昴くんはなにもしない 作:あまも
番外編で情報補完しようとしてめっちゃ情報増えて文字数かさんだ結果収拾つかなくなってる奴〜
なぜか気付いたら文字数が増えてたので減らして分けてますがまだ世良ちゃん視点です
突然変なこと言い出してすいません……
でも基本コイツの来歴とか素性とかわりとどうでもいいので……視点戻れば通常通りポンになりますので……大目に見てください……
閲覧ありがとうございます!
☆
ボクの記憶の中にある、あの夏の日の海で出会った『魔法使い』――工藤新一。
まさか彼が、あの日から10年も経っているのに、全く成長していないような姿で、護衛依頼の対象である本堂瑛祐の周りをチョロチョロしているなんて。
『あぁ……彼は“江戸川コナンくん”です。ここだけの話にしてほしいんですが、実は彼、工藤家の第2子で……事情があって、毛利探偵の所に預けられている子なんです。複雑な事情だそうなので、詳しくは……本人に聞いてください』
沖矢さんはそんなことを言っていた。
子供相手に聞けって?
ぶっちゃけ彼もそれ以上の詳しいことを聞かされていないらしく、歯切れの悪い答えしか返ってこなかった。
そして、彼の親から頼まれて預かっているはずの蘭くんたちすら、詳しくは知らないそう。誰だよ江戸川文代って。
ならば、と沖矢さんの言う通り、『本人に』聞いてみたところ、ロスで産まれたものの、なんやかんやあって今、日本でしか学校に通えないから、両親から置いていかれたのだという。
『でも、ごめんね、世良のねーちゃん。難しいこと、ぼくもわかんなぁい』
あからさまに目を逸らして、子どもらしい無邪気さを装ってはぐらかされたけれど……ボクの目は誤魔化せない。
どう見ても、アレは彼だ。
彼は間違いなく……ボクの魔法使いに他ならない。
でなければ、あれほどの頭脳……いいや、知識量の説明がつかない。
……ではなぜ、10年前と姿が変わってないのかという理由だって、ママが縮んでいる現状がある。
1年前までは、工藤新一は確かに高校生として、幼なじみの蘭くんと高校生活を楽しんでいたのだから。
……だから、彼が新一くんだってことは……十分にあり得る。
となると問題は、その彼が、何故ママと同じく小さくなって、しかも沖矢さんが護衛を依頼した高校生の周りをうろついていたのかって点だ。
彼――現在は江戸川コナンと名乗る、小さくなってしまったと仮定した工藤新一――が、大事な大事な蘭くんの周りを小学生の姿になっても心配してついてまわるのはわかる。
彼は彼女のことは大事にしているだろうから。
けれど、その蘭くんの傍に……本堂瑛祐も近い、というのは、いったいどういうことだろう。
ここに沖矢さんの意図も、絡んでくるんだろうか。
……そこがわからない。
ボクに、江戸川コナンの存在を教えたかったのか?
それとも、護衛対象の周辺人物として教えたかった?
武芸に長けた蘭くんの傍に本堂瑛祐を近付けて、ボクが来るまでの間の護衛代わりにしていたんだろうか?
けれど沖矢さんは蘭くんや園子くんの事も大事にしている様子だったし……
それと、沖矢さんが言った、“本堂瑛祐”に護衛が必要な詳しい理由。
……本堂瑛祐の身が、本来であれば警察関係者の保護を必要とするレベルに危険であるのは聞いた話と調べた限りでは間違いはなかった。
“警察関係者”、という濁された言葉の正体が……まさかまさかの“CIA”で、彼らが絡んでるとは、ちょっと予想外だったけど……
ママは予想通りだったのか、はたまた知っていたのか、ボクから聞いても驚いた様子はなかった。
現状は、証人保護プログラムも受けずに学生生活を謳歌している彼。
それが敢えてのことだったとしたら?
彼が吉兄経由で、彼の護衛に一見するとそうは見えない“友人”として、ボクを雇ったのだとしたら。
そして、彼の近くにいた工藤新一……
沖矢さんの言う、“本堂瑛祐のお姉さんを襲った相手”にして、今もこの本堂姉弟を狙っているとされる“ヤバい連中”というのが……もしかして、ママに毒薬を飲ませた連中と同じだったとしたら?
ママと同じく、『毒薬を飲まされた工藤新一』も、手がかりを辿った先で、本堂瑛祐に辿り着いていたため、彼を餌にして、本堂くんの姉を襲った相手が近付いてくるのを待ち構えるべく、周りについてまわっていた……のだとしたら?
ママにその可能性を尋ねたら、にわかに気配が鋭くなった。
「……そも、その少年が工藤新一である保証は?」
「そこは、はぐらかされてしまったから……でも、ボクの勘では、彼は絶対に工藤新一だよ。
最近話題だという名探偵、毛利小五郎の名前が売れ始めたのは江戸川コナンが探偵事務所に来てからだもの。
事件解決の裏には、常に彼がいる。彼が毛利小五郎の推理の手助けをし始めたからなんだと思うんだけど……どうかな」
「……なるほど……」
ママは頷くと、「ひとまず」、と前置きした後、“江戸川コナン”を注意深く見るようにと、それだけをボクに指示した。
引き続き、ボクには本堂瑛祐や蘭くんたちを通して、沖矢さんとの信頼構築に専念するようにと。
でも、すぐそこにボクの魔法使いがいるのに、彼の推理を間近で見られるのに、何もしないなんてできっこない。
ついつい構っていたら、本堂瑛祐から怪しまれちゃって……
蘭くんや沖矢さんが執り成してくれたから、妙な誤解は解けたけども。
まったく……誰がショタコンだ!
ボクはただ、ボクの魔法使いを近くで応援していただけで……
……それにしても、沖矢さんは“幼児化した工藤新一”の護衛も、間接的にボクに頼んでいたんだろうか?
本堂瑛祐は、比較的蘭くんや園子くんと一緒に行動することが多くて、まとめて護衛対象に、というのはなんとなくわかった。
沖矢さんは、彼女たちのことも大事にしている様子だったからね。
……そもそも、彼は“江戸川コナン”は“幼児化した工藤新一”だと気付いているんだろうか?
あの言い方だと、彼は教えて貰っていないような口ぶりだったように思う。
はぐらかしているのか、はたまた知らないフリ……なのかもしれないけど……
沖矢さんは彼を「コナンくん」と呼んで、本当にただの賢い小学生として扱っているようにも見えた。
でも、工藤優作がそれを教えない、なんて事あるのかな……
ううん、工藤新一がああなったのがママの飲まされた毒薬と同じものだったなら、あるいは踏み込ませないためにもあえて――
――……わからない。
ママの言う通り、この街にはまだ見ぬ秘密が多すぎる。
☆
そんな風に頭を悩ませていたボクのスマホが鳴ったのは、休日の夕方のことだった。
画面に表示されたのは、ボクの頭を悩ませる“雇い主”からのメッセージ。
『真純さん、突然すみません。今、お電話大丈夫でしょうか?』
あの人、こういうところは気が利くんだよな。
きっと毛利探偵や工藤親子に教え込まれてるのだろうけど、電話とかの連絡は、その前にかならず一報入れるってのを徹底してる。
こちらが直ぐに電話に出られない状況や……音を立ててはいけない状態かもしれないのを考慮しているんだろう。
今は全然問題無い。
了承すると直ぐに電話がかかってきた。
『実は今、秀吉と一緒なのですが、遊び疲れて彼がすっかり寝こけてしまって……私の足では男性1人を部屋まで運ぶのが難しいのです。
手を貸していただけないでしょうか』
……はい?
指定された吉兄の住むマンション、シャトー米花の駐車場に向かうと、そこには沖矢さんの赤い車の助手席で、気持ちよさそうに爆睡している吉兄と、左手で杖をつきながら、タバコをふかして困り顔で笑う沖矢さんの姿があった。
タバコ吸うのか、と思ったが、よくよく見ればミントの香りと禁煙パイポの箱。
禁煙中なのかな?
「あ、真純さん。休日のところ、呼び出しに応じて頂いて……助かりました。本当にすみません」
「いや、ボクは別に構わないけど……吉兄、一体どうしたんだい? まだ夕方だぜ?」
首まである赤いハイネックに、黒い革手袋。相変わらずガードの固い服装をした沖矢さんは、申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「足の調子を見るのに少し遠出しまして。奥穂まで行って旅館でのんびりしてきたんですが……この通り、帰りの車内でぐっすりと」
息抜きドライブに連れ出したら、はしゃいだのか寝てしまったらしい。
吉兄ってば……夢中になるとペース配分を間違えて、子どもみたいに寝落ちすることがあったっけな。
それにしても、大の男が、大きい車とはいえ助手席でここまで無防備に寝こけるなんて。よほど疲れたのかな。
「沖矢さんの足の調子を見るのに、吉兄連れて遠出してきたのかい?」
「そうですね」
ボクは呆れ半分でため息をつきながら、引きずり出された吉兄の右腕を自分の肩に回した。
「良いなぁ! 次はボクも誘っておくれよ」
「ふふ。良いですね。お母様もお誘いしてみては?」
「ぐ……ま、ママが来ちゃうと気兼ねなく話せないから……」
ボクが口ごもると、沖矢さんは不思議そうに瞬きをした。
ママも一緒に行けたらそりゃあいいけどさ、何よりママは、“あなた”に直接会うことを避けているんだから。
「んんぅ……由美タン……それはお酒じゃないよ…………むにゃ」
ボクの肩に支えられながら、吉兄は幸せそうな顔で寝言を呟いて、反対側を支えている沖矢さんの肩にぐりぐりと頭を擦り付けた。
普通なら文句の一つも出そうなものだけど、沖矢さんは嫌がる素振りも見せず、むしろ吉兄が体勢を崩さないように、革手袋に包まれた手で優しく背中を支えている。
……よく見たら、杖を使っていない。荷物を左側に担いでいる。
吉兄からのアタックにもビクともしてないから、怪我はもういいんだろうけど……
あれ、ついこの間まで怪我で安静にしてろって言われてなかったか?
「忙しいのに、付き合わせてしまいましたからね。きっと疲れが出たんでしょう」
マンションの管理人に事情を話して通してもらう交渉してから、ため息と一緒にそんなことを言っていた。
大学の頃から吉兄の世話を焼いていたというし、そのスタンスはブレてないらしい。
プロ棋士と大学生活の両立で忙しい吉兄を、マネージャーみたいに手伝ってくれて助かった、とあの頃の吉兄から聞いていた。
ふたりで吉兄を支えながら、エレベーターへと向かう。
見ていても、彼の足は引きずる様子はなく、ふらつく気配だってない。
しっかりとした足取りだし、車の運転で田舎まで行って帰ってきたばかりだろうに疲れた様子もない。
順調に回復した、ってことなんだろう。
車の運転、と思い返したボクの脳裏に、沖矢さんが入院していた時の……ママとの会話が蘇った。
ママは、些細な話でも明るいニュースとして報告できるからか、彼の話を聞きたがったから。
『――沖矢さんは自分で車の運転して山に行くのが趣味なのに、怪我のせいで運転を止められて、今すっごく暇らしいよ』
そう告げた時、ママはまた、目を見開いて驚いた顔をしていた。
『彼は車に乗るのか。……いや、てっきり』
『てっきり?』
訊ねると、何度か頭を振って、それで諦めたみたいに笑って言っていた。
『……“オキヤ”は、バイクを好んでいてね。自由に、1人で、バイクで遠出するのを趣味にして、そのくせ呼び出せば直ぐに応じて駆け付けて……。
そうか、彼は車に乗るのか。そうか……』
ママの言うオキヤ。
それは沖矢さんの父親のことだ。
息子である彼も同じように、父親と同じような嗜好を持っているのだろうと、ママは推測していた。
親子で嗜好が似る、なんて、ボクら親子ですらだいぶ違うのに……なんでかママはそういうものだと信じきっているようだったのが、本当に不思議だ。
……そうだ。
なら、ちょっとカマをかけてみよう。
「足が治ったならさ、一緒にツーリング行こうよ! 沖矢さんもバイク持ってるだろ?」
なるべくさりげなく聞いてみる。
すると、沖矢さんは少し驚いたように目を瞬かせた。
「へぇ? 何でそんな……バイクなんて持ってませんよ。車は2台持ってますが……バイクは……怖いじゃないですか」
……怖い?
ボクは思わず足を止めそうになった。エレベーターの扉が開いているのだから、急いで潜る。
バイクが、怖い?
……となると、やっぱりママの言う父親と、趣味は似ても似つかないんだろう。
これはママへの次のお土産話ができたかな。
にしても、『怖い』だなんて。
「そうかい?」
「ええ。生身で風を切るなんて、ちょっと……」
ママの言っていた『バイクを好んだ』という“オキヤ”の像と、目の前の“沖矢 昴”の反応は、どうやらかなり、決定的に食い違っているみたいだ。
しかし……怖いと言うからには乗ったことはあるんだろう。
……記憶喪失、って話だったけど……もしかしたら、父親と一緒に乗ってたりしたのかな。
事故の内容はまだ見つけてないけれど、ママに聞いたら教えてくれるだろうか。
いや、なんなら沖矢さん本人に聞いても答えてくれそうな気はする。
けれど、でも、事故のことなんて覚えてるのか?
……物は試しってやつだな。
「でも、昔はよくバイクで遠出していたんだろう?」
試しに聞いてみた。それだけだった。
「へ?」
沖矢さんが、本当に、心の底から意味がわからないというように、間の抜けた声でぽかんと口を開けていた。
糸目が少しだけ開いて、覗く薄い青い目にはきょとんと、意味が心底分からないといった色が浮かぶ。
そこには警戒も、隠し事を探るような鋭さも、演技の気配すら一切なかった。
何の話をしているのか見当もつかない、という純粋な困惑。
これは……何ひとつたりとも心当たりがない人の反応に違いなかった。
気まずい沈黙が落ちる前に、ボクはにかりといつもの笑顔を作って誤魔化す。
「ま、意外とバイクも乗ってみたら楽しいと思うぞ!
へぇー、ここが今の吉兄の家かあ!」
大袈裟に声を上げて話題を逸らすと、沖矢さんは「はぁ、そうですか……」とまだ少し腑に落ちない様子だったが、やがてポケットから無造作に鍵を取り出し、差し込ん――
ガチャリ
――おい。
なんでアンタが、吉兄の部屋の合鍵を当然のように持っていて、当然のように開けてるんだ。
「よいしょ……と。すいませんね、出かける時そのままで……棋譜が散らかっていますね。ああ、お茶でも淹れましょうか」
「……アンタ、本当にただの友達なのか?」
「ええ、もちろん。ただの気の置けない友人ですよ」
へにゃっと笑うその顔は、やはりどこまでも胡散臭くて、それでいて憎めない。
迷いなく案内された先の、寝室のベッドに吉兄を転がしながら、ボクは小さく息を吐いた。
ママの言う『過去のオキヤ』と、ボクの目の前にいる『今の沖矢昴』。
なんでか彼らを同一視しているママの困惑は、この彼の中身が、ママが思っているような存在じゃないから……なのかもしれない。
『追えないものを、追おうとするな』……か。
ママの言葉を思い出す。
今はまだ、わからないことだらけだ。
でも、彼を手伝っていれば、いつかその「ズレ」の正体が見えてくるはず。
「……よし、沖矢さん。こういう力仕事も、ボクは手伝えるからさ。いつでも呼んでくれよな!」
「本当ですか? それは心強い。では、次は閣下のお部屋の大掃除の時にでも……」
「だーかーら! なんで沖矢さんが吉兄の部屋の掃除までやろうとしてるんだよ!」
掃除くらい自分でさせろよ!大人だろうに!
響き渡るボクの声と、不思議そうに小首を傾げる沖矢さん。
そして何も知らずに眠り続ける吉兄。
ボクの極秘任務は、どうやら想像以上に騒がしくて、世話の焼けるものになりそうだった。
■
内心で大いに混乱している私をよそに、真純さんは誤魔化すように声を張り上げて、ずいずいと部屋に上がり込む。
でもお部屋わからないでしょ。こっちこっち。
着替えとかは……めんどくさいから、このままベッドに寝かせようか。
ふたりがかりで担いでいた秀吉を、寝室のベッドへと「よいしょお!」と、やや乱暴に放り投げた衝撃で、ぼよん、とスプリングが跳ねて、秀吉の体がバウンドしてるんだが……
ちょいと名人殿の扱いが、雑じゃないかね!
「あ!そうだよ……コナンくんのことだってさ!誤解を解いてくれたのはいいんだけど、なんで本堂くんの目はそのままなんだよ!おかしいだろ!」
「あれはまぁ……ほら、本堂くんは警戒心が強いので……」
「それとこれとは違うじゃん!」
わあわあと騒ぎ立てて、先ほどの気まずい空気を必死に掻き消そうとしているのがありありと伝わってくる。
そして彼女は、くるりとこちらを振り返り、思い出したようにビシッと私を指差した。
「それよりさ!ボクたち、もっと前にどこかで会ってないか?初めて会った時から、なーんかどっかで見たことある顔だと思ってたんだよな!」
ああ、なんだ。
誤魔化すための話題のチョイスがそれか。
私としては既に解決済みの疑問だったので、あっさりと頷いてみせた。
「ええ、たしかに会ってますよ。私も気になって秀吉に確認したんですが、10年前、海で会ったそうですね」
「10年前の海?……え、あそこで?ボクと、沖矢さんが?」
真純さんが、心底ピンと来ていない顔で眉をひそめる。自分と私とで指を指して、ええ?と首を傾げている彼女。
やっぱり覚えてなかったか。
私だって、秀吉に言われなければ、あの女児用のかわいらしい水着姿と今の彼女は結びつかなかったしなぁ。
海で出会った……工藤新一のことはなにやらしっかりと覚えてるようだし……
ほら、恋する乙女は周りが見えなくなるものだからさ…………
じゃあやっぱり初恋枠!?
いやでも、今の様子だとなんだか、“恋する乙女”ってよりは、ファンクラブ的な……推しが尊い的な……
クリスさんとはまた違ったタイプのファンって感じかも。
本堂くんが、『あの、もしかしてなんですけど……あなたって、小児性の……そういう……』とか、そんな危ないことを……まさかのご本人に直で言って彼女を怒らせてたから、幸いそういった異常な
本堂くんはどうしてそう、変なところでダイレクトに行っちゃうのやら。
むしろ蘭ちゃんとコナンくんを応援してるような気配すらある。
純粋に、かしこくてかわいいコナンくんを可愛がってるだけなんじゃないかな。
ほら、昔会った憧れの彼の生き写しみたいなもんだし……
……ああいや、その彼の後ろに私も当時居たはずなんだけどなぁ。
乙女フィルターに濾し取られて残ってないのかな。
彼女が記憶の糸をたぐり寄せようと腕を組んで唸っている間に、勝手に秀吉のキッチンからケトルと茶葉と湯呑みを取ってきたところ、真純さんの背後の寝室から、のそ……と影が這い出してきた。
「いてて……なんかすごい衝撃が……」
先程ベッドに雑に投げ捨てられた衝撃で、うっすら覚醒したらしい秀吉である。
彼は頭をさすりながら、フラフラと足元もおぼつかない様子で現れた。
まだ目は半分閉じていて、夢と現実の境目を漂っている顔だ。
「あれぇ、真純がいる……?」
「お邪魔してるよ吉兄。起き……てないな。寝ぼけてる?それとも酔っ払ってる?……酒でも飲んだのか?」
なでなでと、丁度いい所にある真純さんの頭を撫でて、自室の中の妹の存在を寝ぼけたまま確認している秀吉に、真純さんは呆れ顔でその手を取った。
「そうだ、吉兄。昔、沖矢さんとボクが会ってたって……その時会ったとしても一瞬だろ?ボク、覚えてないんだけど」
にゃむにゃむと、眼鏡もないのに目の間をスカスカと指を動かしてエア眼鏡クイクイしている秀吉だが、寝ぼけていても頭の回路は通常運転らしい。
「えぇ……忘れたのかぁ? ……あの日は、スバル、暑過ぎたからって熱を逃がそうと……濡れタオルを頭から引っ被って、僕とチェスしてたじゃない……むにゃ」
言いながら、秀吉はそのまま壁か、真純さんか……間をフラフラした後、頼り甲斐のある壁に寄りかかり、ズルズルと床に崩れ落ちてスヤァと寝息を立て始めた。
器用な奴だな。
……最後に慌ててぶち込んだ薬、多かったかな。
しかし、その秀吉の寝言ナビゲーションを聞いた途端、真純さんの顔色が変わった。
パチクリと瞬きをした後、何かとんでもないものを思い出したかのように、目を丸くして私を凝視してくる。
「……あぁ!もしかして、あのお化けみたいなやつか!!」
おば……オバケ??
「吉兄となんか、ゴミ弄って遊んでた!!」
お化け……に、ゴミ……ゴミですと?
……あの日、有希子さんに無理くり連れ出された海辺にて、日差しに負けてグロッキーになり、日除けのために濡らした白いタオルを頭からすっぽり被っていたのは事実だが。
流木とシーグラスを駒に見立てたチェスを、言うに事欠いて“ゴミ弄り”とは。
記憶の端にでも覚えていてくれたのは良いのだけれど、
私はなんとも言えない気持ちになって、へにゃりと苦笑いするしかなかった。
……とりあえず、秀吉をベッドに送還しよっか。
思ってるよりか彼らが好意的な理由はそんな感じだからという理由付け程度に見ていただければさいわいです
読んでいただきありがとうございました!
ロンドン編やってないのにママが早めに来日した理由、誰も気にしてくれなかったなって思ってたらあの人案外親バカだから普通に世良ちゃん心配して付いてきたって思うよなそりゃぁと思い直している顔(っ´ω`c)