昴くんはなにもしない 作:あまも
すいません、島探索に向けて久しぶりの強化合宿に誘われ、塗り合いまくっておりました……決して高明さんの思考を考えるのに疲れたとかそんなことは……
そんなわけでただの長野観光編です
閲覧ありがとうございます!
外は美しい、2月の長野の街並みだった。
普通の街ではあるが、遠景に常に雄大な白い峰がどんどんずずんと立ち並ぶ姿は、他では中々お目にかかれない。
外は見た目通りの極寒ではあるものの、フォレスターの車内は、控えめに言っても極楽だ。
山や自然、そして窓の外を流れていく雪景色。
︎︎これを眺めるのは好きなのだが、冬という季節そのものはどうにも苦手である。
どれほど厚着をしてみても、外に出た瞬間に肌を刺すあの容赦のない冷気だけは、何度経験しても慣れることがない。
この身体の関係で、暑さが苦手なのはわかるけど……と灰原さんに渋い顔されるが、寒いのがダメなんだからダメなんだって。命に関わる……わけではないけど、ダメなものはダメなのだ。
あとしもやけでカイカイになるからね。
だからこそ、こうして空調完璧な、暖房を効かせた快適な空間で、文句も言わずに凍った林道だろうがてらってらのアイスバーンだろうが冬の雪道をものともせずに進んでくれる頼もしい相棒の存在には常日頃から深く感謝している。
阿笠さんのビートルは、この寒さでも容赦なくエンストしてうんともすんとも言わなくなるからな。だから
かっこかわいいのは認めるけども。
ハンドルを握る私の隣では、小林くんが助手席のシートに深く身を沈めて、静かに寝息を立てていた。
普段ならこんな姿お目にかかれない、レアな姿である。SSRになるとこれが景光くんだったり零くんだったりになる。そこまで行くと最早奇跡というか体調を心配するもの。
幸い、小林くんモードで私のコートのフードを頭から被っているため、だいぶ警戒を下げてはいるんだろうけど、それでもぐっすりではなく仮眠程度だからね。
全く……ちゃんと寝ないからこんな素晴らしい景色を見逃すんだぞ。
普段ならそれほど隙を見せないであろう彼が、長野の雄大な山々も見ずにすやりと眠りこけているのには理由がある。
昨夜、ここがあの男のハウスね!と意気揚々と乗り込んだ高明さんちにて、私が座布団重ねて心地よく眠りについていた間、小林くんはノアズ・アークと共に、夜を徹して何やらこっそりと密談を交わしていたらしい。
事件概要を聞いて、ノアズ・アークに事件の進捗を聞きながらひとりでなんとはなしに思考していたそうな。
起きて身支度を整えている間、ぽつぽつと事件について説明してくれたが、いや私それ聞かされても犯人とか知らんし。
ちなみに高明さんは帰ってこなかった。夜勤お疲れ様である。
で、その事件についてを考える傍ら、どうやら同時進行で、今日の観光ルートの日程をふたりで組み上げてしまったようなのだ。
私のあずかり知らぬところで。
そのため、運転席にいる私自身は、これから自分がどこへ連れて行かれるのかを全く知らされていない。
ただ、車のスピーカーから響くノアズ・アークの、お出かけをるんるんで楽しそうにして軽やかなナビゲーションしてくれる声に従って、のんびりと車を走らせているだけだった。
そういえば、事件──は起きてるけど──関係なしに、小林くんとノアとお出かけってあんまりしてないもんねぇ。
んまぁ……たまにはこういう息抜きもいいこった。
『お兄ちゃん、次の交差点を右に曲がってね。その先はしばらく一本道だから、そのまままっすぐ進めばいいよ』
「ん、了解」
カーステレオから流れる弾んだ声に、私はハンドルを滑らせながら応じた。
信号待ちしながら、ずっと視界に入っていた山についつい目がいってしまう。
いやぁ……でけぇ〜!
「……それにしても、本当に見事な景色ですね」
飯田の市街地を通り抜け、国道を北上していくにつれて、視界は驚くほど鮮やかに開けてきていた。
天竜川が刻んだ大地の向こうに、太陽の光を浴びてきらきらと輝く中央アルプスと南アルプスの白い連峰が、まるで巨大な屏風のようにそびえ立っている。
雲ひとつない空があまりに高くて広いため、街中を走っているにもかかわらず、どこか開放的な気分にさせられた。
突き抜けるような青空と雪山の輪郭を目で追いながら、矢印信号にしたがってハンドルを切る。
「ノアズ・アーク。こうして長野の山を眺めていると、以前お邪魔した野辺山の天文台を思い出します。あそこは本当に星が綺麗でした。いつか君や、ヒロくん…小林くんたちにも見せてあげたいですね」
私の言葉に、ノアズ・アークは嬉しそうに声を弾ませた。
『あの場所の天体観測データは僕の記録にもあるし、いつでもどんな季節の空でも再現は出来るけれど……いつかお兄ちゃんが見たのと同じ本物の夜空を、ボクたちも一緒に見てみたいよ。……でも、まずは今日の目的地を楽しみに、目標地点まで進んでね』
「それは楽しみですね。いやぁ、一体どんな素敵な場所に案内してくれるのでしょうか」
隣の席でむにゃ、と揺れている小林くんの寝顔を視界の端に捉えながら、私は再びフォレスターのアクセルを緩やかに踏み込む。
これから向かう先に一体どんなお楽しみを、昨夜のふたりが用意してくれたのかは知らない。
ただ、冬のまばゆい光に満ちた伊那谷の道を、のんびりと、北上していった。
■
『私は今、何処にいるでしょ〜うか!』
というメッセージと共に、カツがこんもりと乗った丼の写真をメッセージにて送信。
手を合わせて全ての命に感謝を込め、さて食べるかな、と箸を持ってた所で返信が来た。
『駒ヶ根か。事件はどうしたんだ』
零くんたら、朝早いのにちゃんとメッセージを見ているとは。
「早くはないだろ。兄さんちを出るのは、そりゃ早かったけどさ」
私の席の向かいで、同じメニューを頼んだ小林くんがグループメッセージにふたり分のどんぶりが並ぶテーブルを撮って送っている。
いやぁ、お兄さんのおうちにあまり長居したり、人に見られては悪いかなと思ってね。
「昼前に来て正解でしたねぇ。凄い混んできて」
「ね。人気店だとは聞いてたんだけど」
小林くんと会話しながら、ポチポチとメッセージを眺める。
『ハルとソースカツ丼食べに来た!(*`ω´*)』
『来た!( ・´ー・`)』
『お前たち……』
零くんの呆れ声が聞こえそうな気がするが、こっちは用件は終わってるんだから遊んでてもよかろうもん。
業務中の友人?いやぁ、お返事出来てるなら忙しくないんじゃない?
『長野にもソースカツ丼あるんですねぇ』
『群馬とか山梨にもあるね(◦`꒳´◦)』
『福井が発祥だぞ。東京から移転した店だから実質東京発祥という声もある』
『福島のソウルフードだと思ってました』
『あっちにもあったっけ?(*´ч`*)』
なんか……ご当地グルメだと思ってたんだけど、案外どこにでもあるんだなぁ。
『どんぶり物は焼きそばとかバーガーみたいなものだろ』
『あー』
『(´-ω-`)』
アレンジしやすくなると、それはそうなるか。
結局炭水化物にうまいタレがかかってれば美味しいからとか身も蓋もない事を零くんが言うておる。
「うん、タレ美味しいねこれ。帰ったら、ゼロにも食わせてやろう」
「おっ!インストールしましたか」
「お肉はここならでは、かもしれないけどね」
小林くんがカツやご飯をもつもつ食べながら頷いていたが、どうやら零くんに振舞ってあげるつもりで味を覚えていたらしい。
この料理上手め!
味見は任せてもろて。いつでも待ってるぞ!
「ハルは今食べてるだろ。それに、大体『良いと思う』しか言ってくれないじゃん」
「そりゃ良いと思ったから言ってるんですよ」
小林くんの言う「簡単に作ってみた」は私から見たらめっちゃ丁寧に作られたごはんだからね。
『楽しみにしてる』
「ほら、零くんもこう言ってますし」
「え〜?良い肉買って帰るか〜?」
満更嫌でもなさそうというかむしろ嬉しそうに小林くんは身体を揺らしている。いや待て。
「えっ、食べ終わってる?」
「うん。ハルはゆっくり食べなよ。急がなくていいからね」
小林くんは追加でお漬物とみそ汁をおかわり頼んでいる。私のどんぶりには、まだまだご飯が半分以上残っていた。
ったくよぉ……
小林くんのみならず、零くんもそうだが食べるの早すぎんだよねぇ。ひと口が大きいのかな。
食べ方が汚いとかは全くなくて、丁寧だし味わっているし、間違いなくきれいに食べてるのにどうしてこう素早いのやら。
どこぞの私と同じ顔したお兄ちゃんもそういや食べるの早かったな。
やっぱ、あれか。急遽呼び出しとかされたり、スキマ時間で休憩取る人たちってのはみんなこうなるものなのか。
……まるで私が忙しくなく過ごしているかのよう!
ちゃんと忙しいときは忙しいってのに!
『それで、事件については?』
『協力は断られちゃったから、今はハル連れて県中まで上がって来て、観光中(´ω`)』
『そうか』
『参考までに、ここまで俺が掴んだ情報、ノアに送ってもらうな』
『送るね』
『ああ』
メッセージ欄がぽこぽこと動いている。
ノアズ・アークまで使って、今新野で捜査が行われている事件についての共有がなされているが、これ情報漏洩……
「ハル、食べないならカツもらっちゃうぞ」
「あっ!食べます食べます」
おつけものをぽりぽりと食べながら、スマホから顔を上げた小林くんがニヤリと笑っている。
甘めのソースが美味しい。甘辛系はそれほど好みではなくても、ご飯が進む味というか……会津のとは違うもんだなぁ。
『確認した。被害者が増えたのか』
『のようだね。前日の聞き込みで怪しい動きをしていたそうだから、動線を確認してるみたい』
『ふむ……ハルの意見は?』
「へっ、私?」
のんびりとメッセージを眺めながらご飯を咀嚼していたら、突然私の名前が降って湧いたのでびっくりしてしまった。
「何か気付いたことはある?道中、ノアに聞いてたんだろ?」
「聞いてましたけど……」
小林くんにも実際聞かれたが、困る。
こちとら話半分にしか聞いてなかったからな。名前から、それぞれを色であだ名つけて部屋や担当を分けていたって聞いて、おもれ〜とは思ったけど。
『あ、犯人はおそらく翠川さんだとは思いますけど』
「へ」
『ホー』
メッセージに打ち込んだ私の適当な発言に、にやにやとしていた小林くんの顔が固まった。サングラス越しに見える目が見開かれている。
「……勘?」
「まぁ……」
ノアズ・アークが文字起こししてしまったのか、零くんも『その心は?』と面白そうにメッセージを飛ばしてきている。
私の勘なんて、なんの推理の足しにもならんよ?
「3つ……そうですねぇ……山吹さんはこだわりがあり、もっさんはそういうことをするタイプでは無いから、ですかね」
指を2本立てて、ピースしながら味噌汁を啜る。おあげがおいしい。
「……もっさん?」
「あ、百瀬さんです。前に私がチェスのゲームを自作していた時、グラフィックの相談を聞いたりして、やり取りがあった人なんですよ。ネット上なんで実際に会ったことはないんですが」
そういうセンスが私には無いからね。オシャなUIに仕上げてくれたのだ。
才能あるけど住むところで苦労している人を集めて、という話だったと思うが、確かに彼は才能とやらがあったのかもしれない。
ま、私には好みかそうでないか程度の違いしかわからんが。
「……」
『知り合いだから、白って言いたいのか?』
「山吹さんのほうも理由になってないんじゃないか?』
「あーもー、所詮勘の話なんですから、深く聞かれても『なんとなく』しか出てきませんって」
ジト目の小林くんと、文字からギロリと音がした気のする零くんである。
単純に、ファッション全振りな、所謂“オネェ”タイプのこだわりの強そうな男性が、己の誇りに反して卑劣な犯行は行わないだろうし、百瀬さんはやり取りした限りでは仕事熱心過ぎて仕事以外……人間関係にあまり興味がないタイプに感じた。元々の付き合いのあった人たちとはいえ、実害が無いなら『さようであるならば』と割り切ってしまえる人だと思う。昔から変わりがなければね。
「……じゃあ、残り2人は?」
「1人は今朝、“ああ”なりましたし、必然的に1人に絞られるじゃありませんか」
昨夜の聴き取りでシロと言いつつめちゃくちゃクロムーブしてた直木さんは、残念ながら今朝、お亡くなりになっていたらしい。
となると残りひとりだ。
しかし、小林くんたらひどいしかめっ面をしておられる。なんだいなんだい、そんな親の仇のように白菜の芯をポリついて。
『兄を心配しているんだろう。諸伏高明も容疑者に加えられているからな』
「えっ」
メッセージから衝撃のひとこと。箸が止まっていた私の手を、小林くんが促してくれて、ソースの染みたご飯をひと口頬張るが、どゆこと?
なんでそこに高明さんが!
「……もしかして1番大事なところ、聞いてなかったの?」
︎︎えっ、教えてくれてたの?
︎︎小林くんは、仕方なさそうに目を閉じて、ふうとため息では無さそうなひと息をついた。
「発端となった女性作家、兄さんの元同級生で、その……恐らく、兄さんの初恋の人なんだよ」
「えっっっ」
「ちゃんと飲み込んでから喋れって」
そんな衝撃的なこと言うからじゃないですか!
ええ?
事件捜査中の刑事さんの初恋の人が殺されて、その旦那さんがまるでその恨みを晴らすためのような陰惨な方法で殺された……という事件の、犯人が、刑事さん?
うーん……
「ノックス……」
「探偵役は今回、江戸川くんだろ」
『もしくは大和敢助刑事だな』
ふたりとも、私のひと言だけのつぶやきで、何を考えたかよくわかってくれちゃうねぇ。
いや、高明さんが主役のスピンオフ作品の可能性も大いにありそうな、木曜日の昼あたりかネット配信限定で放送されてそうなドラマな感じだったもんでさ。
長野県さぁ……
元刑事が事件捜査の為だけに好きでもない相手と結婚したり、刑事が深追いし過ぎて雪崩に巻き込まれて生還してたり、村の権力争い如きで罪のない警官が餓死させられてたり、どう考えてもこの世界の銃火器流通量の一助を担ってる汚職を警察がしてたり、お山に色々埋めたり……は群馬か。
なんなの……ここだけ世界観、青年誌してない?稲葉事件かよ。
殺人事件の時点で青年誌?いや、ちゃんと週刊で少年誌に連載してるんだって。
ソースカツ丼のカツをひと口齧り、考える。
「……ん、もしかして小林くん、お兄さんにマイク付けたのって」
身内相手に度胸ある違法捜査するじゃんと思っていたが、同行を断られた手前、その動向チェックのためだったってこと?
「うん。情報収集のためではあるけど、念の為、ね。……だから、兄さんが直木さんに何もしてないのは間違いない、の、だけど……」
『心配なものは心配だ、という話だろ』
「ははぁ」
となると疑問がひとつ。
「じゃあ、会った時にはもう、事件について……知ってたんですか?」
「……」
小林くんへの問いに、彼は目を逸らして、あったかいお茶のおかわりを頼んでいる。
おいこら。
「いや、ほら、江戸川くん側のマイクから大和さんの話も聞こえてたから、そこ関係でゼロに頼んで……」
「あっちにもつけてるんです?!」
口元に指を立てて、シーッ!シーッ!と小林くんが声を抑えろとジェスチャーしてくるが、このやろ……東都でわかれた時点で、既に新一くんにもマイクをつけていたらしい。
この……ニンジャめ!
『なんだ、話してなかったのかヒロ』
当然のようにポロンと流れるメッセージは、からかうみたいな軽さがある。
「……ってことはふたりとも知ってたんですね。知らなかったのは私だけですか。ふーん?へー?」
「わかったわかった。ちゃんと話すから、とりあえず飯食えって。な?」
「うまい飯で逸らそうったってそうはいかねーですからね」
でもソースの絡んだキャベツが美味いのは間違いねーんですわな。
くっ、これが嬬恋村の採れたてキャベツ……うま……おのれ……甘くて美味しい……
めっちゃ軽い蓋持ち上げただけで腰がピキッたんですけどこれがぎっくりってやつなんですかね。
今は何ともないですが……そのうち主人公に採用出来るネタが増えました。
冷静に考えて見返したら後々修正するかもしれないです。
読んでいただきありがとうございました!