昴くんはなにもしない   作:あまも

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この日に投稿したかったので夜ですが投稿!

そういやこの後神奈川帰りの2人に遭遇するはずなので奥多摩方面なわけ無いことに今気づきましたがでも都内の湖あるド田舎ってやっぱ奥多摩方面じゃないの……?
というわけでそのまま行きます。きっと神奈川寄りに奥穂はあるに違いない

あと70で括りました。

1年続きました
1年続いたんですねぇ……

地味にここまで続けられて、なんか随分長くなってしまいましたが、特に盛り上がるポイントもなくじんわりと進んできましたね
この先もそれほど盛り上がることはないと思いますが、続けられるだけ続けられたらと思います。
どうぞよろしくお願いします


閲覧ありがとうございます!


70-2:記憶喪失の同じ顔

 

 

 

 

 

 私のフォレスターは、阿笠研究所の前の道を静かに走り出した。

 

『お兄ちゃん、現在予定ルート上の一部区域にて渋滞が発生しているよ。迂回ルートを検討した方が良いかも』

「スバル、やっぱり次のインターから乗るのが一番早いんじゃないかな。この時間なら下道とさほど大差ない。ETCレーンも空いてるはず。……でもなぁ、この渋滞……」

 

 イヤホン越しのノアズ・アークの案内に、助手席の秀吉がスマホとナビ画面とをスワイプしながら補足を入れてくれる。

 これぞ将棋星人。網目模様があればどこだって手順が浮かんじゃう男。

 こいつは空間把握とルート処理能力が高いから、ナビゲーターとしてはめちゃくちゃ優秀なのである。

 これが名人の無駄遣い。

 

「……うーん。この渋滞……」

 

 助手席でナビ画面を眺めていた秀吉が、急に扇子を畳んで、表情を鋭くさせた。

 チラリと見た感じ、ナビの表示はこの行く先の途中あたりから、赤色の表示が地図を塗りつぶし始めている。

 首都高上がって早々に潜った電光掲示板には『事故のため渋滞15キロ、通過に120分』という嫌な文字が浮かんでいた。

 

「交通情報は?」

『現地の様子を見てみたよ。工事が元で、事故になっちゃったみたい。そこに避けようとした大型車両が道塞いじゃって、今は隙間を一台ずつ流してる状態だから……このまま高速を直進してもあまり早くはないね』

 

 ノアズ・アークの冷静な声がイヤホンから響くと同時に、秀吉がパチリと扇子を閉じた。

 

「スバル。ここから先はしばらく動かない。この手前まで進んでから、一度高速を降りて、その先のバイパスを北上。そこから下道を挟んで、こっちのインターまで戻るのが一番早い」

 

 秀吉の指先が、地図上の複雑な道をなぞる。

 その速さといったら、まさに終盤戦の棋譜を読み解く時と同じだ。

 

「下道を挟むのか? この時間帯、そこ……練馬周辺の裏道も混雑するでしょう」

「そっちじゃない。高井戸を降りて、環八を避けてこの細い市道を縫うんだ。……ほら、ここ。この交差点の今の交通量なら、こっちからここを突っ切るのが最適解。これなら計算上、高速に戻るタイミングで渋滞の最後尾を優に追い越せる。速さはこれが最適解だ」

 

 秀吉の提示したルートは、一見すると不規則なジグザグ走行に見える。

 

『……うん、計算完了。秀吉お兄ちゃんの提案ルートは速さだけならボクも賛成』

「速さだけなら?」

「お前の足だろ。大丈夫?これだと、信号とか、ジグザグで走ったりで、結構……」

「なんだ、そんなことですか」

 

 渋滞なら、この車にはクルーズコントロールが付いているし、ノアズ・アークのサポートがあれば私の負担はほぼゼロ。ただうだうだと渋滞の長い待ち時間を灰原さんのイライラにお付き合いするだけである。

 一方、提案された道だと確かに早いけど、それなりに真面目に運転しなければいけない。

 

「お待たせするのも悪いですからね。案内の通り高速降りますよ」

「大丈夫なのか?お前の運転は信用はしてるけどさ……」

「大丈夫大丈夫」

 

 住宅街を走っていても、普通に運転出来ていたし。

 高速の方が楽ってのは、足怪我してなくても変わらないし。

 

「この次の……次のインターで良いんですね」

「……うん」

 

 秀吉が何か言いたげだったが、ナビとスマホを眺める作業に戻った。ノアズ・アークがスマホから、何か秀吉に伝えてるらしい。

 マジでこの足、別に心配いらないんだけどなぁ。

 

「そこから先の案内は任せましたよ」

「……うん、任せとけ」

『任せといて!』

 

 全くもって、頼もしいナビゲーターたちである。

 

 ■

 

 

 法定速度に毛が生えた程度の、めちゃくちゃ優良な安全運転で道中を進む。

 そもそも高速道路なら、この車の優秀な運転支援システムが助けてくれるから、ペダル操作なんてほとんどいらない。

 これもあって、高速道路以外のバイパスとか太い道路での運転だけならなんの問題もないんだけど。

 

 横から後ろから、足が足がと騒がしくてさぁ。

 

 スバルが誇るアイサイトの恩恵は、運転手の負担の大幅改善が売りですぞ!

 しかも空いている高速道路のクルージングは、至って快適。

 

 ノアズ・アークと秀吉の案内のお陰で、サクッと渋滞にも遭わずに首都高を抜け、現在周りの景色は東都とは思えないド田舎になってきた。

 これくらいなら、私のホームと言ってもいい。ここまで来たならもう何度も通っているし、こういう道のが得意だからね。

 ノアズ・アーク曰く、この先渋滞もほとんどないそうなので、ナビのお仕事は終わりかな。

 後は小林くんからの返事が来たら、私に繋いでもらおう。

 

 車内のド真面目な空気が少し落ち着いてきたところで、ナビの仕事が一段落した秀吉が、くるりと後ろを振り返った。

 

「ええと……ばたばたしてて挨拶が遅れちゃったよね。羽田(はねだ)秀吉(しゅうきち)です。スバル(こいつ)の友人で……その、いつもコレがお世話になってます」

 

 そういや初対面だっけ。ルームミラーで灰原さんの顔を見ると、流石に公で名前が売れに売れてる今をときめく太閤名人には、いつもの野生動物みたいな警戒はあまり起こらないらしい。

 

「……初めまして、灰原哀よ。こちらこそ、この図体ばかりデカい大人(お子様)のワガママに巻き込んでしまってごめんなさいね。阿笠博士はご存知?」

「うん、昔にはなるけど、よくスバルに会いにお邪魔してたから。ご無沙汰してます、阿笠さん」

「お、おお! 久しぶりじゃのお、秀吉(シュウキチ)くん。今日は昴と遊びに行く予定じゃったのに、邪魔してしまってすまんのお」

「あはは。いえいえ、むしろ、僕付いてきて良かったんですかね?」

 

 一応、これが初対面となるプロ棋士と、天才科学者(小)の邂逅である。

 まぁ確かにあの薬の件でドタバタしてるが、解毒薬だの組織だのってワードは出してないし、阿笠博士がやらかしたって話は昔から良くしてるから、その一環だろうと秀吉も考えてくれて深く追求はしてこないはず。関わると面倒だからね。

 そして灰原さんも、わざわざ話をする必要もないから、車内ではここまでぶすくれた顔で、私の足の心配くらいでしか口を開いていなかった。

 

 ニコニコと人懐っこい笑みを浮かべた秀吉は、ふと、灰原さんの顔をじっと見つめて小首を傾げる。

 

「ん?どうかした?秀吉(ひでよし)

「いや……スバルが『なんか妹みたいなのが増えた』って言ってたの、あの子のことだったんだね。なんだろう、どこかで会ったことあったかな……」

「私が、あなたと?……いえ、テレビであなたを拝見したことはあるけれど、お会いするのはこれが初めてのはずよ」

「だよねぇ。不思議だな……」

 

 逆に傾げたり、前に向き直ってもチラリと灰原さんを見てまた首を傾げている。

 何ぃ?

 

「んー……なんだか僕の母さんや妹に、目元が似てるような気がしてさ。……似てる気がする……だけかなぁ?

 親戚でもないのに、他人の空似ってあるんだね」

 

 そんな、扇子を顎にぺしぺしと当てながらの秀吉の言葉に、ルームミラー越しの灰原さんがピクリと眉を動かした。

 目元……言われてみれば、真純さんに似てるような……気がしないでも……うーん?

 むしろ、真純さんにはそれよりもっと似てる目元が、あったような気が……

 うーん……?

 

 

 まぁ、人の顔なんて私にゃ整ってるか整ってないか好みか好みじゃないかしかわからん。

 世の中には似た顔の人間が3人はいるって言うし、そういうこともあるさ。

 実際、工藤新一のソックリさんが月下の大怪盗やってるし。

 パーツが似てるなんてよくあるよくある。

 

「逆にお前は妹と、あんまり似てないよな」

「ああ、僕は父さんに似てるらしいからね」

 

 男らしい、とは言わないけど、きれいな顔ではある。なんだてめえ、おのれ秀吉。

 

 ついにじーっと灰原さんの顔を観察して、彼女を居心地悪くさせていた秀吉は、あ!などと声をあげてポンッと手を打った。

 

「でも、その綺麗なウェーブのかかった髪質とか、明るい髪色はどっちかっていうとスバルにそっくりだ。なるほど、だからスバルも親近感湧いて『小さいお姉さん』なんて呼んでるんだね!」

「……は?」

「え?」

 

 ルームミラーの中で、灰原さんと私の目がバチッと合った。

 いやいや、確かに髪の色味とか、ちょっとうねってるところとかは似てなくもないけど。

 

「ちょっと。私がこんな男と似てるなんて、心外だわ」

 

 こんな男!?灰原さん!?

 

「はは、ごめんごめん!でも君の言う通り、スバルのワガママには本当に手を焼くんだよ。さっきだって、僕が大事な対局の……いや、取材の用意をしてたのに、勝手に上がり込んできて将棋盤をぐちゃぐちゃにしてさ!」

「まったく……大人としてどうなのよ。普段からそうなの?」

「そうなんだよ!行くって言うまでテコでも動かないし!」

「本当に手綱を握るのも一苦労だわ。……で、あなたは結局、そのワガママに押し切られてあそこまで運転させられて、こうして連れ出されてるってわけね?」

「いやぁ……ホントスバルは時々こうして強引な奴で……」

 

 ……おかしいな。

 初対面のはずの太閤名人殿と小さいお姉さんが、どういうわけか“沖矢昴に振り回される被害者の会”として、後部座席と助手席で意気投合し始めている。

 

「あなたも大変ね。同情するわ」

「哀ちゃんも、いつもこんなのに付き合わされてて偉いねぇ」

 

 おいおい、私の車の中で私の愚痴で盛り上がるんじゃないよ。

 いや待て、しれっと哀ちゃん呼びが解禁されている。コミュ強かよ。

 それに秀吉、お前のほうが面倒くさいときとか強引ってか、頑固な時はテコでも動かないだろうが!初志貫徹ってそうじゃないだろ!

 

 

 

 なお、ここまで余計な口を挟むと流れ弾が来ると解ってる阿笠さんはのっほっほと、笑うばかりである。

 

「……ノア、カーステレオの音量を少し上げて。癒やされるようなやつ、響輔くんの3rdアルバムがいい」

『ふふ、了解』

 

 賑やかな道中になるだろうとは思っていたが、まさか私が標的にされるとは。

 ため息を一つ吐き出しながら、私は流れる景色を横目に、フォレスターのアクセルをほんの少しだけ踏み足した。

 

 

 ■

 

 

 なんとか東奥穂村には辿り着いたものの、案の定というか何というか、すんなり合流とはいかなかった。

 

「絶対に歩き回るんじゃないわよ。あなたは大人しく車で待機してなさい」

「はいはい」

 

 小さいお姉さんから絶対の命令を下された私は、助手席で秀吉に見張られながら、灰原さんと阿笠さんに彼らの居そうな場所を指示するしかなかった。

 1年前の新一くんが推理を披露したという事件現場、日原邸。

 私の読み通り、二人はそこで毛利探偵御一行と合流できたのだが……肝心の新一くんと、彼と一緒にいたはずの小林くんが別行動をしていて、気付いたらいなかったのだという。

 

『風邪が悪化して、調査に付いてくる必要は全く無い小学生(ガキ)は先に旅館に戻ったって毛利探偵は言うんだけど……服部くんは「1年前の自分の推理ミスが目の前でバレるのが嫌で逃げたんとちゃうか」なんて茶化してるわ。でも、小林さんもいないの』

「なるほど。病人の子供と大人がひとりずつ居ないなら、そりゃ付き添っているから大丈夫だと、周りは思うわけですね」

 

 私は探偵バッジ越しに頷いた。

 服部くんにだけ、こっそり灰原さんたちが来た本当の理由である解毒薬の誤飲の危険性を告げ、阿笠さんたちは急いで一行が泊まる予定の旅館に向かったのだが……私の予想通り、旅館には誰も来ていなかった。

 

 だって、工藤新一宛の手紙が来て、『推理ミスがあったから、来て欲しい』って言われて来てるんだろ?

 そりゃ新一くんがその調査をほっぽり出すわけないし、それに小林くんが付いてったなら、風邪っぴきの小学生の足になってることだろう。

 

 つまりは、毛利御一行も、村人も誰も……あの2人の行方を知らないのだ。

 

 

 本格的にマズいな、と思い始めた夕方頃。

 

 ようやく、電波の繋がった小林くんから私のスマホに直接連絡が入った。

 

『あー、ハル? ごめんごめん、ちょっと山の中で電波悪くて。

 実は今、記憶喪失状態の“工藤新一”が湖で見つかって、服部くんたちと合流したところなんだけど』

「……はい?」

『平次くんにお願いして、やっぱり体調が悪いから、“コナンくん”の方は灰原さんたちが回収して、先に東京に帰ったってことで毛利探偵たちには誤魔化してもらったよ』

 

 一瞬、思考が停止した。

 

 記憶喪失の工藤新一?

 

 風邪薬と間違えて例の薬を飲んでしまい、服部くんたちの目の前で元の姿に戻ってしまった……という最悪のシナリオを想像したが、小林くんの話すトーンはどこか冷静だった。

 そも、まず、……記憶喪失……?

 

『……ここからは内緒話ね。その記憶喪失の工藤新一くんは、偽物だよ』

「偽物?」

 

『だって、ここに――本物の工藤新一がいるし』

 

 電話の奥から、ゲホ、と咳き込む声が聞こえた。

 …………

 

 「……戻っちゃいました?」

 『うん。…………解毒薬、間違って渡したんだな?』

 

 小林くんの声は、メッセージで送っていた情報よりも、さらに詳しい説明を求める、警察官の尋問みたいなトーンであった。

 

 あーーやっぱり〜!

 

 

 ■

 

 

 ひととおり、こっちの……阿笠さんのうっかりによる重大ミスでなんだか大変な事になっちゃったことは理解してもらった。

 

 阿笠さんのせいって話にすると、皆大体納得してしまう。

 なんかもう、仕方ない話だから。

 しゃーないねんな。

 

 で、その記憶喪失の工藤新一ってのはなんなんだい。

 

『あの“工藤新一”は、骨格と目の色が微妙に違う。俺の推測だけど、あの顔、整形じゃないかな。そんなことやりそうな相手に心当たりはあるか聞いたら、1年前の事件の被害者家族のひとり、屋田誠人っていう青年じゃないかって新一くんが』

 

 ……流石は元ハムちゃんズ。

 小林くんの観察眼と洞察力は恐ろしい。私が見ても、新一くんの顔ならとりあえず『ウワッ顔がいい!』くらいしか思わないと思う。

 

 本物の新一くんは現在、その偽工藤新一こと屋田誠人くんが何をするつもりなのか、草葉の陰から見守ってるらしい。

 

 なんで蘭ちゃんたちの前に出て来て『彼は僕の偽物です!』ってしないのかと思ったら、ちゃんと理由はあるようだ。

 元の姿に戻る時の、無茶苦茶痛熱くなる全身の細胞が引き伸ばされてるんじゃないかって痛みやら、戻った後の倦怠感やら、元々の風邪やらで彼がまともに動けない間に、その偽工藤新一が拳銃を入手してしまったらしい。

 それで、迂闊に顔を出せなくなってたそうな。

 

 まーた……一般人の手に拳銃ですか。

 おのれ長野県警。おのれ泥参会。

 

 で、小林くんは何してるんだい。

 

『決定的瞬間に確保しようかと思って、動ける距離で偽工藤新一を監視中だよ。本物のほうはどうする?そっちで引き取るか?』

「いえ、きっと本物が出てこないと話がまとまらないでしょうし、彼が小さく戻ったタイミングで回収します」

『あ、やっぱり戻るんだ』

「そりゃもう。おそらく24時間もたないだろうから、絶対にその時までには毛利御一行から離れて、人目につかないところに身を潜めるように、と伝えろ……と、灰原さんが」

 

 目で訴えかけてくる。凄い圧だ……

 

『了解。――だそうだから……うん、うん……いや、だから蘭ちゃんには会わない方がいいって話で……』

 

 向こうから、何やらやや嗄れた声と小林くんが揉めている。

 どうせ蘭ちゃんに自分が顔出して見せて、あれは間違いなく偽物だと確信させて、安心させたいって話で駄々こねてるのだろう。

 

「今はどちらに?」

『森の中だよ。潜伏中。ここ、死羅神(シラガミ)様ってのがいるなんて噂の森なんだけど、村人は噂を恐れて近寄らないらしくてさ』

 

 潜伏しやすくて助かるよ、なんて野生児が言っている。

 つまり、今その土地神様になりすましてるってわけね。

 

 ……ははん、大体分かったぞ。

 

 これ、ドッペルゲンガーとかそういう……自分と同じ顔に会ったら死んじゃう系の話だな!

 

 

 ………………ってことは工藤新一(ホンモノ)工藤新一(ニセモノ)と出会ったら殺されちゃうじゃん!

 

 

「了解しました。こちらからお願いしたいのは3つ。絶対に、2人きりでその偽工藤新一と新一くんを会わせないでください。必ず時間までに蘭ちゃんたちから離れてください。それと……決して、調子に乗って、犯人を煽ることのないように」

『言われてるぞ新一くん。……ハハハ!

 ハル、「アンタに言われたくねー!」だそうだよ』

 

 反論する元気があるなら上々だ。

 

「現場の立ち回りはそちらに任せます。私たちは後方支援に回りましょう」

『ああ、頼んだ。とりあえずお願いしたいのは、そうだな。じゃあこちらも3つ――』

 

 

 ■

 

 

「うわぁ、凄い立派な旅館だね! 庭園も手入れが行き届いてるし、静かで……いいところじゃないか」

 

 自然豊かな奥穂の山道から少し離れた高台に、ひっそり佇む、風情あるちょいとお高めな旅館。

 私が事前に予約しておいたこの宿に到着するなり、秀吉は目を輝かせてロビーを見渡した。

 

「でしょう。実はここ、将棋のタイトル戦の対局舞台として候補に挙がっている場所なんですよ」

「えっ、そうなの!?」

「ええ。だからこそ、連盟も名人殿の“下見”という名目のお出かけを、すんなり許可してくれたわけです。

 今日のお出かけ、なにも私のワガママだけじゃ無いんですよ?」

 

 秀吉のリフレッシュを兼ねつつ、誘致の候補の現場視察。

 大義名分としては完璧である。

 

 ……ってか連盟のお偉いさんが来ようとしてたのを、『へーこんなに頑張ってる秀吉にはそういう“視察”の仕事は無いんだふーんへーほーーーーんそうなんだぁ〜』と納得してたら、そういうのももちろんある、と、あっちから言ってくれたのだ。

 

 なんだよも〜あるなら先に言ってよ〜!

 

 

 チェックインを済ませ、太閤名人殿に顔作ってもらってご挨拶してもらってから、案内された広々とした和室に荷物を下ろす。

 ここはもし選ばれた場合、棋士の控え室となる予定の部屋だそうで。

 

「というわけで秀吉。あなたは連盟から視察に来た名人として、この旅館の景色と、部屋……それに静粛性が対局に向いているか、じっくり、自由に、見て回ってきてください。案内も付けてくれるそうなので、受付で伝えてくださいね。

 もう暗いですが、庭の散策もいいでしょう。

 明日の朝もあるので、無理に暗いところに行く必要はありませんからね。

 私は部屋で少し休んでいますので。夕飯の時間までには戻ってきてください」

「わかった!スバルは無理して歩き回るなよ!哀ちゃん、阿笠さん、一緒に来ます?」

「遠慮するわ」

「ワシらは昴くんを見とくから」

 

 いやなんで私に監視?

 

「じゃあ僕……ちょっと露天風呂の雰囲気とか見てくる!」

 

 それは視察する必要はないと思うんだが。

 完全に観光モードのままな気がするが、秀吉は、嬉々として部屋を飛び出していった。

 あれが今朝、お出かけにイヤイヤ顔してた男である。

 旅行自体は結構楽しんでくれる奴だから、連れ回しがいがあるというか……あれは由美さんとの『旅行』を想像して喜んでるな。

 捕らぬ狸の皮算用……

 

 パタン、と襖が閉まる音を確認し、灰原さんと顔を見合せた。

 

「……さて。休んでいる暇はありませんね」

「そうね……私は戻るであろう時間の予測をたてた方が良いかしら?」

「そうですね。目安があると彼らもやりやすいでしょう。阿笠さん、すいませんが車から、取ってきて欲しい機材があって……」

「良いぞ、任せなさい」

 

 阿笠さんはパタパタとスリッパ鳴らして部屋を出ていった。

 私と灰原さんは、各々荷物からノートPCを取り出し、座卓の上に広げる。

 

 温泉や景色を楽しむのは後回し。

 

 今回、よほどの事がない限りはこの件自体は、“とある間違い”を、屋田誠人くんに突きつければ済むので、そちらは新一くんと小林くんが頑張るらしい。

 

 私たちのすべきことは、今後とも“江戸川コナン”と“灰原哀”が無事でこの生活を続けるための、隠蔽の用意。

 森の中で真実を叩きつけようとしている探偵と、彼をサポートする小林くんが、『帰るための』準備を整えなければならない。

 

 

 いくら会うなと言おうが、どれだけ遭遇しないように工夫しようが、どう足掻いても、蘭ちゃんと新一くんは絶対会っちゃうだろうから。

 そこはもう小林くんと灰原さんには諦めてもらった。

 

 無理だもん。

 これ絶対出会っちゃう運命の話だもん。

 偽工藤新一の前に本物が出ないと、これ解決しない話だもん。

 

 なので開き直って、会ったあと、どう別れるかを考えることにした。

 

 まぁまず……蘭ちゃんは離れてくれるわけないからね。

 少なくとも東都に帰るまで、小林くんのCX-80に、毛利御一行with工藤新一で乗って帰らなきゃいけない。

 幸い、灰原さんが解毒薬の試作品を少し持ってきてくれている。

 ︎︎連続投与となると効果の持続時間は減るだろうが、東都に帰るまで程度は持つはず、との試算。

 ︎︎現在、もう一度詳しく再計算してくれている。

 ︎︎それで場は保たせるとしても……

 

 

 ……………………で、そっからどうしよう?

 

 





よく考えたら東都は東都であって東京ではない……いやでも渋谷も新宿もある……
とりあえず奥穂は奥多摩と相模湖の間にあるって事でいい……?
なんか平地感は無い……でもそうか、倉庫群があるとされてるんだっけ……?

……八王子か……?

なんか確定したら場所を細々と書き直すかもしれませんが、ニュアンスは恐らく大きくは変わらないと思います

ところで死羅神様……猿みてぇな動きしてない?
あれ風邪引いてる男の動きなんですか?



破綻するまでは続けたいですねぇ
えっ、もう破綻してる?まぁまぁまぁ

読んでいただきありがとうございました!
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