昴くんはなにもしない 作:あまも
何とは言いませんが暫くはネタバレ注意のため、なるべく話題に出さないようにしますのでご配慮よろしくお願いします
閲覧ありがとうございます!
ベッドと仲良し生活を送っていた私ですよっと。
近頃は私のリハビリも本格的に始まって、散々言われながらも病室内をこっそりパタパタしてたお陰で、落ちた体力戻す位で何とかなりそうな程度で済んでいる。
なんとなんと、ついに!
この調子なら近々通院治療に切り替えられるんじゃないかって話まで!
ほら見ろ、やっぱりできる範囲で動いてた方が良いんだって。
お医者先生は動けてるなら良いんじゃないですかねと最早投げやり気味だったけどさ。
いい加減監視付けられなきゃならんような『無理してる』ようにも見えなくなってきたのか、ついに本堂くんや小林くんの目からも解放されたことだし。
本堂くん、組織の捜索も落ち着いてきたのか、ちゃんと学校に復帰したようだ。真純さんが来る前に、今の学校の学習範囲に追い付かないとね。
そう。
退院が近付いてきたからか、今日はどさっとお客様が来た。
そう。
ガキ共が襲来したぞ!
……失礼。
子供たちがお見舞いに来てくれた。
「お邪魔します!」
「邪魔するんなら帰って〜――イッテ」
円谷くんの挨拶に定例句で返したら、駆け寄ってきた灰原さんに起こしていた体の、脇腹をど突かれてしまった。
なんだよ、お約束だろ!
「バカ言ってんじゃないわよ。ここも、あなたも西の文化圏じゃないくせに」
「些細なギャグのネタじゃないですか。ネタですよ、ネタ。まったく、そんなに気にしないでくださいよ……いらっしゃい、少年探偵団。テーブルの上のお菓子、適当なの持ってって良いですよ」
おお〜とか歓声上げてテーブルに駆け寄る食いしん坊な小嶋くんと、一応お礼をもそもそと一言告げてから彼についていった吉田さん、そして頭下げてコソコソとテーブルに向かう円谷くん。
なんなの?
やっぱり私、彼らに舐められてるのか怖がられてるのかわからんわ。
嫌われてるのはわかるんだけどさ。
ベッド脇には内面高校生の小学生2人。荷物を下ろし、置きっぱなしの丸椅子やらキャスター椅子に座って居座る態勢に。
「あのお菓子は?」
「差し入れというか嫌がらせというか。由美さんや橙子さん……交通課のミニパトポリスのお嬢さん達が面白がって置いていきました。たまごボーロとか、干し芋とか野菜せんべいです」
「…………幼児用?」
「はい」
身体にいいから別に文句を直接言ったところで更にからかわれるだけなので何も言ってはいないが、つまりは今の私のことをからかってるのである。
おのれ、あのウワバミ飲兵衛どもめ!
それで?来たくもないのに彼らがわざわざ来たのはなんでなんです?
「あなたねぇ……一々嫌味ったらしいわよ。彼らの素直な気持ちに感謝は無いわけ?」
「感謝ってのは相手の心に返すものですよ。義理で来てくれたなら義理でありがとうございますくらいはしますし、あの通り、ご褒美も差し上げたでしょう」
「ひねくれ者……」
「灰原さんが言いますか?」
「ああ言えばこう言う……」
「灰原さんが言いますか?」
あっ!手が出た!灰原さんがまたもや私の脇腹ど突いてくる!暴力反対!
むっすり不機嫌そうに腕組んでそっぽ向いてしまった灰原さんに代わり、新一くんが困った顔で口を開いた。
「スバルさん、アイツらだってあの時のことは反省してるし、あの後はちゃんと気をつけてるんだぜ?それに、光彦はスバルさんにずっと謝りたがってるんだ。受け入れてやってくれよ」
反省ねぇ。
「何故?」
「何故って……」
「小林くんもいて、“孤児院で子供の面倒見てた人”も増えた今、わざわざ嫌われている私が何かする必要はありますか?」
「……ひねくれ者!」
「江戸川くんが言いますかぁ?」
あっ!灰原さんと同じところ叩きやがった!
だから暴力反対だって!
いやぁ……無理なもんは無理だよ。
これ、許す許さないとかの話じゃないのだ。
相性の問題である。
本堂くんは散々脅したが、何故か知らんが信頼っぽいことしてくれたからまぁまだいい。江戸川大明神が何か吹き込んだようで妙な誤解がありそうだけど、本当にそこは今更もういいのだ。
自分が何かしたら大切な人に被害が出るかもしれないと、わかった上でなにかするなら、そこからはもう彼の選択による彼の責任問題だからな。
子供は別じゃん。
説明したところでわからないし、わかったフリして『わかった!(わかってない)』を地で行くし、自分を正しいと信じて止まないし、なにより正義感があり過ぎるから許容できないものを全て拒絶反応示してああやって嫌うんだから。
わざわざ好き好んで怒られて嫌われてやる必要もないじゃん?
「…………」
おやおや、ブーメランが私の頭に刺さってるって言いたいのかい、新一くんたら。
私に正義感なんてものはないさ!
偽善者であろうとはしてるがね。
「スバルさんも良い大人なのに、子供と張り合ってるの良くないよ」
「ふん。良くない大人……“こどおじ”でいいです」
「もー!」
実際、荷物増やしたら子供部屋みたいになっちゃうのが分かってるから持ち物増やしてないんだから。
いいもん、若い精神でやってんだよこちとら。
大人になんかなるもんじゃねーんだって。
「…………光彦が、本当に、あんたと仲直りしたがってるんだよ」
む。
新一くんがこれまでと違うトーンでぽそりと呟いた。
「仲直りも何も、初めから仲良くはないですよね?」
「あなた、ちょっとあっち見てみなさい」
灰原さんが促すのでそちらを、ソファーの方を見ると、先程まで菓子をやんややんやと漁っていたはずの子供たちがこちらを見て、めいめいに眉を下げている。
特に円谷くん。
なんだよ。
まるで私が虐めたみたいじゃないか。
無理して仲良くしようとしなくても良くない?
子供たちにだって、どうにも合わない人ってのはいるもんだと判る、良い機会だろ。
「スバルさん。ちゃんとアイツらの話、聞いてやってよ」
「こちらの話は聞かないのに?」
真剣に言ってくれてる新一くんの言い分もわからないでもないが、何故にわざわざこっちがそんな譲歩してやらねばならんのか。
子供の世話なんて……ちゃんと子供といういきものをそういういきものだと理解した上でお世話できない人間が、近寄るもんじゃないんだよ。
阿笠さんや小林くんや小五郎さんたちみんな、あんなに大変そうに振り回されてさ。
そういう意味では、私も手を貸してやれれば良かったかもしれないけれど……私のこういう所を子供たちもとっくにわかってしまっているはずだ。
それでも仲良くしたいなんて奇特な事言い出して……
そんなの義理とか、何か打算があるんだろ?
いや待てよ、あれか。
灰原さん目当てか。
ったく、マセガキさんだねぇ!
「だーーーっ!めんどくせーなホントに、アンタって人は!!」
「オワアアア」
新一くんに胸ぐら掴まれてガタガタ言わされてしまった。頭がゆれゆれゆれオエッ
「うっぷ……無理ですよ……
在り方として無理です」
どれだけ言われようが、言ってこようが言い聞かされようが、無理なものは無理だ。
これでも頑張ってはみたのだ。
それでも駄目だったのだ。
やり直すなんてできない。それこそ、“全部忘れてもう一度”でもしない限り。
でも例え私がそうしたとしても、子供たちはそんなこと出来ないし、させるわけにはいかないじゃん?
私だって言いたかないがね。
返ってこない愛情なんて虚しいだけのもの、抱えてたところで何の意味もないよ。
■
リハビリ中の様子を見ていた小林くんから「変な庇い方してないか?」とか言われて、うっかり左腕のひび割れが見つかっちゃいましたとさ。
やっべ。
お医者先生にも大目玉食らってしまい、病室でひとりでウロウロして転けて受け身失敗したことまでバレて、またもや監視がついた。
くっ……!
私がうっかりしてたばっかりに…………!
ヤダー!
病院もう飽きた!!!
今季節いつ!?
ジタバタしてたら頭を小突かれて椅子に戻されてしまった。
「診断書まで申請して日程調整してたのに、怪我拵えてるからだろうが。退院後に杖つく腕にそんな……」
「だから言わなかったんじゃないですか、もうすぐ退院出来たのに……なんで見つけちゃうんですか!みっちゃんのバカ!」
「バカはお前だろハル」
せっかくクラッチ杖の練習始めた所だったのにさぁ。
あれ肘痛くない?
景光くんは今日……いや、私の左腕の件が発覚してからというもの、ずっと半目で淡々と見張りについておられる。
ひどいや!
こんなの舐めときゃそのうち
「それで上手く治らなかったのがその脚だろうが。
ハァ……そんなんじゃ兄さんに会わせてやれないぞ」
「橋波さん?」
「
「ええ」
零くんたら、抜け駆けしおって……
噂では超かっこよくて超頭良いお兄さんらしいし、さらに噂ではこの景光くんと幼馴染さんが見間違えるくらいそっくりなんでしょう?
えぇ……
そんなイケイケな情報ばっか入る所轄のコーメイさん、私も拝みたいし、あわよくば兄弟の感動の再会を演出して──Happy end──してるところまで見守って零くんと一緒にスタオベして泣いて喜びたい。
……ちなみに、長野に行った事は零くんも知らなかったそうで、私から報告を受けた零くんはしっかりと事情聴取のために景光くんを呼び出したそうな。
ちゃんと伝えなきゃダメじゃないですか。
結果的にはあちらさんは大騒ぎしてないことと、啄木鳥会と組織とは“一応”、“今のところ”、繋がりは無さそうだと暫定的にはそうなってたので零くんも渋々了解したそうだけど。
景光くん、相変わらずふとした瞬間に最大風速で行動しちゃいがち。
考えてる間にとりあえず行動しておくからこそ、彼の速さがあるのだろうけど……悩む時はしっかり悩んで、ちゃんと相談してくれるのに。
良かれと思って!
またもや脳内で、景光くんが悪の黒幕顔で顔芸してるイメージに襲われてしまったが、モノホンの景光くんはいつも通りにパチリと猫目を瞬かせて普通のかわかっこいいお顔である。
悪に染まった景光くんなど存在しない!散れ!
「何また首振ってるんだハル。
橋波といえば……お前のスバル360、アイツに貸していいか?アイツ、免許はあるが車が無いとか言っててさ」
「ああ、それはいいで……」
イメージの中の景光くんを消しとばして、話の流れの些細な提案にそれくらいなら、と頷こうとして、考え直した。
「待ってください、彼の運転スキル、大丈夫ですかそれ」
「え? いや……大丈夫じゃないか……?」
そら元施設職員なら職場の車使ってたとか“設定上は”そのようにできるだろうけれど、実際中身が誰であろうが運転荒い時は荒い人たちって印象しかないし、それこそ海外の車に慣れてたらと思うと……
えっ、やだ!怖い!
工藤氏もだけど、特に有希子さんが一番怖い!
「……そんなに心配なら、退院の迎えに橋波呼ぶか?」
ちゃり、と小さな音を立てて、景光くんが取り出したのはスバル360の鍵だ。小さい木彫りの鳥が、そのなんとも言えない目つきで揺れながらこっちを見てくる。
そいつ、去年替えたっけ?
橋波さん、今は木馬荘で生活基盤整え中だと聞いてたのだけど。
「暇なんですか」
「最近はホームズ全集読み返してるそうだ」
「暇じゃないですか」
木馬荘の部屋、元からほとんど使ってなかったから、もう彼なりに好きに整えてしまってるかな。
今更退院してから木馬荘に戻って、“お兄ちゃん”と2人暮らしってのも、お互い気をつかうばかりで上手くいかないだろうし……
大人しく、通院終わるまでは阿笠さんところでお世話になろうかなぁ。
その後どこ行こう。
シャトー米花に、ついに入居しちゃおうか。
……ああ。ノアズ・アークとヒロキくんから、コクーンの再テスト頼まれてたっけ……
うーん……退院してからもイベント盛り沢山だ。
ここに事件だなんだと米花町の恒例行事が挟まってくると思うと、なんか病院も悪くないなとさっきまでの自分の退屈が恋しくなってくる。
もうちょい平穏無事に過ごしてあげてもいいかもしれない。
…………役立たずは嫌である。
ダメだな、早く退院しないと。
「でも、橋波さんの生活が落ち着いたのなら良かった。何よりです」
「落ち着いた、か。落ち着いてるのかね。……ゼロが木馬荘周辺を探ってるようだが」
「ヒェ」
「お前が妙な高校生探偵呼んだせいで、ゼロが余計に忙しくしてたぞ」
「ヒェ」
いやいやあむぴが忙しいのはいつもじゃん。
それに付き合わされてるであろうくたびれメガネのお兄さんが心配だわ。
「ハル。お前、本当にあの高校生探偵のこと、信じてるのか?」
景光くんが、サングラス上げて真っ直ぐに見てくる。
信じてるか、ねぇ。
それで私が信じてますと言ってもなぁ。
「ええ。とてもいい子ですよ」
「………………」
なんだよ、なんか言いたいことあるなら先に言えよな。
■
翌日。
新一くんから私へ、そして、“彼”から景光くんへ、連絡がほぼ同時に来た。
木馬荘が全焼したらしい。
……これマジ?
それって私の呪いかなにかが遠隔起動したとかじゃないよね!?!?
「橋波さんは!?」
「幸いなことに無事だよ。スバル360の試し運転で別荘まで行ってたから、昨夜は木馬荘に居なかったんだとさ」
「それは良かった」
橋波さんも不憫なことだ。
せっかく多少落ち着ける場所だと安心してたろうに。
これが米花町か……
てかなんで居合わせてるんだ新一くん。
「唯一の持ち込みの私物だったホームズ全集がお前の家具と一緒に塵になったって」
「命があるから万々歳でしょう」
「それはそうだが……」
私の間に合わせな家具が燃えたことを気にする人でもなさそうだし、“気にしてる”演技かもわからん。
“お兄ちゃん”が未だにわからない。わかる日が来るとも思わないので、まぁいまさらいまさら。
「他に怪我をした方や……その、亡くなった方は」
『大家の男性とその息子さんが病院に搬送されてるよ』
「幸い、死亡者は今のところは出ていない。救急搬送された怪我人は居るようだが」
「あの子供が……」
私の方には新一くんは特に情報共有してくれないので、橋波さんから話聞いてる景光くんとノアズ・アークが頼りだ。
共有されないってことは、私に聞くまでもなく、場にある情報だけで解決できそうってことだろ。
ヒントとなりそうなものが多く残されてる?
……つまり、犯人はこの中にいる!のパターン。
しかもそのうちの一人は犯人になり得ない“
そういや、大家さんの息子さん、私になんか言おうとしてたっけ。
…………元々、誰かの怪しいなんかを見ちゃってた、とか?
その話は橋波さん経由で伝えてもらうか。
橋波さんが私としてその相談されたかはわからないし。
「それで、今頃は話を聞かれているところですかね」
「ああ。橋波から返事が無いし、恐らくな」
「それでしたら、橋波さんに『大家の息子が、自分に何か話そうとしていた様子を見せていたことがある』と伝えてください。その子がかなり口下手なので、詳しい内容は聞けなかったのですが、『シロクロくん』という言葉を聞いてます。それと、私が『赤い人』と呼ばれていた話も」
「ホォー? なんかの参考になるかもな。了解」
携帯開いてポポチポチと景光くんが打ち込むのを見ながら、あの時何言おうとしてたかを思い出そうとしてみるけれど、あの子の『赤い人』呼びばかり耳に残ってしまってロクなこと覚えてないや。
……理由はわからないが、あの子、人のことを色で呼んでたのか?
記号みたいで嫌だなぁ。
「……お、返事が来た。『ボウヤが何か確信を得たようだ』とさ」
「それは良かった」
新一くんが目を煌めかせたなら答えは出てるな。解決したってことだろ。
後は大家さんたちの無事を祈るだけ。
私のどうでもよさそうな報告が無くても大丈夫そうだったが、なぁに、言わないよりはマシだろう。
「――――ところで、橋波の住むところ、無くなったな」
「あ」
景光くんが首を傾げて呟いた目先の問題点に、私も同じく首を傾げてしまった。
そういえばそうじゃんね。
というか私が退院後、帰る所も必然的に絞り込まれたも同義じゃなくって?
……え、どうするんだろう。
マジで私、“お兄ちゃん”と気まずい同居生活しなきゃならない?
それはだいぶかなりすっごく……嫌だが。
“お兄ちゃん”の中身が誰かわからないけど赤井秀一が死亡した今となっては9割方“お兄ちゃん”の正体は、初対面で出会って会話して即銃突きつけてきた怖い人ってことでしょ?
中身がワンチャン、実はおもしれー男かもしれない疑惑はあるにはあるけど、まだまだ私としては怖いもんは怖い。今の橋波さんが誰かもわからないのに。
顔合わせたら、景光くんや新一くんや灰原さんやバーボンやクリスさんについて根掘り葉掘り幹掘り枝掘り聞かれてしまう怖さもある。
いやだが!!
えぇ……退院後かぁ……
阿笠さんの研究所か、今や景光くんのセーフハウス扱いになってる私の長年の住居か、新居にしてヒロキくんとノアズ・アークのお膝元なシャトー米花か……
…………改めてもう一部屋借りるってのは、あれか、まずいか。
20歩くらい譲って辛うじてひとり暮らしではあるシャトー米花……
でもあそこ、もうセキュリティにノアズ・アーク入り込んでるからより一層おはようからおやすみまで見守り生活になっちゃうし……
…………もう、いっそ工藤邸に居座る……?
結局、橋波さんに工藤邸は先を越されましたとさ。
しからばしっかり管理、頼んだぞいってな!!
無事収まるところに収めたのでヨシ!
でもあぶれ者がここに1人……どうしたものか
読んでいただきありがとうございました!