和感ないぞ。

 

 

 ………………せや!

 

 

 

「よし。早いとこ、“メイク”、覚えましょうね」

「えっ?」

「目元変えるだけでも印象は結構変わるもんですよ」

 

 女性ってば、メイクでガラッと変わっちゃうからな。

 パッと見た時の印象だけでも変わると、だいぶ違うんじゃないだろうか。

 

 私も目を、頑張って開けて見せてみる。

 ちょっとばかし目つきが悪いから、糸目の“胡散臭いお兄さん”が“絶対なんかして隠蔽工作したお兄さん”みたいになっちゃう。

 

 ほーら、工藤家お得意のウインク(逆)だぞ。

 あと表情とかで色々誤魔化せる時あるよ。

 ねっ、あむぴ!

 

 そういうの得意そうな、利奈ちゃん用のメイク道具持ってる小林くんに教えて貰うといいよ。

 あれ、私に笑われて以来全然見せてくれなくなっちゃったけど、結構使ってるみたいだから。

 

 

 

 ■

 

 

 ホテルのバイキングに行ったはずなのに外国人と英会話教室してきた新一くんたちと、巻き込まれたFBI捜査官とジョディさんと小林くんがいたようだけど、組織関係者とうっかり遭遇!という私の嫌な予感は的外れだったようだ。

 

 13日の金曜日が関係するのは、やっぱり海の向こうでのお話。

 この和の国日本ではそんなんよくあるただの華の金曜日だもんね。

 

 

 

 

 と、安心してベッドで味の薄いご飯を食べて、闇の男爵を読み返していた。

 

 

 大人しくしてる気になれば私だって大人しくしてるのなんて簡単なんですよねぇ!

 

 ……まだ、なーんかよくわからない“むしのしらせ”みたいなのは残ってるのが気がかりで、全然本の内容が頭に入らないんだけどさ。

 

 

 

 そんな、夜。

 

 グループメッセージに通知が来たことをノアズ・アークが報せてくれて、サイドテーブルからスマホを取った。

 

 

『お前ら何か知ってるだろう』

 

 

 零くんからのメッセージ。

 

 続け様にポコポコと、急ぎで詳細を伝えるように、とか、誰の計画だ、とか色々と、誰かの陰謀を探ろうとしてるみたいな威圧的な文面でズラズラズラと一方的なメッセージが立て続けに送られてくる。

 

 

 なにぃ?

 よくわからんから聞いてやろ。

 

『あの、何かありましたか? すいませんが、あなたが何について訊ねているのかわかりません』

『赤井だよ』

 

 赤井さん?

 

 

 

 

 

『赤井が死んだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おん?

 

 

 あれ、今日だったんだ?

 

 

 ――………………ああいや、それ赤井さんたぶん上手いことやってるはずだから死んでないと思「ダメだぞぉ、ハル」

 

 

 

 急に耳元で声がして、マジで心臓止まるかと思った。

 てか実際呼吸と心臓が3拍くらい止まったと思う。

 

 

 左側、私が起き上がってスマホを見ていた、そのほんの斜め後ろに、棚に寄り掛かるように、灰色のパーカー姿の景光くんが立っていた。

 

 

 扉開いた音も気配もなんもなかったし、そもそもいつ入り込んだのかもわからないんだけど!!!?

 

 悪霊退散!悪霊退散!

 

 

「はいはい、変な九字切らない」

 

 

 景光くんは、人差し指を立てて唇の前に当てて、シィー、と息を吐いた。

 

「ダメだぞ、ハル。これはお前は、『何も知らない話』だからな」

 

 もう一度、私を咎めるようなこと。

 悪戯を思いついた猫みたいに、目を細めているのに、目は笑っていない。

 

 うーん、これはスコッチ!

 もとい、元スコッチの景光くん!

 

「……ですが、赤井さんが」

「ああ、“ 死んだ ”そうだね」

 

 景光くんも携帯のメッセージを開いているのか、カチカチと画面をスクロールしている音。

 ちょっと目を離しただけなのに、零くんからのメッセージが恐ろしい程来ている。

 

 いやいや、景光くん。

 反応ドライすぎなんよ。

 

 

『悪い、ゼロ。返事が遅くなった』

『今、FBIのほうで赤井と連絡が取れない旨の話してた矢先に、来葉峠の事故のニュースをみんなで聞いた所なんだ』

『悪いが、そちらの掴んでる情報を共有してほしい』

『すまんが、この件について俺もハルも知らないんだ。正直マジか?って思ってる。お前のその反応からして冗談じゃ無さそうなんで、本当に……』

『マジなのか?』

 

 景光くんがポチポチして連投したメッセージは、白々しくもなんも知らない景光くんの様子。

 文面から焦りが感じられる。

 今、目の前で私の口を塞いで冷静な顔している男が打ってるとは思えないな。

 

 そんな景光くんのメッセージでしばらく零くんの連投が止まって、なにか考えておられるのか、暫しの沈黙。

 

『帰還したキールにFBIとの繋がりが発生していないかを確認するために、来葉峠でジンとウォッカの見張りの元、赤井抹殺の使命を受けたキールが、赤井を撃ち殺して車ごと爆破させた』

『この場所といい、車両事故の件といい……ハルが絡んでいるとばかり』

『え、私ですか!?』

『ああ、うん。なるほど』

『お前はほとんど関係なさそうだな。悪い』

 

 なんか知らんが零くんは無事落ち着いたらしい。

 景光くんに言われて、伝えるために状況を整理し直して咀嚼して、よく良く考えればあまり私や景光くんが関われるポイントは少ないことに気付いたんだろう。

 

 

 

 でも先生、この不法侵入のグレイマン、たぶん“計画立案者”から全部教えられて知ってますよ?

 

 

 ……また隠し事するのか?

 

 

 私の恨みがましい視線か、ひしゃげた眉でも見たのか、景光くんが苦笑する。

 

「悪いな。ゼロにはいずれちゃんと教えるからさ。ハルも黙っててくれないか?」

「私が内緒話苦手なの知ってて言ってます?」

 

 おしゃべりチクリメガネだからな。

 追求されたら答えちゃうよ?

 

 

「お前が何も知らないのは事実だからな。追求された時は、お前の考えてる事を話してしまっても構わない」

 

 えぇ?

 「橋波さんが怪しいッスよ」とか言っていいって事?

 私の言葉に、景光くんが頷いた。まさかの、頷いてしまった。マジか。

 

「俺も橋波のことを警戒するようになるからな。あとはゼロ次第だ」

 

 えーと……

 解答は出てるけど、証拠がなんもない状態が今……ってコト?

 普段の私じゃん。

 

 まぁそうか、あれか。

 “沖矢昴”が“赤井秀一”だと知っていたが、それが叶わなくなって代替人が据えられただけだから、私視点は橋波さんが黒なんだけど、実際のところ、橋波さんが工藤氏だったり有希子さんだったり、もしくは小林くんだったりするかもしれないのか。

 

 シュレディンガーの赤井か……

 蓋を取るまで中身はわかりませんよ!

 

 

 

「ただ……赤井秀一が死んだのは間違いないみたいだな」

 

 

 メッセージの添付ファイルに、厳重に、『ノアズ・アークが解凍するように』と注釈のついた画像ファイルが届いた。

 

 

 黒い車のシートに座らされた、黒ニット帽の男。

 その頭からは大量の赤い筋が、彫りの深い顔の上をダラダラと垂れている。

 

 

 

 の、脳天ぶち抜かれ赤井秀一……!!

 

 

 いやぁ、グロ画像見たいっすとは言ってたけどそういうのはおなかいっぱいってか親しくはなくても知り合いの真っ青な顔は見てて気持ち良いものじゃないって!

 

 ええ、やだぁ、死んでるじゃないですか!!

 誰だよ、こっから奇跡の復活劇を遂げるとか言ってたヤツ!

 

 






短いなと思って付け足したら長くなりました

なんでこの主人公、なんも知らないんだ……


読んでいただきありがとうございました!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。