昴くんはなにもしない   作:あまも

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奥穂を多摩方面と仮定してるけど西多摩はあるんだよな……
とりあえずそんなイメージしてます

閲覧ありがとうございます!



69-2:気遣いの名人

 

 

 

 

「お邪魔しますよ!」

「…………邪魔しないで……」

 

 なんか聞こえた気がするな。気のせいだろう。

 勝手知ったる友の家。玄関から壁伝いにひょいひょいと上がり込んで、リビングの扉を開け放った私を見て、盤面に向かっていた秀吉は露骨に顔を引きつらせた。

 

「行きますよ秀吉!!」

「うわぁ……」

 

 うわぁとはなんだうわぁとは。

 

「今回は奥穂です!」

「うわぁ……」

「うわぁってなんですかうわぁって」

 

 由美さんとの約束の7冠にはまだまだ辿り着かない、研究熱心な羽田名人殿である。

 ここんとこ、あちこち顔出して忙しそうにしてたねぇ。

 

 時空の流れがおかしい“せい”か、はたまた“おかげ”か、この1年を繰り返しているので、その時期のタイトル戦へのトーナメントで黒星が付いても、防衛失敗しても、普通に順位戦が振るわなくても、来年がまた回ってくるからね。

 

 名人の称号だけは、もうとっくに永世じゃないの?ってくらい防衛してる気がするんだが、何故かそこはちゃんと“名人”である。

 私の意識してる季節みたいに、スキップステップランランルーで飛ばされちゃって対局は実際行われていないのかもしれないけれど、確かにちゃんと毎年、この名人殿は『用意』して、そして『防衛』してるんだよな。

 相手はまちまちでも、上位陣は顔ぶれがそうそう変わるもんでもないし。

 

 ズルいよねぇ名人殿は。

 良い結果になるまで、出目が揃うまでサイコロ振って良いよと言われてるみたいなもんだよ。

 

 まぁ本人の努力も苦労もちゃんとあるから、なんにもズルではないのだろうけど。

 

 時には2日かけたり、期間は空くとはいえ最大7回の真剣勝負が待ち構えている。存外大食らいな脳みそがエネルギーをバクバク食べちゃうので、体力も重要な鍵となるのがタイトル戦ってやつだ。

 このもやしっ子の将棋星人。

 基本的には初速が凄まじいので最終日までもつれ込むことはほとんど無いかわりに、度々相手に粘りに粘られ、後半に持ち込まれてから失速するという、体力不足が唯一の欠点だった。

 

 ……いや、基本マイペースのくせに由美タンやらご家族の件で心乱れる時は様子おかしくなってたな。

 原因のほぼ9割が由美タンだけど。

 

 

 そんなわけで、この将棋星人の弱点はほぼ目に見えていた。

 だから昔から、ちょいちょいリフレッシュ兼ねて体力づくりがてら山に誘ってたんだが、毎度毎度こいつはこうして、面倒くさそうな顔しやがるのである。

 行くとなると嫌そうなくせに、いざ山に着くと気持ちよさそうに過ごしてるから、おでかけそのものは存外嫌じゃないだろうに。

 ツンデレか!?まったく、この秀吉め!

 

「スバルお前、足怪我してたんじゃなかったのかよ」

「今はリハビリ期間ですからね」

 

 杖なしでも歩けるけど、ちゃんと使いましょうねとは言われている。

 でも土足上等な阿笠さんの研究所ならまだしも、流石にひとんちで外で使ってた杖ついて歩き回る気はしないよ。

 

 普段この忙しい名人殿を隙を見て遊びに誘う時は、私が車に拉致して連れ去って、半ば強制でドライブに付き合わせるのだけど、今の私は運転禁止令が出てるのでね。

 でも歩行訓練は積極的にやってもOKとの許可が出たので、せっかくだから私のリハビリついでに奥穂町への散策に、この太閤閣下を誘ったのである。

 

 頑なに立とうとしない彼の向かいに、どっこいしょと盤を挟んで腰を下ろし、笑いかけた。

 秀吉は警戒するように手元の扇子を握り直している。

 

「このあいだのトーナメント、惜しくも決勝戦までいけなかったのは残念です。……ふふ、秀吉のスケジュールは連盟から教えて貰ってますからね。明日からの対局、1週間ほど無くなって暇でしょう?」

「負けたからこそしっかり研究するんだよ。だいたい、テレビ出演だってあるし、僕が色々やっておかないと……」

「ああー聞こえない聞こえない。将棋界の事情なんか、一般人の私にはこれっぽっちも関係ありませんね」

「お前なぁ……」

「世間様にとっては立派な太閤名人殿でも、あなたはただの私の友人、“秀吉(ひでよし)”でしょう? 盤面だのカメラだのばっかり見てないで、たまには緑色でも見て目を労りなさい。……大体、おまえは最近働きすぎだよ」

 

 秀吉はぎくりと肩を揺らした。丸メガネの奥で目をぱちくりと瞬かせている。

 全く、器用なんだか不器用なんだか。

 

 将棋界の立派な風除けの名人殿である。

 コイツ、賢すぎて他の人との対局に余計な思考の邪魔挟みたくないからって、他の棋士の分まで外向けの仕事引き受けるからな。ノアズ・アークに聞いて今期の仕事量まとめてもらったら、連盟の広告塔様はジュルスケびっちり埋まってたもんで……キショかったから抗議しちゃったよ全く。

 

「……おまえ、まさか明日の取材の話――」

「えー?なんの話ですかねぇ」

 

 天下の名人殿が負けたことだし、丁度いいからネタとしてトーナメント決勝対局の棋士達の意気込み取材とすり替えてもらっただけである。本人達も取材に張り切ってたし。ふたりともなら負担は公平。秀吉は暇。連盟は宣伝にもなるし。

 

 うーん、よいことばかり!

 

「なぁに、次の対局はまた先ですし、取材も免状書きも無いんでしょう?それに、この間の特番後でテレビの方も明日からはしばらく出番が無いのは聞いてます」

 

 気持ち悪いほどの記憶力で、クイズ番組荒らしてたからな。賞金もらってウッハウハな本人はともかく、番組側は大金取られてしょもしょもだろうし。

 クイズ番組なんかにかまけてるから負けるんだとか言われてるが、直後の順位戦は勝ってるやろがい。

 

 どっちかって言えばコイツが負けたの、たぶん由美さんを始めとする姦しミニパトポリス女子達と私が病院でキャッキャしてたのがご不満だったに違いねぇからよ。

 麻雀に誘われてる私と違って、彼女からの直接の連絡はまだなんもないもんねぇ!

 

「ね?今がチャンスです。リフレッシュに出かけましょうよ。なんなら山の景色や湖畔でのんびりリラックスしながら、棋譜さらってみるのもいいと思いますけど」

「ヤダよ、今の時期虫がいるじゃないか」

「虫もかわいいもんですって。それに、由美さんだって『チュウ吉、たまには外に出て体力作りしなさいよ!』って言うと思いますよ?

 良いんですか?秀吉にフラれた私が、遊び相手探して『秀吉にリハビリ付き合ってって頼んだのに断られちゃいました』なーんて彼女に愚痴っちゃっても。あーあー、由美さん優しいから、遊び相手になってくれちゃうかもなー」

「うっ……」

 

 弱点で軽く揺さぶってみると、それだけでこの名人殿は泳ぐ視線をごまかして、扇子をパチパチと開け閉めしている。

 

「ほら、こんな、足の悪い私だけで山に行くなんて、心配でしょう?」

「……お前は腕折れてても山から帰ってこれるだろ……というか、それ自分で言ってて悲しくないの?」

「全然」

 

 私が頼りないのなんていつもの事だし。

 腕かぁ、腕くらいならまぁ……でもやっぱり足は困るよ。動けないのは本当に困る。

 

 言い切る私を見て、秀吉は深いため息を吐き出した。

 

「はぁ……つまり、そこまで運転してくれる人が必要なんだろ?」

正解(That's right)!アッシーくんが欲しくって!」

 

 盤面越しに身を乗り出してバチコリ逆ウインクで秀吉を指差したら、その指掴まれてブンブン左右に振られた。いてていてて。折れる折れる。

 

 たぶん、私ももう運転は出来ると思うんだが、それにしたっても万が一の予備で運転できる人間はほしいし。

 阿笠さんに頼むと、もれなく小さいお姉さんも付いてくるからさ……

 

「……車は?」

「私のフォレスターです」

 

 小林くんに送ってもらおうかななんて思ってたんだが、なんか服部くんと和葉さんが“工藤新一”宛の手紙携えてやって来ていて、“ ご本人 (江戸川コナン)”を連れ立って、毛利探偵御一行様として奥穂の奥地、東奥穂町にいく事になったそうな。

 でも新一くん、あの時食欲無かったのは場の空気のせいもありつつ、体調不良もあったようで、今風邪引いちゃってたんだよね。

 なのにそれでも『自分宛だから』と風邪薬がっぷり持って、ゲホゲホしながら無理して行っちゃった。

 

 今回は保護者も多いし、大丈夫だと思うけど……

 

 そう、大人の人数が多いのである。

 正確には、体格のいい成人男性2人、育ち盛りな高校生3人、幼児1人だけど、6人はさすがにね。フォレスターでは収まらない。

 それで小林くんがミニバンレンタルするか〜なんて話していたら、どこかのマツダファンが手配してたらしく、ピッカピカのCX-80が事務所前に停まっていた。

 知り合い経由で借りたヤツ、とのことだけど……あれどっかの試乗車じゃなかろうか。

 

 ヤツめ、なんとしてでも親友を“マツダ”に乗せたいらしい。

 3列シートはSUBARUには、もう現行は……クッ

 まだだ……まだSUBARUは負けちゃいねぇぞ……

 

 

 そんなわけで、奥穂行くならとそこに「混ぜて〜」なんて言ったら、和葉さんや服部くんまで含めて全員から「待機」を言いつけられ、私は愛車と一緒に置いてけぼりになっちゃったのである。

 

 山遊びっても別に、登山ばかりじゃないっての!

 遊歩道とか湖周辺見て回るとか、周遊バスとか色々あるのに!!

 

 何も、この足で山登ろうなんて気は少しもなかったのに!

 

 

 じゃけん、せっかくだからこっちもお出かけしようぜってなわけ。

 奥穂町の話聞いてたら、ケーブルカー乗りたくなっちゃった。

 

 この間からなんか不機嫌だった秀吉もいることだし、そういや最近一緒に遊べてないので、これはもう……せっかくせっかくせっかくだ!ってこと!

 

 棋譜通りに並べられた盤に適当に持ち駒並べて、秀吉を混乱させている隙に、よっこらと立ち上がって、勝手に秀吉のお出かけセットを整えてやる。

 

 私だって無理矢理とは言いつつ、ちゃんと秀吉のジュルスケは押さえてんのよ。

 最近対局とかテレビとか取材以外にも、指導対局だのCM撮影で忙しくて、もっぱら帰っても研究対策で缶詰だったこともね!

 

 

 だから結局、秀吉が行きたくない理由って、“準備とかめんどくさいだけ”だから、時間ちゃんと用意して息抜きの機会を作ってやれば、存外乗ってくる男なのである。

 

 社会適応型の天才は大変だねぇ!

 

 なぁに、今回は運転手を頼む以上、快適で楽しい旅にしてやるからな!任せろよな!山遊びのプロだぞこちとら!

 

「待ってスバル、これ何の配置……詰めろなの?この気持ち悪い桂馬何?」

「いい桂馬ですね!」

「馬鹿お前、これは反則……いやでもこれ取る必要は無い……んん?」

 

 なんか悩んでやがる。

 詰将棋でもなんでもないし、ばら撒く前の盤面だって秀吉は覚えてるだろうから大丈夫大丈夫。

 

 そーれ、歩きやすい服引っ張り出してやらぁよ!

 

 

 ■

 

 

 

 

 待っててもらったタクシーで、喫茶ポアロの裏手に停めてあった愛車まで秀吉連れて戻ってきた。

 おおヨシヨシ、置いてけぼりなんて寂しかったねぇ。

 

 鍵は私が持ってるしノアズ・アークも居るから問題ない。

 助手席に乗り込んで、シートベルトを引き出す。

 

 運転席では、太閤名人殿が、久々〜などと言いながらハンドルを“10時10分”の角度で握りしめていた。

 

「こないだのスバルの二日酔い以来だね」

「その節はどうも。運転覚えてます?右がアクセルで左がブレーキですからね。間違えても両足で踏まないように」

「わかってるよ!もう……でも山道行くんだろ?心配だなぁ」

「何も急ぎの旅ではありませんから。ゆっくりのんびり、気楽に行きましょう。むしろ車線も信号も少ないし、安全運転する分には山の方が楽ですよ」

 

 たまに人間や野生動物が我が物顔でど真ん中歩ってたりするが。井戸端会議は井戸端でやってほしいね。

 

「後ろが大名行列できてようが心配せず、ゆっくり行きましょう」

「うう……」

 

 抜かす人は勝手に抜かしてくれるのだ。登坂車線もあるし。

 下りはまぁ……うん……

 

 ミラーや椅子の位置が勝手に調整され、これいいねぇ!なんて言ってる秀吉を眺めていた所だったんだけども。

 

 ポケットに突っ込んでいたスマホが震える。

 おや、灰原さんからの着信だ。

 朝、運転できる友人とドライブに行ってくる旨を伝えたら、「山で自分が運転するつもりじゃないでしょうね」と見抜いてきた我らが小さなお姉さん。いやいやいや、連れがペーパードライバーとは言ってないじゃん。

 

「おや、どうしましたか。一緒にお山に行こうと……」

『そんな悠長な話じゃないわよ!』

 

 鼓膜を劈くような切羽詰まった声に、私はスマホを耳から離してしまった。

 

 隣で秀吉がビクッと肩を揺らすのを横目に、改めて耳に寄せる。

 

「……何か、ありましたか」

『博士よ! この人、工藤くんに渡す風邪薬と間違えて、私が試作した例の薬を渡してしまったらしいのよ!』

「なんですって?」

 

 

 例の薬。

 

 “江戸川コナン”や彼女が、毒で小さくなっている影響を打ち消すための……元の工藤新一の姿に戻るための解毒薬を?

 

 それを、風邪薬だと言って、渡したの??

 

 

 毛利御一行様……いや、周囲の一般人の目がある中で、風邪っぴきの、新一くんに???

 

 

 

 おおっとこれは大ピンチ!!

 

 

 

『彼らが行ったのは東奥穂町だったわね! 今から追いかければ間に合うかもしれないから、あなた今すぐ……って、ダメね、あなたは足が……』

「いえ、問題ありません。まだこちらも出発前です。薬の用意をしてお待ちください」

『は? 待ってろって、こっちは博士に車だしてもらうから別に……』

「いえ。せっかく、ですからね。待っててください」

 

 

 私もちょうど奥穂町に向かうところだ。

 急ぎで足が欲しいんだろう。

 なぁに、“運転手”ならここにいる。

 

 彼女の返事を聞く前に通話を切り、私は横を向いた。

 

 ……あー、いやいや、心配しなくていいからね。

 

 

「あなたは急がなくていいですからね。焦る必要ないですからね。慎重に運転してくれればそれでいいんですからね」

「今の聞かされて、お前のその顔見た後で焦るなって言うのかいスバル」

「おやおや、カッコよくなっちゃってました?」

「そりゃもう。お前が真面目な顔になる程度にはマズいってのが良くわかるよ。やっぱりそのつもりだったんだろお前」

「ふふ……心配せずとも大丈夫ですよ。辿り着くまでが少し、予定と変わるだけです」

「もう、色々口実にする気だな……」

 

 喫茶ポアロの裏手から、私のフォレスターがおっかなびっくり発進する。

 

 ブレーキを踏むたびに、車体がカックンと揺れる。

 下手くそ……とは言わないが、やっぱり慣れてない人の運転って見てて怖いよね。

 ノアズ・アーク、アシストしてあげてね。キープレフト過ぎるから。

 

「……はぁ。ダメか」

「ダメなの!?」

「いえ、秀吉の運転は問題ありません。大丈夫ですから、ちゃんと前を見て運転してください」

 

 余計なこと言うと、余計焦っちゃうか。

 秀吉も、落ち着いてるとちゃんと運転できるのに……

 

 何度スマホを耳に当てても、返ってくるのは無機質な電子音声だけだった。

 

 先に出発したCX-80の運転手、小林くんに連絡を取ろうとしているのだが、奥穂の山道なんて電波が通っているか怪しいものだから中々繋がらない。

 秀吉みたいにゴールドペーパー免許マンでもないし読み上げペンちゃんもいるのに、それでも出ないということは、おそらく現在圏外を走行中なのだろう。

 

 普段は冷静沈着なあの灰原さんがあれだけパニックになるのだから、よっぽどの緊急事態。

 となるとこういう時の“お約束”が予想される。代名詞みたいな阿笠さんのビートルは、急ぎの山道ではちょっと怪しいからね。

 

 少年探偵団とキャンプ行ったり、ここぞって時によくやる気なくすからね。あのビートルもおじいちゃんだから。

 

 

 そんなわけで、秀吉の運転で阿笠邸までお迎えに向かっているのだが……。

 

「ねぇ、あの自転車近くない?」

「秀吉が左に寄りすぎなんですよ。自転車や歩行者怖がらせたらこっちが罪被るので距離取って抜かしてください」

 

 ……ダメかもしらん。

 

 あせらずはやらずゆっくりのんびり旅気分〜と、このゴールドペーパー免許マンの運転を茶化しながら行こうかと思ってた奥穂だけど、この運転では奥穂に着く前に灰原さんの胃に穴が空くか、工藤新一の面白ボディの秘密が皆にバレてしまう。

 これでは間に合うものも間に合わないだろう。

 

 急いだ方が良いかなとしきりに気にしてくれる秀吉に、落ち着いて、急がなくていいからとなだめた短い距離の走行を終えて、ようやく阿笠研究所の前に到着。

 

 すると、血相を変えた阿笠さんと灰原さんが飛び出してきた。

 

「おお、昴くん!ワシが車を出すところだったんじゃが、待ってろとは、何か渡すものでもあったかのお」

 

 お腹を揺らして駆けて来た阿笠さんは助手席の私の前で、あせあせと少ない手荷物と、ビートルの鍵を握り締めている。

 

「いえ、ふたりともこっち(フォレスター)に乗ってください。阿笠さんのビートルは故障が多いですから」

「ほ?」

 

 パタパタとかけてきた灰原さんが、助手席から降りる私の足をペチペチと叩いてくる。

 

「ちょっと、そんなこと言ってる場合じゃないわよ!あなたまさか」

「私が送りますよ」

「はぁ!?あなたはまだ運転止められてるでしょう!?」

「でも絶対ではないでしょう」

 

 後部座席に押し込んだ灰原さんが、ギャンギャンと噛み付いてくる。

 私は運転席の秀吉を「ほら、どいたどいた」と助手席へ追いやった。

 

「動き回って悪化させないように、大げさに、キツめに制限されてるだけですよね?AT車のペダルを二つ踏むくらい、今の私には造作もないことです」

「何を……何かあってからじゃ遅いのよ! 事故でも起こしたらどうする気!?」

「逆にそのあなたに急かされた阿笠さんや、慣れない私のご友人に運転させた方が危ないのでは。

 間違いが起きてしまったことは仕方ない、今更焦ったってしょうがない。私だって安全を心掛けた運転を長年やってる人間ですよ。絶対なんて不確実なことは言いませんが、1番早いのはこの方法です」

 

 正論で殴り返すと、灰原さんは悔しそうに口を噤んだ。助手席に移動した秀吉と後部座席に乗り込んだ阿笠さんが困っている。

 

 ふふん。言い返せないってことは、やっぱり私の足、これ大げさに言われてるだけだな。

 

「……分かったわ。ただし、少しでも足に違和感があったらすぐに博士でも、そこの彼でもいいから代わりなさいよ。それから、絶対に安全運転で行くこと」

「言われなくても。私の辞書に無謀運転という文字はありませんからね」

 

 どこぞの白い零戦とは違うのでね。

 

 上着を丸めて左脚と運転席のシートに挟んだ。どっこいしょ、と運転席に腰を落ち着ける。杖とスマホとノアズ・アークは秀吉に預けた。空いてる道の案内よろしくね。まず高速に乗るからね。

 

 うんうん、ペダルを踏み込む動作に支障はない。

 ハンドルを握ると、待ってましたと言わんばかりにいつもの設定に移動してくれる。

 

 うーん、かわいいやつめ。お待たせお待たせ。

 

 やはり自分の車は自分で運転するに限る。

 

「さて、それじゃあ皆さん、シートベルトをしっかり締めて。奥穂町まで、“安全運転”で、急行します」

 

 本当は帰りに運転するつもりだったんだけど、まぁ問題ないだろう。

 ナビシートにナビゲーターがいて、擬似ドクターも乗っけた万全状態。

 

「くれぐれも、無茶はダメよ!?何か違和感あったらすぐとまるのよ!?」

「おい、スバル、お前ホントに足大丈夫なのか?あの子あんなに……」

 

 あーもーはいはいわかったわかった。

 

 ちょっと口うるさいけど、賑やかな方が楽しいドライブになるだろう。うんうん。

 

 

 





慣れてないとよくわからない状況でどうしたらいいか困ってしまうのが怖いところだと思います
あとビートルは黒鉄見る限りでは頑張ったら頑張れるんだなと
でも危ないからやっぱり焦って運転するのはよくないって


将棋連盟からマネージャー扱いされてる設定は没なんですが名残で連絡とかのやり取りはあるかもしれません



読んでいただきありがとうございました!
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