昴くんはなにもしない   作:あまも

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草津よいとこ一度はおいで

ということで山は見てきましたが奥には行ってないので雰囲気です

明日から仕事ってマ?


閲覧ありがとうございます!


66-1:続々登場探偵さん2

 

 

 

 

 お医者先生から「風呂入っても良いよ」の許可が出た。

 

 じゃあ温泉行ってきても良いですかと、私はちゃんと確認したのだから偉いと思う。

 

「湯治ってことかい?」

「ですね。草津とか」

「草津はダメです。あそこは泉質が強すぎる」

 

 とまぁ、にべもなく却下されたんだが。

 草津行きたかったのに……こんな時でもないと、大義名分担いで山籠りなんてできないじゃん。

 

 代わりに先生から紹介されたのが、四万温泉。

 病気ならとりあえずなんでもいいから浸かって飲んどけば何とかなるくらい何にでも、四万の病に効くとされる第1号。

 

 でもあそこ、文明ってものが存在してなくってさ……いやそれはちょっと言い過ぎたけど……コンビニも無ければ電波も飛び飛びで、情報共有が大事な今の私にはちょっとむつかしい。

 山に登れるわけでもないし、やっぱりまだ良いかな、なんて渋っていたら、「山道を助手席で満喫させてやろうか」との小林くんの誘い。

 これにまんまと乗せられ、あれよあれよと渋川伊香保のインターを降りて山道をズンズン進んでるなうである。

 

 

 私は1週間ほど、この山奥に置き去りにされるらしい。

 

 またなんか、私に内緒でなんかの計画をこっそり進めるつもりか!?

 

「いやいや。せいぜい“安室透”の出勤日が休日にも増えるだけだよ」

「……ってことは、ついに会う気になったんですね、零くん」

 

 これまで平日の昼間の忙しい時間帯のヘルプや、毛利御一行が遠出している時くらいしかポアロでのバイトは入れていなかった彼が、休日にも出勤するということは、小さな名探偵と顔を合わせる気になったということだろう。

 

「本格的に“毛利小五郎について”の調査依頼が出たらしい」

「小五郎さんのほうですか」

 

 どこからの依頼で調査する事になったのかは言ってくれていないが、大義名分ができたからご挨拶出来るようになったと。

 元々、半ば“内輪の弟子”みたいになってた小林くんと、同等レベルで“外部の弟子”として名前だけは私や小林くん、そしてポアロのマスターと梓さんから出ていただろうし、話に聞いていた曖昧な輪郭が、新一くんの中であの金髪色黒タレ目なイケメンとして形になるだけだ。

 

「新一くん的にはどうですかね」

「お前のバイト先の新人探偵ってのを聞いて気にはなってたらしい。案外仲良くなれると思うけど」

「うーん……どうですかねぇ」

 

 お互い認めたら話は早いけど、2人とも認めるまでは長いからなぁ。

 真純さんとはなんだかんだ本堂くん経由で案外上手くやってると聞いているし、小林くんと小五郎さん、そして梓さん経由で上手くやってくれないだろうか。

 

 私の呟きに、運転中の小林くんが首を傾げた。

 

「……俺の聞いた話と違うな」

 

 おや。誰から何をどう聞いてるんで?

 

「なんかあの世良って子、コナンくんにすごい……怪しいくらいに馴れ馴れしいらしい」

「怪しい?」

「本堂くん曰く、『そういう、小さい子どもを好む人なのかもしれない』だとさ」

「ブッハ」

 

 

 変な咳き込み方しちゃうから変なこと言わないでほしい。足に響く。

 

「そ、そそそんなわけ」

「いやぁ、俺も無いとは思うが。やけに馴れ馴れしいから、ちょっと怖いって」

 

 子供好きなだけ……言いたいが、恐らくはついつい可愛がりたくなっちゃってるだけだと思う。

 

「コナンくんの方は?」

「警戒はしてるみたいだけれど、本堂瑛祐やお前の紹介だからと素直に見てるかな」

「何か思い出した様子は?」

「知り合いだったのか?」

「過去に会っているはずですよ。だから真純ちゃんも、当時の『工藤新一』の面影が『弟とされるコナンくん』に見えて、嬉しいだけなのだと思います」

「ああ、だからか。いや、特に何も言ってないから、彼はなにも気付いてないんじゃないか?」

 

 なるほどねぇ。

 まぁ私もろくに覚えてなかったことだし。

 

 あの時、秀吉と売店で屯していたから、都度声をかけに来てくれていた秀吉の実の兄と実のお母上と、妹である真純さんをそれぞれ紹介されたはずなのに顔を微塵も覚えてないもんな。

 

 上ふたりなんて、サングラスかけてて『怖っ』と思った印象と、肌が白くて日焼けしたら大変そうだと思った記憶しかない。

 

 その実のお母上を見て改めて、ああこの秀吉も異国の血を引いていたんだなぁと納得した。

 それだけは鮮明に覚えているので、たぶん見た目がめっちゃ外人の美人さんだったんだろう。日本人に無い色してたら大体はそう思う。

 

 いつそう思ったかまでは覚えてなかったんだけどね。

 

 

 しかしまぁ……うっかり私が邂逅したての新一くんに、安室透情報をリークしてしまうのを防ぐ為の僻地輸送かぁ。

 また置いてけぼりじゃないですか。

 嬉しいやら寂しいやら……

 

 

 353号沿いは山の合間を流れる四万川が見えて、外に出れなかったここ最近の鬱憤が流されるような気分なのに。

 窓を下げているので、清流のせせらぎに混じって、濡れた土と若葉が放つ初夏特有の濃い緑の匂いが車内に流れ込んで来ている。

 山来た感がすこぶる良い。

 

「あ、カモシカ」

「え、ウソ、マジでいるの?」

「ウソです。ただのサルでしたね」

 

 運転していた小林くんがめっきり速度を落としてくれたが普通にそこら辺で見られるようなお猿さんが4匹ほどの群れで道路沿いを闊歩していた。

 

 良い具合に路面もボロくて、良い感じに山だなぁ……

 

「ウソかよ」

「一応、道沿いに出てきたりもするそうですが、私は道で見た事はないですねぇ」

「ハルが見たことないならそうそうない事だろ。じゃあ山の中では見たことあるんだ?」

「ええ。普通に見かけないからこそ、“天然記念物”らしい貫禄というか……独特ですよね」

「『よね』と言われてもな。俺は遭遇した事ないし」

「え、意外。昔にも見かけなかったんです? っと」

「おっと」

 

 そんな話をしていたら、今度は道路を横断する猿の一団にかち合ってしまったので、小林くんは歩くよりも遅い速度でタイヤを転がして少しずつ進んでいる。

 観光地近くの猿は車とかにもそれほどビビらないから困ったもんだ。

 ここが観光地かと言われると、うん……自分たちが山へ入っていってる立場だから文句言うほうが悪いか。

 

 

 あの時、私が会ったのは“四ツ目”のカモシカだった。

 それはもうやばいタイプの怪異に遭遇してしまったのかと、そういう意味でしばらくお互いジリジリと警戒し合ってしまったのも懐かしい。

 カモシカは何らかの原因で眼下線が発達すると、眼球と同じくらい肥大化することは知っていたけれど、この世界……油断すると“SF(すこしふしぎ)”じゃなくて“F(ふしぎ)”方向の顔出してくるから怖い時は怖いのである。

 季節や時間の流れとかを代表としてね。

 

 だってちょっと前が春だったはずなのに、なんでもう夏なんだよ。

 緑が青青としていて、じわりと暑くなってきた下界と比べても涼しい標高の高さにこの山間の景色ときたもんで、まるっと100点満点だから全然良いんだけどさ。

 

 春は山桜やら花やら残雪やらで命の芽吹きが見えて100点満点だし秋は言わずもがな100点満点なので結局山はいつでも見てて楽しいもんである。

 ただし冬、テメーはダメだ。

 

 

 ……ああ、初夏ならば、川霧をまた見に行きたい。

 向こう岸しか見えないような、いや向こう岸すら見えないような深い霧をまた見てみたい。

 渡りの舟を遠くで見送りたい。

 

 

 猿の群れがみんな横断し終えるのを待ってる間も、後ろからの車は無いし、来ても猿なら許してもらえるだろう。

 

「……お迎え、朝早くか、もしくは夕方に頼めます?」

「うん? いいけど、お前の好きな山の景色、見れなくなるんじゃないか?ここら辺、霧凄いだろ」

「それが見たいんですよ」

「ふーん……宿からも見えると思うけど、わかったよ」

 

 

 最後の1番体格のいい猿が道路脇まで辿り着いたので、小林くんは車の速度を上げた。

 ありゃあボスだったのかねぇ。

 

「やっぱりSUBARUはエンジンが良いな」

 

 しみじみと、ステアリングをついと撫でながら小林くんが呟いたのは私は聞き逃さないぞ。

 対向車とすれ違ったり、あるいは崖際を走る時、開けた窓から水平対向エンジン特有の、低く微かな音が聞こえてくる。

 いいよねぇ!

 

「ふふ。みっちゃんもスバリストになります? 大歓迎ですよ。特にSUVがおすすめですからね、走行性能もさることながら、やはりこの安全性と乗っている人間の快適さという点こそがSUBARU車の良いところで」

「あーあーはいはい。わかったわかった」

「ま!なんてぞんざいな」

 

 私からの再三のオススメポイントには耳タコで辟易した様子を見せてるけれど、小林くんの中ではイメージはだいぶ固まって来たように見える。

 

 みっちゃんのお車探しはまだまだ難航している……ものの、流石に良く使わせてたのが私の車ばかりなもので。

 こりゃ軍配は私の方が優勢かも知らんな。

 

「MAZDAにもファミリー向けな大っきいので、快適そうなのありましたよね」

「うん。ゼロはもっとスマートで速いやつに乗せたがっていたけどね。やっぱりでっかい方が普通に市街地走ってても楽だよ。

 RX-7は……低いだろ」

「わかる〜」

 

 左手を目の高さでスイと横に滑らせている小林くんの言いたいことはよくわかる。

 車高が低いのは、街中走るにしてもどこ走るにしても、運転しにくいのひと言に尽きる。

 あれは運転もだけれど、他にも周りの状況把握が早い人が乗るべきである。

 信号変わっても見えないんだもん。

 

「ただ……速くてカッコイイのは間違いなくて」

「わかる〜」

 

 それもわかる。

 私としては別な意味でもアンフィニでもサバンナでも黄色か白かに乗っちゃえよって言いたくなるしそれで赤城に連れてってくれたらそれだけでも最高なんだ。

 ああいや、名前違ったっけな。なんだったかな……

 零くんがFDならあえてFCの黄色でどうだろうと言いかけたけれど、それならやっぱり青インプのほうが……いやどっちも良い……四駆の楽なヤツ……

 

 今こうして群馬の山を走っているからこそ頭に浮かぶは脳内再生余裕なユーロビート。

 安田ハッピー!

 昼間でも全然問題ない。

 

 実際は隣の運転手はしっかりと安全運転で、景色も爽やかに見れてるけど。

 

 隣に乗りたくはないけれど、でもスパーッと走り抜けるのは見てて楽しい……隣に乗りたくはないけれど!

 あと取り締まる側の人たちだから、あれをして欲しいとは口が裂けても言えないけれど!

 零くんも、今安全運転してるこの彼も、どうせサーキット連れてったら良い腕見せてくれるんだろうなと思うと……零くんや工藤先生じゃないが、良い車に乗せてみたくもなる。

 

 目立っちゃだめなのに!

 

「あ、GT-Rはやめときましょうね」

「ん?どっから出てきたんだ」

「板金王」

「ん??」

 

 あれは長野だから、群馬のこの山なら7万コースはないか……いや、今諸々の値段上がってるし7万じゃ効かないか。

 

 ハッ!

 

「みっちゃん! ダメですよ、走り屋なんかになっては!!」

「なんでだよ。走らないよ」

 

 昔に比べてその数はかなり少なくなったとはいえ、今でも夜な夜なエンジンとタイヤをけたたましく派手な音鳴らしながら山の中走り回ってる連中は確かに存在している。

 マニュアル車ではないからか私の車で煽られることはほとんど無いが、そんでも夜や朝方には馬鹿が後ろから左右に揺れてたりパッシングしてきて、眩しいったらありゃしないのだ。

 

 小林くんもバツ悪そうにしてるのを見るに、自分で言ってて、“普段は”車を大事にしている様子の知り合いが頭に浮かんだのだろう。

 

「どうだか。零くんを見てもそんなことが言えますか」

「ゼロは……まぁ……いや普段はちゃんと交通ルール守ってるだろ」

「普段」

「………………普段」

 

 

 あの人はなんなんですかね。

 あの真っ白な派手な車で、なんで街中でドリフト決める度胸があるのか。

 公道って言葉は知ってるのかな。

 ほとほと疑問ですわ。

 

 あとエンジン付きスケボー乗り回してる妖怪ね。あれ怖過ぎるからやめて欲しいわ。

 運転スキルが自然と上がっちゃうのが米花町。

 

 爽やかな風で頭を冷やしていたら、ふむ、と何か思いついたらしき小林くんの頷きの声。

 

「迎えの時、なんか試乗で長距離の許可が出たら乗ってきてみようかな」

 

 あらまぁ!

 普通ならそんな許可、抽選やら予約やら新車キャンペーンでもなきゃ出ないだろうが、今小林くんが頼んでいるディーラーは工藤氏のご紹介によってかなりの融通と便宜を図ってくれるかもしれない。

 

「え! ならインプレッサ乗ってください!それで(はる)……じゃなかった、冬名峠、下りてほしいです」

「ネタか?」

「ネタです」

 

 四駆の楽なやつで駆け下りてほしい!

 私の要望に、えぇ?と、小林くんは何だか嫌そう。

 良いじゃん、せっかくなら体験したいじゃん。

 この世界、度々地名が少しばかり実際とは異なる。

 榛名(はるな)山はどこぞでは“秋名山”と呼ばれていたけれど、この世界においては“冬名”らしい。

 どっかでは“夏名”だったりすんのかね。

 でも群馬自体は群馬。道もさほど変わりない。

 こういう時、ああ、違うんだなぁとしみじみ感じる。

 

「交通ルールを守った安全運転だから、お前の言ってる“ネタ”にかなうか、わからないぞ」

「むむ」

「だいたい、お前その足踏ん張れないだろ。下りはこの登り以上に安全運転で下りるからな」

「むむむ」

 

 そりゃ景色が堪能できそ……あっ!

 霧の出る時間で迎え頼んだんだっけ。

 

 うーん……

 

「SUBARU車ならなんでも歓迎ですよ」

 

 結局のところ、86の姉妹機でも良いし、太陽でも伝承でもゆったり空間でもなんでもどうぞである。

 

「ま、なんか考えてみるよ」と、その場は流されてしまった。

 小林くんはちゃんと安全運転してくれるから安心!!

 

 お迎えを楽しみにして、私は四万の青さの中でゆったり寛いで休ませましょうかね!

 

 

 ■

 

 

 大満喫した湯治中、ちゃんとお医者先生と灰原さんからきつく言い含められていた通りしっかり決まりと制限は守っていた。

 湯船に長時間浸かるのは避けて、湯上りに体は流したし、患部を湯に付けるのは1日1回にしたし。

 さっぱりスッキリ快適で、時間がゆっくり流れている感覚だった。

 宿の夜は、驚くほど静かで、時折、屋根を叩く雨音や、遠くで鹿が鳴く声が聞こえるだけ。

 湯上がりに、まだ赤みの残る患部を見ていたが、四万の柔らかい湯のおかげか、日を追うごとに引き攣れていた皮膚が少しずつ、内側から押し上げられるように弾力を取り戻しているのがわかった。

 

 露天風呂最高〜!

 

 

 四万の奥地はあまりにもネットが繋がらなさ過ぎて、電波を探してスマホと携帯片手に彷徨くぐらいなら、ハナから諦めて、窓の外で刻一刻と形を変える山の稜線を眺める方が、ずっと有意義なリハビリになったし。

 論文とノアズ・アークとのチェス勉強が捗ってしまった。

 歴史に名を残す様々な人が、缶詰先に温泉地を選ぶのもわかる。

 

 工藤氏におすすめしてみようかしら。

 いや、有希子さんが秒で飽きちゃうかもしれない。

 

 

 

 そんな1週間を経て、病院と違って自分の意思でここに来て、山の空気を味わいながら好きに過ごせる時間に癒されたお迎えの日。

 

 朝も早よから、というかまだ周りが薄暗い中、霧の向こうから、野獣の喉鳴りのような、低く鋭いロータリーエンジンのアイドリング音が響いてきた。

 絶対SUBARUのエンジン音じゃない。

 けれど聞き覚えのあり過ぎるそれに、心臓バクバク鳴らしながら宿を下りたのだけれど……

 宿の前に来たのは……真っ白な……

 

「とっ、透くん!?」

「まったく……この僕を足に使うとは、いいご身分だな、昴」

 

 降りてきた私を玄関先で待ち構えていたのは、金髪色黒タレ目のイケメン。

 組んでいた腕を解いて、私の荷物を宿の女将さんから受け取って車に詰め込んだ後、「ほら、とっとと乗れよ」と指で助手席を示してくれている。

 いや、だって白の……あの暴走車両の……

 脳裏に過ぎるは別荘の行き帰りで振り回された乱暴な、なのに確かな腕前のあの運転。

 思い出した想像だけで酔いそう。

 

 私は世話になった宿の方々に挨拶を手早く済ませて、杖をカツカツ鳴らしながら急いで寄って行った。

 

「あ、の、なぜ透くんが?お迎えに? 小林くんは……」

 

 昨日の連絡では、予定より早めにお迎えになる、とは小林くんが宿の方に連絡入れていたから、そのまま彼が来るものだとばっかり。

 

「あっちは毛利探偵が遠出するってんで、その運転を頼まれていてな。まだ“彼に”警戒されている僕が運転するよりは“小林”のほうが良いだろうから代わったんだ」

 

 遠出だと?

 小五郎さんが車でどこかに行く時に、最近運転出来ない私の代行運転手してくれていた彼がそのまま頼りにされて、駆り出されてしまったのだと、そういう説明である。

 

 

「ついでに、『江戸川コナン』と『安室透』の関係についても、お前に説明するのに丁度いいと思ってな。ほら、とっとと乗れよ」

 

 そんなこと言いながら助手席をわざわざ開けてくれてるんだけど、いや、事情ともののついでなのはわかったけど、いや、いや。

 

 

 嫌ァ!

 

 

「ぐ、群馬の山道を下るのに、透くんの運転する、このFDに――乗れと?」

「なんだよ、不満か?」

 

 

 不満ってか、不安!!

 

 

 時間帯は、ちゃんと朝霧の立ち込めた良い具合の靄の中。

 

 つまりは豆腐屋の配達しそうな……いや、普通に名前は違えど走り屋の聖地であることは変わらない。

 そんな聖地を夜通し走り抜けた、車大好きな方々の帰り道や、地元を駆け抜けてるやや荒っぽい地元民が道路をかっ飛ばす時間帯が今。

 

 一方で、このあむぴの腕前は信頼している。

 決して、谷底に真っ逆さまだの、ガードレールにクラッシュだのはしないだろう。

 

 なんならちゃんと安全運転してくれるだろうとも思う。

 聞いたところによると、いつもはクリスさんを助手席に乗せてるらしいから。

 

 

 あの時、二度と乗るまいと決めていたのに。渋りに渋っていつまで経っても乗り込まないからと、押し込まれてしまった助手席。

 一応怪我に気を使ってはくれているのか、はじめから助手席を目一杯後ろに下げて、私の荷物をその足元、ドア側に寄せてある。

 足を伸ばせるように、の配慮だろう。

 

 

 いやでも!けれども!

 

 

 フロントガラス、いいやその他リアウィンドウもどこも、その向こう側は牛乳を流し込んだような真っ白な朝霧。

 何が飛び出すかもわからない。何が迫ってもわからない。

 一寸先も見えないはずなのに、シートベルトをカチンと締めた彼は事も無さげにタイヤを転がし始めた。

 

 つ、掴む所!掴む所!

 

「透くん 、“安全運転” ですよ。私の足はまだまだ生まれたての雛みたいに繊細なんですからね。優しく!優しくしてくださいね!!」

「わかっているさ。お前の要望通り、良い具合の霧だ。見たかった景色なんだろ?」

 

 面倒そうに言う。けれどこれから下る山道を相手にか、不敵に笑う彼である。

 ︎︎私は覚悟を決めてシートベルトとドアグリップを握りしめた。

 この男が、背後に現れるかもしれない“車好きなヤンチャな方々”や“出勤を急ぐ地元民”に煽られて、うっかり本気を出さないか。

 

 私の湯治の成果が、この下りのヘアピンで遠心力に負けて霧散しないか。

 

 ……頼むから、法定速度だけは――多少オーバーしても山道の下りだし仕方ないけども――私の足を踏ん張る必要だけはなくあってほしい……!

 

 急いでる方々も、抜かすのは致し方ないとしても、頼むから、どうか、どうか、馬鹿な運転でこの車を煽る様な真似だけは……!

 

「あの……本当にお願いですから、煽りに乗らないでくださいね?」

「わかってるってのに。どれだけ心配してるんだよ」

 

 お前お前お前!

 何を「当たり前だろまったく……」みたいな呆れ方してるんだ!

 

 この彼の「軽く流す」がどんなか、こっちはわかっ、ヒィ!

 

「ガードレールが近い!!!!!」

「お前のフォレスターと違って車高が違うんだから当たり前だろ。うるさいなもう……」

「車高が違うとかそういうレベルじゃないですよぉ!」

 

 地面に尻を擦りながら走ってるみたいで、いや見上げる形の霧の合間の山並みがチラホラとカッチョイイけどコレ下るに連れて全部霧になっちゃうじゃん!

 

 ゥゥ……既に吐きそうだし泣きそう……!

 

 

 助けて小林くん!!

 

 

 





SUVで山道走っているので楽に乗ってるんですが、これ古い車だと足がこれ……

やや過剰な表現が含まれますが、電波が通りにくいのは事実だと認識しているので許していただけないでしょうか
決して未開の地と言っているわけではないので

いやマジで草津も伊香保もいい所なんですって



読んでいただきありがとうございました!
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